フォトマスター検定の予想問題です。合格目指してさっそく問題です!フォトマスター検定勉強法も掲載しています。
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合格目指してさっそく問題です!
難易度:1級レベル
問:レンズの反射を防止しフレアやゴーストを軽減するために施す反射防止コーティングに、ARコート(Anti Reflection Coating)がありますが、フッ化マグネシウム(MgF2)などを使った一般的なARコーティングなどの場合、なぜ表面反射が減り透過率が上がるのか?最も近いと思われる理由を次の中から選べ。
①コーティングによってレンズ表面の平滑性が上がり、乱反射を抑えるため
②コーティングは空気とレンズの中間の屈折率を持っており、レンズへの入射光を緩やかに曲げながら導く効果があるため
③コーティングはレンズ面とは逆位相の光の反射を起こすことで反射を打ち消すため
正解はこのあとすぐ!
■正解は③(コーティングはレンズ面とは逆位相の光の反射を起こすことで反射を打ち消すため)
反射防止コーティングがないとどうなる?
まず先にレンズコーティングの基本的な効果をご説明させて頂くと、レンズはコーティングをしていない状態だと反射により1面(レンズの片面)に付き4%程度透過率が落ちます。言い換えると96%程度の光が透過していきます。
1枚のレンズには裏表で2面空気との境界面があるため、1枚のレンズを透過する間に光は2回の反射を起こし、0.96 × 0.96=0.92となり、約92%が透過していきます。
これが仮に5枚のレンズを使用した写真用レンズがあるとすると、0.96^10≒0.665、つまり約66.5%の光がレンズを透過していくという訳です。わずか5枚のレンズでも元の光の1/3程度が目減りしてしまうというわけです。
まして、ズームレンズなどではレンズ構成が20枚を超えるようなものさえあります。
反射防止コーティングを行うとどのくらい反射を抑えられる?
そこで反射防止コーティングを施すわけですが、反射防止コーティングを行うと、単層コーティングの場合で1面当たり98.5%程度、多層膜コーティングで現在は99.5%程度まで透過率を上げることが可能です(また今後はよりコーティングが進化し透過率を上げられるでしょう)。
レンズ1面の透過率 | レンズ1枚(2面)の透過率 | レンズ5枚(10面)の透過率 | レンズ20枚(40面)の透過率 | |
コーティングなし | 約96.0% | 約92.0% | 約66.5% | 約19.5% |
単層コーティング | 約98.5% | 約97.0% | 約86.0% | 約54.6% |
多層膜コーティング | 約99.5% | 約99.0% | 約95.1% | 約81.8% |
このようにレンズの構成枚数が増えるほどコーティングがあるかどうかの差は顕著になっていきます。
■なぜ反射防止コーティングは反射を防げるのか?
逆位相の波長の光を当てる反射防止コーティング
レンズ表面にコーティングの薄い膜が増えると、光はコーティングの膜表面で一度反射し、コーティングを透過した光はレンズ表面でもう一度反射します。
レンズコーティングは膜の厚さが光の波長の1/4になっており、レンズ表面で反射する光と逆位相の波となるように作られています。
ヘッドホンなどで、「ノイズキャンセリング」という機能を聞かれたことがあるかと思います。ある音の波に逆位相の音の波をぶつけるとその音を消すことが出来るというもので、周囲の騒音などを消すことができます。
レンズコーティングも同じような原理を利用しており、レンズから反射する光に逆位相の光を当てると、お互いの波長が干渉することで打ち消しあい反射光が消すことが出来るのです。
つまりレンズコーティングによる反射除去は「レンズの反射に対して、逆位相であるレンズコーティングからの反射をぶつけることで互いに光を打ち消し合う」という仕組みになっています。
まさに「毒をもって毒を制す」というわけです。
モノコートとマルチコート
また1層の単層コーティング(モノコートとも呼ばれる)では、すべての波長の反射を抑えることはできません。そのためさまざまの波長の光の反射をおさえるに、複数層のコーティングが必要になってきます。
より幅広い波長の光に対応した複数層のコーティングを施したものが多層膜コーティング(マルチコートとも呼ばれる)というわけです。この多層膜コーティングによって反射をかなりの部分軽減することが可能になります。
■なぜ反射する光を消すと透過する光が増えるのか?
なぜ透過率は上がるのか?
しかしここで一つ疑問が生まれます。
逆位相の光でレンズの反射を打ち消すことができるということは説明させていただきましたが、なぜコーティングを施すことでレンズの透過率まで上がるのでしょう。
レンズの反射を打ち消しフレアなどを低減できたとしても、その分の光が消えてしまうのならレンズを透過していく光の量が減衰していくことには変わりなく、透過する光が増える(透過率が上がる)のは不思議に思いませんか?
エネルギー保存の法則
実は打ち消しあった光は消えてしまうわけではありません。光は電磁波の一種であり、エネルギーを持っています。ここで学生時代に習った「エネルギー保存の法則」が出てきます。
仮にもともとは全体で100であった光がレンズ面とコーティングの反射で打ち消し合い、完全に消えてしまうとするなら、その打ち消しあったエネルギーは宇宙から消失してしまったことになります。
これはエネルギー保存の法則からありえません。つまり透過+反射の光(エネルギー)は元どおり100にならなければなりません。
反射光を本来の方向に流す
そのため反射光が消えるなら、その光(エネルギー)は消失するのではなく反射と逆方向、つまり本来通過して欲しかったレンズ方向へと流れていくというわけです。結果、レンズを透過する光の量が増えるというわけです。
これを簡単に言うとすれば「反射するはずだった光が、コーティングによって反射出来なくなるのでレンズ側に逆流している」というイメージを持っていただければ良いのかと思います。
紆余曲折あり、こうして「反射防止コーティングによって反射率は下がり、反射するはずだった光がレンズを通っていくために透過率が上がる」というわけです。
■ナノ粒子膜コーティングの原理
選択肢②の解説
ちなみに選択肢の②は、NikonのナノクリスタルコートやCanonのSWC、SONYのナノARコーティングなどに代表されるコーティングの原理の解説ですが、問題文にある「フッ化マグネシウム(MgF2)などを使った一般的なARコーティング」とはその原理が違いますので不正解です。
革新的発想から生まれたナノ粒子膜コーティング
では次に現代の最新反射防止コーティングテクノロジー、ナノ粒子膜コーティングの原理をご説明します。
光は違う性質のものにぶつかったときに曲ります。その曲る角度は「屈折率差」で決まります。屈折率が大きく異なるほど曲がる角度は大きく、その際に強い反射が起こります。
逆に屈折率差が近いものであれば反射も小さいということになります。
粒子の間に空気を含んでいるナノ粒子膜は、空気と膜を構成する物質との中間的な性質を示します。
空気と混合した状態をつくることで、実際の膜の素材としての屈折率ではなく、見掛け上の屈折率を下げることができるのです。
例えばコンタクトレンズは空気中ではキラキラと反射するため目に見えますが、水中に漬けると殆ど見えなくなります。これは水とコンタクトレンズの屈折率が近いために起こる現象です。
ナノ粒子膜のコーティングもこれと同じ発想で作られており、空気とレンズの中間の屈折率を持っているため光を緩やかに曲げるために反射を抑える効果があるというわけです。
ちなみにナノ粒子膜を使用した写真用レンズのコーティングには、以下のようなものがあります(※記事執筆時)。
- Nikon:ナノクリスタルコート
- Canon:SWC
- SONY:ナノARコーティング
- OLYMPUS:Z Coating Nano
- Panasonic:ナノサーフェスコーティング
- RICOH:エアロ・ブライト・コーティングII
画像引用:ケータイWatch
Reported by 正隆