LUMIX S1/S1Rは三軸チルトではなくバリアングルにすべきだったのか?

LUMIX S1/S1R三軸チルトモニター

チルト・バリアングルモニター議論ファンの皆さんこんにちは。

LUMIXと言えばその高い動画性能から、動画撮影用途として高い評価を受けてきました。

特にLUMIX GH5/GH5SなどのGHシリーズは、ムービーカメラマンやユーチューバーにも広く使われています。

パナソニック初のフルサイズミラーレス機となるLUMIX S1とLUMIX S1Rでは、自撮り撮影に対応していないタイプの三軸チルトモニターを採用してきました。

そこで今回は、LUMIX S1/S1Rで三軸チルトモニターを採用したパナソニックの判断は正しかったのか、あるいは間違っていたのかについて考えてみたいと思います。

■三軸チルトモニターのメリットとデメリット


LUMIX S1/S1Rの三軸チルトモニターのメリット

LUMIX S1/S1Rで採用されているような三軸チルト式のモニターは、上下チルト方式のモニターと異なり縦位置撮影でもモニターを見やすいように向けられるというメリットがあります。

バリアングルモニターと比較した場合には、縦位置でも横位置でもレンズ後方の光軸上でモニターを動かせるようになっているため、レンズの向きとモニター位置のズレを感じにくくなっています。

さらにモニターの角度を変える際、バリアングルモニターのように一旦横に開く必要がないため、ワンアクションで素早くモニターの角度を変えられるのも特徴となっています。

LUMIX S1/S1Rの三軸チルトモニターのデメリット

LUMIX S1/S1Rが採用する三軸チルトモニターの弱点としては、ヒンジ構造が複雑になってしまうという点、またカメラフロント側に向けられないために、自撮り対応していない点にあります。

α99 IIα77 IIなど一部の三軸チルトモニターは自撮り対応していますが、そうしたカメラ上部あるいは下部にモニターを出すタイプの三軸チルトモニターは、ホットシューに付けたマイクや三脚と干渉してしまうため、動画の自撮り撮影時にはバリアングルモニターと比較して不利な場合があります。

バリアングルにもモニターを横に開いた時にケーブル類と干渉し易いという問題もあるのですが、そもそもLUMIX S1/S1Rの三軸チルトモニターは、(少なくともプロトタイプ機は)カメラ前面側にはモニターを向ける事が出来ない仕様となっています。

この自撮り非対応という点が、LUMIX Gシリーズで動画撮影を重視していた層にネガティブ要素として扱われていることがあるというわけです。

■パナソニックは三軸チルトとバリングルどちらを採用するべきだったのか?


現在のLUMIXのモニター形式

パナソニックは現行の9機種のうち、

以上の5機種でバリアングルモニター(フリーアングルモニター)を採用しており、その他は上下チルトモニターを採用しています。

当然パナソニックにはバリアングルモニターのノウハウは十分にあるわけですから、バリアングルモニターではなく三軸チルトモニターを採用したのはパナソニックの明確な意図があるはずです。

LUMIX S1/S1Rはなぜバリアングルではなかったのか?

パナソニックは「LUMIX S1/S1Rはプロ機としての位置付けであり、小型軽量よりも使い易さや堅牢性を重視した」と言っています。

しかし複雑なヒンジ構造を持つ三軸チルトモニターがバリアングルモニターと比較して堅牢性において構造上有利とは考え難く、むしろ三軸チルトモニターで堅牢性を担保することは大変だっただろうと思います。

しかし三軸チルトモニターを採用したことによって、

  • ワンアクションで角度調整ができる
  • レンズの向きとのズレがない

などの特徴を得ています。

パナソニックがLUMIX S1/S1Rで作り慣れたバリアングル式ではなく、また自撮り撮影に非対応の三軸チルト式を採用したのは、「LUMIX S1/S1Rが静止画撮影に軸足を置くモデルである」というアピールのように思います。

動画性能の高評価と市場シェアの苦戦

勿論パナソニックは動画用途としてのLUMIX Sシリーズを捨てたわけでは無く、いずれは動画撮影に特化したモデルも出してくるとは思いますが、LUMIX Sシリーズの第一弾となるLUMIX S1/S1Rでは、動画性能を最大の売りにはしてきませんでした。

GHシリーズはその高い動画性能と自撮り撮影に対応したバリアングル液晶によって、多くのユーチューバーにも取り上げられ、また愛用されてきましたし、そうした反響はパナソニック自身も当然把握していたはずです。

しかし動画品質や自撮り撮影の強さが高く評価されながらも、パナソニックの市場シェアは年々落ち込んでいきました。

その原因は一つではありませんが、LUMIX Gシリーズで早い段階から売りにしていた動画性能と、GHシリーズの成功によって一眼動画のイメージがLUMIXシリーズに付き過ぎてしまったことも一因であったと思います。

パナソニックが自撮り用途を切り捨てでも目指すもの

また、週刊ダイヤモンドのインタビューの中でパナソニックアプライアンス社長の本間哲朗氏は、以下のように答えています。

“カメラ業界が今後、フルサイズミラーレスに急速にシフトするのは明白だったし、市場で伸びるのはここしかない。ここで投資しないことはカメラ事業からの撤退を意味する。かなり長く議論をしたし、一時期そのためカメラの投資を中断していたこともあった。”

これはストレートに言えば、「マイクロフォーサーズだけではLUMIXは生き残れない」とパナソニック自身が認めているということでしょう。

GHシリーズは一眼動画需要で大きな成功を納めたと思いますが、それでも生き残れないのですから、LUMIX Sシリーズで再び動画性能をアピールし過ぎるのは愚かな選択だろうと思います。

LUMIX S1/S1Rはバリアングルモニターを採用しなかった事についてユーチューバーなど一部からは批判的な声も聞かれますが、一眼動画では(成功してなお)生き残れないと判断したのですから、違う方向性をアピールしていく、あるいはターゲットを広げるためのコンセプトを打ち出すのは企業として当然の判断であり、むしろここで最初から一眼動画を売りにするようではLUMIXの未来は相当暗いでしょう。

結局LUMIX S1/S1Rの三軸チルトは良かったのか悪かったのか?

もっとも、静止画撮影をアピールすればそれだけで生き残れるというというような甘いものではないわけですが、新しいユーザー層を開拓していくために、静止画を重視した結果、LUMIX S1/S1Rが三軸チルトを採用したことは必然の流れでしょうし、私は良い判断だったと思います。

また、バリアングルモニターを求めているファンにもパナソニックは今後動画重視のモデルで別途応えていくのではないでしょうか。

参考:週刊ダイヤモンド
画像:YouTube

Reported by 正隆