なぜソニーα9シリーズはプロフォトグラファーに選ばれないのか?

皆さんこんにちは。

遂にソニーEマウントのフラッグシップ機であるα9 IIが発表されました。

しかしこの手の機種にあって当たり前の通信関係のアップデート以外は、α9同様相変わらずソニーはプロフォトグラファーのニーズを全く理解しておらず、これでは、

  • アマチュアフォトグラファーにとってはインパクトのない期待外れのモデル
  • プロフォトグラファーにとっては相変わらず仕事で使えないアマチュア向けモデル

となってしまっています。

そのため、α9 IIは、実際には撮影料で生活していない「カメラ系ユーチューバー」や「ライター系カメラマン」がレビュー目的で使うのが精々で、オリンピックやワールドカップを撮影するような、(撮影料で収入を得るという意味での)本物のプロフォトグラファー(※ユーチューバーやライターカメラマンが職業としてダメと言っているのではありません)たちに、α9 IIが実際にオリンピックで広く使われるようなことはないでしょう。

目次
  • 画素数やグローバルシャッター非搭載の問題ではない
    • 画素数もグローバルシャッター非搭載も関係ない
  • α9 IIのなにがダメなのか?
    • 原因1.まず単純にボディが小さすぎる
      • リアルなスポーツフォトグラファーたち
    • 原因2.物理操作系が貧弱
    • 原因3.分離型にしたことによる、剛性・防滴性・放熱性の犠牲
    • 原因4.電源の問題
  • プロ機の哲学とは?
    • プロ機とはどうあるべきなのか?
  • だがαの本当の問題は…
    • 必要なのはスペックより実用性を追求する真摯さと、広告戦略よりニーズを汲み取る誠実さ
    • α9 IIの失敗は単なるソニーの技術力の停滞か?それとも…

α9 IIはなぜプロアマ両面からガッカリされてしまったのか?今回はその原因について考えてみたいと思います。



■画素数やグローバルシャッター非搭載の問題ではない


画素数もグローバルシャッター非搭載も関係ない

α9 IIが報道用プロ機として失敗してしまった理由は、画素数が上がらなかったとかグローバルシャッターが非搭載だったといったことが理由ではないのです。

特に画素数はカメラマニアからは3,600万画素という期待もあったようですが、オリンピックや報道に使うカメラに、(少なくとも2020年時点では)「3,600万画素だったら買った、2,400万画素だから買わない」などというスポーツのフォトグラファーはいないでしょう。

その点に関してはむしろソニーの選択は正しく、キヤノンやニコンもEOS-1D X Mark IIIやD6を3,600万画素まで画素数を上げてくるとは考えられません。

また、グローバルシャッターは報道用プロ機にも今後期待される機能ではありますが、競合機も非搭載である現状ではα9 IIに非搭載であったとしても大きな問題ではありません。

α9 IIのメカシャッターが10コマ/秒という点は競合機と比較して実用上の連写が遅いわけですから、α9 IIの弱点と思われる場合はあるでしょう。

しかし本質的な問題はそんな部分ではなく、依然としてソニーはプロ機の本質が見えていないこと、それがα9 IIにプロ機としての進化が感じられない根本的な原因があるように思います。

ハッキリ言ってしまえば、オリンピックレベルのスポーツフォトグラファーからすればα9 IIも含め今のα9シリーズはアマチュア・ハイアマチュア向けの機種であり、ガチガチのプロフォトグラファーが仕事で使えるレベルの機種になっていません。

そこで今回は、α9 IIのプロ機としての問題点についてお話ししていきます。

 

■α9 IIのどこがダメなのか?


原因1.まず単純にボディが小さすぎる

まずα9 IIはそもそもボディサイズが小さすぎるのです。

カメラは小さい方が持ち運びが楽ではないか?なぜ小さいことがダメなのか?

α9 IIが狙っていたオリンピックで考えてみましょう。オリンピックは夏だけ行われるわけではありません。冬季オリンピックでは氷点下の屋外競技を長時間にわたって行うことが頻繁にあります。

つまり、手袋を使用して撮影できることも報道用プロ機の必須条件なのです。

平昌オリンピック

上の写真は2018年の平昌冬季オリンピックでの撮影風景なのですが、見ての通り多くのプロフォトグラファーはグローブを着用した状態でカメラを操作します。

それも薄手で指先の出るようなライトな仕様のフォトグローブではありません。

-10℃や-20℃などという環境で長時間撮影するためにはしっかりしたグローブが必要になるのですが、α9 IIのボタンやダイヤルのサイズ感ではグローブを着用した状態ではまともに操作できないのです。

「小さいことはαのアイデンティティである」というソニー開発者の考えは、過酷な環境で本気で写真を撮ったことのないアマチュアの自己満足に過ぎません。

オリンピッククラスの撮影を行うプロフォトグラファーである彼ら彼女らは「ユーチューバー」や「ライター系カメラマン」ではなく、撮影で収入を得ているのですから、ちょっとカメラボディが軽いとか小さいとかそんなくだらないことを重視しませんし、そもそもそんな考えではフォトグラファーとして一人前にはなれません。

そこで今回は具体例として、先日行われたラグビーワールドカップ2019の撮影を行った、女性プロフォトグラファーの例をあげてみましょう。

リアルなスポーツフォトグラファーたち

谷本結利さん:20年以上に渡ってラグビーを始めとしたスポーツカメラマンとして活躍しています。

引用元:静岡新聞(https://www.at-s.com/news/article/topics/shizuoka/685168.html)

長尾亜紀さん:2003年オーストラリア大会からラグビーワールドカップの撮影を行っているベテランカメラマンさんです。

引用元:Canon(https://global.canon/ja/event/rwc2019/interview/nagao.html)

松本かおりさん:2011年、2015年、2019年のラグビーワールドカップの撮影を行っています。

引用元:Canon(https://global.canon/ja/event/rwc2019/interview/matsumoto.html)

谷本結利さん:ラグビーの試合中は10kgほどの機材を両肩に担いでフィールドを駆け回るそうです。

引用元:Canon(https://global.canon/ja/event/rwc2019/interview/tanimoto.html)

このように男性フォトグラファーだけでなく、女性フォトグラファーもプロとしてスポーツ撮影の現場で活躍しています。

彼女たちはインスタ映えのためにタピオカドリンクの写真を撮りに行くわけではないので、「ちょっとボディが軽くなるから」といった舐めた考えで仕事用の機材を選んだりはしませんし、勿論それは男性カメラマンも同様です。

彼ら彼女らは、α9 IIのようなどう見てもアマチュア向けの作りのカメラで「スポーツカメラマンのプロ市場を狙う」などという頓珍漢な話をされても相手にしないでしょう。

勿論アマチュア向けのカメラを作ることや、小型軽量なカメラを作ること自体は悪いことではありませんし、クラスによっては小型軽量といった部分を重視することは当然必要ですが、それはオリンピックやワールドカップで使うようなプロ機に持ち込むべき思想ではありません。

ソニーもプロ市場での経験豊富なムービーの業務機となると途端にトップメーカーらしさを発揮して、業務用動画機ではちゃんとしたプロの現場で使うための機材を作っているのですが、なぜかスチールカメラになった途端、実際にはアマチュア向けの思想で作ったカメラをプロ機と称してしまいますが、リアルなスポーツのプロフォトグラファーなら、α9 IIを一目見ただけで「ああ、(プロ機を)分かってない奴が作ってるんだな」と思われて終了です。

皆さんも、撮影代で生計を立てているオリンピックフォトグラファーになったつもりで想像してみてください。

厳冬下の長時間の撮影でグローブをしていては操作もままならないカメラ。そんなカメラを仕事用に何台も購入するでしょうか?

そしてそのカメラのためにレンズを含めた、最低でも数百万から時に一千万円を超えるような高価なシステムを揃えるでしょうか?ましてそれを会社で何人分も購入するとしたら?

オリンピックカメラマン機材

上の写真は、前回のリオ・デ・ジャネイロ夏季オリンピックに参加したスポーツフォトグラファーであるSimon Brutyさん1人分の機材です。

カメラとレンズの使用機材は以下の通り。

このように会場の全景を撮影することも多いため、スポーツ撮影といってもこのように超広角やフィッシュアイレンズもちろん、フォトグラファーによってはアオリレンズまで持っていくわけです。

カメラボディだけでフラッグシップ機6台、レンズ13本。

さて、ボディとレンズだけでもこれだけの機材を使用するオリンピックフォトグラファーが、「夏用にα9 IIでシステムを組もう、冬は冬でキヤノンかニコンで揃えればいいや」などという馬鹿げた選択をするでしょうか?

コスト的にも操作に対する慣れという面でも、この時点でワールドカップやオリンピックのような場で冬季オリンピックに使い難いαシステムという選択肢はなくなります。

また後述しますが、そもそもα9 IIは冬季だけでなく、夏季オリンピックにも向いてもいません。

原因2.物理操作系が貧弱

夏季オリンピックでのα9シリーズの問題を語る前に、α9シリーズの物理操作系の弱さについても話しておきましょう。

実はα9シリーズは内部のメニューにおいてもプロ機らしさに欠けているのですが、キリがないので今回は「外から見える部分だけ」の話にします。

例えばフルサイズのフラッグシップ機同士で、

  • 物理ダイヤル
  • 物理ボタン(※機能が割り当てられないロックボタン除く)
  • スティック状のセレクター
  • 機能切り替えレバー

こうした物理的な操作系の数を比較した場合、D6とEOS-1D X Mark IIIがまだ正式発表前未であるため、D5EOS-1D X Mark IIとα9 IIを比較すると、

機種名 ダイヤル ボタン セレクター レバー 合計
EOS-1D X Mark II 3個 31個 2本 2個 38個
D5 5個 30個 2本 5個 42個
α9 II 6個 12個 1本 2個 21個
α9 II+VG-C4EM 8個 17個 2本 3個 30個
※ダイヤルロックボタンなどの機能のないものは除く。

といったように、キヤノン・ニコンのフラッグシップ機と比較して、α9 IIはダイヤルこそ多いものの、ボタン類が圧倒的に少ないことがわかります。

間も無く旧機種となるであろうD5EOS-1D X Mark IIと比較してさえ、α9 IIの物理操作系の総数は約半分と圧倒的に不足しており、バッテリグリップVG-C4EMを追加したとしても、やはり競合機と比較して少ないことが分かります。

物理ボタンが少ないのはカスタムボタンやカスタム設定で対応、などというのは本当に呆れ果てる低レベルな発想で、プロフォトグラファーたちからは、「そんな面倒なことをユーザーに求めるくらいなら最初から専用ボタンを作る十分なスペースを確保しておけ」と言われるのが関の山です。

D6やEOS-1D X Mark IIIは当然D5EOS-1D X Mark IID5EOS-1D X Mark IIよりもさらに操作性を向上させてくるでしょうから、その点においてα9 IIはライバルに対して既に操作性の面で遅れをとっています。

また、α9 IIが上面に多用しているダイヤル構造も1D系やD一桁系のボタン操作と比較して防塵・防滴性能をあげるのに適していません。

つまり回転するダイヤル部分にも、Oリングのような形でのシーリング自体は可能なのですが、ボタンのような内側を完全に塞ぐタイプのシーリングが難しいために防塵・防滴構造を高めにくいのです。

簡単に言うと、ダイヤルとボタンでは使えるシーリングの強度が変わるのです。

そのためキヤノンやニコンは、上面ダイヤル好きなカメラマニアの意見を無視してまでも、1D系やD一桁系といったクラスでは特に雨がダイレクトにかかりやすい上面にはダイヤル操作部を減らしているのですが、ソニーは報道用プロ機に対する理解が出来ていないため、カメラマニアの顔色を伺ってそういう人たちに好まれる上面のダイヤル系操作を採用してしまうわけです。

原因3.分離型にしたことによる、剛性・防滴性・放熱性の犠牲

次にバッテリーグリップ分離型の構造上の問題についてですが、α9 IIではα9同様、バッテリーグリップ分離型を採用していますが、スポーツのプロフォトグラファーが使うカメラは分離型にするのはメリットよりもデメリットの方が大きくなってしまうためやめるべきでした。

なぜキヤノン・ニコンという、報道用プロ機市場で圧倒的なシェアと経験を持つ2社は、「バッテリグリップ分離型のフラッグシップ機が欲しい」という一部のハイアマチュアの声を無視してまでこのクラスのカメラで一体型を採用し続けているのでしょうか?

その理由としては、

  1. スポーツ撮影では撮影枚数などの理由からバッテリーグリップ利用が基本であり、レンズも重いためにそもそも分離型にするメリットが少ない
  2. 本体とバッテリーグリップの接続部分でボディ剛性が落ちる
  3. 本体の防塵・防滴性能を上げても、ボディ底面とバッテリーグリップの隙間から雨水が染み込みやすく防滴性に不安要素が増える
  4. 一体型と比較して分離型は内部スペースの確保が難しく、放熱や設計の点で不利になる

といったようなことがあります。

仮に1D系やD1桁系をバッテリーグリップ分離型にしたとしても、殆どのスポーツのプロフォトグラファーはどうせバッテリーグリップを使用して撮影することになるのですから、それなら最初から一体構造にした方が、「剛性」「防塵・防滴性」「放熱性」「設計の自由度」など様々な面で有利になるのです。

例えば、夏季オリンピックやサッカーワールドカップなどで屋外にカメラを設置しリモート撮影するという光景を皆さんもご覧になられたことがあるでしょう。

こうした環境下では、熱やバッテリー切れでカメラが停止してしまうと、カメラを交換に行くことさえ出来ないため、そのポジションでは全く撮影が出来なくなってしまいます。

内部スペースを確保できない分離型ボディでは、放熱のための合理的な構造をとることが難しく、内部に熱が籠りやすくなるため、こうした炎天下での長時間の駆動に適していません。

EOS-1D X Mark IIでは放熱に配慮して、ヒートパイプを、パナソニックのLUMIX S1Hでは放熱ファンまで配して排熱に考慮しています。

EOS-1D X Mark IIのヒートパイプ構造
引用元:Canon(https://cweb.canon.jp/eos/special/1dxmk2/technology/tec05.html)
LUMIX S1Hの冷却ファン
引用元:Panasonic(https://panasonic.jp/dc/s_series/products/s1h/toughness.html)

ここまで出来る機種は稀ですし、これらは動画撮影時の排熱のためでもあるわけですが、いずれにせよα9 IIのような小型ボディにしてしまうと、内部スペースの狭さからそうした排熱の為の工夫の余地がほとんどなくなってしまいます。

そのためにα9シリーズは小型であるがゆえに、排熱を重視すれば防塵・防滴が疎かになり、防塵・防滴を重視すれば排熱が難しくなるというジレンマを抱えています。

原因4.電源の問題

またこうしたリモート撮影ではバッテリー交換にも行けないことが多いため、一眼レフと比較して撮影可能枚数が短いというミラーレスであれば、尚更フラッグシップ機専用の大型専用バッテリーの方が使い勝手が良いのですが、α9 IIは分離型かつ他機種との共用バッテリーグリップを採用しているために、D5EOS-1D X Mark IIのような専用大型バッテリーを採用することが出来ません。

すると「αならUSB給電が使える」というような、本当に呆れ果てるレベルの低いことを言い始める人たちがいます。

しかしプロからすれば、「ただでさえ通信のための煩わしさや取り回しの面倒があるのに、そんなことをユーザーに要求するくらいなら最初から撮影可能枚数の多いカメラを作って」と言われて終了です。

遊びに行っているのではないのですから、皆さんもプロであったなら、工夫しなくても使えるカメラがあるのに、工夫をしなければ使えないカメラをわざわざシビアな現場に持ち込まないでしょう?

ユーザー側が工夫して機材を使いこなそうとするのは良いことですが、工夫しなくても使いやすいカメラを作ることがメーカー側が目指すべき場所なのです。

カメラ趣味なら様々な機材やアクセサリーを組み合わせて敢えて複雑な構造にすることに楽しみを見いだすことはあるでしょう。しかし仕事なら、目的のために結果的に複雑な機材になることはあっても、本来は不要な複雑さを必要としない機材で撮影したいのです。

加えてα9 IIがXQDやCFexpressを選択肢なかった点もこのような用途のカメラとしては判断ミスですが、カメラマニアなら言わなくても分かるでしょうから割愛します。

 

■プロ機の哲学とは?


プロ機とはどうあるべきなのか?

これまでに上げた様々なα9 IIの問題点の幾つかの原因は、「小さく作る」というフラッグシップのクラスにおいてさして意味のないことにソニーが拘ってしまったことにあります。

実用性を真摯に追求すれば、重いと言われようが、大きいと言われようが、自ずと一体型(少なくとももっと大きなカメラ)に行き着いたはずで、それはミラーレス時代においても同様です。

いずれキヤノンやニコンが出してくる1D系やD一桁系のような報道用カメラのミラーレス版では、バッテリーグリップ一体型にするでしょう。

ほとんどのメーカーはミラーレス時代においても、「プロ機は小さく作ればいいというものではない」という結論に結局は辿り着くはずで、キヤノンやニコンでなくとも、富士フイルムもパナソニックも既にその程度のことは理解しているように見えます。

しかしソニーが「プロ機」と称して実際に追っているのは、リアルなプロのニーズではなく「単なるカメラマニア受け」になってしまっているために、頭の片隅ではなんとなく今のα9シリーズの方向性は間違っているのではないか?と気付いていたとしても(もし本当に気付いていないとしたら完全に終わっているのですが)、「競合機と比較して小さい」という瑣末な自己顕示欲のために無意味な小型化に拘ってα9、α9 IIと立て続けに失敗しているわけです。

小型化に拘ったことだけがα9 IIの問題ではないのですが、今回はその点に特に注目して話したと思いますので、太字で書きますが、

「フラッグシップ機を分離型で作れても、そのような要望がカメラマニアからあっても、我々のα9シリーズはプロがシリアスな撮影現場で使うためのカメラなのだから、そのような要望は無視する」という信念と哲学がソニーには欠けているのです。

今回ソニーは残念ながら、平昌オリンピックやモスクワサッカーワールドカップでのα9の失敗を活かすことが出来ませんでした。

確かに2018年の平昌オリンピックやモスクワワールドカップの時期には超望遠レンズであるFE 400mm F2.8 GM OSSFE 600mm F4 GM OSSなどはありませんでした。

しかし超望遠レンズがあろうがなかろうが、そもそも現時点でα9シリーズはオリンピックやワールドカップレベルのプロの撮影に対する適性がないため、2020年の東京オリンピックでもα9 IIの活躍は見込めません。

極端な例えをするなら、東京オリンピックにPHASE ONEやM型LEICA を持ち込んでくるプロフォトグラファーがいたら皆さんはどう思うでしょう。

「それらは確かに素晴らしいカメラだけど、用途が全然違うよね?」と思いませんか?

α9 IIもそこまでではないものの、プロフォトグラファーからすると、オリンピックにそのカメラはなんか場違いじゃない?ということなのです。

 

■だがαの本当の問題は…


必要なのはスペックより実用性を追求する真摯さと、広告戦略よりニーズを汲み取る誠実さ

αシリーズがプロフォトグラファーの市場に進出するにおいての最大の障害は、ソニーのスチールカメラの開発陣にプロレベルのスチール撮影を理解している人がいない、あるいは居てもその人たちに権限が与えられていないという点です。

ソニーには優秀な技術者が沢山いる(※実際のカメラの開発者に何人も会った上で言っています)わけですが、ことスチールカメラに関しては撮影そのものに精通している人と、カメラというものの全体像を深く理解している人がいないためにスチールのプロ機の作り込みが甘くなっていまうのです。

作っているソニー側もそれを見ているカメラマニアも、DxOのセンサーのスコアが幾つだった系のカメラの極一部分しか視界に入っていないので、カメラ全体としては不出来なものになるのです。

イメージセンサーを語るのと同等に、ボタンやダイヤル、ファインダーやボディの作り、メニュー体系など、様々なカメラの要素を同列かつ統合的に見れる知識が必要なのです。作る側にもそれを評価する側にもです。

プロ機とは「プロのための機材」ということです。

勿論プロ機と言っても実際に使うのはプロ以外の人が多いわけですし、そもそもメーカーにはプロ機を発売する義務もないのですが、少なくともソニーで業務用動画機を作っている開発者たちは「自分たちはプロがシリアスな現場で使うための機材を作っている」という矜持をもって開発しているように見えます。

それに比べα9シリーズのように、プロのための道具に徹することが出来ておらず、実際プロにもほとんど使われていないのに売るために名前だけの「プロ機」を称しても虚しいだけでしょう。

αの開発陣には是非自社の業務用動画機や他のカメラメーカーのプロ機から、プロ機とはどうあるべきなのか?ということを学んで欲しいのです。

今年の春に、現実にプロフォトグラファーに使われているカメラは?という別の記事で2019年のコマーシャル・フォト誌に掲載された205名のコマーシャルフォトグラファーに対するアンケート結果を紹介しました。

現在の広告写真業界のプロフォトグラファーたちのシェアは、キヤノンとニコンで85.0%なのに対し、ソニーはわずか9.8%、その他が5.2%となっており、キヤノン・ニコンとソニーには依然大きな開きがあることが判明しています。

比較的α7シリーズに向いている広告写真業界ですらこのありさまで、ソニー自身がどのような言い訳をしようが、平昌オリンピック、モスクワサッカーワールドカップ、ラグビーワールドカップ、コマーシャルフォトグラファーの現場の実情などを見れば、αがスチールカメラとしてプロ市場で通用していないのは明白な事実ですし、プロがαを使っている場合、シネマカメラまでは必要ない、あるいはコストや技術面から運用できないという場合に、動画用途で使用しているというのが大半でしょう。

特に報道の分野においては、「αを使っているプロフォトグラファーは全体から見れば本当に極わずかしかいない」と言っても過言ではなく、逆にそれに異論があるとすれば、それ自体その人がプロフォトグラファーを経験したことがないことの明白な証とさえ思います。

あるいは記者会見などで、「発言と映像を一人二役で記録しなければならない」というような簡単な取材であれば、軽量なαを使用するという手はあると思いますが、そのような使用目的であればα9 IIでなくても良いわけですし、そもそも彼ら彼女らの本業は新聞・雑誌の記者であって報道のプロフォトグラファーではありません。

数年後にはスポーツのプロフォトグラファーの主流もミラーレスへと移行するでしょう。

しかし、その時プロフォトグラファーの手にあるのは今後発売されるであろう、RFマウントやZマウントの報道用プロ機である可能性が高く、今のα9シリーズの路線で何年続けようがソニーが以前から公言している「スポーツのプロ市場を狙っていく」という目標には届かないでしょう。

ですから今回のα9 IIは、ソニーがスポーツフォトグラファーのプロ市場を狙える事実上のラストチャンスであったのかもしれません。

α9 IIの失敗は単なるソニーの技術力の停滞か?それとも…

α9 IIに限らず最近のαシリーズの勢いの無さは、「ソニーの技術開発の停滞が始まったのか?」と感じさせるものです。

しかし実は今回α9 IIで最も気になったのは、カメラ本体の不出来さよりも、「まるでやる気の感じられないプロモーション」の方であり、現在のαシリーズの停滞の理由の裏側にあるのは、衰退止まらないデジタルカメラ市場そのものにソニーが見切りをつけ始めていることが裏にあるのではないか?という気がしてくることです。

カメラ業界の凋落はもはや誰も止めることが出来ない状態かもしれません。

しかし、カメラ業界の衰退の原因の一部はソニーにもある(※特に非常に歪んだ宣伝戦略において)のですから、そのあたりはソニーにも猛省した上で、カメラ作りだけでなく売り方という面においても今後の改善を期待したいところです。

 

画像:Canon,静岡新聞,SONY,読売新聞社Twitter

Reported by 山﨑将方