閉鎖的な世界で疲弊していくカメラ業界に未来はあるのか?

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Photo by 正隆

カメラ業界の閉塞感にお悩みの皆さんこんにちは。

近年のデジタルカメラ業界はカメラメーカーは勿論、カメラの情報を追うカメラマニアさえ、趣味であるにも関わらず疲弊きっているように見受けられます。

【目次】

  • 過剰な情報の中で疲弊していくカメラマニア
    • カメラマニアも常に競合他社と戦っている
    • 過剰な情報を追い続けることによる疲労
  • カタログスペックと生存競争の中で疲弊するカメラメーカー
    • カメラの勝った負けたはどこで決まるのか?
    • なぜカタログスペックで選ぶ事がダメなのか?
    • メーカーとマニアによって作られる閉鎖的な世界
  • どうすればカメラ業界の閉塞感は打開されるのか?
    • よりカメラ趣味を楽しむために

そこで今回は、このカメラ業界を覆う殺伐とした雰囲気の原因と、そうした状況を脱するために何が必要なのかについて考えてみたいと思います。

■過剰な情報の中で疲弊していくカメラマニア


カメラマニアも常に競合他社と戦っている

現代のカメラ業界において、カメラマニアを疲弊させてしまう原因となっている一つは、過酷になり過ぎた生存競争でしょう。

それはカメラを作っているメーカーは勿論、カメラマニアの間でもそうしたカメラメーカーの代理戦争ともいうべき戦いが行われており、その理由となっているのは、

  1. 自分が気に入っているメーカーに売れて欲しい
  2. 自分の所有しているカメラの評価が高まって欲しい
  3. 自分の所有レンズが無駄にならないように生き残って欲しい

というようなことが理由となります。

1と2については実利があるわけではないものの、実際にこのような理由からネット上では各メーカーのファンによる論戦が日々繰り広げられており、それは楽しくカメラを語っているというレベルではなく、いかにして競合他社を蹴落とし、支持するメーカーのユーザーを増やすかというレベルに達しています。

これにまつわる議論のように見せかけた、事実上のポジティブキャンペーンとネガティブキャンペーンがカメラマニアを披露させている一つの要因です。

過剰な情報を追い続けることによる疲労

また情報があまりにも溢れてしまっていることも、大きな原因です。

昔はカメラの情報収集と購入するまでの流れはを精々このような感じでした。

  1. 正式発表される
  2. カメラ雑誌のレビューを読む
  3. 身近な人に評価を聞く
  4. 購入する

しかし、情報過多となっている現代では、このようになります。

  1. ネット上にリーク情報が出る
  2. ネットで議論
  3. 1と2を何度も繰り返す
  4. 正式発表される
  5. ネットで議論
  6. ネット上のレビュー(カメラ系サイトやYouTube)を見る
  7. ネットで議論
  8. カメラ雑誌のレビューを読む
  9. ネットで議論
  10. 購入する

事前情報が小出しで出てきて、その度に激論を交わし、正式発表される頃には既に疲れているのに、そこでも議論し、更にカメラ系サイトやYouTubeに実機レビューが出るとさらにそれを題材にして議論するわけです。

こんなことをしていれば、購入するまでに疲れ果ててしまうのは当たり前で、しかも十分な議論を経て実際に発売される頃には、次の新機種の噂が出てきて、それに対する議論が始まるのです。

これを年中休みなく続けていくのですから、疲れ果てるのも当然でしょう。

■カタログスペックと生存競争の中で疲弊するカメラメーカー


カメラの勝った負けたはどこで決まるのか?

カメラマニアたちを疲弊させているのは他メーカーのファンとの論戦と、情報過多によるものであると先ほど説明しました。

今度はカメラメーカーを疲弊させている理由は何かを考えて見ましょう。

勿論カメラメーカーを疲弊させている大きな要因には、カメラ業界全体の不振があるわけですが、それだけでなく、過酷になりすぎた開発競争があります。

そもそも競合メーカーとの競争の中で、現代のカメラは何をもって「良い機種」だとか「ダメな機種」といった評価されているのでしょうか?

勿論現代にカメラの評価で最も重視されているのは「カタログスペック」です。

一口にカタログスペックと言っても様々な要素があるわけですが、代表的なところでは、

  • センサーサイズ
  • 画素数
  • 動画解像度
  • 常用ISO感度
  • ファインダー倍率/視野率
  • オートフォーカス測距点
  • 連続撮影速度(連写速度)
  • 連続撮影枚数
  • 撮影可能枚数
  • 外形寸法/質量

このような要素があり、これらは全て仕様表に数字で表されているもので、逆にカタログスペックで表されにくい評価軸としては、

  • デザイン性
  • ホワイトバランスや色再現性
  • ファインダーの見え味(歪みや色にじみ)
  • ボタンやダイヤルの操作感
  • 操作に対する応答性
  • メニュー体系のわかり易さ
  • 実際の防塵防滴性能の高さ
  • 壊れにくさ
  • 動作時の音/振動
  • 画像ビュアーや現像ソフトの作り込み
  • アフターサービス

などがあります。

しかし、これらのカタログスペックに表されにくい評価項目は、勿論カタログの仕様表を見ただけでは分かりませんし、まして競合機と比較するとなると、双方の実機を同じ条件下でテストする必要が出てきます。

そのため新機種の評価は、実機で比較しなければ分からないこれらの要素よりも、スペックを見れば数字で比較できる部分の情報の方が早い段階で拡散されていきます。

そのため、いくら実機が素晴らしい作りであったとしてもスペックで負けていると、かなり早い段階で低い評価が下されてしまいます。

また、実際に発売される頃には次の機種の情報へとカメラマニアの関心も移ってしまうために、一度下された評価は修正がなされないままに、最初のカタログスペックの印象が定着していくことになります。

なぜカタログスペックで選ぶ事がダメなのか?

数値で表れる部分もそのカメラの性能の一部ではありますが、そうした部分だけに囚われると、カメラの多角的な評価をすることが出来なくなります。

また、こうしたカタログスペックの比較では、単純に数字が大きいかどうかだけで判断されるため、「一番数値が優れている機種」と「その他大勢の数値が劣る機種」という分け方になってしまいがちです。

例えばA、B、C、D、Eという5機種があったとして、「デザインの良し悪し」というような点でカメラを見た場合には、Aのカメラが好きな人もいれば、Bのカメラが好きな人も、またC・D・Eのカメラが好きな人もいるわけです。

機種 デザイン性 順位 高評価率
A とても好評 1位 30%
B 不評 4位 15%
C 好評 2位 25%
D とても不評 5位 10%
E 普通 3位 20%

ですから例えば、このように偏りは生まれるものの、一番不人気のDのカメラであっても、Dのデザインを最も評価するという人も当然それなりにいるため、Dのカメラもそこそこ売れるわけです。

しかし、「秒間連続撮影速度(連写速度)」というような数値に換算されるスペックだけを見てカメラを評価すると、以下のような判断になります。

機種 連続撮影速度 順位 高評価率
A 20コマ/秒 2位 0%
B 30コマ/秒 1位 100%
C 15コマ/秒 3位 0%
D 8コマ/秒 5位 0%
E 10コマ/秒 4位 0%

このようにカタログスペックでの比較は、秒間30コマの機種があるのに、20コマや15コマを支持する理由がないため、連続撮影速度に関しては、最も評価されるのは当然全員がBの機種ということになり、それ以外の4機種は全て「Bに劣るもの」としか思われません。

先ほどのデザイン性のような部分では、多様な価値観が認められるのに対して、カタログスペックの比較では、「最も優れたものだけが唯一の価値ある機種」と評価されます。

もしカメラを購入する人がカタログスペックばかりに注目するようになればどうでしょう?この場合であればBのカメラ以外は誰も買わなくなるでしょう。

それではメーカーも困りますから、例えそれが実際の撮影において大した影響を持たなかったとしても、あるいはその他の様々な価値を捨ててでも、カタログスペックを上げる事だけに注力していくことになります。

同時に先ほど例に挙げたカタログスペックで表されない、下記のような項目は数値化しにくいため、後回しとなっていきます。

  • デザイン性
  • ホワイトバランスや色再現性
  • ファインダーの見え味(歪みや色にじみ)
  • ボタンやダイヤルの操作感
  • 操作に対する応答性
  • メニュー体系のわかり易さ
  • 実際の防塵防滴性能の高さ
  • 壊れにくさ
  • 動作時の音/振動
  • 画像ビュアーや現像ソフトの作り込み
  • アフターサービス

数値で表される性能も勿論重要ですが、カタログスペックばかりを評価する選び方とは、カメラメーカーとカメラ開発者をひたすら数字を追う作業へと追いやり、最終的にカメラの実用的な進化を阻害することです。

メーカーとマニアによって作られる閉鎖的な世界

また現代のカメラ業界は、(カメラマニアでない)一般人には全く付いてこられないほど情報が高度化していることも問題です。

例を上げると、メーカーの公式サイトやカタログ上では、

  • 積層型CMOSイメージセンサーで読み出し速度を大幅に向上
  • 回折補正機能搭載で小絞りボケによる解像感の低下を抑えます
  • 画素加算のない全画素読み出しによる高画質動画を実現

このようなアピールが実際に行われています。

しかし、カメラマニア以外でこれらの意味がわかる人など殆どいないはずです。

カメラ趣味でない人たちに「積層型CMOSセンサー」とか、「小絞りボケ」とか、「全画素読み出し」などと言っても間違いなく通じないと思います。

つまり、メーカーからしてカメラマニアの顔しか見えなくなってきているということであり、こうした濃度が高まるほどに普通の人ははじかれていくわけです。

例えるなら今のカメラ業界は、「初心者お断りの雰囲気を作り上げてしまったために、新規参入が減って過疎化していくネットゲーム」のようなものです。

メーカーとファンが一体となって閉鎖的な世界を加速させているわけです。

実はカメラファン自身も高度化する知識と閉塞感の中で疲弊しているのですが、それに無自覚であるため、ネット上のカメラ系コミュニティは往往にして殺伐とした情報戦の場と化してしまうわけです。つまり単純に疲れてイライラしているのです。

また現代のカメラ業界は、(カメラマニアでない)一般人には全く付いてこられないほど情報が高度化していることも問題でしょう。

■どうすればカメラ業界の閉塞感は打開されるのか?


よりカメラ趣味を楽しむために

このままでは趣味であるはずの写真やカメラで、カメラマニアの心はすり減り続けてしまうでしょう。

こうしたカメラ業界全体を覆う閉塞感を打開するためには、カタログスペックに頼らない新しい魅力を提案する機種をメーカーが作り、そうしたカメラをカメラファンが正当に評価し、世間に伝えていく必要があります。

そのためには、カメラファン自身がカメラ(あるいは写真撮影)に対して広い視野を持ちながら、気楽に楽しむことが良いのだと思います。

Reported by 正隆