最近歯医者に通っている正隆です。という訳で今日は歯科医師や歯科衛生士、また歯科技工士の方の為のデンタルフォトの解説です。
歯科医・歯科衛生士・歯科技工士の方にとって、口腔内撮影は適切な治療やシェードテイキングに必要不可欠。しかしカメラ選びにお迷いの方も多いはず。
今日はデンタルフォトの撮影方法とともに、デンタルフォト撮影のカメラ設定とデンタルフォト向けのカメラ選びや撮影機材をご紹介したいと思います。口腔内撮影は丁寧な治療には必要不可欠とのこと。全国の歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士の皆さん必見のお話!
■口腔内撮影時のカメラ設定
絞り
口腔内撮影時のカメラ側の設定ですが、接写撮影のため被写界深度(ピントが合う範囲)が浅くなります。
しかしそのままでは歯列の一部にしかピントが合わないため、デンタルフォトではかなり絞って撮影します。
絞り過ぎると回折現象によって解像感が僅かに落ちますが、デンタルフォトでは問題にならないため、できる限り被写界深度を稼ぎ奥歯なども広範囲にピントを合わせるためにF22程度まで絞って撮影を行います。
シャッタースピード
またシャッタースピードに関しては、ストロボとの同調速度の関係で1/125〜1/200秒の範囲で設定してください。
シャッタースピードが速過ぎるとストロボ光がシャッター幕でケラれてしまう場合があり、逆に遅すぎるとマクロ撮影は手ブレの影響を受けやすいため、ブレやすくなってしまいます。
露出モード
露出モードとストロボの発光モードはTTLオートまたはマニュアルモードを使用します。
TTLオートで問題なく撮影できるようであればそのままでも構いませんが、撮影カットごとの露出のばらつきが気になる場合はマニュアル発光で撮影してください。
オートフォーカス
オートフォーカスに関してはマニュアルフォーカスでもオートフォーカスでも構いませんが、マニュアルフォーカスの場合はピント位置をある程度合わせたのち撮影者が前後しながらピント合わせを行います。
リングストロボを使用する場合、口腔内を照らすためにLEDなどのモデリングランプがある機種がオススメです。
モデリングランプが内蔵されている機種であればオートフォーカスも使用出来るため、より簡単な口腔内撮影が行えます。
ホワイトバランス
ホワイトバランスに関してはホワイトバランスの設定をフラッシュ光に合わせてから、カメラ側で微調整を行い正確な色が再現されるように固定しましましょう。
もしくはマニュアルホワイトバランスで正しいホワイトバランスを取得しておきます。
急いでいる場合はオートホワイトバランスで撮影しても構いませんが、シェードテイキングなど歯の色を正確に記録する必要がある場合はしっかりとホワイトバランスを合わせておく必要があります。
また、オートホワイトバランスでは撮影カットごとに色のばらつきが起きることがあるため、常時院内で使用する機材であれば一度しっかりと色合わせを行っておくのがオススメです。
一度ホワイトバランスをしっかり取っておけば、その後は環境光が変わらない限りそのまま使用することが出来ます。
ISO感度
ISO感度に関しては、ISO100〜400程度がオススメです。あまり感度を上げすぎるとディテールが崩れるばかりでなく、カラーバランスが崩れてしまうため、ISO感度は低めに設定しカットごとの露出ムラを減らすために固定して撮影しましょう。
絞り・シャッタースピード・ISO感度・ホワイトバランスを固定し、露出はリングストロボの発光量を調節することで調節します。
ストロボ
ストロボの発光量に関してはリングストロボの機種ごとに発光量がことなるため、マニュアル発光モードでテスト撮影を行って適正な露出になるように調整しましょう。
一度設定すれば絞り・シャッタースピード・ISO感度・撮影距離が変わらないため多くの場合同じ設定で撮影が行えます。
カメラ側の設定をまとめ
- 露出モード マニュアルモード
- 絞り F22
- シャッタースピード 1/125〜1/200秒
- ISO感度 ISO100〜400程度の範囲で固定
- ホワイトバランス フラッシュ光(必要に応じて補正を加える)またはマニュアルホワイトバランス
- ストロボ発光モード オートもしくはマニュアル発光
- 画質設定 JPEG(FINE)+必要に応じてRAWで撮影します
- 画像サイズ 必要に応じて多少小さいサイズで撮影しても構いません
- フォーカスモード:モデリングランプが無い場合 マニュアルフォーカス
- フォーカスモード:モデリングランプがある場合 オートフォーカス
デンタルフォトは最初の設定こそ複雑ですが、一度適切な設定が行えれば、同じ施術室であれば以後はほとんど設定を変える必要がありません。
最初にしっかりとテスト撮影を行い現場で戸惑わないようにしておきましょう。
■デンタルフォトに適した撮影機材は?
デンタルフォトはリングストロボを使用して撮影するため高感度性能は必要ありません。また大きくボカす必要もないのですが、カメラ本体を選ぶ時のポイントとしては以下のものが挙げられます。
- 時には一人で口腔内を広げながらの撮影になるため、片手で無理なく持てる程度の重量であること。
- マクロレンズが使えること。
- マクロ撮影用のリングストロボやクローズアップスピードライトが使えること。
以上です。デンタルフォトの場合、カメラにはマクロレンズとその先にリングストロボと呼ばれるスピードライト(フラッシュ)を付けての撮影となります。
また口腔内を広げながら撮影することが多く、一人で撮影する場合、レンズやスピードライトを付けた状態で片手でカメラをホールドできなければなりません。
また患者から離れすぎると撮りづらくなるため、マクロレンズは中望遠程度の焦点距離が撮影しやすくなります。
逆に短すぎると口腔内ミラーとぶつかったり、パースペクティブ(遠近感)がついてしまい、歯列の手前と奥側で歯の大きさが実物よりも大きさにバラツキが感じられる場合があります。
そのためフルサイズ機では90〜100mm程度、APS-C機では60〜90mm程度、マイクロフォーサーズ機であれば45〜60mm程度のレンズが使いやすいものになります。
一眼レフでもミラーレスでもコンパクトカメラでも構いませんが、マクロレンズとリングストロボの充実度の関係で一眼レフがもっとも良く使われます。
オーソドックスな組み合わせとしては、以下のとおり。
- ボディ:一眼レフ入門機〜中級機
- レンズ:35mm判換算画角で90〜120mm程度のマクロレンズ
- ストロボ:リングストロボ
ボディとしては一眼レフであればエントリーモデルから中級機、メーカーはどこでも構いません。またリングストロボも純正でもサードパーティ製でも構いません。
一般的にキヤノン機はマゼンタ傾向にあるため、一見すると歯茎などが実物よりも綺麗に見えてしまう傾向にあり、デンタルフォトとしての色味の正確性を求める方はニコン機を選ばれる傾向にあるようです。ただし色再現に関してはホワイトバランスの設定にも大きく左右されるため、それほど気にする必要はないでしょう。
LEDを使用したリングライトなどの場合、演色性の問題でホワイトバランスをどのように設定しても的確な色再現が難しい場合もあります。極端に安いライトはそういったケースが多いため、気を付けましょう。
■デジタル一眼レフで撮影する場合のオススメ機材
先ほど申し上げたように一眼レフで撮影する場合、軽いこと、マクロレンズが使えること、リングストロボが使えることなどが条件となります。
またリングストロボに関しては、口腔内は暗いためフォーカスが迷いやすく、マニュアルフォーカスで焦点位置をある程度合わせておいて撮影者自身がカメラを前後させてピントを合わせるか、オートフォーカスで撮影する場合は口腔内を照らしオートフォーカスをアシストするためにLEDのモデリングランプが内蔵されたリングストロボを使用します。
モデリングランプで撮影箇所を判別し、オートフォーカスでピントを合わせたのち、本発光を行えるリングストロボが使いやすくオススメです。
メーカーはどこでも問題ありませんが、マクロレンズとリングストロボの選択肢を考えるとニコン・キヤノンは選択肢が多くオススメです。今回はニコン・キヤノンから1機種ずつオススメのセットを考えてみました。
EOS 8000DにはAPS-C用EF-S60mm F2.8 マクロ USMを組み合わせて、リングストロボは定評のあるキヤノン純正ストロボ、マクロリングライトMR-14EX IIを組み合わせました。
よりしっかりと撮影したいという方向けには、ニコンの軽量フルサイズ一眼レフD750とAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDの組み合わせがオススメです。
焦点距離も口腔内撮影は歯科医師本人が口腔内ミラーを患者の口に入れて撮影することも多く、長すぎると片手でのカメラのホールドが難しく、短すぎると口腔内ミラーと干渉しやすくなります。
また焦点距離の短いレンズでは撮影距離が短くなるためパースペクティブ(遠近感)が強調されてしまい、歯列奥側が実際よりも小さく写ってしまう場合があります。35mm判で90mm程度の画角になる焦点距離は使い勝手が良く人気があります。
ただフルサイズ機とフルサイズ用レンズは重く、女性が片手で撮影する場合はかなりの負担になるため、フルサイズ機で撮影する場合であっても、60mm程度のマクロレンズを使用するという選択も検討してみると良いでしょう。
またリングストロボは歯科医師御用達の業界定番であるニッシンのMF18 デジタルマクロを組み合わせました。まさに盤石のデンタルフォト撮影が行えます。
デンタルフォト向けのおすすめ機材/一眼レフ編 | ||
コストと重量を抑えて口腔内撮影を行いたい方に | ||
カメラ | Canon | EOS 8000D |
レンズ | Canon | EF-S60mm F2.8 マクロ USM |
フラッシュ | Canon | マクロリングライトMR-14EX II |
ステップアップリング | Kenko | ステップアップリング 52-67 |
アダプター | Canon | マクロライトアダプター67 |
本格的な口腔内撮影を行いたい方に | ||
カメラ | Nikon | D750 |
レンズ | Nikon | AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED |
フラッシュ | Nissin | MF18 デジタルマクロ(取付けアダプター同梱) |
■ミラーレスで撮影する場合のオススメ機材
一眼レフよりももう少しコンパクトな機材で撮影したいという方はミラーレス機を使ってみるのも良いでしょう。
ソニーのα7 IIとリングライト HVL-RL1であればミラーレス機でも本格的な口腔内撮影が行えます。高画質かつ軽量なα7 IIと、写りの評価も高いFE 90mm F2.8 Macro G OSSの組み合わせです。
リングライト HVL-RL1は従来モデルのリングライトHVL-RLAMよりも4倍の光量となり、加えて演色性の高いLEDを採用することで、LEDが苦手としていた色再現性も高まったため、シェードテイキングや歯茎の色を見る際にも問題なく使用することが出来るようになりました。
オリンパスのPEN E-P5とM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro、更にマクロアームライト MAL-1なら、非常にコンパクトかつ軽量なデンタルフォトシステムが出来上がります。
しかしマクロアームライト MAL-1はそれほど光量は大きくありませんから絞り込んで撮影する口腔内撮影では感度をあげる必要があります。その点は注意しましょう。
ちなみにオリンパス機では新機種のPEN-Fや売れ筋のOM-D E-M5 Mark IIはマクロアームライト MAL-1が使用できませんからご注意ください。
デンタルフォト向けのおすすめ機材/ミラーレス編 | ||
軽い機材でしっかりとした口腔内撮影を行いたい方に | ||
カメラ | SONY | α7 II |
レンズ | SONY | FE 90mm F2.8 Macro G OSS |
フラッシュ | SONY | リングライト HVL-RL1 |
アダプター | SONY | 62mmアダプターリング |
一風変わった方法で撮影したい方に | ||
カメラ | OLYMPUS | PEN E-P5 |
レンズ | OLYMPUS | M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro |
フラッシュ | OLYMPUS | マクロアームライト MAL-1 |
■コンパクトデジタルカメラで撮影する場合のオススメ機材
口腔内撮影を手軽に行う方法としてコンパクトデジタルカメラによる撮影も可能です。
オリンパスのSTYLUS TG-5 Toughとフラッシュディフューザー FD-1で簡単な撮影が出来、また重量的にも軽く防水ですから気楽に使用できます。
フラッシュディフューザー FD-1は内蔵フラッシュをレンズ周辺に導光するアクセサリーで、本格的なリングストロボほど光量の大きいものではありませんから、奥歯などの撮影には向きませんのでお気をつけください。簡単な記録などには便利な機材となります。
手軽に口腔内撮影を行いたい方に | ||
デンタルフォト向けのおすすめ機材/コンパクトデジタルカメラ編 | ||
カメラ | OLYMPUS | STYLUS TG-5 Tough |
フラッシュ | OLYMPUS | フラッシュディフューザー FD-1 |
■本格的にデンタルフォトを学びたい!
実際の撮影手順を解説した動画をMF18 デジタルマクロを発売しているニッシンが紹介しています。
またより本格的にデンタルフォトを学びたいという方や書籍で学びたい、手元に置いておきたいという方には、医歯薬出版株式会社から発売されているこちらの2冊の本をオススメします。
書籍としては高めですが、デンタルフォトを学ぶのに最も詳細に書かれた本と言えるでしょう。
月刊「歯科技工」別冊、「デジタル・デンタルフォトテクニックマスターブック」。
目次
- Part1:Precise Dental Photograph Gallery
- Part2:デジタルカメラの基礎知識
- 歯科におけるワーキングディスタンス
- カメラの撮影設定にまつわる基礎知識
- 歯科における口腔内のマクロ撮影
- 適切なホワイトバランスの設定
- 口腔内撮影に効果的なストロボの設定
- 口腔内撮影に影響を及ぼす環境光の考察
- シェードテイキングの実際
- Part3:実践! 院内での正確・精密なシェードテイキング
- 北側の採光窓から天然光が差し込む環境での撮影
- 周囲を高層ビルに囲まれ,ブラインドを常時閉めている環境での撮影
- 北側が全面窓となっており天然光を取り込みやすい環境での撮影
- 採光窓がなく,壁面に反射鏡のある環境での撮影
- Part4:論文・講演発表,資料保存に役立つ! 各種被写体撮影のヒント
- 顔貌,口唇の撮影
- 口腔内規格写真の撮影
- セラミックス補綴物と築盛作業の撮影
- 石膏模型の撮影
- 咬合器とワックスアップの撮影
- 金属床と人工歯,排列作業の撮影
- インプラントとミリング作業の撮影
- 各種インスツルメントや軟組織拡大像の撮影
月刊「歯科技工」別冊「 デジタル・デンタルフォトテクニックマスターブックII 」。
目次
- Opening Graph Dental Photo Square
- Part1:コンパクトデジタルカメラで行う口腔内撮影Q&A
- コンパクトデジタルカメラで歯科用写真は撮影できるの?
- カメラの撮影設定ってどうすればいいの?
- ホワイトバランスを調整したら何が変わるの?
- シェードテイキングには使えるの?
- 規格写真も撮影できるの?
- ブレない写真の撮り方ってないの?
- ミラーレス一眼カメラでも撮影できるの?
- Part2:デジタル一眼レフカメラで行うアドバンス撮影法
- より精密で魅せる口腔内写真を得るためのストロボ光の扱い方
- 各種ディフューザー活用法(1) 模型上のセラミックス補綴物撮影時の仕上がりの変化
- 各種ディフューザー活用法(2) 口腔内撮影時の仕上がりの変化
- 口腔内撮影における偏光フィルター活用法
- インプラントブリッジの撮影法
- 陶材築盛・補綴物のより効果的な撮影法
- より精密で魅せる模型の撮影法
- 診査・診断,外科処置,保存用資料のより精密な撮影法
- より精密なラボコミュニケーションを図るためのシェード写真撮影法
- 軟組織拡大像を含めたチェアサイドワークのより精密な撮影法
- ラボ器材のマクロ撮影法
- プレゼンテーションソフトを用いたカラーマネジメント法
- ポートレイトの撮影法
■デンタルフォトの道は1日にしてならずんば虎児を得ず
デンタルフォトは歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士のような医療従事者としての知識が必要になるため、撮影の技術だけでは撮影できないため、我々のような一般的なカメラマンが出る幕はなく基本的に撮影できません。デンタル専門のカメラマンに依頼してください。
多くの場合歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士のような方がカメラの操作を勉強して撮影しています。
撮影環境を考えると撮影は非常に大変そうだと容易に想像できるのですが、治療の知識だけでなく写真撮影までこなす方々は本当に凄いとしか言いようがありません。
逆に、口腔内撮影以外の、歯科医院の外観・内観撮影や、スタッフのプロフィール撮影ならAmazing Graphにおまかせ。撮影事例はこちら!
参考:Nissin
参考動画:YouTube
画像:Nissin,Canon,Nikon,医歯薬出版株式会社
Reported by 正隆