カメラには各種露出モード(P、A・Av、S・Tv、M)があります。
各モードはどれが優れているというものではなく、被写体・シチュエーション・表現方法などによって使い分けることになるわけですが、この露出モードの細かい違いと使い分け方について考えてみましょう。
■P(プログラムオート)モードとは?
P(プログラムオート)の概要
P(プログラムオート)モードは絞りとシャッタースピードをカメラが自動で決めるモードですが、プログラムシフトと呼ばれる機能により、露出(明るさ)を変えずに絞りとシャッタースピードを連動させて変更することが出来ます。
プログラムシフトとは?
P(プログラムオート)モードは、自動的にセットされたシャッタースピードと絞り値の組み合わせを、一定の露出のままで自由に変えることができます。これをプログラムシフトと呼びます。
プログラムシフトは適正露出のまま絞りとシャッタースピードの組み合わせを選ぶことが出来る機能で、絞り値を変えるとそれに連動してシャッタースピードが変化し適正露出を保ちますが、それだけを聞くと絞り優先オートモードと違いがないようにも見えます。
しかしプログラムシフトと絞り優先ではカメラ側の動作が若干違ってきます。
プログラムシフトとA・Av(絞り優先)モードの違いは?
絞り優先モードとプログラムシフトは、絞り値を設定するとシャッタースピードが変わる点では同じですが、絞り優先モードは設定した絞り値は被写体の明るさが変わっても変化しません。
例えば絞り値をF16に設定した場合、シャッタースピードは被写体によって変化していきますが、明るい被写体に向けても暗い被写体に向けても絞り値は撮影者が設定した状態(この場合はF16)のままです。
対してプログラムシフトでは、仮に明るい被写体に向けて絞り値をF16に設定し、次に暗い被写体に向けると、シャッタースピードだけでなく絞り値も変化します。
つまり絞り優先は設定した絞りで適正露出が得られるようにシャッタースピードが変化しますが、プログラムシフトでは被写体の明るさが変わるごとに設定した絞り値も変更されます。
- 「絞り優先モード」は、設定された絞り値は変えず、シャッタースピードだけが被写体の明るさに応じて変わるモード。
- 「プログラムシフト」は絞りとシャッタースピードのバランスをとりながら、絞りとシャッタースピードをカメラ側が毎回設定し、それに対して必要であれば撮影者がその都度、絞りとシャッタースピードの組み合わせを変える事が出来るモード。
というわけです。
「それならプログラムシフトではなく絞り優先モードでも良いのではないか?」と思うかも知れませんが、例えば明るい被写体に向けて「絞り優先モード」でF22まで絞って撮影したとします。その後暗い被写体にカメラを向けると、絞りはF22のままであるため、シャッタースピード低速限界設定などを行っていない場合、シャッタースピードは極端に遅くなってしまい手ブレしやすい状態になります。そのため絞る必要がないのであれば絞り値を下げる必要があります。
プログラムシフトでは被写体の明るさが変われば、絞りとシャッタースピード共に変更される為、暗い被写体にカメラを向ければカメラ側が手ブレを防ぐ為に絞り値をもっと下げて中庸なバランスを自動でとってくれます。
もう一つ例を挙げてみましょう。F1.4の単焦点レンズの開放F値で日陰で撮影していたとします。その次に明るい方向に向けて太陽を構図に入れた写真を撮ろうとすると、絞り値はF1.4のままですから、シャッタースピード最高速を振り切ってしまい露出オーバーになってしまう場合があります。
プログラムシフトでは絞りとシャッタースピード両方をカメラ側が調整し直してくれるわけですから、日陰で絞りF1.4で撮影したとしても、次に明るい方向に向けた場合には、シャッタースピードを上げるだけでなく、絞りも合わせて絞り込んでくれるため適正露出範囲内に収めることが可能です。
絞り優先でも絞り値を設定し直せば問題ありませんが、歩きながらのスナップ撮影など素早い操作が求められる場合などは、絞り優先よりもプログラムシフトを使用した方が設定を変更をせずに適正露出や手ブレしないシャッタースピードを得られるシチュエーションが多いため、レスポンスの良い撮影が可能になるというわけです。
逆に被写体の明るさが変わっても一定の絞り値で撮影したい場合などは、プログラムシフトよりも絞り値が勝手に変わることの無い絞り優先モードの方が適しているというわけです。
ちなみに「プログラムシフト」は、絞りとシャッタースピードが連動して動く為、絞り値を動かしてそれに連動してシャッタースピードが動いているようにも見えますし、シャッタースピードを動かしてそれに絞りが連動しているようにも見えます。しかし多くの機種では内部的には絞り側を撮影者が動かし、それに対してシャッタースピードをカメラが変更しています。
これは適正露出を得る為に絞り値とシャッタースピードを連動させる際、絞りよりもシャッタースピードの方が対応出来る調整幅が広い為で、多くのレンズやカメラでは、シャッタースピードは調整できる段数が絞りよりも多いために、撮影者が絞りを幾つに設定しても、様々なシチュエーションでカメラ側が適正露出にするためのシャッタースピードを選択出来るためで、言い換えれば、絞り側は変更可能な幅が少ない為、撮影者がシャッタースピードをプログラムシフトで自由に変更してしまうと、そのシャッタースピードで適正露出が得られる絞り値がレンズ側に存在しない場合が多いためです。
例えば絞りが開放F値がF2.8、最小絞りがF22のレンズと、シャッタースピードが1/8000〜30秒までのカメラがあったとします。
絞り値の設定幅は1段ずつ数えると、F2.8→F4.0→F5.6→F8.0→F11→F16→F22と7つの選択肢があります。対してシャッタースピードは1段ずつ数えると、30″→15″→8″→4″→2″→1″→1/2→1/4→1/8→1/15→1/30→1/60→1/125→1/250→1/500→1/1000→1/2000→1/4000→1/8000秒まで、19もの選択肢があります。
というわけで、多くの機種でプログラムシフト時は、絞り値を撮影者が変更し、カメラ側はその絞り値で適正露出が得られるようにシャッタースピードを調整するわけです。
また設定値に対して露出補正をかけられるのは、プログラムオート(プログラムシフト時含む)も絞り優先モードも同じで、露出補正をかけた際、シャッタースピードを変更して露光量を調整します。
P(プログラムオート)モード向きの被写体は?
プログラムオートモードはカメラがシャッタースピードと絞りを自動で調整してくれるモードですから、撮影者は被写体を追ったり構図に集中することが出来ます。またプログラムシフトは必要な場合のみ撮影者が設定値を変えることが出来るため、より幅広い環境で素早く撮影を行うことが可能です。
そのためP(プログラムオート)モードは、スナップ撮影など被写体の明るさが頻繁に変化したり、素早く撮影する必要がある撮影に適していると言えるでしょう。
■A・Av(絞り優先)モードとは?
A・Av(絞り優先)モードの概要
A・Av(絞り優先)モードは、P(プログラムオート)モードから一歩進んだ露出モードと言えるでしょう。絞り値を撮影者が設定し、露出(写真の明るさ)が適正になるようにカメラ側がシャッタースピードを自動で変更してくれるモードです。
絞り値を変えると被写界深度、つまりピントが合う範囲を変更出来るため、手前や背景をボカしたり、逆に広範囲にピントを合わせるパンフォーカス撮影が可能になります。
A・Av(絞り優先)モードは被写界深度を変える為だけではない?
絞りを変える意味はボカすボカさないだけではありません。レンズは開放F値付近では収差が目立ちやすかったり、周辺光量落ちが目立つことがありますが、絞ることで幾つかの収差や周辺光量落ちを低減させることが可能です。
画質低下の要因 | 画面上で影響する部分 | 絞り込みによる改善 |
軸上色収差 | 中央~周辺部 | 効果あり |
倍率色収差 | 周辺部 | 効果なし |
球面収差 | 中央~周辺部 | 効果あり |
コマ収差 | 周辺部 | 効果あり |
非点収差 | 周辺部 | やや効果あり |
像面湾曲 | 周辺部 | やや効果あり |
歪曲収差 | 周辺部 | 効果なし |
参考:デジタルカメラマガジン 2014年09月号
このように絞り込むことで様々な収差や周辺減光を低減することに繋がり結果的に画質が上がるというわけです。
そのために絞れる環境、絞って良い表現であれば、開放F値で撮影するのではなく多少絞り込んで撮影した方がより高画質な画像を得ることが出来る為オススメです。
絞りすぎは画質劣化を招く?
レンズは開放F値で使用するよりも多少絞り込むことで画質が改善されますが、絞れば絞るほど高画質になるわけではありません。
絞り過ぎると回折と呼ばれる現象のために、かえって画質劣化を起こし解像感の低下などを招きます。この回折現象による画質劣化は「小絞りボケ」とも呼ばれます。
どの程度絞ればそのレンズのピークの画質を得られるかはレンズによって異なりますが、最近のレンズはF5.6〜F8.0程度に絞った状態が画質のピークになりやすいため、目安にして頂ければと思います。
ただし写真表現は「最高の画質が得られる絞り値が最適な絞り値」ではありません。絞ることによって回折現象による画質劣化があったとしても、表現として被写界深度を稼いでパンフォーカスにするべきシーンもあれば、収差が出たとしても開放にして前後をボカした方が表現として良いシチュエーションというのは多々あります。
そのため、「最高画質を出すこと」が目的ではなく、「表現としての適切な絞り値」の方が優先度が高いという事を念頭において絞り値を決定しましょう。
A・Av(絞り優先)モード向きの被写体は?
背景や手前をボカすボカさないといった表現は様々な被写体で使用される為、絞り優先モードは、
- 風景撮影
- ポートレート撮影
- 商品撮影
- 花撮影
- 料理撮影
- 建築撮影
といった動きの激しくない被写体に幅広く使用されます。ちなみに絞り優先モードは「A」と表記するメーカーと「Av」と表記するメーカーがありますが、「A」はAperture、「Av」はAperture Valueの略です。
■S・Tv(シャッター優先)モードとは?
S・Tv(シャッター優先)モードの概要
シャッター優先モードは撮影者が設定したシャッタースピードに対して、適正露出となるようにカメラ側が絞り値を制御し適正露出を保ってくれる露出モードです。
その為被写体の明るさが変わると被写界深度が変わりますが、シャッタースピードは設定した速度を一定に保ってくれます。
S・Tv(シャッター優先)モード向きの被写体は?
シャッター優先モードは多くの場合スポーツ撮影など動体撮影に使用されます。それは露光中に被写体が動くことによる被写体ブレを防ぐという意味、もしくは逆に遅いシャッタースピードに設定することで被写体ブレを起こし躍動感を表現する為です。
- スポーツ
- 運動会
- モータースポーツ
- 航空機
- 動物
- 流し撮り
- 露光間ズーム
- 露光間フォーカス(露光間デフォーカス)
など、シャッター優先モードは様々な被写体や表現に使用できます。
シャッター優先モードは動きの少ない被写体をメインに撮影されている方はあまり使用しない傾向にありますが、シャッタースピードを意図的に遅くすることで、「流し撮り」「露光間ズーム」「露光間フォーカス(露光間デフォーカス)」など多彩な表現を行うことが出来る為、動体撮影をされる方はもちろんのこと、静物の撮影にもシャッタースピード優先モードを積極的に活用してみると良いでしょう。
またNDフィルターを使用して極端に遅いスローシャッターを切ることで、動いている通行人を薄める効果もあり、人通りの多い場所での撮影時に余計な人物を写さないようにしたり、少しだけブラして雑踏感を演出するといった表現も可能です。
■M(マニュアル)モードとは?
M(マニュアル)モードの概要
マニュアル露出モードは、絞り・シャッタースピード共に撮影者自身が個別に設定します。絞りによる被写界深度とシャッタースピードによる露光時間の両方を設定できる為、非常に広い表現をもちます。
カメラ側の動作としては、
- プログラムオートや絞り優先→絞りを絞ればシャッタースピードが下がり、絞りを開放側にすればシャッタースピードが上がります。
- シャッター優先モード→シャッタースピードを上げれば絞りは開放側に、シャッタースピードを下げれば絞りを絞り込もうとします。
しかしマニュアル露出モードでは、絞りとシャッタースピードを個別に設定出来る為、絞りを絞りつつシャッタースピードを上げたり、シャッタースピードを下げつつ絞りを開けるといったことが可能です。
マニュアル露出モードは自由度が高い利点はありますが、カメラ側が露出に関してサポートをしてくれるわけではありません。
絞り優先モードではカメラはシャッタースピードを調整し、シャッター優先モードではカメラは絞りを調整することで自動で適正露出を得ることが可能ですが、マニュアルモードでは撮影者が不適切な設定をすると露出アンダーや露出オーバーになってしまいます。
もっとも設定の自由度が高く、しかしもっとも難易度の高い露出モードがマニュアルモードと言えますが、現在ではカメラ側がインジケーターなどによってその設定値でどの程度露出アンダーもしくは露出オーバーになるのか分かりやすく表示してくれるため、不慣れな方でもマニュアル露出モードを簡単に使えるようになっています。
M(マニュアル)モード向きの被写体は?
マニュアルモードは絞りとシャッタースピードの両方を制御出来る為、絞り値を一定に保ちつつ長秒露光を行うような光跡を写し込むような場合や、絞りを開放にして背景をボカしつつシャッタースピードをストロボ同調速度まで落とすようなストロボライティング撮影などにも使用されます。
操作の手間は多少増えるものの、自由度が高い為にさまざまなシーンに対応できる為、絞りで被写界深度を、シャッタースピードで動感表現を同時にコントロール出来るのが特長です。
ISO感度自動制御やTAvモードって?
マニュアルモードは自由度が高いものの、設定を失敗すると露出オーバーや露出アンダーになるというのは先に説明しました。しかし撮影者としては出来ることならば絞りとシャッタースピードを自由に設定しつつも、カメラ側が自動で適正露出を保ってくれれば便利です。
そういった要望に応えた形となるのがNikonのISO感度自動制御設定やPENTAXのTAvモードとなります。メーカーや機種にもよりますが、現在では他のメーカーでも同様の機能が搭載されたモデルが増えてきました。
この機能は絞りとシャッタースピードの双方を撮影者が設定し、ISO感度をカメラ側が適正露出となるように調整するというもので、マニュアルモードの自由度と自動露出の便利さを両立したデジタルカメラならではの機能と言えます。
ちなみにこのモードで露出補正を加えると、絞り値とシャッタースピードは変えず、カメラ側がISO感度を調整して露出補正を行うように動作します。
プロはマニュアルモード?
時々「プロは常にマニュアルモードを使っている」と思われている方がおられますがそれは間違いです。
プロカメラマンは「狙った結果が得られる中で、もっとも手間なく使える露出モードを合理的に選ぶ」だけで、絞り優先で良いなら絞り優先を使いますし、シャッタースピード優先で良ければシャッタースピード優先を使います。
同様にマニュアル露出モードがもっとも撮りやすい被写体やシチュエーションであればマニュアル露出モードを使うというわけです。
それはカメラ任せにして良い部分はカメラ任せにした方が効率的に撮影出来ることと、またそれによって得られた余力をフレーミングなど他の部分に使うことで、より高いクオリティの結果が得られるためです。ですから、一概に「プロはマニュアルモード」ということはありません。
■露出モードの使い分けは表現の引き出しを増やすこと
露出モードにはP、A・Av、S・Tv、M、TAvなどに加えて、フルオートのようなモードもあり、それらを適切に選択することでさまざまな被写体を撮りやすくしたり、多彩な写真表現を行うことが可能になります。
普段あまり必要性を感じないモードであっても、イマイチだと感じた時などは積極的に試すことが表現の幅を増やすことが出来ると思いますので、この機会に是非お試し頂ければと思います。
Reported by 正隆