当サイトでも度々お世話になっているデジカメinfoですが、頻繁に「読者の方」という方から正式発表前の新製品のリーク情報が流れてきます。それに対して先日シグマの山木社長が面白いツイートをされていました。それが上のアイキャッチ画像です。
シグマの社長である山木和人氏はCP+でもセミナーをご自身で行うなど、非常にフレンドリーな方で、ツイッターでも逐次情報発信を行っていますが、先日シグマの新レンズがリークされた際のツイートが上の画像です。
山木社長もデジカメinfoの情報源「読者の方」に興味津々のようです。
いつも我々を楽しませてくれている、デジカメinfoの「読者の方」とは何者なのでしょうか?その正体を考えてみたいと思います。
■小売店の店員が情報源である可能性は?
小売店の店員が正式発表前に受け取った情報を流しているのではないか?というのが一つの有力な説です。
確かに小売店の店員なら多少事前にカメラメーカーの営業から情報を得たり、正式発表前にペラカタログやセールスポイントをまとめた冊子をもらうことが出来ます。
しかし小売店の店員説には一つの問題があります。デジカメinfoに掲載される画像のリークは、正式発表後に公開されるメーカー公式サイトの製品画像やカタログなどの画像とは別の画像が使用されているということです。
一例を挙げてみましょう。最近話題になったリーク情報ではオリンパスPEN-Fがあります。デジカメinfoにいち早く(2016年1月13日)画像のリーク記事が掲載され、そこから世界中に広まりました。
ちなみに正式発表日は2016年1月27日ですから、正式発表の14日前にはデジカメinfoにリーク記事が掲載されたことになります。
まずはリーク時の画像をご覧ください。
これが2016年1月13日に掲載された最初のリーク画像です。グリップ、レンズが付いており、画質の悪さから発売済みの75mm/F1.8なのか新レンズなのかで話題になりましたが、正式発表後に75mm/F1.8であることが判明します。
正式発表後にカメラ系情報サイトに掲載された画像と比較してみましょう。
というわけで画質は違えど全く同じもので、正式発表後に情報系サイトに掲載された画像はオリンパスから提供された画像ですから、デジカメinfo側のリーク画像も「読者の方」の正体は別としても、元々はオリンパスから提供された画像であることが分かります。
では家電店・カメラ店の店員はこの画像を事前に2週間以上前に手に入れることが出来るでしょうか?
家電店には正式発表日の少し前にメーカー営業さんによる新製品の事前説明が行われるのが一般的です。
これは新製品発表と同時にお客様の問い合わせに対応する必要があるためで、「当日お客様から問い合わせを受けて初めて発表されたことを知った」というのでは、製品の内容に対するお客様の質問にお答えできませんし、そもそも予約が受けられないためです。
つまり家電店やカメラ店の店員、特にある程度の役職にある人間であれば、新製品の正式発表前に情報を知る、またベータ機を触らせてもらうことは可能です。
しかしここに一つ問題があります。最初に申し上げたように、デジカメinfoにリークされる画像の多くは、「メーカー提供の画像ではあるが、チラシやカタログをスキャンした物ではなない」ということです。それどころか公式サイトにさえ掲載されていない画像です。
リーク画像は白無地の背景ばかりが使用されています。これはほぼ全てのリーク画像に共通する点と言えます。
つまりこのリーク画像は事前に家電店の店員に渡されるペラカタログや機能紹介の冊子をスキャンしたものではないということです。そして公式サイトの画像でもありません。正式発表時にメディアに提供する為のものと全く同じ画像の画質を落としたバージョンであるということです。
家電店の店員が事前にペラチラシや製品カタログを手に入れることは出来ても、製品外観の画像データまでメーカー営業担当から貰うことはまずありません。
これはもちろんそれは情報漏えいを防ぐためです。またメーカー側はカタログや場合によっては実機まで触らせて製品のアピールポイントを説明しているのですから、画像データまで提供する意味がありません。
このことから、「リーク画像はメーカーからメディア向けに提供されたもの、しかし通常小売店の売り場店員が手に入れられるものではない」ということが分かります。
また家電店やカメラ店の店員はここまで早い時期に製品の詳細を知らされることは少ないという部分もあります。
メーカー側からすれば正式発表当日から問い合わせに答えられば良いのですから、家電店やカメラ店の店員に伝えるのは正式発表の前日でも十分で、あまり早い段階では伝えることはしません。
結局のところ、これほど早いタイミングで様々なメーカーの新製品画像を手に入れることは、家電店やカメラ店の一従業員には難しいということです。
また店員がリークするメリットですが、基本的に情報漏洩の大きなリスクを背負うだけでメリットがありません。見つかれば確実に懲戒解雇となります。
自己顕示欲という可能性はあると思いますが、やはりリーク画像の共通点から考えても、「読者の方」の正体が小売店の店員である可能性は低いのではないかと考えられます。
では製品外観画像データをメーカーから供与されるカメラ系のマスメディアの内部に「読者の方」はいるのかと言うと、そうではありません。
カメラ系マスメディアからするとリーク情報が先に流れてしまうことで、公式発表まで掲載を待たなけらばならない自社の情報の鮮度が落ちてしまいます。
つまりカメラ系雑誌やweb媒体のメディアにとって、リークサイトは商売敵ですし、ましてやリークサイトに情報を流してしまってはカメラメーカーとの信頼関係をも破壊することになります。
こういった法人格のカメラ系情報サイトがリークサイトに情報を提供するメリットは全くなく、多大なデメリットだけがあるという訳です。ですからカメラ系マスメディアによるリーク情報提供は通常は考えにくいと言えます。
■メーカー側の意図的なリークである可能性は?
では画像提供元であるカメラメーカーの意図的なリークという可能性はどうでしょう。正式発表を行う前にリーク情報を流すことはカメラメーカーにとってメリットがあるでしょうか?
実はあります。それは通常注目度の低い製品であっても、リーク情報であればその情報価値が上がり、かつ2度メディアに取り上げられる機会を得るということです。
皆さんは誰もが知ることのできる正式発表よりも、他の人がまだ知らないリーク情報の方に価値を感じていませんか?
人より少し先に製品情報を知ったとしても、製品が変わるわけではありませんし、自らの意見が製品に反映されるわけでもない、もちろん人より先に買えるわけでもないのに、多くのカメラマニアは「人よりほんの少し早く新機種を知る」ということに価値を見出すからこそ、デジカメinfoや海外のRumors系サイトは軒並み膨大なアクセス数を得ています。
サイトのアクセス数を計測するSimilerWebでデジカメinfoを調べると、
このような結果が出ます。SimilerWebは100%正確というわけではないので、あくまでも推定の数値ではありますが、Total Visits(月間ユニークユーザー数)が3.50M=3,500,000人、Page Views(一人当たりの閲覧ページ数)が2.22ページとなっています。
つまりデジカメinfoは推定で月間約350万ユニークユーザー、777万PV超えということになり、この数字は国内主要カメラ雑誌全てを合わせても到底及ばないとてつもない数字です。
その広告効果を考えればカメラメーカーにとって、国内有数のカメラ系大手メディアと言っても過言ではありません。
デジカメinfoは超人気サイトとはいえ、基本的には個人サイトのテイストで運営されており、深いレビューやインタビュー、作例がある訳ではありません。
それでいながら多くの人がこのリークサイトを見ています。つまり、人より少しでも先に新製品を知りたい、事情通になりたいという方は非常に多いという訳です。
カメラメーカー側からすると、正式発表前のリーク情報であれば本来注目度の低い機種だったとしても注目されやすいこと、またリーク情報はFacebookなどでシェアされやすいこともあり、SNSなどで情報がシェアされれば、日頃カメラ系サイトをチェックしない一般の人にも広告効果が見込めます。
またそのアクセス数からも、カメラ系サイトとして国内2番手であるデジカメinfoに情報を流せば、かなりの宣伝効果が見込めるというわけです。
加えてデジカメinfoから各カメラ系個人サイト、海外のRumors系サイトへの転載などもあり、リーク情報+正式発表の2度のお披露目の機会を得るという点も広告効果として見逃せません。
そのためカメラメーカー側による意図的なリークが行われている可能性も否定出来ません。
しかしここでも一つ疑問が生まれます。
2016年1〜2月、つまり今月デジカメinfoに情報ソース「読者の方」という形での画像提供付きのリークはどれだけあったでしょうか?調べてみましょう。
- タムロンSP90mm F/2.8 MACRO VCとSP85mm F/1.8 Di VCの画像と価格に関する情報
- シグマ30mm F1.4 DC DN Contemporaryのスペックと画像
- シグマ50-100mm F1.8 DC HSM Artのスペックと画像
- ペンタックスHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRとHD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRの画像 [内容更新]
- キヤノンPowerShot G7X Mark IIとPowerShot SX720 HSの画像
- キヤノンEF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USMとパワーズームアダプターの画像
- キヤノンEOS 80Dの画像とスペック
- ペンタックスK-1の製品版の画像
- EOS-1D X Mark II の詳細スペック
- キヤノンEOS-1D X Mark II の画像とスペック
- オリンパスPEN-Fの詳細スペック
- パナソニックが1月19日にDMC-CM10を発表?
- オリンパスPEN-Fのシルバーボディの画像 [内容更新]
- オリンパスPEN-Fの画像
- ニコンCOOLPIX B500のマニュアルの画像
- 富士フイルムX70の詳細スペックと画像 [内容更新]
-
オリンパスED300mm F4 IS PROの詳細スペックと製品版の画像
という訳で画像付きのリーク情報だけでも2ヶ月間で17件もの投稿がありました。そして画像によるリーク情報が流れたメーカーは、
- キヤノン(EOS-1D X Mark II 、PowerShot G7X Mark II、PowerShot SX720 HS、EF-S18-135mm F3.5-5.6 IS USM)
- ニコン(COOLPIX B500の説明書)
- オリンパス(PEN-F、M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO)
- ペンタックス(K-1、HD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WR、HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR)
- パナソニック(DMC-CM10)
- フジフイルム(X70)
- シグマ(30mm F1.4 DC DN Contemporary、50-100mm F1.8 DC HSM Art)
- タムロン(SP90mm F/2.8 MACRO VC、SP85mm F/1.8 Di VC)
となっています。驚きですね。ソニー、ライカ以外の国内主要メーカーの全てとレンズメーカー大手のリーク画像が流れています。2016年1〜2月にかけてはありませんが、SONY製品の「読者の方」による画像リークも過去にありました。
つまりほとんどのメーカーが正式発表前に製品画像のリーク記事が掲載されているという訳です。
「メーカー側の意図的なリークは情報として(SNSやカメラ系サイトにおいて)シェアされやすく、拡散効果が強いため、宣伝効果が見込める」というのは先述しましたが、幾らなんでも国内主要カメラメーカーとレンズメーカー全てが示し合わせたようにデジカメinfoに画像リークを行うでしょうか?
「特定のメーカーだけがいつも」という事であればメーカーによる意図的なリークだと思います。しかしこれだけあらゆるメーカーが、しかも同じような白無地背景の画像に統一して提供するでしょうか?ゆえにこの「メーカーによる意図的なリーク」という仮説にも疑問が生まれます。
またメーカー側による正式発表前のマーケティング手法として、テザー広告という安全な手段があります。対してリークサイトへの情報提供はそれが意図的に行われたものであっても、一般的には社外秘情報の管理が出来ていないと取られてしまい、企業への信頼を損なう事態に発展しかねません。
広告手法としてどれほど効果的であったとしても、「情報管理もまともに出来ない会社」というレッテルを貼られることはリスクが大きすぎるため、大企業としては実践するのは難しいのではないかという気がします。
■結局、誰が「読者の方」なのか?
では結局誰が情報源である「読者の方」であるのか?を考える前に、まずは「読者の方」の情報をまとめてみましょう。
まずリーク画像に共通する点
- 低画質
- 白背景
- カタログからのスキャン画像ではない
- 公式サイトの画像ではない
- メーカーが用意したweb媒体用画像
家電店・カメラ店の店員によるリークと仮定した場合の疑問点
- なぜweb用の画像を売り場店員が入手できるのか?
- 店員にしては情報を得るのが早すぎないか?
- 店員がリークするメリットは何か?
メーカー側による意図的なリークと仮定した場合の疑問点
- 主要メーカー全てからリーク情報が流れており、本来あるべきメーカー間の考えにバラツキが感じられない事
- リーク画像が白無地背景ばかりである共通点。メーカーが違うにも関わらずなぜ白背景ばかりなのか?
一体「読者の方」とは何者なのでしょうか?どんな立場でしょうか?
「読者の方」とはつまり、
「正式発表前にさまざまなメーカーの白背景製品画像のデータを所有している」
そんな立場の人です。様々なメーカーから製品画像と、ある程度のスペック情報が正式発表の少し前に送られてくる仕事です。そして正式発表からさほど時間を置かずに、白背景の製品画像と簡単なスペックをネットに掲載する必要があるお仕事。
ネット通販サイトから流れているのではないか?
と私は推察します。これもあくまで可能性の一つに過ぎないため、高確率でそうであるとは申し上げられませんが、その根拠を申し上げます。
まずネットショップに掲載されている製品画像は白背景がほとんどで、その多くがメーカーから提供された画像です。また正式発表から掲載までのスタートダッシュが重要であるため、正式発表前に画像やスペックがメーカーから提供されます。
先述した画像付きカメラボディのリーク記事とAmazonの製品紹介の画像を照らし合わせてみましょう。
- デジカメinfo:キヤノンEOS 80Dの画像とスペック
- Amazon:EOS 80D
- デジカメinfo:リコーイメージングが間もなく「GR II Silver Edition」と「マクロコンバージョンレンズGM-1」を発表?[内容更新]
- Amazon:GRII Silver Edition
- デジカメinfo:ペンタックスK-1の製品版の画像
- Amazon:K-1
- デジカメinfo:オリンパスPEN-Fの詳細スペック
- Amazon:PEN-F
- デジカメinfo:パナソニックが1月19日にDMC-CM10を発表?
- Amazon:DMC-CM10
- デジカメinfo:オリンパスPEN-Fのシルバーボディの画像 [内容更新]
-
Amazon:PEN-F
- デジカメinfo:富士フイルムX70の詳細スペックと画像 [内容更新]
-
Amazon:X70
やはり多くの画像がAmazonの商品画像と共通しており、公式サイトの製品外観写真とは違う画像が数多く使われています。(※Amazonの担当者が「読者の方」という意味ではありません。)
家電量販やカメラ系量販のネット通販サイト、通販専門のネットショップでも同様の画像が使用されています。これらはメーカーから販売促進のために供与される画像です。
ネットショップの担当者であれば、事前に白背景の製品画像やスペック情報を得る事が出来、さまざまなメーカーの製品画像を横断的に入手することが可能です。もちろん断定するに至るほどの確証はありませんが、可能性の1つとしてあり得るのではないかと思います。
※結局正解は?(2016年5月20日追記)
デジカメinfoのリーク元は、軒下デジカメ情報局さんでした。
■事情通?情強?いいえ、皆カメラが好きなんです
なんだかんだで結局結論は出ないという締まりのない結果に終わってしまいましたが、皆さんはいかがお考えでしょうか?裏事情を考えてみるのも楽しいものですね。
カメラの新製品情報を人より少し先に知ったとしても、しばらくして正式発表されてしまえばその情報には価値が無くなります。そもそも正式発表されていない機種は予約すら出来ません。それでも人がリーク情報に集まるのは、それだけカメラが好きで語りたいからだろうと思います。
最後に私が普段チェックしているリーク系サイトへのリンクを貼っておきます。
- デジカメinfo(カメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Digital Camera Life(カメラ・レンズの新製品情報)
- CAMEOTA.com(カメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Photo Rumors(海外:カメラ・レンズの新製品リーク情報)
- CANON RUMORS(海外:キヤノンのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Nikon Rumors(海外:ニコンのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- MIRRORLESS RUMORS(海外:ミラーレスのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- SONY ALPHA RUMORS(海外:ソニーのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- 4/3 RUMORS(海外:フォーサーズのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Pentax Rumors(海外:リコーのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- FUJI RUMORS(海外:フジフイルムのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Leica Rumors(海外:ライカのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Sigma Rumors.com(海外:シグマのカメラ・レンズの新製品リーク情報)
- Lens Rumors(海外:交換レンズの新製品リーク情報)
- Lighting Rumors(海外:ライティング機材・アクセサリーの新製品リーク情報)
参考:Kazuto Yamaki Twitter
画像:デジカメinfo,Kazuto Yamaki Twitter,デジカメWatch
Reported by 正隆