世界初の民生用デジタルカメラはカシオQV-10ではなくDycam Model 1

QV-10

カメラファンの皆さんこんにちは。

最近カシオがデジタルカメラ事業から撤退したことに関連して、「世界初のデジタルカメラを作ったカシオ」、あるいは、「世界初の民生用デジタルカメラを発売したカシオ」であると勘違いされているケースがしばしば見受けられます

これも「QV-10」があまりにも有名であるからなのだろうとは思いますが、

  • 世界で初めてデジタルカメラを発明したメーカー
  • 世界で初めて民生用デジタルカメラを発売したメーカー

いずれもカシオではありませんし、当然QV-10も、世界初の民生用デジタルカメラではなく、カシオに先行して民生用デジタルカメラを発売していたメーカーは数社ありました。

そこで今回は、

  1. 世界で初めてデジタルカメラを開発したメーカーは?
  2. 世界で初めて民生用デジタルカメラを発売したメーカーは?
  3. QV-10がこれほど有名になった理由は?

という3点について、解説させて頂きたいと思います。

【目次】

  • 世界で初めてデジタルカメラを開発したメーカーは?
    • 世界初のデジタルカメラはイーストマン・コダックによって作られた
  • 世界で初めて民生用デジタルカメラを発売メーカーは?
    • 実際に発売された世界初の民生用デジタルカメラは「Dycam Model 1」
    • デジタルカメラの前身となった「電子スチルビデオカメラ」
    • 民生用デジタルカメラの誕生とその系譜
    • Dycam Model 1とはどんなカメラであったのか?
  • QV-10がこれほど有名になった理由は?
    • なぜQV-10はエポックメイキングなカメラとして名を残したのか?
    • 誤解を招いたドキュメンタリー番組「プロジェクトX」

果たして世界初の民生用カメラはどのような機種であったのでしょうか?そして、カシオのQV-10はなぜこれほど有名になったのでしょうか?今回はこのお話をさせて頂きたいと思います。



■世界で初めてデジタルカメラを開発したメーカーは?


世界初のデジタルカメラはイーストマン・コダックによって作られた

まず民生用カメラの前に、「世界で初めてデジタルカメラを開発したメーカー」についてですが、デジタルカメラを発明したのはイーストマン・コダックの技術者である、スティーブ・サッソンです。

彼がデジタルカメラを発明したのは、1975年(昭和50年)12月で、この時サッソンはわずか24歳でした。

カシオ計算機がQV-10を発表したのが、1994年(平成6年)11月14日、発売は1995年(平成7年)03月10日ですから、デジタルカメラの発明そのものはQV-10の発売よりも20年も前に実現していました。

この世界初のデジタルカメラの開発エピソードについては、以前「世界初のデジタルカメラを発明したメーカーは?」という記事で詳細を書いておりますので、そちらを参考にして頂ければと思います。

 

■世界で初めて民生用デジタルカメラを発売メーカーは?


実際に発売された世界初の民生用デジタルカメラは「Dycam Model 1」

そして今回の話題の肝心な部分、「世界で初めて民生用デジタルカメラを発売したメーカーはどこなのか?」についてですが、世界で初めて民生用デジタルカメラを発売したのは、アメリカのカリフォルニア州にあったDycam社であり、そのモデル名は「Dycam Model 1」でした。

この「Dycam Model 1」は、1990年に実際に発売されており、これはカシオのQV-10(1995年)よりも5年も前のことです。

デジタルカメラの前身となった「電子スチルビデオカメラ」

「Dycam Model 1」がどのようなデジタルカメラであったのか?をご紹介する前に、余談になりますが、デジタルカメラの前身とも言える、フィルムを使用せずアナログ記録を行う「電子スチルビデオカメラ」という製品群について解説したいと思います。

この「電子スチルビデオカメラ」は、フロッピーディスクなどに静止画のアナログ記録を行うというシステムのカメラで、ソニーが1981年(昭和56年)に試作品を作った「マビカ」が最も有名でしょう。

しかしこれは静止画をデジタル記録しているわけではないので、正確には「デジタルカメラ」としてはカテゴライズされていません。

このマビカシリーズのデジタル版である、「デジタルマビカ」が実際に発売されたのは、MVC-FD5(1997年7月10日発売)ですから、当然Dycam Model 1やQV-10よりも後になります。

ちなみに電子スチルビデオカメラを最初に実際に発売したのはキヤノンでした。

【電子スチルビデオカメラの主な系譜】

  • 1986年発売:RC-701(キヤノン)
  • 1987年発売:SB-70/SB-90(ミノルタα-7000,α-9000用)
  • 1987年発売:VS-101(カシオ)
  • 1987年発売:ES-1(富士フイルム)
  • 1988年発売:RC-250(キヤノン)
  • 1988年発売:MVC-C1(ソニー)
  • 1988年発売:QV-1000C(ニコン )
  • 1988年発売:ES-20(富士フイルム)
  • 1989年発売:ES-30(富士フイルム)

となりますが、これらは先に紹介したように、アナログ方式で記録する「電子スチルビデオカメラ」であり、「デジタルカメラ」にはカテゴライズされませんし、またこれらの電子スチルビデオカメラは、あまり売れませんでした。

民生用デジタルカメラの誕生とその系譜

さて、では肝心の画像をデジタル方式で記録する「デジタルカメラ」の系譜ですが、発表された世界初の民生用デジタルカメラは富士フイルムの「FUJIX DS-1P」なのですが、これは発表はされたものの結局未発売でした。

そのため、実際に発売された民生用カメラはDycam社の「Dycam Model 1」になったというわけです。

【デジタルカメラの主な系譜】

  • 1990年:Dycam Model 1(Dycam)
  • 1991年:FUJIX DS-100(富士フイルム)
  • 1993年:FUJIX DS-200F(富士フイルム)
  • 1994年:QuickTake 100(アップル)
  • 1995年:DS-505/DS-515(富士フイルム)
  • 1995年:QV-10(カシオ計算機)
  • 1995年:DC-1(リコー(首都圏先行発売))
  • 1995年:EOS DCS 3(キヤノン)
  • 1995年:E2/E2s(ニコン)

また、実はカシオがQV-10が発売する前に、富士フイルムやアップルもデジタルカメラを発売しており、QV-10は2番手でさえなく、QV-10が発売された1995年同年に発売月は後発となるものの、富士フイルム、リコー、キヤノン、ニコンなどカメラメーカー各社がデジタルカメラを発売しています。

Dycam Model 1

Dycam Model 1とはどんなカメラであったのか?

次に世界初の民生用デジタルカメラである「Dycam Model 1」がどのようなカメラであったのか?についてお話ししましょう。

このDycam Model 1の概要は以下のようになっています、

  • Dycam Model 1の発売日は1985年(QV-10は1990年)
  • Dycam Model 1の画像は320×240ピクセル(後に376×284にアップグレードされる)
  • Dycam Model 1の画素数は約76,800画素相当
  • カシオのQV-10は1/5インチの総画素数25万画素のCCDイメージセンサーを採用していたが、PC取り込み後の画像サイズは320×240ピクセルであり、記録画素数としてはDycam Model 1とほぼ同等
  • Dycam Model 1の画像はモノクロで256階調
  • 背面液晶モニターはなく光学ファインダーのみ
  • 内蔵メモリに32枚の画像が保存可能
  • ファイル形式はTIFFまたはPICT(アップルのグラフィックファイル形式)
  • シャッタースピードは1/1000〜1/30秒(内蔵フラッシュ使用時は1/25秒)
  • レンズは焦点距離8mm(35mm判換算で約55mm相当)で絞り値はF4.5
  • 感度はISO200固定で、NDフィルターを内蔵
  • シャッターボタンのみを搭載、電源スイッチさえ無し
  • 内蔵フラッシュを使用するかどうかは、PCのソフトウェアを介してON・OFFを行う
  • 揮発性メモリーを使用しており、バッテリーが消耗すると画像が消える

Dycam Model 1はこのようなモデルであり、使い勝手はお世辞にも良いとは言えませんでした。

 

■QV-10がこれほど有名になった理由は?


なぜQV-10はエポックメイキングなカメラとして名を残したのか?

これまで、「QV-10は世界初の民生用デジタルカメラではない」ということを説明してきました。

ではなぜ、カシオのQV-10はこれほどまでに、デジタルカメラ史に残るエポックメイキングなカメラとして知られるようになったのでしょうか?

そのポイントは、

  1. QV-10が現代的なデジタルカメラの基礎の多くを備えていた
  2. ドキュメンタリー番組「プロジェクトX」で取り上げられた

主に上記の2点によるところが大きいでしょう。この2点がどういう事であるのか?ということをご説明させて頂きます。

QV-10のデジタルカメラとしての先進性

まず第1のポイントとして、「QV-10」がエポックメイキングなカメラとなったのは、「デジタルカメラの利便性を広く一般に認知させたこと」にあります。

QV-10の革新性とは以下のようなものです。

  • 約2MBのフラッシュメモリーを内蔵し96枚の撮影が可能
  • 本体定価が6万5,000円と安価
  • 1.8型の背面液晶モニターを搭載し撮影後すぐに画像を確認可能
  • モニター画面での画像の拡大閲覧が可能
  • 4分割、9分割で複数の画像の一括表示が可能
  • 当時のデジタルカメラとして小型軽量
  • カメラとPC間で画像データのやりとりが可能
  • 不要な画像を簡単な操作で消去可能
  • 画像の消去ミスを起こさないためのプロテクト機能を搭載
  • 10秒セルフタイマーを搭載
  • カメラレンズを回転出来るスイベル機構により自撮りが可能
  • 三脚穴を搭載

このように、今では当たり前のように見える現代的なデジタルカメラの要素の多くをQV-10は当時既に実現していました。

QV-10の高い完成度からも、当時のカシオ計算機の技術者たちのカメラに対する理解の高さが伺えます。

QV-10の大ヒットによってデジタルカメラ市場は開かれ、その後の長いデジタルカメラブームへと繋がっていきます。

誤解を招いたドキュメンタリー番組「プロジェクトX」

QV-10がこれほど有名になったもう一つのポイントしては、NHKの人気ドキュメンタリー番組、「プロジェクトX 〜挑戦者たち〜」の第90回の放送「男たちの復活戦 デジタルカメラに賭ける」において、QV-10が「あたかも世界初の民生用デジタルカメラであるかのように」放送されたという点にあります。

但し、「そういう印象を与える編集であった」というだけで、もちろん実際には番組内で「QV-10が世界初の民生用デジタルカメラであった」というような表現はされていません。

このプロジェクトXの放送は私もリアルタイムで見ており、当時のカシオ計算機の技術者たちのデジタルカメラにかける素晴らしい情熱とその努力に深い感銘を受けました。

確かにこれまでご紹介してきたように、「QV-10は世界初の民生用デジタルカメラではない」、ということは事実です。

しかし同時に、QV-10がデジタルカメラ市場を切り開いた、カメラ史に燦然と輝く金字塔であるというのも事実です。

というわけで、今回は民生用デジタルカメラ誕生の歴史について簡単に解説させて頂きました。

 

画像:Camera Curiosities,Mans

Reported by 山﨑将方