なぜソニーα9シリーズはプロフォトグラファーに相手にされない?

みなさんこんにちは。

遂にソニーEマウントのフラッグシップ機であるα9 IIが発表されました。

しかしこの手の機種にあって当たり前の通信関係のアップデート以外は、α9同様相変わらずプロのニーズを理解しておらず、これでは、

  • アマチュアフォトグラファーにとってはインパクトのない期待外れのモデル
  • プロフォトグラファーにとっては相変わらず仕事で使えないハイアマチュア向けモデル

となってしまっています。

目次
  • 画素数やグローバルシャッター非搭載の問題ではない
    • 画素数もグローバルシャッター非搭載も関係ない
  • α9 IIのなにがダメなのか?
    • 原因1.ボディが小さすぎる
    • 原因2.物理操作系が貧弱
    • 原因3.分離型にしたことによる、剛性・防滴性・放熱性の犠牲
  • 東京オリンピックでαが広く使われることはない、だがα9 IIの本当の問題は…
    • 必要なのはスペックより実用性を追求する真摯さと、広告戦略よりニーズを汲み取る誠実さ
    • α9 IIの失敗は単なるソニーの技術力の停滞か?それとも…

α9 IIはなぜプロアマ両方からガッカリされてしまったのか?今回はその原因について考えてみたいと思います。



■画素数やグローバルシャッター非搭載の問題ではない


画素数もグローバルシャッター非搭載も関係ない

α9 IIが報道用プロ機として失敗してしまった理由は、画素数が上がらなかったとかグローバルシャッターが非搭載だったといった問題ではないのです。

特に画素数はカメラマニアからは3,600万画素という期待もあったようですが、オリンピックや報道に使うカメラに、(少なくとも2020年時点では)「3,600万画素だったら買った、2,400万画素だから買わない」などというオリンピックフォトグラファーはいないでしょう。

その点に関してはむしろソニーの選択は正しく、キヤノンやニコンも、EOS-1D X Mark IIIやD6を3,600万画素まで画素数を上げてくるとは考えられません。

また、グローバルシャッターは期待される機能ではありますが、競合機も非搭載である現状では大きな問題ではありません。

α9 IIのメカシャッターが10コマ/秒という点は、競合機と比較して実用上の連写が遅いわけですから、α9 IIの弱点と思われる場合はあるでしょう。

しかし本質的な問題はそんな部分ではなく、依然としてソニーはプロ機の本質が見えていないこと、それがα9 IIにプロ機としての進化が感じられない根本的な原因があるように思います。

そこで、α9 IIの報道用プロ機としての問題点についてお話ししていきます。

 

■α9 IIのどこがダメなのか?


原因1.ボディが小さすぎる

まずα9 IIはそもそもボディサイズが小さすぎるのです。

カメラは小さい方が持ち運びが楽ではないか?なぜ小さいことがダメなのか?

α9 IIが狙っていたオリンピックで考えてみましょう。オリンピックは夏だけ行われるわけではありません。冬季オリンピックでは氷点下の屋外競技を長時間にわたって行うことが頻繁にあります。

つまり、手袋を使用して撮影できることも報道用プロ機の必須条件なのです。

上の写真は2018年の平昌冬季オリンピックでの撮影風景なのですが、見ての通り多くのプロフォトグラファーはグローブを着用した状態でカメラを操作します。

それも薄手で指先の出るようなフォトグローブではありません。-10℃や-20℃などという環境で長時間撮影するのにはしっかりしたグローブが必要になるのですが、α9 IIのボタンやダイヤルのサイズ感ではグローブを着用した状態ではまともに操作できないのです。

「小さいことはαのアイデンティティである」というソニー開発者の考えは、はっきり言うなら、過酷な環境で写真を撮ったことのない素人の自己満足に過ぎないのです。

機種によっては小型軽量は大きな武器となりますが、こうした屋外で長時間の撮影を行うカメラでは、小さいことは必ずしもメリットにはなりません。小さく作れても敢えて大きく作る、それが真にユーザーの立場に立ったカメラ作りなのです。

皆さんが「撮影で生計を立てているリアルなオリンピックフォトグラファー」であると想像してみてください。

冬季は操作し辛い、夏季専用機。そんなカメラを何台も購入するでしょうか?ましてそのカメラのためにレンズを含めた高価なシステムを揃えるでしょうか?

オリンピックカメラマン機材

上の写真は、前回の夏季オリンピックに参加したスポーツフォトグラファーであるSimon Brutyさんの機材です。

カメラとレンズの使用機材は以下の通り。

このように会場の全景を撮影することも多いため、フィッシュアイレンズもちろん、人によってはアオリレンズまで持っていくわけです。

カメラボディだけでフラッグシップ機を6台、レンズ13本。

さて、ボディとレンズだけでもこれだけの機材を使用するオリンピックフォトグラファーが、「夏用にα9 IIでシステムを組もう、冬は冬でキヤノンやニコンで揃えればいいや」などという選択をするでしょうか?

彼ら彼女らは趣味でやっているわけではないのです。コスト的にも操作に対する慣れという面でも、この時点でワールドカップやオリンピックのような場でαシステムを選ぶという選択肢はないのです。

また後述しますが、そもそもα9 IIは冬季だけでなく、夏季オリンピックにも実は向いてもいないのです。

原因2.物理操作系が貧弱

また物理操作系が相変わらず弱いのもα9 IIの欠点です。例えばフルサイズのフラッグシップ機同士で、

  • 物理ダイヤル
  • 物理ボタン(ロックボタン除く)
  • スティック状のセレクター
  • 機能切り替えレバー

こうした物理的な操作系の数を比較した場合、D6とEOS-1D X Mark IIIがまだ未発表であるため、D5EOS-1D X Mark IIとα9 IIを比較すると、

機種名 ダイヤル ボタン セレクター レバー 合計
EOS-1D X Mark II 3個 31個 2本 2個 38個
D5 5個 30個 2本 5個 42個
α9 II 6個 12個 1本 2個 21個
α9 II+VG-C4EM 8個 17個 2本 3個 30個
※ダイヤルロックボタンなどの機能のないものは除く。

といったように、α9 IIはキヤノン・ニコンのフラッグシップ機と比較して、ダイヤルこそ多いもののボタン類が圧倒的に少なく、間も無く旧機種となるであろうD5EOS-1D X Mark IIと比較してさえ、α9 IIの物理操作系の数は約半分と圧倒的に不足しており、バッテリグリップVG-C4EMを追加したとしても、やはり競合機と比較して明らかに少ないことが分かります。

スポーツ撮影のような素早い操作が必要な機種には、メニューを開いたり、カスタムボタンの操作回数を減らすために物理操作系の多さが必要なのです。

「物理ボタンが少ないのはカスタムメニューで対応」などというのは本当に呆れ果てるレベルの寝言であって、シリアスなスポーツ撮影において、そんなことをしている暇はありません。

D6やEOS-1D X Mark IIIは当然D5EOS-1D X Mark IID5EOS-1D X Mark IIよりもさらに操作性を向上させてくるでしょうから、その点においてα9 IIはライバルに対して既に遅れをとることが確定しているわけです。

また、α9 IIが上面に多用しているダイヤル構造はボタンと比較して密閉型のシーリング構造にすることが難しいため、防塵防滴性能をあげるのに適していません。

そのためD5EOS-1D X Mark IIのクラスでは、他の機種では使っているモードダイヤルを長年採用していないのですが、ソニーはプロ機に対する割り切りが出来ていないため、ハイアマチュアに好まれるダイヤル系操作をメインに採用してしまっています。

原因3.分離型にしたことによる、剛性・防滴性・放熱性の犠牲

α9 IIではα9同様、バッテリーグリップ分離型を採用していますが、スポーツのプロフォトグラファーが使うカメラは分離型にするのはメリットよりもデメリットの方が大きくなってしまいます。

その理由としては、

  1. スポーツ撮影では撮影枚数などの理由からバッテリーグリップ利用が基本であり、レンズも重いためにそもそも分離型にするメリットが殆どない
  2. バッテリーグリップとの接続部分でボディ剛性および防滴性が低下するため、α9 II本体だけの防滴性能を上げても効果が得難い
  3. 一体型と比較して分離型は内部スペースの確保が難しく、放熱や設計の点で不利になる

といったようなことがあります。

つまり、スポーツのプロフォトグラファーはどうせバッテリーグリップが必要なのですから、一体構造にした方が「剛性」「防塵防滴性」「放熱性」「設計の自由度」など様々な面で有利になるのです。

例えば、夏季オリンピックやW杯などで屋外にカメラを設置しリモート撮影するという光景を皆さんもご覧になられたことがあるでしょう。

こうした環境下では、熱で停止してしまうとカメラを交換に行くことさえ出来ないため、そのポジションでは全く撮影が出来なくなってしまいます。

内部スペースを確保できない分離型ボディでは、放熱のための合理的な構造をとることが難しく、内部に熱が籠りやすくなるため、こうした炎天下での長時間の駆動に適していません。

EOS-1D X Mark IIでは放熱に配慮して、CPUクーラーのようなヒートパイプを、パナソニックのLUMIX S1Hでは放熱ファンまで配していますが、α9 IIのような小型ボディにしてしまうとそうした排熱の為の工夫の余地がありません。

そのために、排熱を重視すれば防塵防滴が疎かになり、防塵防滴を重視すれば熱が籠りやすくなるというジレンマを抱えているわけです。

またこうした撮影ではバッテリー交換に行けないのですから、一眼レフと比較して撮影可能枚数が短いというミラーレスであればなおさらフラッグシップ機専用の大型専用バッテリーの方が使い勝手が良いのですが、α9 IIは分離型かつ他機種との共用バッテリーグリップであるため、D5EOS-1D X Mark IIのような専用大型バッテリーを採用することが出来ません。

そうすると「α9 IIでもUSB給電を使えばいい」というような、頓珍漢なことを言い始める人たちもいるのですが、ただでさえ通信のための煩わしさや取り回しの面倒があるのに、そんなことをするくらいなら最初から大型バッテリーの機種にしますとしか思われないわけで、工夫しなくてもいいカメラがあるのに、工夫をしなければ使えないカメラをわざわざ選ばないでしょう。

ユーザー側が工夫して使うことは良いことですが、工夫しなくても使いやすいカメラを作ることがメーカー側のやるべきことなのです。

加えてXQDやCFexpressを選択肢なかった点もこのような用途のカメラとしては判断ミスなのですが、これまでに上げた様々なα9 IIの問題点の根本にあるのは、「小さく作る」というフラッグシップ機においてさして意味のないことにソニーが拘ってしまったことにあります。

プロのための報道用カメラとはどうあるべきか?という点をを真摯に追求すれば、重いと言われようが、大きいと言われようが、自ずと一体型に行き着いたはずなのですが、ソニーが追っているのは実用性ではなくカタログスペックであるため、「競合機と比較して小さい」という瑣末な自己顕示欲のために分離型を選択して失敗してしまっています。

今回ソニーは、α9が平昌オリンピックやモスクワW杯でプロフォトグラファーにまるで相手にされなかった教訓を活かすことが出来ませんでした。

2018年の平昌オリンピックやモスクワワールドカップの時期にはα9は発売されていたものの、超望遠レンズであるFE 400mm F2.8 GM OSSがありませんでした。

しかし超望遠レンズがあろうがなかろうが、そもそもα9 IIはオリンピックやワールドカップレベルのプロの撮影に対する適性がないのです。

 

■東京オリンピックでαが広く使われることはない、だがα9 IIの本当の問題は…


必要なのはスペックより実用性を追求する真摯さと、広告戦略よりニーズを汲み取る誠実さ

結局α9がプロフォトグラファーの市場に進出するにおいての最大の障害は、ソニー開発陣にプロレベルの撮影を理解している人が全くいない、または、いてもその人たちに権限が与えられていないという点で、それが解消されないことにはどんな凄いセンサーを載せようが、撮影で生計を立てているシリアスなプロたちはスチールカメラとしてのαシステムを信用してはくれないのです。

今年の春に、現実にプロフォトグラファーに使われているカメラは?という別の記事で2019年のコマーシャル・フォト誌に掲載された205名のコマーシャルフォトグラファーに対するアンケート結果を紹介しました。

現在の広告写真業界のプロフォトグラファーたちのシェアは、キヤノンとニコンで85.0%なのに対し、ソニーは9.8%、その他が5.2%となっており、キヤノン・ニコンとソニーには依然大きな開きがあることが判明しています。

比較的αに向いている広告写真業界ですらこのありさまであり、ソニーがなんと言おうが、平昌オリンピック、モスクワサッカーワールドカップ、ラグビーワールドカップ、コマーシャルフォトグラファーの現場の実情を見れば、αがスチールカメラとしてプロ市場で通用していないのは明白な事実です。

特に報道の分野において、「αを使っているプロフォトグラファーはほとんどいない」と言っても過言ではなく、逆にそれに異論があるとすれば、それ自体その人がプロフォトグラファーでないことの証明です。

スポーツのプロフォトグラファーの主流がミラーレスに移行しても、その先はやはりRFマウントやZマウントであり、今の路線で何年続けようが、ソニーが以前から公言している「スポーツのプロ市場も狙っていく」という目標には届かないでしょう。

α9 IIの失敗は単なるソニーの技術力の停滞か?それとも…

α9 IIに限らず最近のαシリーズの勢いの無さからは「ソニーの技術開発の停滞が始まったのか?」と感じさせるものです。

しかし気になったのは、今回東京オリンピックを前にして発表したフラッグシップ機α9 IIの、まるでやる気の感じられないプロモーションであり、現在のαシリーズの停滞の理由の裏側にあるのは、衰退止まらないデジタルカメラ市場、つまりαシステムへ注力することそのものにソニーが見切りをつけ始めているのではないか?という気がしてくることです。

カメラ業界の凋落はもはや誰も止めることが出来ない状態ですが、業界衰退の原因の一部はソニーにもある(※特に非常に歪んだプロモーション戦略において)わけですから、そのあたりはソニーにも素直に反省し今後の改善を期待したいところです。

 

画像:SONY,読売新聞社Twitter

Reported by 山﨑将方