カメラの進化の歴史と共に、シャッター方式あれこれ!

フォーカルプレーンシャッター

皆さんシャッター切ってますか?カシャカシャ!「やっぱいいわー◯◯(メーカー名)」とか言いながら天井に空シャッター切ってますか?私はついでに「It’s my treasure」とか言いながらカメラにキスします。…嘘ですからね。

そんなこんなで今日はカメラになくてはならないシャッターのお話です。



■人生色々、シャッターも色々。


シャッターと言っても実にさまざまな種類があり、私も知らないものもまだあると思います。

シャッターには大きく分けて、フォーカルプレーンシャッター、レンズシャッター、電子シャッター、その他の方式という分け方ができると思います。それらの中に更に細かくさまざまな方式が存在しており、それぞれに特徴をもっています。

■現代の主役、フォーカルプレーンシャッター


昔からある方式で、進化と共に今もなおシャッター方式の王道と言って良いほど使われている方法です。

フォーカルプレーンシャッターとは、像面のすぐ近くに設置されたシャッターのことで、フォーカス面(焦点面)の前にあるプレーン(平面)なシャッターであるため、フォーカルプレーンシャッターと呼ばれています。要するにフィルムやイメージセンサーなどの手前にある幕のようなものですね。

あとで解説するレンズシャッターと比較すると、シャッター幕をスリット状に開いて露光することができるため、シャッタースピードの高速化が容易で、またレンズ内にシャッターユニットを配置する必要がないため、レンズ設計の自由度が増すというメリットがあります。

またレンズシャッターはレンズの口径が大きくなるとそれに比例してシャッターも大きくなってしまうため、設計難度が上がってしまうのに対してフォーカルプレーンシャッターにはそうした制約がありません。

フィルムカメラに関して言えば、撮像面の直前にあるため、レンズ交換時にもシャッター幕が感光を防ぐ遮光の役割を果たしてくれるため、別の遮光装置が不要であることもレンズ交換式のカメラにとってメリットとなります。

■スリットでシャッタースピードをコントロールする仕組み


フォーカルプレーンシャッターの動作そのものは、さまざまな方式があるため一概に言えませんが、現在の主流は先幕と後幕と呼ばれるシャッター幕が時間差で降りることでその間露光するというものです。シャッターには幕速というものがあり、先幕と後幕が全開になる時のシャッタースピードのことをそう呼びます。

例えば、幕速が1/250秒だった場合、ストロボの同調速度はハイスピードシンクロを行わない場合、1/250秒までのストロボ同調が可能ということになります。

これは1/250秒までは先幕と後幕が完全に開ききった状態で露光できるためで、これが仮にシャッタースピードを1/500秒に設定すると、先幕が降り始めた後、全開になる前に後幕が先幕を追いかけて走行が始まるため、シャッター幕は全開にならずにスリット状に開いた状態で露光するためで、その時ストロボを発光させると、スリット状に開いた部分の撮像面にだけストロボ光が当たるため、閉じている部分は光がケラれて露光ムラが発生することになります。

シャッター幕の先幕と後幕はシャッタースピードが幕速を超えるとスリット状に開きながら部分的に上から下へ撮像面を露光させることで露光量を調整するもので、シャッタースピードを上げたからといって幕の移動速度そのものが高速化されるわけではなく、シャッター幕の移動速度は機種が同じであれば常に一定の速度で稼働しています。

つまり、シャッター幕は、幕速を超えるシャッタースピードの時はスリット状に、幕速以下のシャッタースピードの時は一旦全開になったのち全開の時間を調整することで露光時間を調整しているわけです。

■スリット幅の計算方法


フォーカルプレーンシャッターはスリットによって露光時間を制御するわけですが、先幕と後幕で形成されるスリットの幅は、

シャッタースピード ÷ 幕速 × 撮像面の幅

となります。これを幕速1/250秒のフルサイズセンサーを搭載した一般的な一眼レフカメラだとすると、シャッタースピードを1/500秒と設定した場合、現在主流の縦走りシャッターであれば、画面の縦幅は24mmになりますから、

シャッタスピード(1÷500秒)÷ 幕速(1÷250秒)× 撮像面幅(24mm)となり、

0.002(秒)÷0.004(秒)×24(mm)=12(mm)

となります。仮にシャッタースピードが1/1000秒であれば、スリット幅は1/4の6mmとなります。これが仮に幕速1/200秒のシャッターであれば、シャッタースピードを1/500秒に設定すると、スリット幅は9.6mmとなります。

■チャイナドレスとシャッターのスリット幅は悩ましい


スリット幅を狭めれば、理論上は幕速に関係なく速いシャッター速度を作ることが出来るのですが、実際にはスリット幅を非常に高い精度で制御せねばならないため、あまりにスリット幅が狭いと、スリットによって起こる回折現象などにより画質が劣化したり、正しいスリット幅を制御することそのものが困難になるため、自ずと限界があるのが現実となっています。

ちなみに、幕速1/250秒のシャッターユニットでシャッタースピードを1/8000秒にした場合、スリットの幅はわずかに0.75mmしかなく、非常に精度の高いシャッター幕のコントロールを行うか、幕速そのものを上げることでスリット幅に余裕を持たせる必要があります。

幕速を上げるとシャッター幕の駆動力や制動力を上げないと、速度が出ず、シャッターショックも増大してしまいます。また耐久性などの問題も発生するため、単純にシャッターを早く動かしたりスリット幅を狭めれば良いという問題ではないということです。

そのため後に解説する撮像面素子面電子シャッターは別として、メカニカルなフォーカルプレーンシャッターの場合、コストのかけられる上位機種にしか1/8000秒シャッターを搭載するのが難しいというのが現状です。

■フォーカルプレーンシャッターにも色々あったりする


フォーカルプレーンシャッターは、カメラの内部に直接組みつけられているものとユニットになっているものがありますが、ユニットのほうがコストが安く、また故障時もユニット交換で対応できるため、現在のフォーカルプレーンシャッターはほとんどすべてユニット式になっています。

フォーカルプレーンシャッターの中にも幾つか方式があり、古いフィルムカメラなどに使われているドラム型と呼ばれる方式、ムービーカメラやオリンパスPEN Fなどに採用されていたロータリーシャッター、現在主流のスクエア型フォーカルプレーンシャッターなどがあります。

スクエア型はもともとカメラ用シャッターで世界シェア1位の日本電産コパルが開発した「コパルスクエア」という商品名に由来しています。

■レンズの中にもシャッターがある


レンズシャッターはレンズ前、後ろ、中間のいずれかに設置される方式のシャッターで、機種によりますが、1枚のものもあれば複数枚のシャッター羽根を円形に組み合わせてシャッター幕としているものもあります。

円形のものは絞り羽根に似た機構となっており、またそのシャッター羽根の形状からリーフシャッターと呼ばれることがあります。

レンズシャッターは大判・中判・コンパクトカメラなどに使われることが多く、一部の機種をのぞいて構造上フォーカルプレーンシャッターのようなスリット状で露光することが困難であるため、シャッタースピードの高速化は難しく、一般的には最速でも1/500秒程度までとなっています。

また口径の大きいレンズではシャッター羽根の稼働距離が長くなってしまうため、大判カメラなどのレンズシャッターでは、1/50秒と非常に遅い場合もあります。

■レンズシャッターのメリット


スリット状の露光を行わないレンズシャッターにおける最高シャッタースピードはそのシャッターにおける幕速と同義で、それ以外のより低速なシャッタースピードに設定した場合は、シャッター羽根が閉じる動作を遅らせることでシャッタースピードを調整しています。

そのためストロボ光を使用した場合、シャッター羽根は全開の状態であるため、全速での同調が可能であり、フォーカルプレーンシャッターでは難しかった1/500秒でのストロボ同調なども可能という特性があります。

大判カメラや中判カメラはスタジオライティングにおける撮影用途も多く、そういった意味ではレンズシャッターは適した方式であり、またフォーカルプレーンシャッターと比較した場合、シャッターショックを小さくできるために、特にミラーが大きくなることでシャッターショックが大きくなりがちな中判デジタルカメラなどでも大きなメリットがあります。

レンズシャッターはレンズに組み込まれているため、レンズ交換式カメラで採用する場合には、シャッターとは別に撮像面を遮光する装置が必要になるため、35mm判以下の多くの一眼レフではフォーカルプレーンシャッターが使われていますが、レンズシャッターには前述したようにシャッターショックの少なさやストロボの全速同調などのメリットを生かしてよりフォーマットの大きなカメラでは現在でも採用されています。

中判デジタルカメラとして有名なPHASE ONEのレンズ群などがそれに該当します。

■レンズ内に作るなら絞りと兼用にできないか?


レンズシャッターは撮像面ではなく、レンズ光軸に近い場所で開閉するため、半開きでも撮像面全体に露光することが可能となっています。また絞り羽根と機構は非常に似ているため、それを生かして、シャッター羽根と絞りとしても兼用することが可能で、そうしたシャッター機構のことをプログラムシャッターと呼んでいます。

プログラムシャッターは、絞りと兼用であるため、絞り込んだ状態ではシャッターを途中までしか開かず、そのままシャッターの閉動作に移行します。

これにより絞った状態ではシャッター羽根の移動距離が少ないためより速いシャッタースピードが使用できます。開放での撮影の場合はシャッターが全開になるため、シャッタースピード最高速はその分低下します。

■レンズシャッターの形式


現代のレンズシャッターはそのほとんどがレンズ構成の中にシャッター機構を配置したビトウィーンシャッターと呼ばれる方式で、これはレンズの中心にシャッターを置いたほうが、光路がレンズによって絞り込まれているためにシャッター口径も小さくすることが出来、レンズの小型化や幕速の高速化が容易であるためです。

レンズシャッターにはレンズの前方に配置するフロントシャッターやレンズの後ろ側に配置するビハインドシャッターなどがあります。フロントシャッターは小さなコンパクトフィルムカメラに採用さていましたが現在はほとんど使われていません。

フロントシャッターというと、現在ではコンパクトデジタルカメラなどに採用されているカメラ前面に配置されている自撮り用のシャッターボタンが思い浮かびますが、当然それとは全く別のものです。

レンズの後方、カメラボディに近い側に配置されるビハインドシャッターは現在でもレンズ付きフィルム(「写ルンです」など)に採用されています。これはレンズ構成が非常にシンプルであるため、レンズ内にシャッター機構を組み込むことは現実的ではないことが理由と思われます。

■まるでカーテン。ローラーブラインドシャッター


ローラーブラインドシャッターはレンズシャッターが普及する前に使われていたレンズ鏡筒にかぶせて使用するシャッターのことで、ソロントン・ピッカード社が製造を始めて有名になったため、ソロントンシャッターと呼ばれることがある。

箱型の装置をレンズ前面に組み付け、1枚の遮光幕にスリットを設けたシャッター幕を動かすことで露光量を調節します。1/10〜1/100秒程度の間でシャッタースピードを調節することが出来ました。

中古屋でごく稀に見かけることがありますが、基本的には現在は使われていないシャッター方式で、動作も不安定であるため使われることは殆どないと言ってようでしょう。

■次世代の主役、撮像素子電子シャッター


縦走りフォーカルプレーンシャッターの次に時代の主流になるのではないかと思われているのが撮像素子電子シャッター方式です。

一般的に「電子シャッター」と略されることがありますが、正確には、電子シャッターとは「シャッター速度の制御を、電磁制御で行うシャッターの駆動方式の名称です。

つまり元々はシャッター羽根のようなメカニカルな機構を持つフォーカルプレーンシャッターもその動作を電気的に制御しているものを電子シャッターと呼んでいました。

ちなみに機械式シャッターというのは機械式フィルムカメラに使われるような電源なしでも動作するタイプで、シャッター速度の制御を、ガバナーやスプリングなどによって機械的に行う方式のことを指します。

ここで言う「撮像素子電子シャッター」とは、シャッター幕のような機構を一切持たず、あるいはメカニカルなシャッターを搭載しているが使わずに、撮像素子の露光そのものをシャッターとして利用する方式のことで、イメージセンサーの電子制御によって露光を開始し、シャッタースピードで設定された秒数が過ぎると露光を終了します。

撮像素子電子シャッターには先幕の役割だけを撮像素子電子シャッターとするものと、先幕と後幕双方を電子化したものがあります。

■電子先幕シャッターと完全電子シャッター


撮像素子電子先幕シャッターは物理的な先幕をもたないため、メカニカルなフォーカルプレーンシャッターでは先幕を落とした際に起こるシャッターショックが起こらない、またレリーズタイムラグを短縮できるというメリットがありますが、動体を撮影した場合や撮影者自身が揺れることでローリングシャッター歪みと呼ばれる画像の歪みを起こすことがあります。

これはセンサーを各ラインごとに順次露光が開始されるため、その間に被写体が動いてしまうと、ラインごとに被写体の露光タイミングがズレてしまうために起こる現象です。

実はメカニカルな機構をもつフォーカルプレーンシャッターでもシャッター幕がスリット状になる高速シャッターでは、撮像面の上部と下部で露光のタイミングにわずかな差が生まれるため、フォーカルプレーン歪みと呼ばれるズレが生じるのですが、現状では撮像素子電子シャッターの方が歪みが大きく出てしまうために目立つ傾向にあります。

先幕・後幕ともに電子化した場合、先幕だけを電子化した場合と比べて、1コマ目の露光後も後幕によるシャッターショックが起こらないため、連続してシャッターを切るような場合も後幕のシャッターショックが2コマ目以降に影響を及ぼさない点や、メカニカルな動作機構を持たないため、シャッター機構に関して完全無音での撮影が可能という特徴がありますが、動体撮影時に歪みが発生することに関しては電子先幕シャッターと変わりありません。

■さらに進んだグローバルシャッターとは?


ローリングシャッター歪みを防ぐための方法としてグローバルシャッターと呼ばれる方式の撮像素子電子シャッターがあります。グローバルシャッターはローリングシャッターのようにラインごとに順次露光するのではなく、撮像面全域で一斉に露光を開始し、一斉に露光を終了させることが出来ます。

従来のCCDイメージセンサーはグローバルシャッターでしたが、CCDイメージセンサーはCMOSセンサーと比較した場合、消費電力や読出し速度の面でCMOSイメージセンサーに劣る部分があったため、連写速度、電池持ち、動画やライブビュー、また製造コストなどの問題でCMOSセンサーに主役の座を取って代わられました。

すでにCMOSセンサーでのグローバルシャッターの開発は成功しており、SONYは製品化し発売もしています。ただ、現状で製品化されているのは業務用のムービーカメラが殆どで、デジタル一眼レフやミラーレス一眼での本格的な採用はまだ実現できていないのが現実です。一眼レフやミラーレス機でのグローバルシャッターの本格的な採用がすすめば、CMOSセンサーの特性を生かしすつつ、ローリングシャッター歪みを回避することが出来るようになります。

またローリングシャッターであっても、年々読出し速度の高速化が計られており、グローバルシャッターでなくとも、事実上ローリングシャッター歪みを無視できるようになる可能性もあります。

こうした進化の先には、シャッターショックなし、レリーズタイムラグの短縮、フォーカルプレーン歪みなし、無音撮影、高速連写、ストロボ全速同調などが可能になり、非常にメリットの多いシャッター方式ではありますが、「カシャ!カシャ!」というあのカメラらしい音は不要になるため、もしやるとすればスピーカーからマイクで出すという方法になります。そうすると、味気ないと思われる方もおられるでしょう。

■シャッターも色々あるもんですね


最近はシャッター街をあまり見かけなくなりました。むしろ活気のある商店街を見かけることが多く、あのお店も面白そう、このお店も面白そうと悩ましい限りです。そのシャッターではありません。

画像:SONY

Reported by 正隆