レンズフードを付ける意味とその種類、さらにハレ切りまで全解説

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レンズに入ってくる有害光をカットし、フレアやゴーストといった現象を防ぐためのアクセサリーに「レンズフード」があり、このレンズフードには、形状や取り付け方式の違いによってさまざまな種類があります。

またレンズフード同様に、フレアやゴーストを防ぐ手段として「ハレ切り」があります。ただし、ハレ切りの語源である「ハレーション」はフィルムカメラ特有の現象であるため、デジカメでは発生しません。そのためここでいうハレ切りとは実質的にはレンズフレアを防ぐための解説です。

【目次】

  • レンズフードを付ける理由は?
    • 有害光をカットすることでフレアやゴーストを防ぐ
    • ぶつけたり落下させた時の衝撃を多少緩和する
    • 雨や雪や指紋が前玉に付着する可能性を下げる
    • 衝撃緩和や防汚効果を期待し過ぎてはいけない
  • レンズフードの形状にはどのようなものがある?
    • 丸形レンズフード
    • 花形レンズフード
    • 角形レンズフード
    • インナーレンズフード(フジツボ形レンズフード)
    • 穴あきレンズフード
  • レンズフードの取り付け方式にはどのようなものがある?
    • ねじ込み式フード
    • バヨネット式フード
    • かぶせ式フード
  • レンズフード選びの際の注意点
    • レンズフードは口径や長さがレンズに適合している必要がある
    • レンズフードは自己責任で改造する場合もある
  • ハレ切りのメリット
    • ハレ切りはデジタルでもフレアやゴーストを防ぐ効果がある
    • ハレ切りはズームレンズの画角に合わせて位置を変えられる
    • ハレ切りはレンズフードよりも広範囲の有害光をカット出来る

そこで今回は、この「レンズフード」と「ハレ切り」について解説させて頂きたいと思います。

■レンズフードを付ける理由は?


有害光をカットすることでフレアやゴーストを防ぐ

レンズフードの最大の役割としては、「ゴースト」や「フレア」といった現象を防ぐことにあります。

撮影画角内や撮影画角に近い場所に強い光源がある場合に、光源周辺や光源の方向に白い靄のような光の漏れが起きるのが「フレア」です。

フレアに似たような現象に「ハレーション」がありますが、ハレーションはフィルム固有の現象で、これはフレアとは原因が異なります。

ハレーションに関しては「フレアとハレーションは何が違う?どんな現象?」で以前に解説しているので、ご興味のある方はそちらもご覧いただければと思います。

対して、「ゴースト(ゴーストイメージ)」は、光源から点対称の位置に薄いグリーンやブルーやその他の色、あるいはホワイトなどの本来存在しない光がフレアよりもハッキリとした像で現れる現象です。

いずれも強い光源が原因で発生する現象で、撮影画角内に直接光源があるような構図ではレンズフードは効果を発揮しませんが、レンズフードは撮影画角外から強い光がレンズに当たることで、意図しないフレアやゴーストが発生することを軽減したり防ぐ効果があります。

ぶつけたり落下させた時の衝撃を多少緩和する

レンズ保護フィルターには、フレアやゴーストを防ぐといった目的以外にも、

  • レンズ本体を直接ぶつける事を防ぐ
  • 前玉やレンズ保護フィルターに触れてしまう事で指紋(皮脂)が付着する事を防ぐ

というような副次的恩恵を受けることが出来ます。

但し、レンズフードを付けていればレンズをぶつけたり落下させたりしても大丈夫という事ではありません。

例えレンズ本体ではなくレンズフードの部分をぶつけたり、レンズフードの部分から落下させたとしても、一見レンズの外装に損傷がないように見えても、実際にはレンズ本体まで衝撃は伝わり画質面、あるいは機能面でレンズに不具合が発生している可能性があります。

ですから、派手にぶつけたり落下させた場合は、そうした不具合が発生していないかは気にしながら実際に動作させたり撮影してみて確認し、その結果が怪しいようであればメーカーのサービスセンターなどで検査して貰うのが良いでしょう。

しかし、レンズフードを使用することで、レンズ本体を直接ぶつけるよりは多少衝撃を緩和してくれることは期待できるでしょう。

雨や雪や指紋が前玉に付着する可能性を下げる

レンズフードを使用する事で、雨粒や雪、大きなゴミなどがレンズの前玉やレンズ保護フィルターに付着する可能性を低減してくれます。

また、レンズフードを使用することで、レンズの前玉や保護フィルターにうっかり指先で触れてしまって、皮脂が付着する可能性も減らすことができます。

レンズ保護フィルターを使用することで、レンズの前玉を保護することはできても、その保護フィルターに、

  • 雨や雪
  • 大きなゴミ
  • 皮脂

などが付着してしまうと、結局画質に悪影響を及ぼしてしまう場合があるため、レンズフードはそうしたリスクを低減してくれます。

衝撃緩和や防汚効果を期待し過ぎてはいけない

しかし「衝撃に対する保護」も「防汚効果」も、レンズフード本来の役割ではありませんので、そうした副次的な恩恵をレンズフードに期待し過ぎるのは良くありません。

■レンズフードの形状にはどのようなものがある?


丸形レンズフード HB-71

丸形レンズフード

一口にレンズフードと言っても、その形状には様々なものが存在します。そこで全てをご紹介することは出来ませんが、代表的なレンズフードの形状をご紹介したいと思います。

レンズフードの中でも恐らく現在最も広く普及している多いのが、「丸形レンズフード」で、単純に筒状の形をしたレンズフードです。

この丸形レンズフードは、このあと解説する「花形レンズフード」と比較して、撮影画面の比率に合わせて上下方向と左右方向でレンズの深さを変えていないため、有害光をカットする能力としては花形フードに劣る場合があります。

また、花形フードや角形フードと比較して単純な形状であることなどから、丸型フードは一般に「安物」のようなイメージを持たれている人もおられますがそれは間違いです。

撮影画角が狭い望遠レンズなどでは、「携帯性などの現実的な商品性を考慮したレンズフード長の範囲では」、丸形でも花形でも効果が変わらないというようなケースがままあり、であればわざわざ複雑な形状にするメリットはなく、丸形フードの方が良いわけです。

分かりやすく説明するために極端な例を挙げると、AF-S NIKKOR 800mm f/5.6E FL ED VRのような超望遠レンズでは、フードを相当長くしてもケラレる心配がないため、レンズフード自体の強度や、前玉が下になるように縦置きした際の安定性の面から、HK-38のような丸形フードが採用されており、またこのHK-38はレンズフードとして到底安価と呼べるようなものでもなく、丸形レンズフード=安物ではないという事も分かります。

また、丸形レンズフードには、取り付け位置がズレた際にフードが写ってしまう「取り付け位置の問題によるケラレ」の心配などもないため、後で解説する「ねじ込み式」や「かぶせ式」のレンズフードで採用されやすく、バヨネット式に対応していないクラシックレンズなどでも使われることが多いフード形状です。


花形レンズフード HB-78

花形レンズフード

次にこちらも非常に代表的なレンズフードの形状である、「花形レンズフード」についてご紹介したいと思います。

他の条件が同じであれば、レンズフードは深ければ深いほど有害光をよりカットする効果が高くなります。

そこで問題になるのが「どうすればフードを深く作れるか?」という事なのですが、丸形フードの形状のままフード長を伸ばしていくと、撮影画角の広い四隅から徐々にケラレ(写真にフードが写ること)が発生していきます。

また撮影画角の広い対角長だけでなく、デジタルカメラの撮像素子や一般的なフィルムカメラは、横長の長方形の画面比率が比較的多いため、

  • 画角が狭い上下方向はフードにケラレ難い
  • 画角が広い左右方向はフードにケラレ易い
  • 画角が最も広い対角方向(四隅)は非常にケラレ易い

ということがあります。

これは言い換えれば、レンズフードは丸形フードのような均一な深さでなく、上下方向と左右方向でフードの長さを変えることで、ケラレが発生しないギリギリまでフード長を長くすることが出来るということでもあります。

  • フードの上下はケラレ難いので長くすることが出来る
  • フードの左右はケラレ易いので短くする必要がある
  • フードの四隅は非常にケラレ易いので最も短くする必要がある

そこで、上下方向を長めに、左右方向を短めに、対角方向を抉ったような形にしたフードが「花形レンズフード」というわけです。

このような花形レンズフードは、丸形レンズフードよりも有害光をカットする能力を高くすることが可能になります。

ですから、望遠レンズのような画角が狭くケラレが発生し難いレンズは利便性から丸形レンズフードを、標準域や広角まで対応したズームレンズや広角の単焦点レンズなどでは、少しでも有害光をカットする能力を高めるために花形レンズフードが採用され易い傾向にあります。

勿論これは絶対のルールなどではないですし、レンズフードは単純に有害光をカットし易いというだけで形状を決めるわけではなく、強度や使い勝手やコストなども考慮して設計するため、お持ちの標準レンズや広角レンズが花形フードでなかったとしても、それほど気にやむ必要はありません。

また、「花形レンズフード」や「角形レンズフード」は、ピント調整の際に前玉が回転する、「前玉回転式」のレンズでは、フードの長い部分の位置がピント合わせのために変わるために、ケラレが発生する場合があり使用できません。


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角形レンズフード

次に「角形フード」とはどのようなものか?という話ですが、丸形フードが「上下左右にレンズから同じ距離で、かつ均一深さである」のに対し、角形フードはフードの各部の長さ(深さ)が均一という点では丸形フードと同じであるものの、形状を画面比率に合わせて長方形にしたレンズフードで、左右方向が長いために、ケラレが発生し難くなっています。

ケラレが発生し難いということは、その分丸形フードよりもフードを深くすることが出来るため、角形フードは丸形フードよりも遮光性を上げることが可能になります。

しかし、そんな優れた角形フードには収納性という弱点があります。

丸形フードも花形フードも角形フードも、レンズに装着した状態ではレンズ長が長くなるため収納性が落ちますが、それを軽減するために、現在のバヨネット式やかぶせ式の丸形フードや花形フードでは、その多くがフードを逆付け(フードを通常とは反対の向きに付けることで、レンズの全長が伸びるのを防ぐ付け方)出来るようになっています。

しかし角形レンズフードでは長方形であるために、逆付けしてもレンズの横幅の増加は否めないことから、可搬性が劣っていたり、製品によってはそもそも逆付けが出来ない仕様になっている物もあります。

そうした理由から角形レンズフードは現在の主流ではなく、丸形フードや花形フードほど一般的ではありません。

しかし、角形レンズフードは無くなったわけではなく、フード長が長くなり過ぎない広角レンズ用などで存在していますし、レンジファインダーカメラなどで使わる事が多かった経緯などから、そのクラシックなイメージを生かして、デザイン上のアピールとして角形レンズフードを採用しているレンズもあります。


インナーレンズフード(フジツボ形レンズフード) E-6356

インナーレンズフード(フジツボ形レンズフード)

インナーレンズフードは別名フジツボ形フードというような呼ばれ方もするレンズフードで、通常のレンズフードが外側に向かって広がっているのに対して、インナーフードは内側にすぼまるような形状をしているため、非常にコンパクトです。

インナーフードは他のレンズフードと比較して圧倒的に小型であるため、パンケーキレンズなど、携帯性を犠牲にしたくないレンズなどで採用され易い傾向にあります。

しかし原理的にはレンズフードは外側に広がるほど、ケラレずにフードを長く設計することが出来るため、インナーフードはフードとしての効果はそれほど高くはありませんし、前玉が大きいレンズにも不向きです。

それでもその圧倒的なコンパクトさはインナーフードの大きな魅力です。


穴あきレンズフード LH-XF35-2

穴あきレンズフード

これまでご紹介してきた「丸形フード」「花形フード」「角形フード」などの代表的なレンズフードの他にも、レンジファインダーカメラなどで使われることの多い「穴あきレンズフード」などがあります。

レンジファインダーカメラはレンズを通ってきた像ではなく、ボディ端のファインダーを覗いてフレーミングを行うため、レンズフードが大きいとファインダーの視野を塞いでしまうのです。

その問題をなるべく軽減するために作られたのが「穴あきレンズフード」で、レンズフードにスリットを設ける事で、ファインダー像をレンズフードが塞ぐ面積を減らしています。

現在でも穴あきレンズフードは、M型ライカのようなレンジファインダーカメラや、一部のクラシックデザインのコンパクトデジタルカメラ、またミラーレスカメラ用のレンズでも採用されているケースがありますが、ファインダーの無いコンパクトデジタルカメラやEVF(電子ビューファインダー)のミラーレスカメラで穴あきレンズフードを使用するのは、基本的にはクラシックデザインという見た目上の理由からです。

■レンズフードの取り付け方式にはどのようなものがある?


ねじ込み式フード

レンズフードにはその形状だけでなく、取り付け方法にも様々なタイプがあります。

その中でも古くから存在し、今でも見られるのが「ねじ込み式レンズフード」です。

ねじ込み式レンズフードは、レンズ前面のフィルターを取り付けネジにねじ込んで取り付けるタイプのレンズフードで、レンズのフィルター径と同じサイズを選ぶ必要があります。

ねじ込み式のフィルターの場合、ねじ込んだ時にどこで回転が止まるかが決まっていないために、殆どのねじ込み式フィルターはシンプルな丸形フィルターであり、取り付け位置がズレるとケラレてしまう可能性がある花形フィルターや角形フィルターは選ぶことができません。

実は極少数ですが、「ねじ込み式の花形フィルター」とか「ねじ込み式の角形フィルター」も存在し、そうしたタイプは適切な位置までねじ込む必要があります。

また、ねじ込み式フィルターはフィルター径が合っていれば付くために、レンズごとの純正フードと異なり、そのフィルターが本当にそのレンズに適合しているという保証がありません。

そのため、そのレンズフードが対応する焦点距離なども参考にしながら、ケラレが発生しないかなどを気にして選ぶ必要があります。

バヨネット式フード

バヨネット式レンズフードは、今現在最も一般的なレンズフードの取り付け方式で、レンズ前部の外側の溝にレンズフードをカチッとはめ込む取り付け方式です。

ねじ込み式と比較するとバヨネット式は素早い着脱が可能で、正しく嵌めればレンズフードが止まる位置も決まっているため、花形フードや角形フードのような、より遮光性が高いレンズフードも使用することが可能になります。

また現代の多くのバヨネット式レンズフードは逆付けが出来るようになっているため、可搬性にも優れており、広く普及しているというわけです。

ただし注意点としては、取り付け時にカチッとなるまでしっかり回して付けず、中途半端な位置で止めてしまうと、花形レンズフードなどではケラレが発生してしまう場合があります。

バヨネット式フードは、実際には正しい位置まで嵌っていなくても、「一見付いているように見える」ことが多いため、カチッという音(あるいは感触)が出るとこまで回すようにしてください。

やってみればそれほど難しいものではありませんが、力任せにやるのではなく、不自然さを感じた時や良く分からない場合は、カメラ店やメーカーのサービスセンターで聞くのも良いでしょう。

また、バヨネット式は取り付けの始まり位置も終わり位置も決まっているため、レンズフードに目安となる「○」や「|」といった印が付いている場合も多いため、それを参考に取り付けを行うのが良いでしょう。

かぶせ式フードフード

レンズフードの取り付け方には「ねじ込み式」と「バヨネット式」以外にも、大口径超望遠レンズなどで採用されている「かぶせ式」があります。

かぶせ式レンズフードは、ねじ込み式やバヨネット式のようにレンズ前面にフード自体を回転させて取り付けるのではなく、レンズの前方部分にフードをもってきて、横からノブで固定する方式です。

かぶせ式のレンズフードの例としては、例えばニコンのHK-38などがあります。

かぶせ式レンズフードは以前は大口径超望遠レンズ以外にも使われていましたが、現在ではバヨネット式のような便利なタイプがあるため、大口径超望遠レンズ以外で使用されることは少なくなりましたが、コーワのPROMINAR 8.5mm F2.8など一部の製品では今も採用されています。

大口径超望遠レンズでは、レンズもフードも非常に大きくなるため、レンズやカメラを片手で持って片手でフードを取り付けるというようなことは普通しません。

そこで、大きな丸形フードをレンズ鏡筒の外側にかぶせるようにして、横からノブを回して締め付けるようにしているのがかぶせ式レンズフードというわけです。

ちなみにかぶせ式レンズフードもその多くが逆付け可能になっており、順付けしている場合よりも全長を短くして持ち運ぶことが可能です。

■レンズフード選びの際の注意点


レンズフードは口径や長さがレンズに適合している必要がある

レンズフードはそのレンズに適合したものを使用しないと、レンズフードが長過ぎればケラレが発生しますし、逆に短か過ぎれば有害光をカットする遮光効果が期待出来ません。

そのためレンズフードには汎用のものもありますが、よりレンズに最適化さているという意味で、純正の専用レンズフードを使用するのが一番確実な選び方です。

クラシックレンズなどで純正品や専用品の入手が困難な場合は、使いたいレンズのフィルター径や焦点距離に対応しているかどうかを確認した上で、汎用品を購入するのも良いでしょう。

良くあるパターンとして、「専用のレンズフードが丸形フードなのが嫌で、花形フードを使いたいから」というような見た目上の理由で、本来対応していない花形フードを無理やり使用しようとする方がおられますが、おすすめとは言えません。

一応はそのレンズ用ではないレンズフードであっても、「ケラレが発生する位置を削る」といった方法で、「見た目とレンズフードとしての機能性を両立する」というようなことは可能であり、実際カメラマニアは自作や既存の製品に改造を施して、オリジナルのレンズフードを作ることもあるのですが、勿論自己責任となるため、一般的には素直にそのレンズの専用レンズフードを使用するのが良いでしょう。

また魚眼レンズや超広角レンズなどでは、最初から固定式のレンズフードが組み込まれていたり、そもそもレンズフードを付けられないという場合もあります。

レンズフードは自己責任で改造する場合もある

先ほどご紹介した「見た目上の理由」から花形レンズフードなどを製作する場合だけでなく、性能上の理由からレンズフードに改良を施す場合もあります。

例えば超望遠レンズなどの非常に画角が狭いレンズでは、実際にはかなりレンズフードを伸ばしてもケラレないのですが、純正レンズフードは強度や携帯性など、実用性を考慮した長さで設計されています。

逆に言えば、そうした純正レンズフードに更に黒紙などを巻いてレンズフードを延長し遮光性能を上げるということが可能です。

またレンズフードは内側が、

  • ツルッとした素材のもの
  • 溝付き加工(遮光壁と呼ばれる細かい段)が付いているもの
  • 艶消しの黒塗り塗装がされているもの
  • 植毛加工がされているもの

などがあります。

ツルッとしたものはフードの内側で反射が起こりやすいため、後から光沢のない植毛シートなどをレンズフード内側に貼り付けることでレンズフード内側での光の反射を低減することも可能ですが、植毛シートをレンズフードの形に綺麗に切ったり貼ったりするのはそれなりの器用さを必要としますし、植毛シートの細かい繊維がホコリとして発生する場合もあります。

また植毛シートを貼り付けるといった加工は、実際にかかる手間ほどの「劇的な効果」が期待出来るわけではありません。

■ハレ切りのメリット


ハレ切りはフレアやゴーストを防ぐ効果がある

レンズフードのことではありませんが、レンズフードと同じくレンズに当たる有害光をカットし、フレアやゴーストを防ぐ目的で行われるのが「ハレ切り」です。

ハレ切りは、撮影画角外からレンズに当たる不要な光を、

  • 帽子
  • 黒い下敷き
  • 黒傘

などを様々なものを利用して遮光効果を得るもので、適切に行うことでレンズフードよりも高い効果を見込めます。

ちなみに「ハレ切り」は「ハレーション切り」を略したもので、「晴れ切り」という意味ではありません。

ハレーションはレンズフレアやゴーストと異なり、フィルム特有の現象であるため、本来「デジタルカメラでハレ切り」というのも語源を考えるとおかしいような気もしますが、レンズフレアやゴーストを防ぐという点で、デジタルでもハレ切りは非常に有効な手段です。

ハレ切りはズームレンズの画角に合わせて位置を変えられる

なぜレンズフードがあるのにハレ切りを行うのでしょうか?その理由としては、

  1. ズームレンズの望遠側に対応するため
  2. レンズから離すほど広範囲の有害光をカットできるため

というようなメリットがハレ切りにはあります。

まず「ズームレンズの望遠側に対応するため」という意味ですが、ズームレンズでは、レンズフードによるケラレが発生しないようにすると、画角の広い広角側に合わせなければならないため、望遠側では十分なレンズフードの深さがなく、大きな遮光効果が見込めません。

対してハレ切りであれば、広角側でも望遠側でもケラレが発生しないようにライブビューなどで確認しながらギリギリの位置で有害光をカットする事が可能です。

そのため、ズームレンズの望遠側でハレ切りを行うことで、レンズフードよりも高い効果が見込めます。

ハレ切りはレンズフードよりも広範囲の有害光をカットできる

次にハレ切りの2つめのメリットして、「レンズから離すほど広範囲の有害光をカットできる」という点ですが、ハレ切りは、

  1. 可能な限り大きな物を使い
  2. 可能な限りレンズから離れた位置で
  3. ケラレが発生しない限り撮影画角ギリギリで

行うと、ハレ切りはより高い効果を発揮します。

2の「可能な限りレンズから離れた位置で」というのはあまり知られていないように思います。

なぜレンズから離れた位置の方が良いか?というのは、本当は図を書くと分かりやすいのですが、図を作るのが面倒なので言葉で説明させて頂きます。

例えば「単焦点レンズで撮影しながら、黒い傘を使ってハレ切りを行っている」という状況を考えてみて下さい。

この黒傘が「レンズにピッタリとつけた状態」であったとすると、ケラレが発生しないようにするには傘はどの程度前に出せるでしょうか?

傘がレンズにピッタリと付けた状態では、結局「レンズフードと同じ程度」にしか前に出すことが出来ません。それ以上前に出すとケラレてしまうからです。

それでは折角ハレ切りをしているのに、レンズフードを付けているのと同程度の遮光効果しか生まないのですから、「そもそもハレ切りを行うメリット自体が無い」ということになります。

「ハレ切りの位置が遠くても近くても、カットできる有害光の入射角度の範囲は同じではないか?」という思われる方もおられるかも知れませんが、実はそれは勘違いなのです。

ハレ切りはレンズから離れた位置にあるほど、より広範囲の角度からレンズに当たる有害光をカットできるのですが、実はこれはレンズフードでも同じことで、レンズフードの直径が大きく外側にあるほど、よりフード部分を深くしてもケラレにくくなり、かつレンズフードとしての効果を高めることが可能です。

ですから、ハレ切りを行う場合は、出来るだけ傘をレンズから離して、ケラレない画角ギリギリの位置でハレ切りを行うのです。

理屈が良く分からないという場合は、レンズの絵とそこに仮定の撮影画角の線を引いてみて、さらにその撮影画角を示した線に対して、(ケラレない)ギリギリの長さで、

  1. レンズの直径と同じ径のレンズフードの線
  2. レンズの直径よりも大幅に大きい径のレンズフード線

を引いてみて下さい。

その上で、「撮影画角外だがレンズには当たる有害光の線」を引いてみましょう。

すると、直径が大きく長いレンズフードの方が直径が小さく短いレンズフードよりも、より広範囲からの有害光をカット出来るというのがお分かり頂けると思います。

実際のレンズフードの場合は、可搬性や強度など実用性の問題から極端に大きくは出来ないのですが、ハレ切りであればその場限りの物ですから、レンズフードよりも大きな傘などをレンズから離して使用することが出来るので、フレアやゴーストをレンズフードよりも強力に防ぐことが出来るというわけです。

実はレンズフードの中にも、逆付けで必要な分以上に直径を大きくしてフードを外側に広げているものがあるのですが、これもより遮光性能を上げるための工夫であり、その理屈はハレ切りと同じです。

例えばPROMINAR 8.5mm F2.8などがその一例です。

つまり、よりレンズから離れた位置にあるほどより深く大きな物で遮光出来、有害光をカットする性能も上がるという訳です。

ハレ切りのやり方

上の写真はBSジャパンの「写真家たちの日本紀行」のワンシーン、 有名な風景写真家の米美知子さんの撮影風景ですが、流石に見事なハレ切りで、

  • 目一杯腕を伸ばして出来る限りレンズから遠い位置で
  • ケラレない範囲で可能な限り撮影画角に近い位置で

ハレ切りを行なっています。これがハレ切りのお手本です。

またハレ切りは強い光源が撮影画面の近く(※撮影画面の中にある場合は効果がありません)にあるような環境では、太陽だけでなく人工光源の場合でも有効です。

ですから日中の風景撮影などは勿論のこと、夜景撮影などで強い人工光源が画面付近にあるような場合にも、ハレ切りを行うことでフレアやゴーストを防げるため、そうしたシチュエーションでは是非ハレ切りを試して頂ければと思います。

というわけで、今回は「レンズフード」と「ハレ切り」について解説させて頂きました。

画像:Amazon

Reported by 正隆