皆さんこんにちは。
今回はプロフォトグラファーの使用機材に関する余談ですが、ネット上の口コミサイトなどで、
- プロカメラマンの○○(名前)が、△△(カメラブランド)から、□□(カメラブランド)に変えた
- プロカメラマンの多くが、○○(カメラブランド)に次々とマウント移行している
というような話を時々耳にすることがあるかと思います。
こうした話は、カメラ業界では定期的に起こる話題なのですが、実状とは異なるケースが多いため、今回はその点についてお話ししたいと思います。
【目次】
- フォトグラファーの仕事には色々ある
- フォトグラファーの種類
- 機材を使用したりレビューすることもフォトグラファーの仕事の一つ
- セミナー講師や書籍や雑誌に寄稿するフォトグラファーの実際
- セミナーやイベント講師、雑誌系のフォトグラファーの活動
- 機材はメーカーから提供される場合がままある
- セミナー講師や写真系雑誌に寄稿することと、商業写真撮影はかなり違う
- プロフォトグラファーの現実
- 商業写真のフォトグラファーは一流だから有名とは限らない
- 提供されたカメラを使うことと機材を入れ替えることは違う
- 現実の商業写真のフォトグラファーはそんなに気楽にマウントを変えたりしない
- プロ市場を狙っていく本当の意味
- キヤノン・ニコン以外のメーカーがプロフォトグラファーの市場を獲得していくためには?
では、早速始めましょう。
■フォトグラファーの仕事には色々ある
フォトグラファーの種類
一口に「プロカメラマン」と言っても、様々なタイプがあり、それは「撮影ジャンル」という意味ではなく、
- 写真家として作品を撮る
- 商業写真を撮影する
- 写真やカメラ関係のイベントやセミナーで講師を務める
- 写真教室や写真学校などの講師を務める
- カメラ雑誌やウェブ媒体で撮影テクニックや機材レビューを寄稿する
- 写真やカメラ系書籍の執筆をする
というように、フォトグラファーには様々な活動があるという意味です。
この中で圧倒的多数派は商業写真のフォトグラファーなのですが、「商業写真」と言うと得てしてコマーシャル・フォトのような大規模な広告写真をイメージされることが多いのですが、「商業写真」というのはそうした広告写真も含みつつ、
- 広告写真(チラシ、ネットショップ、雑誌、ポスターなど)
- 人物撮影(プロフィール、面接用写真、インタビューなど)
- 建築写真(不動産物件の内観・外観撮影など)
- ウェディングフォト(前撮り、結婚式、披露宴、後撮りなど)
- 営業写真館(お宮参り、七五三、成人式など)
代表的なものだけでも、こうした多様なジャンルがあります。
恐らく日本で最も多いのは、ブライダルフォトグラファーと七五三・お宮参りの撮影をするフォトグラファーであり、次いで営業写真館のフォトグラファーかと思われますが、近年ではWeb媒体やECサイトが増えているため、そうした場所で使われる商品撮影を行うフォトグラファーも多いでしょう。
いずれにせよ、このような商業写真のフォトグラファー達も紛れもなくプロフォトグラファーであり、数からするとむしろこの人たちこそがプロフォトグラファーの中心なのですが、こうしたフォトグラファーたちは普段写真愛好家やカメラマニアから具体名が上がることは殆どありません。
多くの写真愛好家やカメラマニアにとって、プロフォトグラファーというと、イメージするのは有名な写真家や、カメラ関係のセミナーの講師や写真関係の書籍の執筆をしているフォトグラファーだからです。
機材を使用したりレビューすることもフォトグラファーの仕事の一つ
ネット上で語られるような、プロカメラマン像の多くは、写真家、あるいは写真セミナーや製品レビューの仕事を請け負う、講師系あるいはライター系のフォトグラファーです。
こうした、例えばCP+のような写真関係のイベントやセミナーで講師を勤め、撮影テクニックや機材レビューを行うようなフォトグラファーは撮影料そのもので収入を得ているわけではなく、講師料や執筆料が主な収入源です。
またこのような活動を行なっているフォトグラファーは、メディアで目にする機会が多いため、写真愛好家に対して比較的知名度が高くなる傾向にあります。
それゆえ、カメラメーカーはこうした知名度の高いフォトグラファーに対して、積極的にカメラやレンズの提供を行い使用してもらうことで販売促進に生かそうとするわけです。
フォトグラファー側からすると、「メーカーの広告塔として、貸し出された機材を積極的に使用していくこと自体が仕事」となります。
これは有名ユーチューバーやインスタグラマーが企業とタイアップして製品を宣伝することと基本的には同じ構造ですし、勿論これらもフォトグラファーの仕事の一つです。
■セミナー講師や書籍や雑誌に寄稿するフォトグラファーの実際
セミナーやイベント講師、雑誌系のフォトグラファーの活動
こうした仕事の場合、撮影機材を変えたように見えても本当の意味でマウントを乗り換えたのではなく、今そのメーカーとタイアップして使用しているだけということがままあります。
また、YouTubeやWeb媒体で機材レビューをするような場合には、
- タイアップであれば「メーカーがその時宣伝したい機材」
- YouTubeなどの広告費収入であれば「その時注目度の高い機材」
を使用することになります。
機材はメーカーから提供される場合がままある
先ほども申し上げたように、こうした仕事で使用する機材はメーカーからの貸出しや、場合によっては完全に進呈されているというケースが多くあります。
ちなみに私もこれまで複数のカメラメーカーやアクセサリーメーカーと仕事をしたことがあるので、デジタルだけでも、
- キヤノン(一眼レフ・コンデジ)
- ニコン(一眼レフ)
- ソニー(ミラーレス)
- パナソニック(ミラーレス)
- 富士フイルム(コンデジ)
- ペンタックス(中判)
などさまざまなメーカーのカメラを所有しており、機材を貸し出された事も何度もありますし、一部は頂いた物です。
カメラや写真関係の仕事をしていると、メーカーからカメラやアクセサリーを貸して頂けたり、時には進呈されることはそれほど珍しいことではありません。
そして、私より有名なフォトグラファーは「山ほど」おられるわけですから、そうした方たちなら尚更でしょう。
こうしたカメラメーカーが知名度が高いフォトグラファーに機材を提供して使って貰いプロモーションに活かす方法は、一種の「インフルエンサー・マーケティング」なのですが、趣味性の高いカメラ業界では、YouTubeやSNSといったネットサービスが普及する以前から行われている宣伝手法です。
セミナー講師や写真系雑誌に寄稿することと、商業写真撮影はかなり違う
セミナー講師や写真系ライターと、商業撮影のフォトグラファーでどちらが偉いというような話ではありませんが、
- 機材を提供されて作例を撮り、講演料や執筆料で対価を得る
- 自前の機材で商業撮影を行い、撮影料金という対価を得る
この二つでは同じ写真を撮るという仕事であっても、内容はかなり異なります。
カメラ業界恒例の「意味もなく自動車で例える」風習に従うならば、
- 自動車雑誌のライター
- タクシードライバー
では、いずれも車を運転する仕事ですが仕事内容も必要なスキルも全く異なるのと同じです。
■プロフォトグラファーの現実
フォトグラファーは一流だから有名とは限らない
プロの中でも圧倒的多数派である商業写真(要するに撮影料で収入を得る)フォトグラファーの場合、一部の超有名人を除けば、その撮影ジャンルでかなりの実績がある人であっても、写真家や写真セミナーの講師、あるいはカメラ雑誌やカメラ書籍の執筆を行うフォトグラファーと比較して、知名度は上がりにくい傾向にあります。
皆さんも「ポカリスエット」や「雪肌精」や「綾鷹」のような広告写真を目にしたことはあると思いますが、いずれも一流の広告写真でありながら、それらを撮影しているフォトグラファーの名前を答えられる方は殆どおられないだろうと思います。
そうした非常に有名な広告写真でさえ、フォトグラファーの名前が一般の写真愛好家に知られることは少ないのですから、ましてやブライダルや七五三・お宮参りのフォトグラファーなどは、例え撮影技術が非常に高い人であっても、あるいは業界で長いキャリアがあっても、その名前を一般に知られることはまずありません。
こうした一般に知名度の低い商業写真のフォトグラファーが、撮影機材を違うメーカーに変えたというような事であれば、「本当にその機材に惚れ込んで乗り替えた」と言えるでしょうし、そういう場合も時にはあるでしょうが、実際には稀にしか起きません。
現実の商業写真フォトグラファーはそんなに気楽にマウントを変えたりしない
そもそも、撮影料で収入を得ている商業写真のプロフォトグラファーであれば、機材を追加することはあっても、「全入れ替え」は基本的にしません。
なぜなら、「どこかのメーカーから優秀なカメラやレンズが出る度に、所有していた大量の機材を処分して一から揃え直す」、などという事をしていたのでは、それこそ商売として成り立たないからです。
ちなみに、フォトグラファーの大半を占める商業撮影の現場では、今でも撮影ジャンルを問わずキヤノンとニコンを使用しているフォトグラファーが圧倒的多数派です。
また、メーカー側が一部の知名度の高いフォトグラファーに機材を提供し使って貰ったとしても、フォトグラファーという職業の多数を占める商業撮影のフォトグラファーたちに自発的に普及していかなければ、本当の意味で「プロ市場に進出している」という事にはならないわけです。
ですから、現時点で、「プロがどんどんキヤノンやニコンから、○○(それ以外のブランド)に変えている」というような事を、言っている人が居れば、そうした発言自体が、その人が本当は商業写真の現場を知らないという事の明白な証拠だと思われても仕方がないでしょう。
プロ市場のを狙っていく本当の意味
なぜ商業写真のフォトグラファーがキヤノン・ニコンを使うのかというと、
- 単に過去のプロ市場の流れを引き継いでいる
- 先輩や師匠がキヤノンやニコンを使っていたから
- 仕事でしか使わないようなニッチなアクセサリーが充実しているから
- 特殊な撮影に対応できるシステムなどプロ機としての作り込み
- フォトグラファー側の操作へ慣れ
- プロサポートの経験値や充実度
など、様々な要素によって生み出されているため、キヤノン・ニコン以外のメーカーが「プロ市場も積極的に狙っていく」と意気込んで単体で素晴らしいカメラを出したとしても、それが商業撮影の現場で急速に普及するというような事は現実には起こりえないのです。
つまり、「性能が優れていれば、プロがこぞってそのメーカーに乗り換えるだろう」という考えがそもそもズレています。
個人的には、現代において「プロも使っている」という事のプロモーション効果は弱くなっていると思っていますし、そもそもプロと同じメーカーでなければ良い写真が撮れないなどということも全くないのですから、根本的に気にする必要がないとも思います。
システムカメラとしての成熟度をあげるという意味においては、プロ市場を狙うというのは、長い目で見ればカメラメーカーとしての成長を促すというメリットはあるだろうと思います。
しかし、多くのメーカーはこのあたりを誤解していて、プロ市場でシェアを取るということを、非常に短絡的な意味での宣伝戦略としてしか見ていないような気がします。
そのために、「オリンピックに何台うちのカメラを送り込めるか?」というような発想に至ってしまうのですが、そうした考え方が良いとは思いません。
むしろそうした報道及び商業撮影の市場で最大のシェアを誇るキヤノンとニコンは、人目につかない、つまり一般ユーザーに対して直接的な宣伝となり難いジャンルのフォトグラファーにも積極的にサポートを行なっています。
プロ市場を獲得するという意味が、最終にはカメラを売るためであることはどのメーカーも共通のはずですが、そこに至る過程に、「プロフォトグラファーに選ばれるカメラシステムに育てるため」という思想があるのか、単に「プロが使っていればそれに憧れてアマチュアが買うだろう」という発想であるのかは大きな違いです。
キヤノン・ニコン以外のメーカーがプロフォトグラファーの市場を獲得していくためには?
ただ近年では、「仕事用のカメラはキヤノンかニコンで、他は考える必要もない」という風潮があったフォトグラファーたちの中に、「他のメーカーも試しに使ってみようかな?」という空気は確実に出てきていると感じています。
そうした変化からか、少しずつオリンパスやソニー、また富士フイルムなども商業撮影の現場で見かけるようになりましたが、全体からすればまだまだ僅かであり、今後もっと増えていくことを期待したいと思います。
そして、キヤノン・ニコン以外のメーカーがプロ市場でシェアを広げていくためには、サポートを含めたシステムカメラとしての全体像の進化と実績を積み上げながら、時間をかけてフォトグラファーたちの信頼を獲得していく以外に方法はないのだろうと思います。
画像:Quesabesde
Reported by 正隆