単焦点レンズを使うと写真が上達する、というのは迷信です。

EF50mm F1.8 STM

写真ファンの皆さんこんにちは。

写真愛好家の皆さんは、良く「写真が上手くなりたかったら、単焦点レンズを使え」というような事を耳にすることがあると思います。

しかし、これは嘘もしくは迷信です。

勿論これは単焦点レンズに価値がないというような意味ではなく、単焦点レンズにはメリットも魅力もあるのですが、「単焦点レンズを使えば写真が上達するという点」に関しては間違いであるという事です。

【目次】

  • 単焦点レンズを使うと写真が上手くなるわけではない
    • なぜ単焦点レンズを使うと写真が上達すると言われているのか?
    • なぜ写り方が変わるのに、単焦点レンズを使うことは上達と関係がないのか?
    • 撮影距離を変えるのとズーミングでどちらが良いかはケースバイケース
    • 真の上達とは何か?
    • むしろズームレンズの方が使いこなしは深い部分もある
  • 単焦点レンズを使用することの弊害
    • ボケやすいことで上手くなったような気になる錯覚
    • 単焦点は焦点距離ごとの画角の感覚が身につくのは事実
    • 焦点距離ごとの画角感を身に付けるのは単焦点レンズの使い分けに必要な技術
    • 実はズームレンズでも画角やパースの感覚は身につく
  • 上達とは無関係でも単焦点レンズの魅力は別のところにある
    • かつて言われていた単焦点レンズの一般的な魅力
    • これまでの常識が通用し難い現代の単焦点レンズ
    • それでも単焦点レンズの魅力は無くならない
    • 結局、単焦点でもズームでも良い写真は撮れる

そこで今回は、この写真業界に根深く残る、「単焦点レンズを使えば写真が上手くなる」という迷信について、なぜその考え方が間違っているのか、という理由と同時に、単焦点レンズの魅力についても、お話ししたいと思います。



■単焦点レンズを使うと写真が上手くなるわけではない


なぜ単焦点レンズを使うと写真が上達すると言われているのか?

「写真が上達するには単焦点レンズを使え」というのは今でも時折聞くわけですが、この理由の主たるものは2点あり、

  1. 単焦点レンズは構図調整に足を使うので、動いて撮影するようになる
  2. 単焦点レンズを使うことで、焦点距離ごとの画角やパースの感覚が身につく

このようなものであると思います。

まずこの1についてですが、同じ被写体を撮影しようとした場合、例えば、

  • 24-70mm/F2.8
  • 50mm/F1.4

こうしたズームレンズと単焦点レンズがあったとして、ズームレンズを使用している場合には、確かにフレーミングを行うのに撮影位置(撮影者の立ち位置)を変えずに、横着をしてズーミングだけでフレーミングを行い撮影してしまう場合もあるでしょう。

対して、単焦点レンズを使用した場合には、たまたまそのままの撮影位置がベストであったという場合を除いて、ファインダーを除いたり、背面液晶を見ながら、ベストと考える構図となるように撮影位置を調整してフレーミングを行うことになります。

その時ズームレンズ側が単焦点レンズと同じ50mmの焦点距離のズーム位置で撮影しない限りは、撮影者の立ち位置(撮影位置)がそれぞれのレンズで変わるわけです。

つまり、例えば、24-70mmのズームレンズで50mmの単焦点レンズと「同じような大きさ」に被写体を撮ろうとした場合、

  • 50mmよりも短い焦点距離にセットし被写体に寄って撮る
  • 50mmの焦点距離にセットし単焦点と同じ撮影位置で撮る
  • 50mmよりも長い焦点距離にセットし被写体から離れて撮る

以上の3つの選択肢があるわけです。

この時、2つめの「50mmの焦点距離にセットし単焦点と同じ撮影位置で撮る」という同条件で撮影する場合を除けば、もし単焦点レンズとズームレンズの両方を同じF値に設定してあったとしても、被写体の写り方は、画質面以外でも、

  • パースペクティブ(遠近感)
  • ボケの大きさ(前ボケ・後ボケ)

といった点で違いが生まれます。

なぜ写り方が変わるのに、単焦点レンズを使うことは上達と関係がないのか?

単焦点レンズとズームレンズでは、同じF値で同程度の大きさに被写体を写した場合でも、焦点距離が違えば、撮影距離の違いから、被写体の写り方には違いが生まれる、ということは先ほどご説明しました。

確かに例えば「そのままの撮影位置では遠すぎる被写体」があった場合、「単焦点で寄って撮る」のと「ズームレンズでズームして撮る」のでは、写り方が異なります

ではやはり、「単焦点で足を使って動いて撮影するのには上達の効果があるのではないか?」と思われるかもしれません。

しかしここで重要なのは、単焦点レンズを使った時に撮影距離が変わるのは、

「あなたの意志で動いているのではなく、あなたがレンズに動かされているに過ぎない」

ということなのです。

つまり、

単純に単焦点レンズでフレーミングを行うということは、「そのままでは被写体の大きさが撮影意図と異なるので、仕方なく足で写る範囲を変えているだけの行為であり、それは撮影距離を考えずに手でズームリングを回して画角を決めるというのと大差ない行為である」ということなのです。

あなたの意志でやっているのではないのに、あなたが上達するわけがない、ということです。

撮影距離を変えるのとズーミングでどちらが良いかはケースバイケース

もう一つ問題があり、それは、撮影距離が変わることで確かに写り方はズームレンズでズーミングするのとの違いが生まれるものの、どちらが良い写真となるかは、ケースバイケースである、という点です。

正:足を使って撮影距離が変わると写り方が変わる
誤:足を使って撮影距離が変わると良い写真になる

もうお分かりだと思いますが、被写体を同じ大きさに写すために、撮影位置を動いて構図を取るのと、撮影位置を変えずにズーミングするのとは、写り方が異なるのは確かですが、だからと言って単焦点レンズで撮影距離を変えた方が良い写真になるとは限らない、ということなのです。

しかし単にフレーミングの方法で「写り方が変わる」、ということをなぜか勝手に、

  1. ズーミングと撮影距離を変えるのでは写り方が変わる
  2. ゆえにズーミングでフレーミングすると良い写真にならない
  3. だから単焦点レンズを使うと上手くなる

という風に支離滅裂な理論で間違った結論に導いているのですが、そもそも1と2と3はいずれも論理的に繋がっていません。

写り方が変わる、というのは単純に相対的なものであり、「ズーミング」と「撮影距離」を変えることの、どちらのフレーミング方法が良い写真になるかは「ケースバイケース」としか言えません。

真の上達とはなにか?

では本当の意味で上達するとはどういうことか?ということなのですが、この場合の上達とは、

  • 撮影距離を変えて自分が動いてフレーミングした時の写り方
  • 撮影距離を変えずにズーミングでフレーミングした時の写り方

この両方の違いを知り、撮影意図に応じて、どちらが良いか?あるいはその両方を行うのであれば、そのバランスを適切に撮影ごとに使い分けられるようになる、と言うことなのです。

むしろズームレンズの方が使いこなしは深い部分もある

単焦点レンズの場合には、「撮影距離を変えずに撮影する方が良い」となった場合、わざわざ焦点距離の違うレンズに交換する必要があります。

さらにその時、理想的な焦点距離のレンズを持っていなければ当然レンズ交換も出来ませんから、「本当はこの位置から撮りたいのだが、仕方ないので撮影位置を変える」ということになります。

対してズームレンズでは、その焦点距離のレンジ内であれば、1本のレンズで、

  1. 動かずにズーミングでフレーミングする
  2. 動いて撮影距離を変えてフレーミングする
  3. 動いて撮影距離を変えズーミングも併用してフレーミングする

という3つの方法からフレーミング方法を選択できるわけです。

そう考えると、少なくともフレーミングに関しては、単焦点1本で撮影するよりも、「ズームレンズの方がより多彩な使いこなし方が求められ、それゆえにより奥深い」とも言えるわけです。

いずれにせよ、「単焦点レンズを使えば写真が上達する」のであれば、そんな楽な話はないわけで、写真表現とはそんなに甘いものではありません。

 

■単焦点レンズを使用することの弊害


ボケやすいことで上手くなったような気になる錯覚

私も別に単焦点否定論者ではなく、むしろ単焦点レンズは好きなのですが、敢えてアンチテーゼとして、単焦点レンズが写真が上手くなりと思っている初心者の方におすすめでない理由を挙げるとするなら、「ボカしやすいために上手くなったと勘違いしやすい」という点があります。

多くの場合、単焦点レンズはズームレンズよりも開放F値が小さいため、同じ焦点距離やフォーマットでは、大きく背景(時には前景)をボカしやすくなっています。

背景がボケた写真=良い写真と言うことではない、というのは、この記事を読んでいるような皆さんであれば言うまでもない事でしょうが、本当の初心者の方にとっては、背景が大きくボケて被写体が浮き出たような描写は新鮮さを感じやすく、その結果、上達した気になってしまう、ということが起こります。

しかしこれは当然のことながら、「単なる機材の特性の差」であって、撮影者の技量ではありません。

上手くなったかのように(自分には)見える写真を、「機材が撮らせてくれている」というだけに過ぎません。

そのため画面全体に気を配らず、只々背景をボカしまくった写真を量産してしまう、という結果になりかねません。

もっともこれは一時的なものであり、またボケを生かした写真が悪いと言うことでもありませんから、そうした時代を経て、機材に頼っただけの表現にやがて飽きる、ということも写真が上手くなる過程の一つという事は言えるかもしれません。

単焦点は焦点距離ごとの画角の感覚が身につくのは事実

また、最初に挙げた、「写真が上達するには単焦点レンズを使え」と言われる2つ目の理由である、「単焦点レンズを使うことで焦点距離ごとの画角やパースの感覚が身につく」という点ですが、こちらについてもご説明します。

確かに単焦点レンズを使用していると、例えば50mmの単焦点レンズを使い込めば、50mmで撮ればどのように写るか?というのが、ファインダーを覗かなくても(あるいは背面液晶で見ずとも)、イメージ出来るようになります。

そしてそうした経験を順次増やしていけば、28mmならこんな感じ、35mmならこんな感じ、85mmならこんな感じに写るだろう、という風に、その他の焦点距離の画角感やパースの付き方も理解できるようになります。

対してズームレンズというのは、ズーミングをしている際に一々「今○○mmに設定した」という風に意識し辛いため、広角端と望遠端の画角感やパースペクティブの感覚は身につくものの、その「途中の焦点距離」に関しては、後から画像編集ソフトなどで意識的に「ああ、この写真は○○mmに設定して撮影したんだな」という風に確認する習慣を付けない限り、中間の焦点距離の写りに関して、「こう写るのは具体的に何ミリの時のなのか?」という感覚はなかなか身につきません。

そう考えると、「単焦点レンズは焦点距離のミリ数と画角やパースの付き方の関係を理解しやすい」というのは事実でしょう。

問題は、だからと言って写真が上手くなった事にはならないということなのです。

焦点距離ごとの画角感を身に付けるのは単焦点レンズの使い分けに必要な技術

確かに、「撮影する前に画角やパースペクティブのイメージが出来る」というのは、単焦点レンズを複数本使い分けて撮影を行う人にとって、スムーズなレンズ交換を実現するための重要な要素と言えるでしょう。

これは特にスナップ撮影のような、素早い準備を必要とする撮影では重要なポイントとなります。

しかし、そもそもズームレンズを使用する人にとっては、広角端と望遠端の「写すことが出来る範囲」さえ理解しておけば、その途中の範囲はレンズ交換を行わないわけですから、ズーミングの動作をする前に、「これは○○mmに設定すれば撮れる」ということを具体的に焦点距離のミリ数で事前に把握しておく必要がそもそもないのです。

また、単焦点レンズにおけるレンズ交換を行う時間を、ズームレンズでは事前に節約出来ているのですから、その分の時間的なアドバンテージをかなり稼いでいます。

つまりレンズ交換をしなくていい分、予め画角感覚やパース感が分かっていなくても、実際にファインダーを覗いて(あるいは背面液晶を確認して)画角やパースを確認してズーミングしたり撮影距離を動いたとしても、時間的な猶予が十分に担保されているので、要するに「実際に見てから決めれば良い」というわけです。

焦点距離ごとの画角感やパースの付き方の感覚を知っているというのは、単焦点レンズを使い分ける際の利便性を高めるという点では重要な意味がありますが、そもそもズームレンズを使うのであれば、画角を焦点距離の具体的なミリ数で暗記しておく必要は薄いということです。

実はズームレンズでも画角やパースの感覚は身につく

またさらに重要なポイントは、ズームレンズを使用していても、それが具体的に○○mmの場合であるとあまり意識していないだけで、ズームレンズでも寄ったり引いたりして使用した際の画角やパースの付き方は、使い込んでいけば感覚的に分かってくるものなのです。

つまり、「ズームレンズを使っていると、画角感やパースペクティブの感覚が身につかない」というのが、そもそも誤解なのです。

もし本当に「ズームレンズを使っていると、撮影距離が変わることによる写りの違いをコントロール出来ない」というのであれば、現代の多くのプロカメラマンがズームレンズを主体に使っているという事の辻褄が合いません。

少なくとも私は、「使い勝手さえ良ければ、撮影距離による写りの違いなどどうでも良い」というプロフォトグラファーに会ったことがありません。

やや話が逸れましたが、要するに、「単焦点レンズで焦点距離ごとの写りの違いを何本も覚える」というのと同等の時間をかけるならば、ズームレンズでも実質的に同じように、画角やパースの感覚を身に付けることは十分に可能であるというわけです。

 

■上達とは無関係でも単焦点レンズの魅力は別のところにある


かつて言われていた単焦点レンズの一般的な魅力

さて一転して、「現代における単焦点レンズの魅力」について考えてみましょう。

と言いつつ、その前にこれまで言われてきた単焦点レンズの魅力をおさらいしてみましょう。同クラスのズームレンズと比較した場合、単焦点レンズは、

  1. ズームレンズよりもコンパクト
  2. ズームレンズよりも軽量
  3. ズームレンズよりも明るい
  4. ズームレンズよりも高画質

などが、これまで一般的にズームレンズのメリットと言われていた代表例かと思います。

これまでの常識が通用し難い現代の単焦点レンズ

ところが先ほどご紹介した従来型の単焦点レンズの魅力は、現代では通用しないケースも増えています。

と言うのも、単焦点が一般的であった時代のと異なり、現代ではプロアマ問わず、利便性の理由からズームレンズが主流となっていることに起因します。

実売のPOSデータから集計される有名なBCNランキングの交換レンズ部門を見てみても、この記事執筆時点では、1位〜50位までを集計すると、

  • ズームレンズ:27本
  • 単焦点レンズ:23本

と、ズームレンズの方が多くなっています。

また、カメラボディとセットで販売されるキットレンズの多くがズームレンズであることを考えれば、ズームレンズが現在のカメラ業界の主流である事は明白です。

そのために、メーカー側も利便性の高いズームレンズの開発に注力する傾向にあり、その結果、

  1. ズームレンズよりもコンパクト
  2. ズームレンズよりも軽量
  3. ズームレンズよりも高画質
  4. ズームレンズよりも明るい

といったメリットうちの、まず3の「ズームレンズよりも高画質」という点は逆転してしまうケースも起き始めした。

単焦点レンズよりも高画質なズームレンズが登場してきたわけです。

それゆえに、数が売れるズームレンズに対する、画質的なアドバンテージを単焦点レンズが確保しようとした結果、単焦点レンズでありながら従来のレンズと比較して極端に大きく重くなってでも高画質なレンズに設計せざるを得ないという風潮が生まれてきました。

その結果、画質面での差別化を明確にしようすると、携帯性という部分では差別化が難しくなります。

それでも単焦点レンズの魅力は無くならない

ズームレンズの画質が劇的に向上し、カメラメーカーやレンズメーカーがズームレンズに注力するようになったとはいえ、現在でも単焦点レンズの魅力が無くなったわけではありません。

やはり、最新の高級単焦点レンズは、高画質なズームレンズをさらに上回る画質を実現していることも多く、そうしたレンズたちは、携帯性に関してはかつての単焦点レンズとズームレンズの関係ほどのアドバンテージは無くなってしまったとはいえ、超高画素時代において、カメラボディ側の最高画質を活かせるのはやはりこうした最新単焦点レンズと言えるでしょう。

またレンズの明るさという面でも、ズームレンズよりも単焦点レンズの方が一般的に明るいという点は現代でも変わらないため、同じ焦点距離同士のレンズでは、大きくボカすという表現において、単焦点レンズは相変わらず同じ焦点距離のズームレンズよりも有利です。

また、画角の調整の不便さゆえ、被写体選びに対する割り切りが精神的に行いやすいという点も、逆説的に単焦点レンズの魅力と言えるでしょう。

結局、単焦点でもズームでも良い写真は撮れる

付け加えると、単焦点レンズとズームレンズでは、

  • ズームレンズ:画角を調整しやすいという、平面的な表現の自由度の高さ
  • 単焦点レンズ:被写界深度を大きく変えられる、立体的な表現の自由度高さ

という、写真表現としてのそれぞれの優位点があると言えるのかもしれません。

とは言え、ズームレンズでも離れたところズーミングして圧縮効果を生かすというような立体的な表現も出来ますし、明るい望遠レンズなどでは非常に大きくボカすことも可能です。

また、単焦点レンズでも複数本を使い分けたり、撮影位置を変えることで、ズームレンズのような画角の細やかな調整も十分に可能です。

ですから、「ズームレンズでなければ絶対に撮れない写真」とか、「単焦点レンズでなければ絶対に撮れない写真」というものは、基本的には無いわけです。

しかも現代には優秀なレタッチソフトまであるわけですから、それらも駆使すれば、当然、単焦点レンズでもズームレンズでも、素晴らしい写真を撮影することが可能であり、いずれのレンズでも上達することが可能です。

というわけで今回は、「単焦点レンズを使えば写真が上手くなる」という写真業界に蔓延る迷信と、本当の意味での単焦点レンズの魅力について私なりの考えを解説させて頂きました。

 

画像:Amazon

Reported by 山﨑将方