空気の澄んだ季節となってきました。皆さん月の撮影はされていますか?
空気が澄んでいる冬は月の撮影にピッタリですが、寒い中では何度も撮り直しは辛いところ。月の撮影を短時間で成功させるためのテクニックとして、「ルーニー11の法則(Looney 11 rule)」があります。
今回は簡単に覚えられる月の撮影テクニック、「ルーニー11の法則」をご紹介します。
■月の簡単撮影テクニック「ルーニー11の法則」はなぜ必要?
「ルーニー11の法則」は、月を綺麗に撮影するための撮影テクニックで、月の適切な露出を得るための絞りやシャッタースピードを簡単に覚えることができます。
月をオート露出モードで撮影すると月は白く飛んでしまいます。これはマルチパターン測光では暗い夜空の部分に露出が引っ張られてしまうためで、露出補正を加えることで適正露出を得ることもできますが、オート露出+露出補正では撮影のたびに露出がバラついてしまうことがあります。
そこでマニュアルモードで撮影するわけですが、絞り・シャタースピード・ISO感度の大体の目安がわかればセッティングを素早く行うことが出来るというわけです。
実際のところ現代のカメラは撮影結果を確認してからの撮り直しが容易であるため、撮影結果を確認しながら露光量を変えていっても大した時間的なロスはありませんが、その場で撮影結果を知るのが難しかったフィルム時代はオート露出モードでは月を適正露出で撮影するのが難しく、「ルーニー11の法則」のような知識が重要でした。
ルーニー11の法則は非常にシンプルで覚えやすく、また撮影条件が変わっても対応できる優れた法則ですから、ぜひ覚えて月の撮影に生かしてみてください!
ちなみにルーニー(Looney)は「Lunar(月の)」が語源となっています。
■「ルーニー11の法則」の解説
ルーニー11の法則の基本
さて実際のルーニー11の法則ですが、基本的なルールは、
- 絞り値:F11(満月の場合)
- シャッタースピード:1/100秒(ISO感度の逆数)
- 感度:ISO100
たったこれだけです。
- 絞り:F11、シャッタースピード:1/100(感度の逆数)、感度:ISO100
とても簡単じゃないですか?
つまり月を撮影する場合、満月なら絞り値をF11に設定し、ISO感度がISO100であればシャッタースピードはISO感度の逆数である1/100秒(設定できない場合は1/125秒などそれに近いシャッタースピード)に設定すればおおよそ適正露出が得られるという単純な法則です。
絞り値に関して
絞り値ですが、「ルーニー11の法則」では、満月がF11ということですから、月の形に比例して絞り値を変えていけば適正露出を得られるという寸法です。
- 満月:F11
- 半月:F8.0(満月の半分の大きさなので1段分絞りを開ける)
- 太い三日月:F5.6(満月の1/4の大きさなので2段分絞りを開ける)
- 三日月:F4.0(満月の1/8の大きさなので3段分絞りを開ける)
このようになります。
つまり、満月がF11ならその半分である半月は露光量を上げるために絞りを1段分開いてF8.0、満月の1/4程度となる太い三日月では2段分開いてF5.6、というように月の大きさが半分になるごとに1段分ずつ絞り値を変えていけば良いという簡単な理屈となっています。
シャッタースピードについて
シャッタースピードに関しては、ISO感度の逆数、つまりISO100であればシャッタースピードは1/100秒、ISO200であればシャッタースピードは1/200秒というように変化していきます。
もしもお使いのカメラがシャッタースピードが1/100秒や1/200秒といった数値を設定できない場合は、1/125秒や1/250秒といった近い数値を選べば良いでしょう。
例えば月を600mmの望遠レンズで手持ち撮影したいといった場合、手持ちで手ブレを起こさないためには1/600秒程度のシャッタースピードが必要になります(現在の高解像デジタルカメラでは画像の拡大確認が容易であることもあり、もう少し速いシャッタースピードでも良いでしょう)。
例えば「焦点距離600mmのレンズで手ブレを起こさないように、1/600秒で満月を撮影したい」といった場合、ルーニー11の法則では、
- 絞り:F11、シャッタースピード:1/100秒(感度の逆数)、感度:ISO100
が基本になるのですから、シャッタースピードを1/600秒に設定するのであれば、感度もISO600に設定してあげれば適正露出が得られるというわけです。
- 絞り:F11、シャッタースピード:1/600秒、ISO600
というわけです。お分かりいただけましたでしょうか?
感度について
また、例えば「このカメラでの自分の画質的な許容範囲はISO1600までだから、ISO1600でなるべくシャッタースピードを上げてブレにくくしたい」といったような場合は、
- 絞り:F11、シャッタースピード:1/1600秒(感度の逆数)、ISO1600
このように設定すれば良いわけです。シャッタースピードと感度は同じ数字の逆数か正数かだけの違いであるため常に連動していくわけです。
また、絞り値は月の大きさに合わせて、満月をF11、半月をF8という風に面積が半分になるたびに絞りを1段上げてレンズを通る光を増やしてあげれば良いというわけです。
月の大きさが変わっても明るさは変わらないのでは?
月の大きさが変わると画面全体の露光量が変わるのは分かるけど、月そのものの明るさは変わらないのだから露光量を変える必要はないのではないか?と思われるかもしれません。
しかしながら月が満月→半月→三日月といった風に形を変えていくのは、正面光→サイド光→半逆光という風に太陽の光の当たり方が変わるためで、そのため月は細くなるほど暗くなっていきます。
同じ明るさのライティング機材を使用しても、正面から当たっている場合と逆光では光を受ける被写体の明るさが変わってしまうように、月は太陽にライティングされた被写体であるため、逆光に近づくほどに暗くなっているというわけです。
■ルーニー11の法則のまとめ
ルーニー11の法則まとめ
これまでご説明させていただいたことをふまえ、月をマニュアル露出で撮影する場合は以下のような設定値で撮影すればおおよそ正しい露出が得られるということがわかります。
- 満月:F11、1/100秒、ISO100
- 半月:F8.0、1/100秒、ISO100
- 太い三日月:F5.6、1/100秒、ISO100
- 三日月:F4.0、1/100秒、ISO100
もしも絞り値を任意の値で撮影したい場合も同じ露光量となるように変化させれば良いので、例えば、満月を絞りF5.6で撮影したいといった場合は、その分ルーニー11の法則からシャッタースピードを2段分上げて、
- F5.6、1/400秒、ISO100
と設定すれば、F11、1/100秒、ISO100で撮影するのと同じ露光量となるというわけです。
同様にシャッタースピードを任意の速度で撮影したいといった場合、例えば1/800秒で撮影するのであれば、絞りや感度設定を連動させて、
- F11、1/800秒、ISO800(シャッタースピードの分母と同じ数値にする)
- F4(絞りを3段分開ける)、1/800、ISO100
いずれかの方法で同じ露光量を得ることができるというわけです。
ルーニー11の法則は1つを覚えれば多くの状況に対応できる
ルーニー11の法則の良い点は何と言っても、「絞り値、シャッタースピード、ISO感度、月の満ち欠けごとに異なる露出設定をいくつも覚える必要がない」という点です。
つまり、
- 満月=絞り:F11、シャッタースピード:1/100秒、感度:ISO100
これだけ覚えておけば、絞り値は月の大きさが半分になるごとに1段ずつ絞りを開けていくだけですし、シャッタースピードは1/ISO感度の数値にするだけというわけです。
月は大気の影響を受ける場合もある
最後にルーニー11の法則で気をつける点があります。それは月の場合は大気の影響を受ける場合もあるため、大気の状態によって必ずしも適正な露出で写るわけではないということです。
特に「月が地平に近い場合」には大気の影響を受けやすく、ルーニー11の法則よりも露光量を増やす必要のあるケースが増えてきます。
■実は日中撮影のための「サニー16の法則」というのもある
サニー16の法則を覚えるのも簡単
「ルーニー11の法則(Looney 11 rule)」に対応するように、実は「サニー16の法則(Sunny 16 rule)」というのもあります。
サニーの16の法則は太陽そのものを撮影するためではなく、日中晴天下の風景などに適用するもので、
- 絞り:F16.0、1/100秒、ISO100
となり、使い方はルーニー11の法則と同じです。月では絞り値がF11だったところが、晴天の日中ではF16.0になるというだけです。
- 晴天:F16.0、1/100秒、ISO100
- 薄曇り:F11、1/100秒、ISO100
- 曇天:F8.0、1/100秒、ISO100
- 日陰:F5.6、1/100秒、ISO100
サニーの16のルールではおおよそこのように変化します。
■月も太陽も同じ光なので露出も同じ
「ルーニー11の法則」も「サニーの16の法則」も根本は同じ
そもそも月の光は太陽の光を反射しているだけなので、実は月が完全に画面の全てを覆い尽くすように写したとすると、その露出値は日中と同等になります。
では月もF16で良いのではないか?と思われるかもしれませんが、人間は月を見る際、周辺が暗い夜空の中に浮かんでいる月の姿を見ているケースが多いため、実際の月の明るさよりも感覚的に月は明るく見えています。
つまり、日中見る懐中電灯の明かりはそれほどのまぶしく見えませんが、暗い中で見る懐中電灯は瞳孔が開いているために眩しく見えるように、周辺が暗い夜空の中に浮かぶ月は思いの外明るく見えているというわけです。
そのために月を撮影する場合、日中の晴天と同じF16で撮影してしまうと、実際に月を観賞したときに感じるような明るさよりも暗く見えてしまいます。そのためルーニー11の法則では少し明るく写すためにF16ではなくF11になっているというわけです。
■余談、地平線の月が大きく見える理由
地平線の月は大きく見える?
ちなみに月は地平線に近い状態の方が大きく見えます。
これは「ムーン・イリュージョン」と呼ばれる現象で、天頂付近にある月と比較して地平付近にある月は実際には同じ大きさであるにも関わらず、感覚的には大きく見えるというものです。
これはポンゾ錯視の一種と言われており、月が地平付近にある場合比較対象となる背景があるために大きく見えると言われています。
月を被写体ブレさせずに撮影するには?
月は意外なほど速く動いているため、約4分間で月1つ分ほど移動します。
どこまでを許容できるかは人によって異なりますが、一般的には焦点距離が100mmのレンズで撮影した場合には2〜4秒程度まで、200mmレンズであれば1〜2秒程度、400mmレンズでは1/2〜1秒程度までの露光時間が被写体ブレの許容範囲と言われています。
これは焦点距離が2倍になると縦横2倍(面積で4倍)の大きさに月は写し込まれますが、月の移動方向に対しては2倍の大きさの被写体ブレが発生するためです。
そのためカメラやレンズの解像力、見る人の許容範囲によっても異なるものの、焦点距離100mmの場合は2〜4秒として、そこから焦点距離が2倍になるごとに許容されるシャッタースピード(露光時間)は1/2倍されるというわけです。
Reported by 正隆