カメラファンの皆さんこんにちは。
果たして不況のカメラ業界、未来まで生き残れるメーカーはどこなのでしょうか?
遂にカシオがデジタルカメラ事業からの撤退を発表したことで、カメラファンの中にも「次はどこなのか?」という戦々恐々とした空気が漂っています。
そこで今回は、各カメラメーカーが抱える問題点と将来性について考えてみたいと思います。
【目次】
- 各カメラメーカーのカメラ事業の現在
- 各メーカーのイメージング事業の売上高と営業利益の比較
- 決算資料を見る際の注意点
- キヤノンの問題点と将来性
- 勝ち続ける世界最大のカメラメーカー
- レンズ交換式カメラ市場におけるキヤノンの立ち位置
- キヤノンが抱える技術力という課題
- キヤノンは中間層を失っているのか?
- フルサイズミラーレスはEFかEF-Mか新マウントか?
- フルサイズミラーレス完全新規マウントの可能性もある?
- カメラ業界を最も理解しているメーカー
- キヤノンの強さはプロの気持ちにも初心者の気持ちにもなれること
- キヤノンは生き残れるのか?
- ニコンの問題点と将来性
- 名門は復活したのか?
- ニコンのブランディングの弱点
- ミラーレスという最大の課題
- フルサイズミラーレスは成功するのか?
- 一眼レフの今後は?
- ニコンは生き残れるのか?
- ソニーの問題点と将来性
- 現在カメラ業界の台風の目
- 高い技術力と低い写真撮影への理解
- α9から感じる、開発者の撮影経験の少なさ
- 現代においてプロフォトグラファーの市場を狙う意味
- ソニーは生き残れるのか?
- オリンパスの問題点と将来性
- 岐路に立たされるミラーレスの立役者
- オリンパスのカメラ事業の今
- 未だ燻り続けるセンサーサイズの選択
- 自ら「ベストバランス」と言ってしまったことの苦しみ
- オリンパスは生き残れるのか?
- パナソニックの問題点と将来性
- 苦境に立たされている先駆者
- あまりにも下手すぎたパナソニックの広告戦略
- 動画にパラメーターを振ったのは基本的には戦略ミスだった
- パナソニックは生き残れるのか?
- 富士フイルムの問題点と将来性
- 中判ミラーレスを抱える老舗
- 現在のXシリーズの閉塞感
- 富士フイルムは生き残れるのか?
- リコーの問題点と将来性
- リコーの今
- カメラでも「野武士のリコー」で耐えてきた
- カメラは性能よりもブランド力が物を言う
- 問題は次の手を打てなくなりつつあること
- リコーは生き残れるのか?
- 5年後、10年後、15年後生き残っているカメラメーカーはどこか?
- 5年後、10年後、15年後の存続確率予想
では早速、始めましょう。
※今回各メーカーのカメラ作りや販売戦略に関して批判的なことを多数書いているため、「特定のメーカーやシステムに強い愛着を持っておられる方」などは、気分を害される恐れがあるため、読まないことを強くお勧めします。
■各カメラメーカーのカメラ事業の現在
各メーカーのイメージング事業の売上高と営業利益の比較
まずは現在のカメラメーカー各社の、イメージング事業(またはデジタルカメラ事業)の売上高と営業利益がどのようになっているのかについて、決算資料を基にご紹介します。
カメラメーカー各社のイメージング関連事業の売上高と営業利益 | ||
メーカー | 売上高 | 営業利益 |
キヤノン | 6,670億円 | 不明 |
ニコン | 3,607億円 | 302億円 |
ソニー | 6,559億円 | 749億円 |
オリンパス | 603億円 | ▲12億円 |
富士フイルム | 3,830億円 | 560億円 |
リコー | 2,047億円 | 100億円 |
決算資料を見る際の注意点
上記の票を見る際には、以下のようなことに注意して頂ければと思います。
- キヤノン:売上高に関してはデジタルカメラとインクジェットプリンターで分類掲載されており、デジタルカメラ事業のみの金額となっていますが、営業利益はプリンターを含めたイメージング事業で合算されているため「不明」としています。また、キヤノンは12月決算となっており、同じ1年間でも1月1日〜12月31日と、他社とは期間がやや異なります。
- ニコン:イメージング事業にはレンズ交換式デジタルカメラ、コンパクトデジタルカメラや交換レンズなどを含みます。
- ソニー:イメージング事業のセグメントには、デジタルカメラ事業だけでなく、高いシェアを誇るビデオカメラ事業なども含まれています。
- オリンパス:ICレコーダーを含む金額となっています。また、中国生産子会社操業停止と生産拠点の再編に伴う費用を計上したことが大きく影響しており、中国生産子会社操業停止の影響を除けば2期連続の営業黒字を達成しているとのこと。
- パナソニック:パナソニックは他のメーカーとセグメントが大幅に異なるため、デジタルカメラ事業(あるいはイメージング事業)で抽出することが出来ないため未掲載としています。
- 富士フイルム:富士フイルムのイメージング事業には、2017年年間で770万台販売した「インスタントカメラ チェキ」やチェキ用フィルムなどが含まれています。
- リコー:デジタルカメラ事業は決算資料では、「その他分野」というセグメントであり、デジタルカメラの他にも「光学機器・電装ユニット・半導体・デジタルカメラ・産業用カメラ・3Dプリント・環境・ヘルスケア等」など多数含まれています。
今回取り上げるようなカメラメーカーはいずれも大企業であることもあり、「イメージング事業」や「映像事業」といったセグメントになっていることが多くあります。
そのため、キヤノンの売上高とニコンに関しては概ねデジタルカメラ関連事業の金額となっていますが、他のメーカーは、「ビデオカメラ」「インスタントカメラ」「ICレコーダー」などが含まれるケースが多く、純粋な意味での「デジタルカメラ事業」よりも多少範囲が広いものとなっています。
そのため、この表は完全にデジタルカメラ事業のみの金額になっているわけではないということに注意してください。
また、より詳細に見ていけば、各メーカーがどこかしらにデジタルカメラ事業のみの決算資料を出しているかも知れませんので、ご興味のある方は各自お調べ頂ければと思います。
■キヤノンの将来性
勝ち続ける世界最大のカメラメーカー
現在カメラ業界で最大のシェアを持つメーカーであるキヤノンは、レンズ交換式カメラ市場全体だけでなく、EOS Kiss MなどミラーレスでもKissブランドを投入することで、シェアを着々と伸ばしています。
カメラ業界全体の不況はキヤノンに対してのみの問題ではありませんから、それを除外すると、キヤノンのカメラ事業は実に淡々と好調を拡大していると言えます。
キヤノンのイメージング事業の売上高と営業利益(※12月決算) | |||
2016年(通期) | 2017年(通期) | 前年比 | |
売上高 | 6,670億円 | 7,028億円 | 358億円 |
営業利益 | 不明 | 不明 | 不明 |
決算情報では、「売上高」は参考資料にてイメージング部門の中でも、
- デジタルカメラ
- インクジェットプリンター
- その他
上記の3部門で分離した金額が出されていたため、「デジタルカメラ事業」のみを対象として金額を出していますが、「営業利益」に関しては、イメージング事業で合算されてしまっていたため不明としています。
また、キヤノンは会計期間が1月1日〜12月31日までとする12月決算であるため、同じ1年間でも、他の3月決算(4月1日〜翌年3月31日)の企業とはやや期間が異なります。
この決算資料からも分かるように、キヤノンのカメラ事業は増収増益しています。
レンズ交換式カメラ市場におけるキヤノンの立ち位置
一眼レフカメラ市場はキヤノンとニコンで市場シェアの殆どを持っており、さらにキヤノンは2位のニコンに対しても明確に上回る市場シェアを獲得しています。
ミラーレスが市場シェアを伸ばしているとは言っても、一眼レフの出荷台数は今尚ミラーレスの2倍近い数量であり、その中で圧倒的なトップシェアを誇るということは、キヤノンのカメラ業界での存在感の大きさの一因となっています。
また、ミラーレス市場においてもそのシェアを着々と伸ばしており、商業的には将来的にミラーレスがレンズ交換式カメラの主流になったとしても、トップブランドであり続けるための準備を着々と進めており、その販売戦略に死角は見えません。
キヤノンが抱える技術力という課題
対して技術力に関しては、「シェアの高さほどには」他社に対するアドバンテージがなく、特にイメージセンサーに関しては、デュアルピクセルCMOS AFなどの独自の技術はあるものの、画質面などの基本性能では他社に遅れをとっています。
また、
- イメージセンサーは他社に依存するべきではない
- 自社内のイメージセンサー事業の都合で出来ない
といった理由はあるにせよ、「画質さえも数値化して比較される時代」においては気になる部分でしょう。
近年のデジタルカメラでは、画質のみならず機能的な部分においてもがイメージセンサーに依存する部分が増えており、これはキヤノンがもつデュアルピクセルCMOS AFもそうした技術のうちの一つですが、イメージセンサーの技術で差を付けられているということは、画質のみならず機能面でも差を付けられやすい状況にあると言えます。
しかし、キヤノンのセールス状況を見ると、こうしたものがシェアに影響しているようには殆ど見えません。
キヤノンは中間層を失っているのか?
写真業界の人口は以下のようなピラミッド構造になっています。
- プロフォトグラファー(少数)
- ハイアマチュア/カメラマニア(多数)
- アマチュア(大多数)
勿論これは、単純な人口比の話です。
キヤノンが高い支持を得ているのは、このうちの「プロフォトグラファー」と「アマチュア」の層であり、中間層となる「ハイアマチュア/カメラマニア」は、近年のキヤノンに対してやや批判的です。
かつては、例えば、
- プロフォトグラファーがキヤノンを使う
- それに憧れて写真愛好家やカメラマニアもキヤノンを使う
- 写真愛好家やカメラマニアに相談したアマチュアがキヤノンを勧められて買う
という一種のトリクルダウン理論ような流れがありました。
しかし、近年そうした流れは弱まっており、「プロカメラマンが使っているから」というような理由で、写真愛好家やカメラマニアが盲目的にそのブランドを礼賛するということは減ってきたように思います。
こうした流れが起きた理由として、
- プロカメラマンが使っていようが使っていまいが、自分の写真には関係ないという冷静さをユーザーが持つようになった
- プロカメラマンも広告塔としてビジネスでそのカメラを宣伝しているに過ぎないという現実を知った
- 印象論ではなく機械的な計測による評価を主体とする海外のカメラ系レビューサイトが台頭してきた
というような点があるように思います。
こうしたカメラ業界の動向に敏感な写真愛好家やカメラマニアといった中間層は、ネット上の口コミサイトなどに熱心に書き込む層でもあり、加えて初心者にとって、「身近にいるカメラに詳しい人」であるケースも多いため、カメラ購入時の相談を受けることも多い層です。
こうした中間層が近年のキヤノンに対して批判的であることが、今後どのような影響をもたらすのかは、キヤノンにとって一抹の不安要素と言えるでしょう。
ただ、これも正直「キヤノンに不安要素はないだろうか?」と何とか考えた結果に過ぎず、実際には撮影地に行けば相変わらずキヤノン機を多くの写真愛好家が使っている現実を見れば、本当に中間層に逃げられているのか?というのは疑問であり、それほどキヤノンの販売戦略には隙が見つからない、というのが正直なところです。
フルサイズミラーレスはEFかEF-Mか新マウントか?
キヤノンに今後大きな転換期があるとすれば、やはりミラーレスシステム関連でしょうが、その中でも最大の関心事は、「フルサイズミラーレス機でどのマウントを採用するのか?」という点だと思います。
選択肢としては恐らく3つあり、
- EFマウント
- EF-Mマウント
- 新規マウント
であるかと思いますが、個人的にはEF-Mマウントではないかと思っています。
しかし、フルサイズミラーレスをEF-Mマウントで行う可能性に関しては否定的な意見もあり、そうした意見の根拠の一つとして、以前、デジカメWatchにて行われた、キヤノンの開発者インタビューでの以下のやりとりが挙げらケースがあります。
デジカメWatch:EF-Mマウントは例えば35mmフルサイズセンサーなど、APS-Cサイズよりも大きなセンサーにも対応できますか?
キヤノン:それはできないと思います。相当おかしなことをやれば物理的に入らないとは言いきれませんが……。周辺光量が相当落ちるとか、像がどうなるかわからないといったレベルですね。
つまり、キヤノンの開発者は、「EF-Mマウントでフルサイズセンサーを搭載するのは難しい」と回答してるわけです。
しかしこれは恐らく嘘だろうと思っています。
と言うのも、このインタビューはAPS-C機のEF-Mマウント初号機であるEOS Mの発売前となる2012/8/10に掲載されたものであり、この時点で「フルサイズも可能です」と言ったのでは、遠からずフルサイズ判が出ると思われて、当分売っていくはずのAPS-C機の買い控えが起こる事が目に見えています。
また、EF-Mマウントのマウント内径がソニーEマウントとほぼ同等であることを考えれば、物理的にはフルサイズ対応は可能であるはずですし、それはキヤノンの技術者も遠回しに「物理的に入らないとは言い切れませんが…。」とそれを認めています。
もしも実際にEF-Mマウントでフルサイズ機を出した際には、例えば、「当時は難しいと考えていましたが、レンズ開発とイメージセンサー技術の進歩によって問題解決の目処がつきました」、とでも適当に言っておけば済むことです。
またもし本当にAPS-Cセンサーまでしか想定していないのであれば、そもそもEF-Mマウントの口径をあそこまで大きくする必要はないでしょうから、将来的にフルサイズも見越してのマウント設計であると考えるのが妥当であるように思います。
フルサイズミラーレスは完全新規マウントの可能性もある?
しかしキヤノンの現在のEF-Mレンズのラインナップのやる気の無さを考えると、全く新しいマウントで出してくる可能性も無いとまでは言い切れません。
既にかなりのシェアのあるEF-Mマウントを捨てることは、キヤノンといえどもかなりのリスクを背負った決断となりますが、ニコンのフルサイズミラーレスの動向なども含めて、将来を見越してその方が良いと決断すれば、フルサイズミラーレスで新マウントを採用する可能性もあるでしょう。
ただし、既存の一眼レフ用のマウントのままミラーレス化してお茶を濁すといった方針は、既に他社が失敗してきた道でもあり、キヤノンはそれほど先見性のないメーカーではないでしょう。
ですから、少なくともEFマウントのままをミラーレス化するというのは可能性として非常に低く、将来性を考えれば良い判断とも言えないため、あるとすればEF-Mもしくは完全新規マウントでしょう。
重要なのは、「コロコロと新マウントを作る」という、ある意味では迷走とも言える展開であったとしても、キヤノンにはそれをやる余力がある、それをやっても人がついてくるブランドであるということです。
カメラ業界を最も理解しているメーカー
現在のキヤノンの弱点の一つは、先にも申し上げたようにイメージセンサーの画質面での他社との差が認知されていることですが、実写撮影ではカメラやレンズの100%の画質性能を出すのは相当条件を選ぶため、実際にはプロレベルの撮影でもキヤノン機の画質は十分な性能を持っており、それは最大数を誇る一般層にとっては言わずもがなでしょう。
また、キヤノンというメーカーは、カメラ業界について最も深い理解を持っているメーカーだと思っています。
- どこに注力すれば実用的なカメラになるのか?
- どのようなカメラがプロフォトグラファーと大多数の一般層に求められているのか?
- どのような売り方をすれば売れるのか?
キヤノンは、これらを本当に良く分かっています。
キヤノンの強さはプロの気持ちにも初心者の気持ちにもなれること
先日発売したオートバウンスを実現したクリップオンストロボ、スピードライト 470EX-AIは、正直言って今の所は積極的に使いたくなるほどの完成度には達していません。
しかし、ああしたアイデアは(ソニーのクイックシフトバウンスがその着想の切っ掛けにあったとしても)実にキヤノン的であり、素晴らしいアイデアであるとも思います。
つまり、バウンス発光をする際、ある程度の経験者になると、「縦位置と横位置で、発光部の向きが同じになるように動かす」という操作に薄っすらとしたストレスや煩わしさを感じつつも、「ストロボとはそういうものだ」と無意識に妥協しているわけです。
そして、カメラに詳しい人ほど、そうした機材の不便さに鈍感です。
それは言うなれば、「本当は自分に合っていないサイズの服を、我慢しながら着ることに慣れてしまっている」というような状態です。
またカメラ業界自体が初心者に対して、
- カメラを勉強しましょう
- 使いこなせるように練習しましょう
というような、間違った風潮があります。
これは、モデルにしか着こなせいないような服ばかり作っている服屋がお客さんに対して、「うちの服を着こなせるようにセンスを磨きましょう」とか、「もっとモデル体型になりましょう」と言っているようなもので、そもそも馬鹿げたことです。
道具は使う人に合わせて洗練されるべきであり、道具のために人に修練を求めるのは間違いです。
確かにキヤノンは「一番高性能なカメラを作っているメーカー」ではありません。
しかし、一番オシャレな服を売っている服屋よりも、一番多くのお客さんのニーズに合った服を売っている服屋の方が売れるように、キヤノンは現時点で最もお客さんのニーズを理解し、それに合わせてカメラを作る事が出来る稀有なメーカーなのでしょう。
これはプロフォトグラファーに対しても初心者に対しても同じで、キヤノンは、プロ機にはプロの要望を的確に組み込み、エントリー機には初心者の心理を的確に読み解いて反映する、ということを徹底的してやるメーカーです。
こうしたお客さんのニーズを的確に把握しそれに応えている限り、キヤノンは安泰でしょう。
キヤノンは生き残れるのか?
圧倒的なシェアとブランド力、既にミラーレス市場にも対応し、シェアを拡大していることを考えれば、むしろキヤノンが生き残れない理由を探す方が難しいようにさえ思います。それほどキヤノンは強いのです。
「キヤノンは生き残れるか?」と聞かれれば、「キヤノンでダメなら、他のどのメーカーも生き残れないよ」と答えるでしょう。
■ニコンの問題点と将来性
名門は復活したのか?
ニコンは特に一昨年あたりまで、将来を不安視する声が多く聞かれました。その理由としては、
こうした点が挙げられ、「ニコンはもうダメなんじゃないか?」という空気がここ数年続いていました。
しかし、昨年のD850のヒットあたりからカメラ事業の業績が回復し、企業全体に復活の兆しが見られるようになりました。
実際にはこれはカメラ事業だけでなく、半導体露光装置やフラットパネルディスプレー(FPD)用露光装置の精機事業の営業利益が大幅に伸びた事、半導体需要の高まりを受けて、関連装置の保守・点検といったサービスが好調であった事も要因でした。
ニコンの決算資料では以下のようになっています。
ニコンのイメージング事業の売上高と営業利益 | |||
2017年3月期(通期) | 2018年3月期(通期) | 前年比 | |
売上高 | 3,830億円 | 3,607億円 | ▲223億円 |
営業利益 | 171億円 | 302億円 | 131億円 |
カメラ市場全体の不況から、2018年3月期の通期の売上高に関しては、カメラ市場の縮小の煽りを受けて減少していますが、営業利益は大きく伸びています。
ニコン復調の最大の原動力となったのは精機事業(FPD露光装置/半導体露光装置)の大幅な増益(134億円→533億円)ですが、企業として兆しを最も感じさせたのが、D850のヒットというのは実にニコンらしいと言えるでしょう。
ニコンのブランディングの弱点
近年のニコンは、カメラやレンズの性能においても、カメラシステムとしての充実度でも、競合メーカーであるキヤノンに遅れをとることはこれまでも殆どありませんでした。
しかし、実際のセールスではキヤノンに大きく差をつけられているのが現実です。
これは主にニコンのブランディングのミスによるもので、どうしてもニコンはキヤノンと比較して「重厚」とか「質実剛健」といったイメージが付きまとい、またニコンファンやニコン自身がそうしたイメージをより積極的に定着させてしまっています。
しかし、現代においてそうした部分は、「重苦しい」とか「古臭い」といったイメージにも繋がってしまっており、一部のカメラファンには受けても、圧倒的多数派である一般の方には、
- なんとなくかっこいい
- なんとなく現代的
という印象でキヤノンが選ばれやすい傾向にあります。
また、Fマウントに関しては、同じマウントを時代に合わせて改良を重ねた結果、レンズの互換性が、一見どれも付くように見えて、細かい制限の把握が非常に難解になっています。
これは(私も含めて)当のニコンユーザーのでさえ、殆どの人が完璧に答えることは難しいであろうというレベルの、恐らくは世界屈指の複雑なレンズ体系をもつマウントとなってしまっています。
これは既存のFマウントレンズユーザーを切り捨てないという考えが生んだある種のニコンの律儀さであることは否定しませんが、結果的にユーザーフレンドリーでなくなってしまっています。
また困ったことに、一部の熱烈なニコンファンの中には、こうした「Fマウントの複雑な互換性を理解していることを誇る傾向」さえありました。
こうしたファンの傾向は、ニコンをより保守的にさせ、結果的にジワジワとキヤノンとのシェアの差を広げてしまう要因の一つともなりました。
やはり「売る」という単純な目的においては、初心者でも分かりやすいシンプルなものほど良いのです。
メーカーに対してより良くなるための改革を促す、あるいはそれを後押しするというのがあるべきファンの姿であると思いますが、カメラファンというのは基本的に保守的な傾向が強く、それはニコンファンも同様です。
最近になってようやくニコンファンの中からも改革の声が出てきたといったところでしょう。
ニコンが抱えるミラーレスという最大の課題
とは言え、ニコンが現在抱える最大の課題はFマウントよりも、どうやって一眼レフからミラーレスへのバトンを渡すか?という点でしょう。
Nikon 1シリーズがシステムとして事実上終了していることや、Fマウントをミラーレス化しても売れないことが目に見えていることを考えれば、噂されているフルサイズミラーレス機は新マウントで、というのが妥当な考えでしょう。
ここで、「Fマウントでフルサイズミラーレス」というようなことをやっているようでは、ニコンに未来は全くないと思います。
むしろ、「ミラーレスの新マウントで、Fマウントの歴史に終止符を打つのだ」という位の気概(実際には一眼レフをやめる必要はありません)を持って、新世代のニコンを今後数十年背負っていける本気のマウントを採用できるか?という点に、ニコンの将来はかかっているでしょうし、実際に新マウントを採用してくるだろうとも思っています。
ニコンのフルサイズミラーレスは成功するのか?
ニコンのミラーレスに関しては好材料もあります。
Nikon 1はイメージセンサーのサイズなどから、本気のミラーレス機ではないと思われ、多くのカメラファンが「ニコンのミラーレスに期待するもの」ではなかったために、売れることはありませんでした。
余談ですが、個人的にはNikon 1 V1のデザインはトライダイヤルナビを採用したソニーのNEX-7と並んで、ミラーレス機のデザインの中でも最も先進性を感じさせるもので好きでした。
しかし、Nikon 1 V1は当時のクラカメ(的なデザインの)ブームとは全くかけ離れていたこと、NEX-7は何も表示のない上面2つのダイヤルの使いこなしが理解され難かったために、いずれも受け入れられることはなく、結局ソニーもその後はトライダイヤルナビを廃止してしまいました。
カメラファンは色々な意味でクラシカルなのでしょう。
それはともかく、実はNikon 1はカメラとしてはかなり先進的なシステムを搭載していました。
しかし、詳しい人にしか理解できない革新性を、イメージセンサーのサイズも含めて、どちらかと言えば初心者向けのコンセプトに搭載し、更におかしなメニュー体系にして搭載したために、結果的にどの層にとっても求めているものと異なる、あまりにもニッチなカメラとなってしまったのです。
しかし逆に言えば、Nikon 1は「技術力が無かったから失敗したのではなく、コンセプトが間違っていたから失敗した」、とも言えるわけです。
ですから性能だけで言うならば、ニコンのフルサイズミラーレス機は恐らく初期段階から、多くのカメラマニアが予想している以上のスペックを実現してくる可能性があると考えています。
そのため、一見フルサイズミラーレス市場でかなり先行しているように見えるソニーですが、これからソニーを追いかけることは、ニコンにとって技術力の面で、キヤノンにとっては販売力の面で、多くのカメラマニアがイメージしているほど難しいことではないように思います。
しかし、ソニー・ニコン・キヤノンの3社がフルサイズミラーレス市場で戦うことになれば、ニコンは、
- 非常に高い技術力を武器とするソニー
- 圧倒的な販売力をもつキヤノン
という強力な2社を相手にして戦わなければならないのですから、ニコンとしては例え順調にフルサイズミラーレス機を発売できたとしても、実際に売れ続けるためには相当な努力が必要なはずです。
またデザイン面や宣伝に関しては、ニコンはキヤノンほどのセンスはないため、そうした戦略も重要になってくるでしょう。
何よりも、ニコンの新しいミラーレスシステムが成功するかどうかは、ニコン自身がどれだけFマウントに対して冷徹になれるか、という点にも掛かっているのだろうと思います。
ニコン一眼レフの今後は?
次に現ニコンの主力、というか、長すぎるほど長い間主力であるニコンFマウントの今後についても考えてみたいと思います。
と言っても、実はFマウントに関しては、これまで言ってきたことと反するようですが、今後もキープコンセプトで良いのではないかと考えます。
理由としては、
- 現在でも一眼レフDシリーズはコンスタントに性能進化を実現出来ている
- 現ニコン一眼レフユーザーがDシリーズに大変革のような物を求めていない
- 新規に一眼レフマウントを開発するよりミラーレスの開発にリソースを割いた方が良い
といった点にあります。
今更一眼レフシステムで大変革を起こすより、ミラーレスシステムの方で存分に革新的なことにチャレンジする方が商業的にも効果的でしょう。
また、既に主流がフィルムからデジタルへと変わっていた2004年にF6を発売し、未だに継続販売しているニコンというメーカーなら、「上場企業として継続できる限界まで、Fマウントは継続してくれるはず」という信頼もあります。
違う言い方をすれば、ニコンがFマウントをやめるならば、その時にはKマウントやAマウントは勿論のこと、EFマウントさえも商業的な限界に達している可能性が高く、そこまで続けてくれるならば多くのFマウントユーザーも大きな不満は抱かないだろうということでもあります。
ニコンは生き残れるのか?
ニコンが今後カメラメーカーとして生き残れる可能どうか?という点ですが、勿論当面無くなるような心配は無用です。
先にご紹介したように、実際にニコンの映像機器事業の営業利益は、2017年3月期(通期)の171億円から、2018年3月期(通期)では302億円へと大幅増益しています。
つまり、ニコンにとってカメラ事業は今なお中核事業の一つであり、加えて2018年3月期は大幅な増益、2019年3月期の通期予想も約700億円と、今期よりさらに上を狙えると予想されています。
しかし、5年後、10年後のニコンのカメラ業界内での地位を考えた場合には、ミラーレスの新マウントが成功するかどうか?が非常に重要になるでしょう。
「ニコンが生き残れるか?」と聞かれれば、勿論で生き残れるが、今後の展望は真剣に考える必要がある、といったところでしょう。
■ソニーの問題点と将来性
現在カメラ業界の台風の目
「ここ数年カメラ業界に刺激を与えてきたメーカーはどこか?」と聞かれた時、多くのカメラファンがソニーを想起するのではないでしょうか?
ソニーはここ数年、イメージセンサーを中心とした圧倒的な技術力によって、画質面と機能面双方で他社をリードしてきました。
ミノルタから事業を受け継いだ時には、「家電メーカーのカメラ」というような中傷を受けることもままありましたが、今やソニーはカメラ業界において押しも押されもせぬ地位を築くことに成功したと言えるでしょう。
ソニーのイメージング事業の売上高と営業利益 | |||
2017年3月期(通期) | 2018年3月期(通期) | 前年比 | |
売上高 | 5,796億円 | 6,559億円 | 763億円 |
営業利益 | 473億円 | 749億円 | 276億円 |
ソニーのイメージング事業にはソニーが強いシェアを誇るビデオカメラも含まれているため、デジタルカメラの金額だけではないという注意点がありますが、それもでカメラ市場が不況の中で着々と増収増益を重ねている点は素晴らしいものがあります。
また決算上のセグメントが半導体部門であるためここにはその利益は反映されていませんが、現在ソニーは多くのカメラメーカーのイメージセンサーを生産していることから、フィルム時代の富士フイルムのような、「どこのカメラが売れてもうちは儲かる」というような夢のようなポジションを獲得しています。
半導体事業は競争が激烈であるため、現在大型のイメージセンサーにおいては非常に高いシェアを誇るソニーと言えども、将来的にどうなるかは分かりませんが、現在大型イメージセンサーの生産でソニーは非常に強い、という点に疑う余地はありません。
高い技術力と低い写真撮影への理解
現在のソニーに対して、その技術力の高さを疑う声ないでしょう。
それはイメージセンサーだけではなく、オートフォーカス性能、連写性能、さらにはレンズ性能においても非常に高い技術力を既に手にしています。
しかしやっぱりソニーは写真を撮る道具としてのカメラをまだ理解出来ていないとも思っています。
実は昔、α77やNEX-7などが発売される前、私はα77やNEX-7のベータ機を触らせて頂き、意見を言う機会があったのですが、その際にも、α77に対して、「操作に対するメニューの反応が遅すぎる」ということを意見をしました。
しかしその時のソニーの担当の方には「なぜそれが重要であるか」が伝わっていないように見えました。
私も「ベータ機だから、実際の発売の時には直っているだろう」くらいに思っていましたが、実際には発売後の製品版でも改善はされていませんでした。
そしてこの「操作に対するカメラの反応の遅さ」は、価格.comなどでユーザーからも不満の声として上がり、ソニー側もようやくファームウェアなどで対策を行ないましたが、それでも劇的な改善はされず、それなりに叩かれるネタとなってしまいました。
実は現在のフラッグシップであるα9でさえ、スポーツ撮影を行うようなプロフォトグラファーにとってはレスポンスが悪い、と私は感じていますが、恐らくそうした問題をソニー側はきちんと認識できていません。
非常に辛辣な言い方をすれば、「αは高い能力を持った、写真を撮らない人が作っているカメラ」だと思っています。
αのイメージセンサーやシャッター周りの開発者の方にも何度かお会いしてお話させて頂いたこともあるのですが、その方たちはいずれも、「優秀で(かつ人柄も良く)、でも写真は撮らない人」でした。
また、デジタルカメラの開発が分業化している事も、開発者の「カメラの全体像に対する理解の低さ」という問題の一因になっているように思います。
勿論αも一般的に写真を撮ることには支障はなく、性能的は画質面・機能面共に非常に優れているのですから、ソニーユーザーの方は聞き流して頂いて構いません。
α9から感じる、開発者の撮影経験の少なさ
ソニーファンの方からは相当な反感を買うと思いますが、はっきり言って、このままであればα9の後継機が登場したとしても、αがオリンピックでプロフォトグラファーが使う主流になるとは到底思いません。
ちなみにα9が想定したであろうキヤノン・ニコンのハイエンド機との価格.comでの評価を点数順に並べてみると、
- D5 XQD/D5 CF:平均4.96点(48件)
- EOS-1D X Mark II:平均4.55点(70件)
- α9:平均4.34(51件)
となっています。
勿論、価格.comの評価を100%信用する必要はないのですが、各機種とも十分なレビュー数がある中、3機種中α9は、
- 最も小型軽量
- 最も高速連写が可能
- 最も測距点が多く
- 最も安価
であるにも関わらず、なぜか評価は最も低いというのは不可思議なことのように思えます。
しかし「やっぱりまだソニーはプロ機を分かっていない」と感じている私としては、これはある程度妥当な評価であると思っていて、具体的に幾つかその理由を挙げると、
- スポーツのプロフォトグラファーを想定したカメラであるのに反応が遅い
- バッテリーグリップを別体にしてしまっている
- 屋外撮影での撮影を十分に考慮できていないボタンやダイヤル
というような点が挙げられます。
実は他にも沢山あるのですが、全部説明していると大変なのと記事全体の主旨と異なってしまうので、今回はこの3点だけ説明したいとます。
まず1の「スポーツのプロフォトグラファーを想定したカメラであるのに反応が遅い」はそのままですし、先ほども説明したことなので割愛します。
次に2の「バッテリーグリップを別体にしてしまっている」というのは、要するに、例え殆ど同等のスペックをバッテリーグリップ別体で作れても、このクラスのカメラは敢えてバッテリーグリップ一体型で作った方が良い、ということが多分ソニーの開発者には分からないのだろう、ということなのです。
EOS-1DクラスやニコンのD一桁機にも、「バッテリーグリップを外付けにした、コンパクトなフラッグシップが欲しい」という要望はこれまでも数多くありました。
しかし、キヤノンとニコンは近年そうした要望を頑なに拒否し、一体型で作ることによる内部スペースの広さを有効活用したり、放熱性を上げたり、剛性の高さや防滴性の高さといった、一体構造によるメリットの部分を優先してきました。
スポーツ撮影のプロフォトグラファーのようなレベルの撮影者にとって、このクラスのカメラはバッテリーグリップは一体型の方が都合が良いだろう、という判断なのです。
しかし、ソニーの場合は、
「殆ど同じスペックをバッテリーグリップ別体で実現できるなら、携帯性を考えて別体にした方が売れるだろう」
というような判断をしてしまうのです。
これはこれだけのスペックを小型に作れるというソニーは技術力の高さゆえでもありますが、スポーツのプロフォトグラファーを想定したプロ機としては間違った判断です。
また、3の「屋外撮影での撮影を十分に考慮できていないボタンやダイヤル」に関しては、冬季オリンピックの氷点下の屋外競技などでは、(指先が出るような生ぬるいフォトグローブでは長時間の撮影に耐えられないため)本格的な手袋を着用したまま撮影することも珍しくありません。
平昌オリンピックのフォトグラファーの撮影風景はこちらの産経フォトなどでご覧ください)。
しかしα9のあの小さなボタンやダイヤルでは、こうした環境ではスムーズな操作が出来ません。
これはオリンピックに限らずとも、「過酷な環境で使用することがままあるプロ機では、必ずしも小ささが魅力になるとは限らない」、という意味でもあります。
もし、開発者に寒冷地での長時間の撮影経験があれば、「これだと手袋をしての操作出来ないから、もっとカメラを大きく作った方がいいかもしれない」というようなことにすぐに気付けるはずです。
別売りのグリップなどをつけてもボタンやダイヤル、あるいはそれらの間隔まで大きくなるわけではなく、別体のグリップ等を付ければ剛性も落ちやすくなります。
つまり、そうしたグリップを付けるというような方法ではαの問題は解決せず、「カメラは大は小を兼ねないし、同じく小も大を兼ねない」のです。
もちろん全てのカメラを大き作るべきとう事ではなく、カメラには携帯性を優先すべきクラスと、携帯性をある程度犠牲にしてでも操作性を優先すべきクラスがあるということを、ソニーの開発者は知る必要があります。
勿論、その位のことは、ソニーの開発者も「頭では」分かっているのですが、いざ小型に作れるとなると、マーケティング的な事情なども配慮してか、結局は操作性や堅牢性よりも、携帯性を優先した設計にしてしまうのだろうと思います。
もしもソニーがプロフォトグラファーの市場で、キヤノンやニコンを本気で脅かす存在になるとすれば、それは、このケースで言うなら、
「本当はもっと小さく作れるけれど、敢えて大きく作ろう」
というような、技術力を誇示するよりも現実の使い勝手を優先する判断が「躊躇なく」出来るようになった時なのだろうと思います。
もしも今のままのソニーであれば、今後超望遠レンズをラインナップしたとしても、「どうせ東京オリンピックでも、キヤノンとニコンのいつもの砲列が並ぶのだろうな」としか思えないのです。
現代においてプロフォトグラファーの市場を狙う意味
本来所詮プロフォトグラファーの人口は一般的な写真愛好家と比較すれば圧倒的に少数であるため、そもそもプロフォトグラファーの需要を考慮する必要は、広告戦略的な意味合い以外にそれほどないと思っています。
また、宣伝効果という意味においても、「プロフォトグラファーに使われている」というのは、カメラマニアたちの論争のネタにはなっても、現実的な広告効果は現代ではかなり薄まっていると思っています。
しかし、ソニー自身が「プロ機市場も積極的に獲得していく」と宣言しているのですから、もし本当にそう思っているのであれば、ソニーの開発者はスポーツに限らず、あらゆるプロフォトグラファーの撮影現場をもっと理解する必要があるでしょう。
ソニー自身もそうした意識はあるようで、プロフォトグラファーの意見を積極的に聞き、さらにその意見を反映して、「一般的には需要が少ないが、こうしたものがないとプロがαを使ってくれない」というようなニッチなアクセサリーの開発などにも力を入れ始めており、それはソニーがプロ市場を狙うにあたって、非常に良い傾向だと思います。
そして現実の撮影現場を理解する最短の手段は、「自分も同じシチュエーションで写真を撮ってみること」です。
ソニーは既に一般的なミラーレス市場において、しっかりとした地位とブランドを築いていますが、ソニーがプロフォトグラファーの現場でもその存在を確立していきたいのであれば、そのために必要なのは、単純な意味での機能的な進化よりも、「地に足のついたカメラ作り」のようなものでしょう。
それが出来て、かつ実際のカメラに反映させることが出来たならば、αは素晴らしいカメラになれるでしょう。
ソニーは生き残れるのか?
ソニーはその突出した技術力によってここ数年カメラ業界の台風の目となってきましたし、今でもその技術力の高さに関しては疑う余地はありません。
しかし、連写が速いとか測距点が多いというようなカタログスペックはもう必要十分な領域に達しており、これ以上同じ方向性で進化したとしても、これまでのようなインパクトを与えられないだろうとも思います。
もしソニーがカメラ業界で「本気で今より上を目指す」のであれば、数値に現れるスペックよりも、使い勝手や操作フィーリングといった、道具としての作り込みを追求する方が、写真文化とカメラファンにとってより幸せな結果をもたらすと思いますし、結果的にソニーのカメラの評価をより高めることにも繋がるでしょう。
しかしそれでもスペックと革新性でひたすら圧していくというのも、ある意味でαのブランディングなのかもしれませんし、商業的にはフルサイズを主体にするという、革新的なラインナップを成功させたことで、高い利益率を確保することにも成功しています。
「ソニーのカメラは生き残れるか?」という質問に答えるなら、当面は大丈夫だが、キヤノンとニコンがフルサイズミラーレスに進出して来た時の十分な対策が必要という感じだろうと思います。
- 後発でもスペックで劣っていても問答無用で売り捲るキヤノン
- 何を言ってもニコンしか買う気がない信者を大量に持つニコン
という二大ブランドに対しては、「先行」と「技術力」という以外の力が必要である、ということです。
■オリンパスの問題点と将来性
岐路に立たされるミラーレスの立役者
オリンパスといえば、ミラーレス市場を長年牽引してきたメーカーで、2017年も国内ミラーレス市場でシェアトップを獲得しています。
恐らく、「(カメラマニアではない)一般層に訴えかける戦略で成功した」といういう意味では、近年のカメラ業界で最も上手く立ち回ったのはオリンパスだったと言えるでしょう。
オリンパスはフォーサーズ時代には大きな苦境に立たされていましたが、早い段階でミラーレスに主力を移し、カメラ女子ブームなどを利用した巧みなブランディングによって、復活を果たした手腕は素晴らしいものがありました。
しかし、先行者の利やカメラ女子のような流行が去ったことで、「これから先の展望がかなり見え辛くなっている」ということも事実です。
オリンパスのカメラ事業の今
現在のオリンパスのカメラ事業の業績は、ほぼ横ばいではあるものの、カメラ市場全体が縮小していることもあり、僅かに下降傾向です。
オリンパスの2017年度の(2017年4月1日〜2018年3月31日)の映像事業の業績を見てみると、
オリンパスのイメージング事業の売上高と営業利益 | |||
2017年3月期(通期) | 2018年3月期(通期) | 前年比 | |
売上高 | 628億円 | 603億円 | ▲25億円 |
営業利益 | 1.5億円 | ▲12億円 | ▲13.5億円 |
このように、大幅な減益となっています。
ただしこれは、オリンパスによると、
- コンパクトカメラの分野おいて、市場の縮小に合わせて販売台数を絞り込んだことによる売上減収
- 中国生産子会社操業停止と生産拠点の再編に伴う費用を計上したこと
などが影響しており、中国生産子会社の操業停止の影響を除けば、2期連続の営業黒字を達成しているとのこと。
ですから、今期の大幅な営業損失自体は気にする必要はありませんが、他の面でオリンパスは課題を抱えています。
未だ燻り続けるセンサーサイズの選択
現在オリンパスのミラーレス市場での地位を直接的に脅かしているのはキヤノン・ソニーのミラーレスでの躍進であるわけですが、これに対抗するための具体的な手段が今のオリンパスにはありません。
これまではオリンパスは、ミラーレス市場で先行の利と広告戦略駆使して、上手く切り盛りしてきましたし、フォーサーズ時代の苦戦を考えれば、ここまでは非常に上手くやってきたと言えます。
しかしやはりフォーサズ時代の僅かなシェアなど無視して、マイクロフォーサーズへの転換期でフルサイズ対応マウントにはするべきだったと思います。
マイクロフォーサーズマウントでのセンサーサイズの選択はいまだにオリンパスの足を引っぱっており、そのために、
- 画質面でのフルサイズとの比較で不利
- 携帯性との板挟みで現実的には大きくボカしにくい
- 単価アップが難しい
というような課題を常に抱えることになりました。
画質面ではマイクロフォーサーズも決して悪いわけではなく、多くの撮影において、プロレベルの撮影にも対応できるだけ画質性能をもっています。
また写真趣味などで撮影する場合、画質の良し悪しと写真としての良し悪しはそもそもあまり関係がありません。
ただ相対的には同じ技術レベルであれば当然フルサイズの方が画質面で有利になること、加えて、現代は画質比較が非常に容易で、さらには画質そのものが数値化されて比較されるほどであるため、センサーサイズは画質と良し悪しと写真の良し悪しを切り離して考えないカメラマニアたちには批判の対象となりがちです。
この点に関しては本当は細かく考えていけば複雑な話になりますが、それはオリンパス固有の問題ではないので今回は割愛しましょう。
自ら「ベストバランス」と言ってしまったことの苦しみ
これまでオリンパス(及びマイクロフォーサーズファン)は、レンズ交換式カメラとしては比較的小型のイメージセンサーを採用していることへの指摘に関して、「画質と携帯性のベストバランス」という一点で頑張ってきました。
しかし、実際の世の中の多くの一般人にとっての画質と携帯性のベストバランスは「スマートフォンの付属カメラ」となっており、敢えてレンズ交換式カメラを選ぶような写真愛好家にとって、「マイクロフォーサーズがベストバランスである」という事の論理的で説得力のある論拠を示すのは難しいだろうと思います。
勿論これはマイクロフォーサーズだけでなく、
- なぜ中判なのか?
- なぜフルサイズなのか?
- なぜAPS-Cなのか?
と聞かれた場合でも、その説明は同様に難しいのです。
要するにベストバランスなどというものは、当然人それぞれの違って当たり前ですから、フルサイズをベストバランスという人もいれば、マイクロフォーサーズがベストバランスと感じる人もいて当然なのです。
しかし、オリンパス(及びマイクロフォーサーズユーザー)が「我こそはベストバランスである」、という主張を続けてしまったために、「マイクロフォーサーズだけがベストバランスである」という事の論理的説明を常に求められるという苦境を自ら招いてしまったわけです。
そして逆説的に言えば、「本来ならしなくていいはずのそうした主張を続けざるを得なかった」のは、マイクロフォーサーズマウントが、フルサイズはおろかAPS-Cセンサーにさえ対応出来ない規格であったことが原因でしょう。
ですから今更な言い方をすれば、オリンパスは(あるいはパナソニック、富士フイルム、ニコン、リコーも)、最初からフルサイズに対応したマウントを採用するべきでした。
Qマウントのような極端なことをしない限り、マウント径は多少大きくなったところでカメラはそれほど大きくならないのですから、当初はフルサイズでなくても、必要に応じて「同じマウントでフルサイズ機を後からラインナップしていく」という、ソニー的な手法をとっていれば、(実際にはそれまでに発売したレンズがクロップでしか使えなかったとしても)マウント自体が変わっていないので、表面上はシームレスな関係に見せることが出来ます。
加えてフォーサーズ時代のオリンパスのレンズ交換式カメラ市場でのシェアは低かったのですから、マイクロフォーサーズセンサーでないと入らないようなマウントにする意味がそもそもそれほど無かったように思います。
オリンパスはカメラに関してもレンズに関しても高い技術力を持っています。
しかしそれらの多くの魅力が無視され、センサーサイズ論争にばかりに注目されてしまうというのはとても残念な部分でもあり、それはオリンパス自身が招いたことでもあります。
オリンパスは生き残れるのか?
オリンパスが近い将来カメラ市場から撤退するというような事はないでしょう。
しかし先行の利はもはや消え、OMやPENという過去の遺産も既に食いつぶした状態で、オリンパスは、キヤノンとソニー、更に新マウントでミラーレスに再参入してくるであろうニコンともシェアを奪い合うい事になります。
ニコンのフルサイズミラーレスはまだ未知数であるものの、既に存在しているキヤノンとソニーのミラーレスに対しても、オリンパスは対抗するための具体的な手段をまだ見つけられていないように思います。
このままでいけば、オリンパスはそのシェアを奪われていくだろうと思います。
また、2017年までオリンパスは3年連続で国内のミラーレス市場でトップシェアを維持していましたが、2018年に入ってからの市場動向を見るに、2018年はミラーレス市場でキヤノンに国内トップシェアの座を奪われる可能性が高そうです。
オリンパスの今後の課題としては、
- 現在のオリンパスユーザーをどれだけ繋ぎとめられるか?
- その間にユーザーを増やす新たなブームを作れるか?
などでしょう。
「オリンパスが生き残れるか?」という点に関しては、当面は大丈夫でも、その先がどうなるかはオリンパスが新しい提案を出来るかどうかにかかっている、という感じだと思います。
■パナソニックの問題点と将来性
苦境に立たされている先駆者
パナソニックと言えば、何と言っても世界初のミレーレスカメラ、LUMIX DMC-G1でミラーレス市場を切り開いた先駆者です。
しかしその後の販売戦略には大いに失敗し、同じマイクロフォーサーズ陣営であるオリンパスにも大きな差を付けられ、シェアをどんどん下げて、現在はミラーレスのシェア上位3社にはかなりの差をつけられてしまっています。
対してLUMIX Gシリーズは一眼動画に関しては早い段階から力を入れており、それがスチールカメラとしてのLUMIX Gシリーズの人気を落とす一因にもなりましたが、徹底してそのスタイルを続けた結果、現在ではLUMIX GHシリーズなどで、一眼動画市場では確固たる地位を確立するに至りました。
また、6K PHOTOや4K PHOTOといった独創的なシステムや、比較的分かりやすい操作系などの魅力もあります。
決算情報に関しては、パナソニックは他のメーカーとセグメントが異なるため、デジタルカメラ事業やイメージング事業で適切に抽出することが出来ないため未掲載としています。
あまりにも下手すぎたパナソニックの広告戦略
LUMIX Gシリーズは実はイメージセンサーのサイズはともかくとして、カメラとしては、(LUMIXに興味がない方がイメージしているよりはずっと)良く出来ています。
操作性や堅牢さに関しては、「誰がどんな使い方をするか分からない家電業界」で鍛えられているだけのことはあるように思います。
また、クラス別のボディの作り分けもある程度適切になされている方であると思います。
ただし、パナソニック最大の問題は、何よりもその販売戦略の未熟さにあります。
オリンパスが宮崎あおいをイメージキャラクターとしてカメラ女子ブームに乗り始めた頃、パナソニックは「女流一眼隊」という非常に残念な広告を打っていました。
女流一眼隊はお客さんを呼ぶどころか、むしろLUMIX Gシリーズのイメージを落とすほど不評であったのですが、この女流一眼隊はそれなりに長い間続けられ、着々とオシャレなイメージを作っていったオリンパスに対して、大きなハンデとなっていきました。
ボディ前面の「L」のバッジも当初は金色で、「LUMIX」というブランド名自体にブランド力が無いこともあり、派手な金色の「L」バッジは長い間不評であったにも関わらず、現在のLUMIX Gシリーズのようなデザイン上の対策されるまでに長い時間を要しました。
つまり、パナソニックはカメラに関して、ブランディングが物凄く下手なのです。
そしてそうした広告宣伝戦略などの問題点は、メーカーの販売員やLUMIX Gシリーズのファンからも上がっていたはずですが、パナソニックはそうした意見に対する対応が常に後手に回っていました。
その結果、同じマイクロフォーサーズ規格を採用し、性能自体では見劣りしないオリンパスに対して、セールス面でどんどん差をつけられていく結果となりました。
動画にパラメーターを振ったのは基本的には戦略ミスだった
機能的な面から言うと、LUMIXは一眼動画には当初から積極的であり、一眼動画の生みの親がニコンで、一眼動画市場を育てたのがキヤノンとパナソニックとソニーであると言えるでしょう。
特に現在ではパナソニックはLUMIX GH5/LUMIX GH5SといったLUMIX GHシリーズで非常に強力な動画性能を搭載することで、多くハイアマチュアやプロの動画ユーザーの抱え込みに成功しています。
しかし、一眼動画の需要そのものがスチールカメラの業界では少数派であり、またLUMIX GHシリーズほどの動画性能を必要とするユーザーも一握りであるため、一部の動画目的の熱狂的なファンを抱えてはいても、全体としてのシェア争いでは、LUMIX Gシリーズは年々苦しい状況に追い込まれています。
パナソニックは生き残れるのか?
言うなればジリ貧状態のパナソニックですが、今更キヤノンやニコンのようにフルサイズミラーレス機を開発するとか、中判ミラーレス機市場に打って出るといったドラスティックな変革を行なったとしても、敢えてパナソニックを選ぶ理由がない以上、現実的では無いでしょう。
もしも、ミラーレスを大型センサーに対応したマウントで始め、早い段階から適切な広告戦略をとり、メーカーの販売員やLUMIXユーザーの意見を拾い上げて「適切に」製品に反映していれば、現在のLUMIXの状況は変わっていたように思います。
だからといってこれから新マウントに変えて、今更フルサイズミラーレスなどに進出したとしても、それこそ全く無駄でしょうから、そう考えると既にパナソニック陣営には、現実的に打つ手が残されていないように思います。
「パナソニックが生き残れるか?」ということに関しては、動画用途として上位機は生き残れそう、しかしスチールカメラとしての規模縮小は否めない、といったところでしょうか。
■富士フイルムの問題点と将来性
中判ミラーレスを抱える老舗
富士フイルムはカメラ業界において長い歴史を持つカメラメーカーでもあり、現在数少ない中判ミラーレス機でもあるGFX 50Sを発売しているメーカーです。
APS-C機を中心とし、フルサイズを飛ばして中判イメージセンサーを採用するというのは、面白いラインナップと言えるでしょう。
またカメラデザイン、レンズラインナップなど、完全にカメラマニアの方向に振り切ったコンセプトが、富士フイルムのミラーレスの個性であることも間違い無いでしょう。
現在の富士フイルムの主力事業が、イメージング事業の約3倍もの規模を持つヘルスケア事業あることに疑いの余地はありませんが、イメージング事業でも富士フイルムは増収増益を果たしています。
富士フイルムのイメージング事業の売上高と営業利益 | |||
2017年3月期(通期) | 2018年3月期(通期) | 前年比 | |
売上高 | 3,418億円 | 3,830億円 | 412億円 |
営業利益 | 368億円 | 560億円 | 192億円 |
ただしこれは、デジタルカメラ事業というよりは、「インスタントカメラ チェキ」及びチェキ用フィルムの販売が欧米で好調であることに加えて、新興国でもその売上を拡大したことが要因となっています。
2017年年間でチェキは世界全体で約770万台を販売しており、コンパクトデジタルカメラの年間総出荷台数が全メーカー合計でも約1,330万台(CIPA調べ)であることを考えると、チェキの驚異的な人気には驚かされるばかりです。
いずれにせよイメージング事業の業績は好調と言えるでしょう。
特に利益率が高いインスタントカメラで稼いでいる分、他のカメラメーカーと比較すると、「売上高に対して営業利益」が比較的高いというのもその特徴です。
チェキが売れている限りにおいては、富士フイルムのイメージング部門の業績は安定していることが予想されるものの、チェキブームがいつまで続くのか?あるいはそのブームが終焉する時の速度や売上高や営業利益への影響にはかなりの不安があります。
現在のXシリーズの閉塞感
カメラマニアには一定の支持を得られている富士フイルムですが、そうした明確なターゲット層の設定は、逆にその他の層を弾く効果も生じさせてしまう場合があります。
富士フイルムにもそのような傾向があり、購入者の大半がカメラマニア(あるいは写真愛好家)で、一般層の取り込みに成功していないことが、Xシリーズ最大の不安要素です。
また、中判ミラーレスはどう展開してもカメラとレンズの価格面の問題から一般化することは難しく、かと言って現在のAPS-Cと中判の間を埋めるフルサイズ機のラインナップを増やそうにも、「Xマウントはフルサイズセンサーが入らない」というマウント径の問題があります。
かと言ってXマウントとGマウントに加えて、さらにフルサイズ用の新マウントを増やして3マウント展開で開発していくというのは現実的ではないでしょうから、富士フイルムにはカメラマニア(あるいは写真愛好家)がターゲット層でありながら、実質APS-C機という縛りの中で勝負していかなければならないという悩みがあります。
また、富士フイルムの色に対する拘りは否定しませんが、セールストークが「色がいい」の一辺倒では流石に限界があるでしょう。
一部のファンにどれだけ支持されたとしても、カメラは一般層に売れなければ必ずシェアは落ちていきますから、こうした要素が、富士フイルムのデジタルカメラ事業全体の閉塞感を生んでいるように思います。
富士フイルムは生き残れるのか?
肝心の「富士フイルムが生き残れるか?」ということですが、堅実な路線に対してユーザーが離れていくことも少ないという魅力もあります。
しかし同時に、「この先にどのような展望があるのか?」といった点や、一般層に受けないことから、今後シェアを拡大していくのは、相当難しいだろうとも感じています。
かと言って、開き直って「一般層に支持を得られなくても良い」というような考えは、必ずマウントの衰退へと繋がっていくので、自身の個性を失わずにどうすれば一般層を取り込んでいけるのか?ということは、富士フイルム自身のしっかりした問題意識と意識改革が必要かもしれません。
これは富士フイルムだけの事ではありませんが、カメラメーカーというのは、得てして、
- シェアが上がらない
- シェアを諦めて利益率にシフトする
- さらに数が売れなくなる
- 数が売れないので利益率も上がらなくなる
- 撤退する
というのが負の黄金パターンであり、「シェアが上がらなくても良い」などという考えは以ての外です。
また、シェアが高ければ勝手に利益も出るというものではありませんが、シェアが高い方が利益も出し易いというのも事実です。
折角中判ミラーレスも作ったことですし、そちらに関しても継続して頑張って頂きたいと思います。
■リコーの問題点と将来性
リコーの今
リコーは厳しい状況にあるカメラメーカーの代表として挙げられることが多いメーカーですが、実際はどうなのでしょうか?
リコーのイメージング事業の売上高と営業利益 | |||
2017年3月期(通期) | 2018年3月期(通期) | 前年比 | |
売上高 | 1,820億円 | 2,047億円 | 227億円 |
営業利益 | ▲29億円 | 100億円 | 129億円 |
リコーの場合、デジタルカメラ事業は決算資料では、「その他分野」というセグメントであり、「光学機器・電装ユニット・半導体・デジタルカメラ・産業用カメラ・3Dプリント・環境・ヘルスケア等」など様々なものをまとめているため、これだけでデジタルカメラ事業の状態が分かるわけではないという点にご注意ください。
しかし、営業利益は黒字化しており、光学機器事業が増収増益となったことや、前連結会計年度にカメラ事業ののれん等の固定資産の減損損失を計上していたこともあり、今期は大幅に営業利益が改善しているとのこと。
そう見ると、実際はカメラ事業はイメージほどは悪くないのでは?という気がしますが、やはりカメラ市場全体の縮小もあり、シリアスな状況であることは事実でしょう。
カメラでも「野武士のリコー」で耐えてきた
リコーは事務機器の販売で通称「野武士のリコー」と呼ばれる営業スタイルで成長してきたことで有名ですが、カメラでも営業担当者や店頭のメーカー販売員の個人の営業力に頼ってきたように思います。
しかし、幾ら営業力のある営業担当者であっても、幾ら売るのが上手い販売員であっても、商品にあまりに人気がなければ、幾ら売れと言われても限界があるでしょう。
ある程度店頭でのセールストークや説得が通用しやすい一般層が相手であっても、キヤノンのカメラとリコー(ペンタックス)のカメラでは、売り易さは全く異なります。
乱暴な言い方をするならば、「どうせレンズキットしか使わない人にとって、カメラシステムとしての充実度など関係ないのですから、単純にコストパフォーマンスに優れるペンタックスをおすすめ出来る」というケースは多々あるわけです。
しかし、それでも結局人はEOS Kissを買って帰るのです。
- EOS Kissを買うつもりで来店して
- EOS Kissを手に取り
- ペンタックスもありますよと販売員が魅力を伝えても
- 結局EOS Kissを買って帰る
という状況が日本中にあるわけです。
これはペンタックスだけの話ではありませんが、特にペンタックスを売るのはキヤノンを売るよりも「圧倒的に」大変なことであり、そこを個人の営業力でなんとか踏ん張ってきたリコーも、ここにきて、少なくとも国内市場に関しては本当の限界に達しているのではないかと思います。
カメラは性能よりもブランド力が物を言う
リコーが売れなかった原因は、魅力的な製品を開発出来なかったからというよりは、単純に宣伝してこなかった部分が大きいのではないかという気もします。
リコーにペンタックスブランドが移った当初はTVCMなども見かけましたが、最近はめっきり見かけません。
しかし、知名度とかブランド力というのは、一時的に広告を打てば良いというものではなく、継続的に続けなければ意味がありません。
その点キヤノンは「世界遺産」のTVCMのような派手なものから、本当に小さな写真イベントの協賛まで、ありとあらゆるところで宣伝活動を行っています。
宣伝してみて売れたから宣伝を続けるのではなく、
- 売れななくても宣伝を続ける
- 売れるまで宣伝を続ける
- 売れてからも宣伝を続ける
という姿勢が必要なのだろうと思いますが、多くのメーカーが、新製品を出した時だけ広告費をかけるといったことをやりがちです。
リコーに至っては、新製品を出した時でさえ大して宣伝してくれないのですから、それでは売れるわけもなく、営業や販売員の方も大変過ぎるだろうと思います。
問題は次の手を打てなくなりつつあること
世界の市場は広いため、新興国などを狙って販売を継続していくことはある程度可能だと思いますが、開発リソースは相当不足しているように見えます。
また、カメラ業界全体が不振であるために、リコーが今後カメラ事業に注力してくれる可能性も低く、その点も不安があるでしょう。
ペンタキシアンたちはどこまでもKマウント推しだという印象ですし、同時にKマウントの将来に悲観しているというか、もはや達観しているようにさえ見えます。
私自身ペンタックスユーザーでもありますが、ペンタキシアンではないので分かりませんが、
「ペンタックスとはカメラにあらず、道である。」
という事なのかも知れません。
リコーは生き残れるのか?
最後に、ペンタックスを含む「リコーが生き残れるか?」ということに関しては、もはやそういう質問が馬鹿馬鹿しくなるレベルに達した稀有なメーカーだと思います。
リコーファンとペンタキシアンで内ゲバが起こらないように祈りたいと思いますし、カメラ事業がどうであれ、いずれにせよリコーは皆の心の中で生き続けるでしょう。
■5年後、10年後、15年後、生き残っているカメラメーカーはどこか?
5年後、10年後、15年後の存続確率予想
果たして5年後、10年後、15年後に(レンズ交換式カメラの)カメラ事業を継続しているメーカーはどこなのでしょうか?
現在のカメラ業界の不況の状況を考えれば、現行のシステムが失敗した際に、やり直すことが出来るメーカーは、
- キヤノン
- ニコン
- ソニー
くらいのもので、「大きな開発費をかけてまで、再チャレンジする」ということを許容してくれる企業は多くはないでしょう。
ソニー、オリンパス、パナソニック、富士フイルム、リコーに関しては、デジタルカメラ事業への依存度がそれほど高くはないため、カメラ業界がこのまま沈没していくのなら、その時は続ける意味がないと判断してデジタルカメラ事業から撤退してしまう可能性もあるでしょう。
そうした再チャレンジが可能であるかの可能性も踏まえて、各メーカーのレンズ交換式デジタルカメラ事業の存続確率の個人的な予想は以下の通りです。
レンズ交換式デジタルカメラ事業の存続確率予想 | |||
メーカー | 2023年 | 2028年 | 2033年 |
キヤノン | 70% | 55% | 40% |
ニコン | 60% | 45% | 30% |
ソニー | 55% | 35% | 20% |
富士フイルム | 45% | 30% | 15% |
パナソニック | 30% | 20% | 10% |
オリンパス | 20% | 10% | 5% |
リコー | 10% | 5% | 1% |
これは、現在と将来のシェアの予想も含まれていますが、そのメーカーが「苦しくなったとしても」どの程度までカメラ事業をやめる気がないか?といった事を含めて、様々な要素を複合的に考慮しているため、単純なシェアや現在の勢いといったことでは判断していません。
つまり、ブランドイメージやコマーシャル的な側面からも、多少の赤字でも成長産業でなくてもカメラ事業を続けるというメーカーもあれば、そうではないメーカーもあるということです。
勿論現実の世の中に100%はありませんから、今後レンズ交換式カメラ市場そのものが完全に衰退して全てのメーカーが撤退する可能性も、逆にカメラ業界に大きなイノベーションが起きて新規参入が起こるほど活性化する可能性もゼロではないでしょう。
しかし最も可能性が高いのは、(既にそうなっているように)主要7社が縮小していく市場でシェアを奪い合うために潰し合うという悲惨な展開ではないかと思いますが、メーカー側が率先してそのような愚劣な思考で行動するのは褒められたことではないでしょう。
果たして実際の5年後、10年後、15年後、カメラ業界はどうなっているのでしょうか?戦々恐々としながら見守りたいと思います。
参考:デジカメWatch
Reported by 正隆