色々話題の豊洲市場ですが、今度はフジテレビが「新報道2001」で築地市場の豊洲移転問題を取り上げ、東京都中央区の渡部恵子議員からの提供写真をもとに豊洲市場の加工パッケージ棟4階の柱1本が傾いているのではないか?と報じました。
しかしながらこの柱の傾きのように見えるのは写真撮影では良くあるパースペクティブによるもであることが様々なメディアで指摘されています。果たしてフジテレビはこの柱の傾きが単なるカメラの性質であることを知らなかったのでしょうか?それとも知っていながら意図的に視聴者をミスリードさせようとしたのでしょうか?
ちなみにBuzzFeed NEWSは画像の加工に関してフジテレビに問い合わせてみたそうですが、明快な回答は得られなかったようです。今回はこの豊洲市場加工パッケージ棟4階の画像と報道について少し考えてみたいと思います。
2016年10月08日 追記:東京都議会議員のおときた駿氏が現場にて確認を行い、柱に異常と言える傾斜はなかったことが確認されています。おときた氏による検証はこちらのブログをご覧ください。
■なぜ柱は傾いているように見えるのか?
写真・カメラファンの皆さんには今更説明の必要もないと思いますが、左の柱が傾いて見えるのは単なるパースペクティブによるもので実際に柱が大きく傾いているわけでありません。
ちなみにこの画像の撮影はiPadによるものであるとのことで、35mm判換算で30-33mm程度ではないかと考えられます。
渡部恵子議員が撮影した元の画像はこちら
カメラを傾けると強いパースがついてしまう
元の画像は床面を広く写していますから、カメラをやや下向けにしていることが分かります。
柱は左右どちらも傾いており、柱だけでなく天井の蛍光灯の並びも手前側と奥側で並行が崩れていることからも、画像に強いパースペクティブがついていることが分かります。
もし柱の一本だけがあれだけ変形していた場合天井に亀裂が全く入っていないのは不自然で、そういった異常が見受けられないことから考えても、この柱に関して言えば実際に傾いているのではなく単なるパースペクティブによるものである可能性が高いと言えるでしょう。
■フジテレビは原因がパースペクティブと知っていて柱が傾いて見えるように加工した?
映像スタッフを多数抱えるフジテレビですから、この柱の傾きがパースペクティブによるものであることを誰も見抜けなかったというのは無理があるように思います。
また今回渡部恵子議員によって撮影された元の映像と番組内で使用されたフリップの画像には幾つかの相違点がありました。
新報道2001番組内で使用された画像がこちら
番組で使用されたフリップ内の画像部分
良く見比べると分かりますが、元画像と番組内で使用されたフリップの画像は画像の角度が変えられており大幅なトリミングが行われています。
渡部恵子議員が撮影した元画像
番組内で使用されたフリップ画像の再現(画像回転とトリミングによる)
どのような画像加工が行われたのか?
元画像に対しPhotoshopで右の柱が垂直になるように画像を回転させ加えてトリミングを行うことで、番組内で使用されたフリップの画像に近づけてみました。このように番組内で使用された画像には、
- 画面下側の床部分を大幅にトリミング(床に向けて俯瞰気味に撮影したことが不明瞭になり、範囲が狭まることで広角レンズで撮影したことが分かりにくくなる)
- 画面上部の蛍光灯の1列をトリミング(もともとは蛍光灯2列が奥に向かってパースが付いて画面に奥行きがあることが分かりやすかった)
- 右端の柱が垂直になるように傾きを補正(元画像では右側の柱も画面上部になるにつれ外側に広がるように傾いていますが、右側だけ真っ直ぐに見えるように角度を補正することで左側の柱のパースによる傾きがより強調される)
といったレタッチが行われています。
傾き補正と大幅なトリミングを行ったことで、まるで左の柱だけが唐突に傾いているように見えるのがお分かり頂けると思います。
印象操作は行われたのか?
豊洲市場 加工パッケージ棟の柱がどういう状態であるのか?意図して視聴者をミスリードしようとしたのか?などについて断言はできませんが、写真のように柱が極端に傾いているとは考えにくく、また錯覚を起こしやすいようにレタッチが行われていることから「写真やカメラの原理に詳しくない人が勘違いをして報道してしまった」というよりは、「写真やカメラのことをある程度分かっている人が柱が傾いて見えるよう画像に手を加えた上で報道した」ように見えてしまいます。
画像に印象操作のための手が加えられているのではないか?という点についてBuzzFeed NEWSがフジテレビに質問状を送ってみたそうですが、フジテレビからは画像の回転に関して明快な回答を得られなかったようです。
また「新報道2001」では後日番組内で事実関係の検証を行う予定であるとのことです。
■どう撮れば良かったのか?
どうすれば柱を傾けずに撮ることが出来たのか?を簡単にご紹介します。建築写真についての詳しい撮影方法は以前に書いた記事がありますのでこちらをご一読頂ければと思います。
カメラを水平にして撮影する
建築物では下から仰ぎ見るように撮影したり上から俯瞰で撮影してしまうと上窄まりや下窄まりで写ってしまいます。また室内であってもカメラの向きを水平からズラしてしまうと柱や扉の線が斜めに傾いて写ります。そこでパースペクティブの付きを抑えたい場合にはカメラの向きを水平にした状態で高さを調整して撮影するのが一般的です。
カメラを床と水平にして撮影することで、柱など壁や窓枠といった垂直の線が上窄まりや下窄まりに写ることを軽減することが可能です。
この場合フレーミングはレンズの向きを上下方向に振るではなく、カメラの向きはなるべく水平を保ちつつカメラとレンズを床に対して平行にしたまま傾けないように上下動させてフレーミングし撮影します。そのためエレベーター付きの三脚を使用して撮影すると簡単に撮影することが可能です。
アオリレンズを使用する
展望台からの俯瞰撮影や建築物を下から撮影するといったような場合、パースペクティブが付くのを避けてカメラを水平にしたまま撮影しようとすると、多少カメラ位置を上下させたくらいでは画面内に被写体を適切にフレームイン出来ない場合があります。
こういった場合アオリレンズと呼ばれるレンズを使用したり、大判や中判などの蛇腹カメラなどを使用してライズやフォールといった操作を行って撮影することでカメラの水平を保ちながら撮影範囲を大きく変えフレーミングを行うことも可能です。
アオリレンズはカメラメーカー純正だけでなく、サードパーティ生レンズなど発売されていますが、代表的なものとしては以下のようなレンズがあります。
キヤノン(EFマウント用)
ニコン(Fマウント用)
画像編集ソフトでパースペクティブを補正する
また現在PhotoshopやLightroomなどの画像編集ソフトでも簡単にパースペクティブは補正できるため、アオリレンズのような高価なレンズを買うことにためらいがある場合は画像編集で対応するという方法もあります。
Photoshopにてパースペクティブを補正してみた例
しかしながら画像編集ソフトでパースペクティブを補正すると、撮影時よりも画角が大幅に狭まったり画質劣化が起きる場合もあるため、その点に留意してなるべくレタッチ時の補正量を減らすように撮影を行うと良いでしょう。
展望台などからの俯瞰撮影でもパースを調整することでビルなどが下窄まりになるのをある程度防ぐことが出来ますが、あまりやり過ぎると不自然になるのでほどほどにしておきましょう。
Reported by 正隆