この数年、デジタルカメラ業界を最も湧かせてきたメーカーと言えば、多くの方がソニーを挙げられるのではないでしょうか?
現在ではイメージセンサーに代表される圧倒的なスペックで業界を牽引するαですが、レンズ交換式カメラ市場に参入してからのソニーの歩みは決して平坦なものではなく、時に家電メーカーと揶揄され、時にレンズラインナップが貧弱と蔑まれるといった、苦難の歴史でもありました。
そこで今回は、フルサイズのシェアを着々と伸ばし、カメラ業界で覇権を握らんとする、ソニーレンズ交換式カメラ、αシリーズ(及びNEX)のこれまでの歩みを振り返ってみたいと思います。
■ソニーAマウントとEマウントの歴史
2006年6月9日、その時歴史は始まった。
海外のみで発売されたモデルもありますが、今回は国内で発売されたもののみを対象に、お話ししていきましょう。
α100(2006年6月9日発売)
ソニーのレンズ交換式カメラ、αの歴史はこのα100から始まりました。
メニューや操作性、ボディ内手ぶれ補正機構などの基本的なコンセプトはコニカミノルタ時代からのものを引き継いています。
有効1020万画素CCDイメージセンサーと、現在もその同じ名称を採用している画像処理エンジン「BIONZ(ビオンズ)」、CCDの表面へのゴミやホコリを取り除く「アンチダスト機能」を搭載していました。
当時はペンタプリズム部分の「SONY」ロゴに対して、多くのカメラファンの反応は好意的なものではありませんでした。
その要因としては、カメラファンが元来保守的な傾向が強いことに加え、長い歴を持つ「MINOLTA」という名前が無くなる(この頃既にαは「KONICA MINOLTA」のロゴでしたが)ことに対する反発でもあったのでしょう。
但しそうした反発はソニーとしても予想していたようで、この頃のソニーは、ソニー自身がカメラ業界の中での進むべき道を模索している段階であったこともあり、現在のような攻めの姿勢と言うよりは、どちらかと言うと「剛に入りては郷に従え」というような、カメラ業界の風習に則った保守的なカメラ造りであったようにも思います。
α700(2007年11月9日発売)
「7」は、ミノルタ時代のα-7000以来のαを代表するナンバリングですが、ソニーが新生αの第二弾として送り込んできたのがこの中級機α700です。
α700の撮像素子には、それまでのCCDに変わってソニー独自の新開発CMOSイメージセンサー「Exmor(エクスモア)」を搭載。
有効画素数約1220万画素のこの新イメージセンサーは当時大きな反響がありましたが、言うなればこのモデルが、現在カメラ業界で高く評価されているソニーのイメージセンサーの出発点であったのかも知れません。
- α200(2008年2月15日発売)
α350(2008年3月7日発売)
α350の特徴はその高速なライブビュー撮影機能でした。
この頃すでに他社からもライブビュー撮影可能なレンズ交換式カメラは登場していましたが、コンパクトデジタルカメラのような使い勝手の良いものではありませんでした。
α350はライブビュー専用イメージセンサーを搭載するという斬新なシステムにより、ライブビュー中でも高速なAFが可能で、さらにライブビュー撮影をより便利に行えるように、チルト可動式液晶モニターを搭載していたこともα350の特徴でした。
- α300(2008年7月7日発売)
α900(2008年10月23日発売)
αにもフルサイズイメージセンサー搭載機リリースの期待がかかる中、2008年に満を持して登場したフルサイズフラッグシップ機がα900でした。
α900は有効2460万画素という当時突出した高画素モデルであり、ニコンがD700で高感度と連写性能を売りにし、キヤノンがEOS 5D Mark IIで高感度と高解像度のバランスを売りにしていたのに対し、α900は高解像な低感度画質を売りとしていました。
また、α900は画像処理エンジンBIONZを2機搭載するすることにより高速化を実現、高画素機にも関わらず、秒間約5コマの連写を実現している点も魅力です。
ちなみにα900のシャッター音は所謂「バシャン!バシャン!」というような派手めの音で、ボディ内手ぶれ補正とフルサイズのイメージセンサーの大きさの関係から、かつてのスイングバック機構よりもさらに複雑な、「パラレルリンク」と呼ばれる、一旦ミラーをほぼ真上に引き上げてから刎ね上げるという方式で動作していました。
実際にはα900のミラーショックはその派手な音ほど大きなものではありませんでしたが、丁度この頃、電気通信大学で行われた実験(この実験にはテスト方法に問題もありましたが)によって、「高画素機におけるミラーショック(及びシャッターショック)の影響」という問題が注目され始めた頃でもありました。
ちなみにα900最大の特徴は、現在でもデジタル一眼レフ史上最高峰と呼ばれるその光学ファインダーでした。
光学ファインダーを売りにしていたというのは、現在のαシリーズからはイメージ出来ないかとも思いますが、α900のファインダーは明るく、またピント合わせもしやすいものでした。
この時ソニーがアピールしていたのが光学ファインダーという、ストイックな方向性であったというのも不思議ですが、逆に言うとこの方向性で売れなかったために、Aマウントのαシリーズはその後大きな方向転換を迫られていくことになります。
α550(2009年9月29日発売)
α550は明暗差の大きい場面でも見たままを再現する「オートHDR機能」と秒間約5コマの連写を実現しており、クイックAFライブビューでも秒間約4コマの連写を可能にしています。
人物の肌のトーンを美しく描写する顔検出機能や、スマイルシャッターなど、αがエントリーモデルの方向性を模索していた時代でもあります。
- NEX-3(2010年6月3日発売)
NEX-5(2010年6月10日発売)
そして2010年に遂に登場したのが、現ソニーの主力となるミラーレスEマウントの初代モデルとなる、NEX-3とNEX-5でした。
APS-Cセンサーを搭載したレンズ交換式カメラでありながら、圧倒的な小型軽量を実現したこの2機種は、カメラメーカーとしてのソニーの真の意味での幕開けを意味する、記念碑的モデルであったとも言えるでしょう。
この頃のNEXは必ずしも評判が良かったわけではなく、インパクトはあったものの、ミラーレスで先行するパナソニック・オリンパスのマイクロフォーサーズファンなどから、「ボディが小さくてもレンズが大きくてバランスが悪い」「レンズラインナップが少ない」といった批判も数多く受けていました。
α55(2010年8月25日発売)
APS-Cミラーレスとして華々しく登場したEマウントでしたが、結果的に一眼レフ市場で苦戦を強いられていたAマウントを更に苦境へと追い込んでいました。
つまり、「ソニーはこれからEマウントを主力としていくつもりで、Aマウントは自然消滅していくのだろう」、という印象がカメラマニアの中には漂い始めた頃です。
そこでソニーが考えたAマウントの新たな発展性、悪く言えば延命措置が、かつてあったペリクルミラーを現代的に蘇られせる、「トランスルーセントミラー・テクノロジー」でした。
クイックリターンミラーの動きを必要としないトランスルーセントミラーを採用したことで、α55はエントリーモデルでありながら秒間約10コマという驚異的な高速連写を実現していました。
また、ISO25600までの高感度撮影を可能にするマルチショットNR(ノイズリダクション)、「3Dスイングパノラマ」、撮影地の位置情報を自動で記録するGPS機能など、α55には新時代のカメラに相応しい機能も数多く搭載されていました。
α77(2011年10月14日発売)
「トランスルーセントミラー・テクノロジー」を核とする新しいAマウントの形をさらに進化させ、中級機として結実させたモデルがα77でした。
有効画素数約2430万画素のイメージセンサー、約235万ドットの解像度を誇るXGA有機ELファインダーを搭載し、フルHD/60p動画を搭載、一眼動画にも本格的に力を入れ始める切っ掛けとなりました。
またあらゆる方向に液晶モニターを向けることが出来る、3軸チルト液晶モニターも斬新な機能でした。
NEX-7(2011年11月11日)
NEX-7は非常に魅力的なデザインを採用して登場し話題となりました。
NEX-7の有効画素数約2430万画素イメージセンサーは、当時NEX-5Nの約1610万画素イメージセンサーの高感度画質が高く評価されており、外販でも評判が良かったこともあり、NEX-7に対しては「APS-C機は高感度画質を重視してもう少し低画素でも良いのではないか?」という意見もありました。
実際NEX-7の高感度耐性はNEX-5Nに負けていたものの、XGA有機ELファインダーを内蔵するなど、小さなボディにフルスペックの機能を搭載し、「トライダイヤルナビ」という革新的なインターフェイスを採用していたこと、何よりもその美しいデザインは多くのカメラファンに支持され、人気を博しました。
ちなみにNEX-7の操作性の売りであったトライダイヤルナビは、何も書いていないダイヤルに、様々な組み合わせで機能を割り当てられるというインターフェイスで、新時代を感じさせるものでしたが、何も書いていないと何の機能か分からないという意見が年配の方を中心に多く、結局はそれ以降採用されることはありませんでしが、トライダイヤルナビはデジタルカメラ時代にふさわしい素晴らしいアイデアでした。
α99(2012年10月26日発売)
α900の発表から4年。αの新たなフラッグシップモデル、α99はα900とは全く異なるコンセプトで登場しました。
α900が光学ファインダーを最大のセールスポイントとしていたのに対して、α99ではトランスルーセントミラー・テクノロジーによる高速性を特徴としています。
19点位相差AFセンサーに加え、イメージセンサー上にも102点の位相差AFセンサーを配置した「デュアルAF」システムを初めて採用、位相差センサーを2つ同時に使うことで被写体の捕捉力を大幅に高めたAFシステムを実現しています。
ただしα99はα900のコンセプトを自ら否定するものであり、同時にEマウント機でも像面位相差AFは当然可能であることから、事実上のAマウントの敗北宣言とも言えるものでした。
- NEX-6(2012年11月16日発売)
- NEX-5R(2012年11月16日発売)
- NEX-3N(2013年3月8日発売)
- α58(2013年8月9日発売)
- NEX-5T(2013年9月13日発売)
α7(2013年11月15日発売)
そして2013年、遂に世界初のフルサイズミラーレス機となる、α7が登場します。
フルサイズミラーレスという当時のカメラマニアにとっての夢の新時代を切り開き、それ以降ソニーは実質的にフルサイズミラーレス市場を独占していくことになります。
α7はこれまでのレンズ交換式フルサイズカメラの常識を大きく覆す携帯性を実現し、またこのモデルは、ブリッジカメラとも呼ばれていた当時のミラーレスの下克上的なモデルでもあり、「ミラーレスは単にコンパクトデジタルカメラと一眼レフの間を埋めるものではなく、次世代のレンズ交換式カメラのありようなのだ」という強烈なイメージによって、カメラマニアに大きな話題を呼びました。
また、これまでEマウントに関しては「NEX」というブランドネームが与えられていましたが、ここからEマウント機も「α」として統一されました。
α7R(2013年11月15日発売)
α7の派生版であるα7Rは、有効画素数約3640万画素超高画素の光学ローパスフィルターレス仕様のイメージセンサーを採用。その圧倒的な解像感が話題になりました。
またα7Rは、現在も続く、「イメージセンサーの違いを主とした派生バージョンを揃える」という、α7シリーズならではのラインナップを実現する切っ掛けともなりました。
- α5000(2014年2月7日発売)
α6000(2014年3月14日発売)
この頃、ミラーレスカメラ市場は非常に盛り上がっていましたが、同時に動体撮影に対するAFスピードや光学ファインダーとEVFの差などから、「動き物を撮影するには一眼レフでなければ」という意見が強くありました。
そこに大きな一石を投じたのがα6000であり、世界最速0.06秒の高速AFを採用、また一眼レフでは実現が難しい画面のほぼ全域をカバーエリアとする驚愕のAFを搭載、ミラーレス=動体撮影に弱いという常識を覆しました。
現在のソニー機では当然のようになっている、この超高速・超多点AFはα6000から始まったのです。
またAF追随で秒間約11コマという高速連写もこのクラスとしては突出したものでした。
α77 II(2014年6月6日発売)
α77から約2年半、α77 IIは、一眼カメラのオートフォーカスに求められる圧倒的なスピードと追従性に対する、ソニーの一つの回答でした。
3軸チルト液晶モニターやファインダーでもライブビューでも高速なAFなど、α77由来の優れた操作性を受け継ぎつつ、α77 IIはα77のバッファメモリーの少なさや操作に対するレスポンスの悪さなどを払拭したモデルした。
α7S(2014年6月20日発売)
当時画質に関して、高感度性能を重視する傾向が強く、その期待に応えて極限まで高感度画質を重視したモデルが、α7Sでした。
有効画素数約1220万画素の、フルサイズイメージセンサーとしては大幅に画素数を抑えたことで、α7Sは最高ISO感度409600という驚異的な高感度性能を実現していました。
更に、全画素情報読み出しでのフルHDおよび4K動画出力を実現しており、スタンダードなα7シリーズ、高解像なα7Rシリーズ、高感度耐性と動画性能のα7Sシリーズという、α7シリーズの住み分けが確立されました。
- α5100(2014年9月5日発売)
α7 II(2014年12月5日発売)
α7の後継モデルとして、α7で要望のあった様々な改善を施し、さらにボディ内5軸手ぶれ補正を搭載位したのがα7 IIです。
ボディ内手ぶれ補正は、永久磁石と電磁石を使用した構造を採用することで消費電力を抑え、α7と比べてバッテリーライフを落とすことなく、手ぶれ補正を搭載することに成功しています。
さらに操作性の点でも、安定したホールディングの実現と操作性向上のため、シャッターボタンをグリップ上に配置し、前モデルで不評だったグリップとシャッター周りの操作感を大幅に向上させています。
α7R II(2015年8月7日発売)
α7R IIは世界初となる、フルサイズの裏面照射型CMOSセンサーを搭載したことで話題になりました。
その結果、有効画素数約4240万画素の高い解像力を誇りながら、裏面照射型CMOSイメージセンサーによって同時に高い高感度耐性をも実現しています。
また、センサーの読み出し速度の高速化によって、全画素読み出しによる4K動画の内部記録も実現しています。
このα7R IIあたりから、画質やスペック面でα7シリーズは他のカメラメーカーに対して強いアドバンテージを持ち、カメラマニアからの熱狂的な支持を集めていくことになります。
α9(2017年5月26日発売)
α9は、満を辞してソニーが送り出したαシリーズのフラッグシップカメラで、積層型CMOSイメージセンサーを搭載し、読み出し速度をα7 II と比較して20倍以上に高速化した2420万画素イメージセンサー、「Exmor RS」を搭載しています。
画面全域を覆う693点のAFエリアと、AF/AE追随で秒間約20コマの連写性能は一眼レフでは実現が難しい驚異的なスペックでした。
α9はプロレベルのスポーツ撮影を想定したモデルであり、ソニーがプロ機市場に本格的に挑戦していくという宣戦布告的なモデルでもあったため、これまでEマウントの大きな弱点であったバッテリーライフの短さを克服するべく、バッテリーは従来比で約2.2倍の容量を搭載した新型の「NP-FZ100」になり、デュアルスロットや有線LAN端子も備えています。
有線LAN端子を搭載しているのは、オリンピックやサッカー・ワールドカップなど大規模スポーツ撮影を想定し始めた証と言っても良いでしょう。
α9は光学式5軸手ブレ補正機構をボディ内に搭載しており、フルサイズ機では初めて「4D FOCUS」にも対応、驚異的なAF速度を実現しています。
AF性能に関しては、キヤノンやニコンのフラッグシップ機にも全く引けを取らないものでした。
- α7R III(2017年11月25日発売)
- α7 III(2018年3月23日発売)
カメラ業界のトップを目指すソニー
現在のαシリーズは、アクセサリーや操作性といったシステムカメラとしての作り込みの面では依然甘さも残るものの、他社を寄せ付けない圧倒的なイメージセンサーの性能を主軸にスペックで攻めていこうというのがソニーの姿勢です。
またレンズに関しても、超望遠レンズやアオリレンズといった一部の特殊なレンズを除いては、レンズラインナップもかなり充実してきており、描写性能に関しても非常に高いレベルになっています。
そうした点から、αはカメラマニアを中心に多くの注目を集めており、これからの益々の活躍が期待されています。
画像:Amazon
Reported by 正隆