ニコンから発表されましたAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDですが、AF-S NIKKOR 85mm f/1.4GやAF-S NIKKOR 85mm f/1.8Gを上回る最高級中望遠レンズとなります。
加えてAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gに続く三次元ハイファイ設計を採用したレンズということで、ニコンFマウントポートレートレンズとしても最高峰のレンズとなります。
今回はこのAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの実力はどれほどか?詳しく見ていきたいと思います。
■AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDはどんなレンズ?
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDのライバルたち
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDはその価格・大きさ・重量に妥協することなく最高の光学性能を追求して開発された節があります。現在中望遠レンズは純正・サードパーティ製を含めて評価の良いレンズが何本も存在します。
- Nikon:AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G
- Nikon:AF-S NIKKOR 85mm f/1.8G
- ZEISS:Otus 1.4/85 ZF.2
- ZEISS:Milvus 1.4/85 ZF.2
- SIGMA:85mm F1.4 EX DG HSM
- TAMRON:SP 85mm F/1.8 Di VC USD(Model F016)
- ZEISS:Milvus 2/100M ZF.2
などが代表例になります。
この錚々たる中望遠レンズ群の中にあってなお比類なき存在であるために、またポートレート用最高峰のレンズを求めて開発されたのがAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDです。
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの携帯性
105mmという焦点距離でありながらF1.4という大口径を実現しており、そのためもあってAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの携帯性は中望遠単焦点レンズとしてはかなり大きなものとなっています。同じく純正の中望遠大口径単焦点レンズであるAF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gと比較してみましょう。
AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G | AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED | |
レンズ構成 | 9群10枚 | 9群14枚 |
外形寸法 | 約86.5mm×84mm | 約94.5mm×106mm |
質量 | 約595g | 約985g |
AF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gも決して小さいレンズではありませんが、それと比較してもAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの大きさ・重量が大幅に上回ることが見てとれます。
携帯性よりも最高の写りを目指して
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDは確かに重いレンズです。1kg近い重量の中望遠レンズというのは珍しく、ボディ側がフルサイズ、それも上級機もしくはバッテリーグリップを使用してなければフロントヘビーになることでしょう。
しかしそのスペックを見ればこのモンスターレンズの狙いが見てとれます。
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDは中望遠単焦点レンズとしては異例の9群14枚構成、しかもEDレンズ3枚という贅沢なレンズ構成に加えて、フレアやゴーストを大幅に低減するナノクリスタルコート及び防汚効果の高いフッ素コートまで採用しており、ニコンのレンズ技術結晶とも言える贅沢な仕上がりとなっています。
ニコンとしてはAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDを単なる「105mm/F1.4のポートレートレンズ」ではなく、評価の高いAF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gをも超えるニッコールレンズの最高峰ポートレートレンズを実現することにプライオリティを置いて開発したことが伺えます。
三次元ハイファイ(高再現性)設計
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDには既に発売されているAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gと同様の三次元ハイファイ設計が採用されています。
この三次元ハイファイ設計とは、「より自然な像を再現する」というものですが、フォーカス部とアウトフォーカス部の連続性を重視し、立体感の向上が図られています。次の項目ではこの三次元ハイファイ設計について詳しくご説明させて頂きます。
■三次元ハイファイ設計ってなに?
三次元の現実を二次元の画像へ
「三次元ハイファイ」というと聞きなれない言葉かも知れません。一般なレンズの評価指標としてはMTF特性図などがありますが、このMTF特性図などの従来のレンズ評価は、被写体及び像面の関係が平面と平面という前提で評価する方法でした。
無限遠の被写体の場合、無限に遠方の平面から発した光と考えることが出来るため、(被写体側)平面と(撮像面側)平面という測定方法でも問題ありません。
しかし近距離や中距離に被写体がある場合、多くの被写体は三次元の立体であるため、平面上の結像点だけでは全体の評価としてしまうのは不十分ではないか?とニコンのレンズ設計者は考えました。
そこで三次元の被写体に対し、結像点の前後を含めた三次元でレンズの評価基準を設け、それに即して開発を行うことをニコンでは「三次元ハイファイ設計」と呼んでいます。
三次元ハイファイ設計はポートレート写真をどう変えるか?
具体的にどのようなことかと言うと、結像位置の一点だけをシャープに写すのではなく、結像面のシャープネスやアウトフォーカス部のボケ方を高精度にコントロールし、良好なピント面の解像力とボケ味の両立、また距離によって描写特性を最適化しているとのこと。
もちろんニコンだけでなく、多くのカメラメーカー及びレンズメーカーがシャープネスとボケ味の両立を重要な課題としていますが、ニコンでは画像処理シミュレーター「OPTIA」との連携により従来個別の機器で計測していた収差を複合的に計測を行うことでより三次元的な描写特性を向上させる試みがなされています。
特にポートレートレンズなどでは、結像面は開放F値からある程度のシャープさが求められるのが現代の流行です。しかし単にピント面がシャープで低収差あれば良いというだけでなく、アウトフォーカス部へ変化する際など、被写界深度を外れた瞬間に急激にボケるのではなく、緩やかにボケていくことなどが望まれます。
これが出来ていないと、人物の顔にスリット上にピント面が発生してしまうため、本来なだらかな立体を描く頭部が不自然に見えてしまうというわけです。
ニコン入魂のスーパーポートレートレンズとなるか?
写真は多くの場合、三次元の物体を二次元の画像に変換することになるため、三次元の立体を表現するにあたり単純に収差を減らし解像力を上げるだけでなく、人間の感覚に則した「心地よく自然に見えるための描写設計」が必要になるとのこと。
OPTIAを使用した三次元ハイファイ設計レンズ第一弾となったAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gは、開放F値における近距離での解像力の低さゆえ、従来の測定基準では低い評価を受けことが多かった一方で、実際のユーザーにはその描写が高く評価されました。
■MTFから見るAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの凄さ
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4GのMTF特性図
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4GはAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDに先んじて三次元ハイファイ設計を採用し、非常に話題になったレンズです。なだらかなボケ味と連続性によってポートレート撮影に限らず評価の高い標準大口径単焦点レンズです。
AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gは開放絞り値付近でのシャープネスは高くありませんが、周辺部になってもサジタルとメリジオナルの曲線のズレが少なく、良好なボケ味を実現していることが見てとれます。また、三次元ハイファイ設計ならではの特性として、無限遠では収差を収差を抑え解像力を、近距離では立体感を重視した写りになっています。
開放付近かつ近距離という条件が揃うと柔らかい写りであるため、シャープネスは高くありません。ポートレートでピント面の開放付近からのシャープネスを求める方にはSIGMA 50mm F1.4 DG HSM Artなどの方がオススメでまた実際に非常に優れた標準単焦点レンズですが、AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gは自然なボケ味が感じられるレンズとなっています。
AF-S NIKKOR 85mm f/1.4G
AF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gは高画質かつ大口径を実現したニコン純正中望遠レンズのこれまでのフラッグシップレンズです。
高い解像力、良好なボケ味を両立し、また携帯性もコンパクトなレンズではないものの、AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDと比較すればコンパクトかつ大幅に軽量で使い易い中望遠レンズとしてポートレートなどでもオススメできる評価の高いレンズです。
85mmレンズでは同じ純正レンズであるAF-S NIKKOR 85mm f/1.8Gを始め、サードパーティ製でも優れたレンズが幾つかあるため選択に迷う部分がありますが、オートフォーカスレンズで限定するのであれば、AF-S NIKKOR 85mm f/1.4Gにしておけば後悔はないでしょう。
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDのMTF特性図
さて今回登場したAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDを見てみましょう。三次元ハイファイ設計を始めて採用したAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gは近距離の開放F値付近では写りが柔らかいために、開放からのシャープさを求める方には不向きな部分がありました。
しかしAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDでは開放から周辺部に至るまで非常に優れたシャープネスを実現しており、クローズアップだけでなく、ウエストショットやフルショットのような顔が画面の中心部からズレるような構図であっても非常に高い解像感を期待できることが伺えます。
立体の被写体を自然に写し込むなだらかなボケ味と、現代的なピント面の開放からのシャープさを実現した点にAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの大きな進化が伺えます。
■実写作例
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの描写を見てみましょう。こちらから等倍画像もご覧いただけます。
点光源の作例に関しては周辺部に至るほどボケがラグビーボール型に変形しており、ある程度の口径食が見てとれます。しかし光原には年輪状の同心円ボケはほとんど見られずなかなか綺麗にボケています。
人物の表情を捉えた作例に関してはAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの良さが遺憾なく発揮されています。ピント面は非常にシャープで顔の輪郭部に向かうにしたがって非常に滑らかに美しいグラデーションを描くようにアウトフォーカスしていきます。それにしてもナイスミドルですね。
座っている女性のバストショットですが、斜めになった体のボケ方からもAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの自然なボケ方が見てとれます。また背景も大口径レンズらしくよくボケています。
■AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDの主な仕様
レンズ名 | AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED |
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レンズタイプ | ニコンFマウントCPU内蔵Eタイプ、AF-Sレンズ |
焦点距離 | 105mm |
最大口径比 | 1:1.4 |
レンズ構成 | 9群14枚(EDレンズ3枚、ナノクリスタルコートあり、フッ素コートあり) |
画角 | 23°10′(FXフォーマットのデジタル一眼レフカメラ) 15°20′(DXフォーマットのデジタル一眼レフカメラ) |
撮影距離情報 | カメラへの撮影距離情報を出力可能 |
ピント合わせ | IF(ニコン内焦)方式、超音波モーターによるオートフォーカス、マニュアルフォーカス可能 |
撮影距離目盛 | ∞~1.0m |
最短撮影距離 | 1.0m |
最大撮影倍率 | 0.13倍 |
絞り羽根枚数 | 9枚(円形絞り) |
絞り方式 | 電磁絞りによる自動絞り |
最大絞り | f/1.4 |
最小絞り | f/16 |
測光方式 | 開放測光 |
アタッチメントサイズ(フィルターサイズ) | 82mm(P=0.75mm) |
寸法 | 約94.5mm(最大径)×106mm(レンズマウント基準面からレンズ先端まで) |
質量 | 約985g |
付属品 | ・82mmスプリング式レンズキャップ LC-82 ・裏ぶた LF-4 ・バヨネットフード HB-79 ・レンズケース CL-1218 |
■世界一のポートレートレンズを目指して
スペックや実写作例などを見ると、AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDは開放からの高いシャープネスと自然な立体感を感じられるボケ方を高い次元で両立していることが分かります。加えてフッ素コートや電磁絞り、ナノクリスタルコトートといった使い勝手の部分でもニッコールレンズの最先端の技術を全て盛り込んだようなレンズとなっています。
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E EDは中望遠レンズとしては非常に高価で大きく重いレンズではありますが、絞り開放時の現代的な写りと、ニコンが目指す三次元の被写体を二次元の画像に自然に写し込むという三次元ハイファイ設計が見事に両立した傑作レンズと言えるでしょう。
画像:Flickr,Nikon USA,Nikon Rumors
Reported by 正隆