Z fc発売延期。予約殺到でカメラが発売延期になる理由を解説

皆さんこんにちは。

皆さんの中には、発表されたニコンのZ fcを予約された方もおられるのではないでしょうか?

そのZ fcのレンズキットの中でもっとも人気のあるフルサイズ用単焦点レンズとの組み合わせ、Z fc 28mm f/2.8 Special Edition キットが予約数が想定を大きく超えたため、発売が延期されることが発表されました。

以下ニコン公式から引用

“2021年7月下旬に発売を予定しております「Z fc 28mm f/2.8 Special Edition キット」は、想定を超える大変多くのご予約をいただき、さらに部品供給の遅延により、発売に十分な供給量をご用意できない見通しです。

そのため、発売を延期させていただくこととなりました。発売時期につきましては、確定次第改めてお知らせいたします。”

こうしたことはニコンであれば以前D500でも起きました。予約がメーカーの予測を大幅に超えると起きる現象です。

「D500」及び関連アクセサリー発売日延期のお知らせ

今回のZ fc 28mm f/2.8 Special Edition キット場合、特に組み合わせるレンズのNIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)の生産が間に合っていないことが影響していると思いますが、同時に、「予約数がメーカーの想定を上回ると発売日が延期になる」という理由、いまひとつ分かり難いですよね?

予約全ての台数が用意できなくても、生産出来た分だけ予約順に渡していけば良いのではないか?と考えるのが普通の感覚ではないでしょうか。

実際、Z fc 16-50 VR SL レンズキットの方は発売延期ではなく、「現在ご予約をいただいている一部のお客さまには、商品のお届けまでにお時間をいただく可能性がございます。」というお詫びに留めているのに、明らかに間に合わないZ fc 28mm f/2.8 Special Edition キットの方は発売延期になったわけです。

そこで今回は、なぜカメラは予約数が想定を大きく超えると発売自体が延期になるのか?そのカラクリというか、致し方ない理由をお話しします。

これは私が以前にあるメーカーの営業部門の偉い人に聞いた話で、「ああ、なるほど」と私は納得した(皆さんが納得するかは別ですが)のでご紹介します。

目次

  • 発売遅延に関する時に誤ったさまざまな憶測
    • 代表的な憶測の例
  • 発売日が延期になる本当の理由は小売店との関係にある
    • 予約順で正確に出荷してもお客さんが納得するとは限らない
    • 発売延期は販売店に対する配慮が大きい
    • 皆が少しずつ不満だが不公平感が少ないシステム

こうしたことが起こると往々にしてメーカーが叩かれがちですが、これはどちらかと言うとメーカーが販売店とお客さんの感情に配慮した結果なので、知っておいていただければ、予約待ちのストレスも少しは軽減されるのではないかと思います。

■発売遅延に関する時に誤ったさまざまな憶測


代表的な憶測の例

発売が延期になると、特にネット上ではさまざまな憶測が飛び交います。代表的なものとしては以下のようなケースがあるように思います。

  1. 品薄商法
  2. 生産のための部品供給が遅れている
  3. 不具合を修正している
  4. 転売を防ぐため

などです。

これら多くの憶測は完全に間違いというわけではないものの、主要な原因ではありません。

1.品薄商法

これはまともな企業はやりません(少なくともニコンはやらないでしょう)。

人気商品をよりアピールするために宣伝として行うことはあっても、製造できる商品をわざと製造しなかったり、ましてやわざと出荷を遅らせて品薄を演出するなどということはありません。

そのようなことをすると本当に機会ロスが発生してしまい、売れたはずの製品が売れなくなってしまうからです。一番売りたいの思っているのはメーカーです。

つまり、メーカーの「予約に対して製造が追いつかない」という発表ははほとんどの場合は事実です。

2.生産のための部品供給が遅れている

これは時々あるケースで、例えば部品の一部の納品が遅れていて生産出来ないということですが、その結果発生するのは実際の品薄で、少し前だとキヤノンのEOS R5EOS R6、RFレンズ関係なども生産が追いつかない状態が長く続いていました(以前ほどではないものの現在も品薄は続いているようです)。

3.不具合を修正している

これも稀にですが、発売直前に不具合が発見されたため、修正のために発売を遅らせざるをえないケースはあります。

ハードウェアよりもソフトウェア関係が多いのですが、その修正のために発売が遅れます。

現在のデジタルカメラのソフトウェアの処理は本当に多岐にわたるため、どれだけチェックしても完全な形であることを検証してリリースできることは難しい部分があります。

そのため、とりあえず不具合が見つからない状態であることを確認できていれば発売し、もあし発売後に問題が見つかればファームウェアアップデートで対応するわけです。

場合によっては「ソフトウェアを改善すればもう少しAFを高速化できるといったことが分かっているけれど、発売予定日を考えるともう生産しなければ間に合わない」というような場合、発売後にファームウェアアップデートで本来目指していた性能を追求するというケースもあります。

最近だと富士フイルムのX-T3などは、発売後のファームウェアアップデートで特にAF関係などの性能が大きく向上したことが知られていますね。

これは決して「適当なところでいいや」と思って作っているという意味ではなく、発売スケジュールが先にあるので仕方がないのです。精一杯やってもそうなってしまうわけです。

またごく稀にあるのが、「仕様表や機能表記に誤りがあり、それを直すのに時間がかかる」というケースです。

メーカー公式サイトの仕様表はチェックが厳格であるため誤表記自体が滅多にありませんし、あっても修正して告知すれば済む話です。

時間が取られるのは、紙媒体の方、つまり店頭カタログや店頭POP、ポスターなどの印刷物の方でスペックの誤表記が発覚し、印刷し直さなければならなくなったような場合です。

小さなPOP程度であれば販売店に送ったものを回収して終わりという事もできるのですが、製品カタログに誤表記があるとカタログを無しにすることは出来ませんから、印刷し直さなければいけないのでかなり時間を取られることになります。

もちろんカタログ無しで発売して後からカタログを送ることも可能ではありますし、実際発売当初はしっかりとしたカタログがないケースもあります。

しかし発売直後の人気製品のカタログは、無ければ無いで販売店からメーカーに要望がくるので、短期間で印刷し直せる場合はそれを準備するために発売を少し遅らせる場合があります。

具体名は伏せますが、私の知っているある機種のケース(もう何年も前の機種ですが)では、EVFのドット数の表記に誤りがあり、結果それを回収し刷り直すために発売日が少し遅れたことがありました。

4.転売を防ぐため

極端な品薄になると転売屋が跋扈していまい、価格が不当に釣り上げられるというケースが起きます。また転売屋から買った製品をさらにネットオークションなどで転売する一般人も現れます。

よく言われる「品薄商法」というのは、メーカーが仕掛けるのではなく、実際は転売屋が買い占めることで起きてしまうことの方が多いのです。

転売屋に買い占められると、極端な高騰や後の値崩れの原因になるため、基本的にはメーカーと販売店は転売屋を排除したいと考えています(一部の販売店は売上げ目標を達成するため時に転売屋に売らざるを得ない時もあり、量販店と転売屋の関係は複雑なのですが)。

ともあれそうした価格の異常変動を防ぐために、メーカーとしてはある程度の数量の在庫を確保し、転売屋に買い占めしづらい状況を作りたいわけです。

■発売日が延期になる本当の理由は小売店との関係にある


予約順で正確に出荷してもお客さんが納得するとは限らない

では問題の、予約が殺到しても「予約した順に出荷すれば良いだけなのではないか?」ということですが、これが意外と上手くいかないのです。

カメラを販売している店は数多あります。

ヨドバシ・ビック・ヤマダ・キタムラ・ケーズなどの有名店だけでも、国内1000店舗をゆうに超え、さらにネット販売専門の小売業者も含めれば数え切れないほどの法人が存在します。

そしてある人は正式発表されてすぐ電話やネットで予約しますし、ある人は同じ日の夜仕事帰りに店舗に立ち寄って予約するかも知れません。

お客さんの主観ではいずれも「自分は予約開始日に予約した」ということになります。

しかし品薄の商品であれば、こうした時間単位の予約順の差がお客さんに届く時には、「お届け日の差」として現れてしまうことがあります。

何台目までは最初のロットになるが、何台目からは次のロットという風にです。

しかしそれをお客さんが納得してくれるとは限りません。ネット上でこのような会話をよく見かけると思います。

  • A「7月下旬に○○デンキで予約したのにまだ入荷連絡こない」
  • B「そうなの?俺も7月下旬に△△カメラで予約したけど昨日入荷連絡きたよ」
  • A「なんだ俺も△△カメラで予約すればよかった。やっぱり△△カメラの方が入荷早いんだね。失敗した」

よくある会話ですね。

こうしたことがあるとAさんはどうするでしょう?

温厚な方なら我慢してくれるでしょうが、人によっては自分が予約した○○デンキに催促やクレームを入れる場合もあります。「なぜ△△カメラで予約した人の方が早いのだ」と。

同じ「7月下旬に予約した」と言っても、AさんとBさんは同じ日同じ時刻に予約していたとは限りません。

Bさんの方が数日早かったかもしれませんし、その数日のズレが部品の入荷のタイミングなどと重なって、結果的に次の生産・出荷まで数週間とか1ヶ月以上の差になってしまう場合はままあります。

しかしそうした苦情が来ると、今度は販売店からメーカーに、「お客さんが他の販売店で買った人には届いていると怒っているので早くしてください」と催促がいくわけです。

まして発売初期で予約が殺到している場合には、予約開始日に予約した人がものすごい数で重複しているため、「発表した即日予約したのに他の人は届いてなんで自分のは遅れるの!?」という苦情がとても起こりやすいのです。

実際は予約数が初回出荷分を上回っていれば、そもそも数が足りていないのですから、当然予約開始日に予約したお客さん同士でも発売日に入手できる人と出来ない人が出るのは当たり前なのですが、お客さんからすると予約開始初日に予約したのに発売日に買える人と買えない人がいるというのは納得がいかないという心情も分かりますよね?

だからそうしたクレームを極力避けるために、発売日には予約者数分の在庫を確保しておきたいので、不足分を追加生産するために発売日を延期するわけです。

今回のケースで言えば、Z fc 28mm f/2.8 Special Edition キットに人気が集中しましたから仕方がないと思います。ニコンとしても本当に予想以上の反響で、初回分の生産予定と大きくズレてしまったのだろうと思います。

発売延期は販売店に対する配慮が大きい

メーカー側としては、この「同じ日に予約したお客さん同士の不公平感を防ぐ」というのはそのまま販売店に対する配慮になります。

例えばある機種の初回国内出荷分が10,000台だったとします。

小売店が4社あったとして(もちろん実際はもっとはるかに多いのでより複雑になるのですが)、それぞれの予約数が以下のようになった場合、どのように出荷していけば良いでしょうか?

初回生産:10,000台

  • ○○カメラ/予約数:6,000台
  • △△カメラ/予約数:4,000台
  • カメラの□□/予約数:2,500台
  • XXデンキ/予約数:2,500台

合計予約数:15,000台

すべて発表日に予約したお客様です。予約数は15,000台ですが、初回生産の10,000台では足りません。

均等に4法人に2,500台ずつ出荷したとします。

  • ○○カメラ/予約6,000台中、2,500台出荷。不足3,500台
  • △△カメラ/予約4,000台中、2,500台出荷。不足1,500台
  • カメラの○○/予約2,500台中、2,500台出荷。不足0台
  • ○○デンキ/予約2,500件中、2,500台出荷。不足0台

おかしいですよね?

予約開始日に予約したお客さん同士なのに、○○カメラと△△カメラで予約された多くの方は発売日に受け取れません。予約した量販店の違いで、同じ予約日でも買えるかどうか違いが出てしまいます。

それどころか、同じお店で同じ日に予約した人同士でさえ、発売日に購入できた人と出来なかった人が生まれてしまっています。

当然ネットでそういう情報がユーザー同士で共有されて「俺は届いた」「俺は届いていない」という話になったり、どこかの有名YouTuberが発売日に届いて開封動画でもアップなどしようものなら、またしても販売店に猛烈なクレームがいきます。「YouTuberを優先してるのか?」といった誤解も生じてしまいます。

では予約件数の比率に合わせて出荷するべきでしょうか?

  • ○○カメラ/予約6,000台中、4,000台出荷。不足2,000台
  • △△カメラ/予約4,000台中、2,666台出荷。不足1,334台
  • カメラの○○/予約2,500台中、1,667台出荷。不足833台
  • ○○デンキ/予約2,500件中、1,667台出荷。不足833台

やはり同じ日に予約したお客さん同士でありながら、すべての法人で受け取れなかった人が発生してしまいました。

それどころか今度は先ほどより多い4社に迷惑をかけることになります。

皆が少しずつ不満だが不公平感が少ないシステム

もちろんこうした理由があっても、発売が延期になることでメーカーや販売店に文句を言うお客さんはいます。

中には「○月の旅行で使いたかったのに間に合わないじゃないか!」というような話もよくあるケースで、残念さから怒りが湧く気持ちも分かります。

しかしそうしたクレームは言うなればグチに近いものなので、店員さんが対応を間違わず、お客さんに共感してあげれば大抵はそれで収まります。

「同じ日に予約した他の誰かが自分より早く手に入れている」という明確な不平等があるわけではないからです。

つまり発売日を遅らせて十分な数を揃えてから出荷するというのは、

皆が少しずつ不満だけれど、お客さん同士の不公平感を軽減する販売店に配慮したシステム

というわけです。

こうすることで、販売店は予約したお客さんに対して「発売が延期になり、ご予約いただいたお客様には大変ご不便をおかけしております…」という言い訳が立つわけです(これだって面倒だとは思いますが)。

もちろんメーカーは予約分の作れた順から販売店に送ることは可能です。

しかしそれをやると、先ほど説明したように販売店に「お客さん同士の格差」という、販売店にとって言い訳のできないクレームが入ってしまいます。

  • 発売日が延期になるのはメーカーのせい
  • 発売日に自分の分だけ届かなかったら販売店のせい

人はこのように感じるからです。いずれにせよ入手日が遅れることには変わりないのに。

そのため発売日そのものを遅らせることで、メーカーが盾となって販売店へのクレームを軽減しているわけです。

もちろん最善の手段は、不足も過剰在庫も起こさないように、売れる数をぴったり予測して生産計画を立てることですが、そんなことは現実には不可能であることは皆さんもお分かりでしょう。

メーカーも売れると分かっていれば最初から十分な量を作りますが、売れ残っても誰かが買い取ってくれるわけではありませんから、メーカーに「最初から品切れしないように余分に作っておけ」というようなことを求めても無駄で、Z fcに限らず、カメラやレンズのような高価な製品がすぐ品薄になるのは仕方のないことなのです。

なのでガッカリする気持ちはわかりますが、Z fc 28mm f/2.8 Special Edition キットの発売日が遅れるのは、「それだけ自分が予約したカメラが人気のある商品なんだ」という証明ですから、待ち遠しさを楽しむつもりで気楽にに待ってみてはいかがでしょうか?

というわけで今回は「なぜ予約が殺到すると発売日が延期になるのか?」という仕組みについてお話しさせて頂きました。

Reported by 正隆