カメラファンの皆さんこんにちは。
2013年10月、世界初のフルサイズミラーレスカメラとなったα7の発表以来、ここ数年カメラ業界の話題の中心となっていたメーカーはソニーであったと思います。
α7以降、Eマウントαシリーズはその革新性と突出したスペックから多くの喝采を受けてきました。
また「これからはソニーの時代だ」というような意見がカメラ業界の一部の識者の中にも聞こえますが、今回は約7年間Eマウントを実際に使用した上で、私の考えでは「ソニーがカメラ業界のトップブランドになれるとは思わない」というお話をさせて頂きたいと思います。
【目次】
- カメラとしてのαの弱点
- 画質面やスペックでは他社をリード
- イメージセンサーに頼った進化の限界
- 向上するカタログスペックと向上しない使い勝手
- αはカメラとして本当に進化していると言えるのか?
- カメラマニアの巣となっているαシステム
- 販売面でのαの弱点
- 裾野を広げることの大切さ
- ソニーの販売戦略の問題点
- 差を広げられつつあるシェア
- 性能で勝りながらセールスで負けることの意味
- 独占から競争へ
- 今後のソニーの販売動向予測
- 結局ソニーも市場シェアを大いに気にしている
- わたしがαに限界を感じる理由
- Eマウントが無くなるとか撤退するという意味ではない
- ソニーの限界は2012年頃から感じていたこと
今回かなりの部分がαに対して批判的な意見であるため、ソニー及びαファンの方にとっては不愉快な表現もあるかとは思いますが、聞き流して頂ければ幸いです。
■カメラとしてのαの弱点
画質面やスペックでは他社をリード
まずカメラとして見た場合のα(ここではEマウントを前提)は、現在画質面でもスペックの面でも他社をリードしています。
ソニーのイメージセンサーの性能の高さは誰もが認めるところで、それに加えて現在のEマウントはGMシリーズを中心にレンズも非常に高い画質性能を有しており、一般的な撮影であればレンズラインナップも十分なものとなってきました。
加えてボディスペックに関しても、驚異的な多点測距や高速オートフォーカス、超高速連写など他社を多くの面で上回っています。
イメージセンサーに頼った進化の限界
そうした多くの長所を持つEマウントαシリーズですが、その原動力となったのは間違いなくイメージセンサーの開発技術の高さによるものが大きいでしょう。
デジタルカメラ時代において、これまでメカニカルな機構で実現していた部分をイメージセンサーで代替すること自体は悪いことではありません。
またイメージセンサーの進化は、これまでの一眼レフのオートフォーカスモジュールでは実現困難だった、画面周辺部までのオートフォーカス対応や、物理シャッターやクイックリターンミラーを介在しないことによる超高速連写の実現など、様々な恩恵もたらしています。
しかしαシリーズの性能向上は多くをイメージセンサーの進化に依存しています。
そのため、冷静に見ればイメージセンサー以外の部分でのαは他社製品と比較して特別評価出来るものではありませんが、一部のプロカメラマンやカメラ雑誌のライターの中にも、カメラとしての全体像を見ず、イメージセンサーというデジタルカメラ時代の新たな要素に囚われ過ぎて、αを過大評価しているように思うわけです。
向上するカタログスペックと向上しない使い勝手
ソニーのイメージセンサーの急激な進化は、多くのカメラマニアや一部のプロカメラマンも巻き込んだ熱狂を巻き起こしましたが、過度なスペック競争への熱は既に冷めつつあるように感じます。
αは一部のスペックは他社製品をリードしている一方で、
- 使い勝手の悪いメニュー体系
- 操作性と感触の悪い物理ダイヤルやボタン類
- 操作に対するレスポンスの遅さ
- ファームウェアアップデートの雑さ
- 高温環境での安定性
などの、αシリーズの抱えるさまざまな課題は長い間放置されています。
にも関わらず、「革新的だ」「これまでの常識を覆すスペックだ」というような持ち上げられ方をしていることには違和感を覚えます。
もちろん693点測距や秒間20コマの高速連写といったものは、実際にそれを実現する技術力には感嘆しますが、撮影の道具としてもっと優先して改善するべき点があるのではないか?という事です。
また進化に対する驚きという面を見ても、αシリーズの進化とは結局「イメージセンサーを載せ替えていくこと」であり、そこに目が慣れてしまうと当初のような驚きも無くなっているように思います。
αはカメラとして本当に進化していると言えるのか?
ソニーの開発者が高い能力と技術者としてのチャレンジ精神を持ち合わせていることは間違いないでしょう。
しかしカメラの目指すべき進化とは「技術的に困難なことを実現すること」そのものではありませんし、カメラの最終的な良し悪しは、スペックで語りきれない部分がかなりあります。
ですから、αにはもっと地に足の着いた進化を期待していますが、現在のところソニーは数値で表されるスペックの向上に終始しているように思えます。
カメラマニアの巣となっているαシステム
ソニーはこれまで徹底して先進的なスペックをアピールしてきましたし、実際にそれが一部のカメラマニアやプロカメラマンにも支持されてきました。
しかしそうした層からの支持によって、結果的にソニーは「カメラマニアの顔色を伺うカメラ作り」しか出来なくなっています。
基本的にカメラマニアというのは、撮った写真よりもカメラを語ったり所有すること自体に喜びを見出す人たちです。
これは嫌味でも良し悪しでもなく、多くの趣味には、
- 道具を使って楽しむ人
- 道具自体が好きな人
この両方がいるのが普通です。
ですからどのカメラメーカーであっても、機材そのものに対する愛好家は一定数いるのですが、中でもその比率が多くかつ尖鋭化してるのがソニーであり、αシステム自体がマニアの巣となっています。
もちろん全てのαユーザーがそうであるということではありませんし、写真撮影を積極的に行なっているαユーザーもいることは承知していますが、他メーカーと比較してそうした傾向が強いだろうと思います。
そして問題はユーザーの傾向そのものではなく、カメラマニアの方を向いて作ったカメラは、結局「そのようなカメラ」にしかなり得ないということであり、そうしたカメラ作りの先にあるのは、「マニアに支持されているのに、なぜか一般に広がらない」という迷宮であり、既にソニーはその迷宮に踏み込んでいます。
そうした意味で、現在のαは「写真を撮らない人が作っている、写真を撮らない人のためのカメラ」という印象があります。
■販売面でのαの弱点
裾野を広げることの大切さ
次に販売の面からソニーの問題点を考えていきますが、ソニーの抱える問題の一つは、安いカメラを作りたがらないという点にあります。
カメラ業界自体が斜陽産業と言われているわけですから、数が売れないのなら高付加価値・高単価ののカメラやレンズを売っていきたくなるのは企業心理としては自然なことです。
また営利企業として利益を出さなければ事業も続けられないのですから、高付加価値製品をラインナップしていくことも必要でしょう。
しかし「これから写真を撮りたい」という人は、いきなりフルサイズの高価なカメラを買ったりはしません。
ですから写真趣味の裾野を広げるためには、儲からなくとも普及価格帯のカメラを作り続けるということが、長い目で見てとても重要になってきます。
またソニーは頻繁に「αはフルサイズ市場で売れている」と喧伝していますが、それは言い方を変えれば「αは(初心者に必要な)エントリーモデルは重視していない」と言っているのと同義であり、それは自慢出来るようなことではありません。
2009年から2010年頃にAマウントで入門者向けに安価な単焦点レンズをアピールする、「はじめてレンズ」のような入門者のファンを増やそうという発想は今のソニーからは完全に失われてしまいました。
高価なボディやレンズを購入する顧客を数多く獲得したいというのはどのメーカーも思うことでしょう。
しかし新たな写真愛好家を常に育て続けなければ、その先にカメラ業界の生き残りもありません。
種も撒かずに収穫だけを続けられるような、都合の良い畑はないのです。
写真文化の裾野を広げる方法というのは、低価格のカメラをラインナップするという事だけではありませんし、フォトコンテストのスポンサーや写真投稿サイトの運営をしているソニーにそうした意識が全く無いとも思いませんが、そうした「写真文化を広げるための活動」の重要性に、ソニーはキヤノン・ニコンほど意識が出来ているようには見えません。
逆にネット広告やカメラメディアとのタイアップなどに予算を注ぐ姿勢は、αはカメラ作りだけでなく広告戦略までもがカメラマニアの方だけを向いてしまっているように思います。
ソニーの販売戦略の問題点
また純粋に販売戦略の効果としてみた場合、フルサイズ機を主力に置くということは、既に写真愛好家やカメラマニアである人々をターゲットしているわけですから、初心者をステップアップさせ中級機・上級機へと買い替えさせるという「緩やかな囲い込み戦略」が出来ないという弱点があります。
これはいわゆる「マウント縛り」のような意味だけではなく、人は慣れた操作から離れがたく、メーカーに対する慣れはユーザーを囲い込むための大きな要素の一つとなります。
現在のソニーはユーザー獲得の多くの部分を、既にカメラに詳しい写真愛好家やカメラマニアのマウント追加やマウント移行に頼っています。
つまり現在α7やα9シリーズを購入するユーザーの多くは、初めてレンズ交換式カメラを購入する(あるいはα5000やα6000シリーズからステップアップする)という人ではなく、これまでに他社の中級機や高級機を所有した経験のある人々です。
写真愛好家やカメラマニアは高価なボディやレンズを積極的に購入する層であり、そうした人たちはカメラ市場を安定的に支えてくれる重要な層です。
しかしそうした言わばメーカーにとって都合の良い、「大金を機材に払ってくれるマニアだけを囲い込もう」という考えは、ライトユーザーを育てないために、最終的には業界全体をやせ細らせる結果にも繋がるでしょう。
差を広げられつつあるシェア
シェアの面から見ていくと、ソニーのミラーレス市場でのシェアは、2017年の国内シェアが20.2%(BCN調べ)となっています。
2017年の国内の一眼レフの出荷台数(CIPA調べ)は673,931台、ミラーレスは544,828台ですから、国内におけるレンズ交換式カメラのうちのミラーレスの比率は約44.7%となります。
つまり、ソニーのミラーレス市場での国内シェア20.2%というのは、レンズ交換式カメラ全体に換算すると約9.0%程度であることが分かります。これに加えてAマウントのシェアは、(BCNでレフ機にカテゴライズされているトランスルーセント・ミラーのシェアはキヤノン・ニコン・リコーの上位三社の合計である99.7%を引いた分であるため)0.3%以下でほとんどない事が予想されます。
そのため、ソニーの2017年のレンズ交換式カメラの国内シェアはおおよそ9.3%程度となり、キヤノン、ニコン、オリンパスに続いて4位となります。
対してソニーのレンズ交換式カメラの世界市場でのシェアは13.3%(日経調べ)で、キヤノン、ニコンに次ぐシェア3位となります。
つまり、ソニーのレンズ交換式カメラ市場でのシェアは、
- 世界シェア:約13.3%(3位)
- 国内シェア:約9.3%(4位)
となります。
これは国内主要カメラメーカー7社の中では上位ではあるものの、カメラ業界でのソニーの話題性の大きさと比較して、実際にはそれほどシェアを獲得できていない、ということも表しています。
ソニーと同様の方法でシェア1位のキヤノン、2位のニコンをレンズ交換式カメラのシェアを比較してみると、
レンズ交換式カメラ世界・国内シェア | ||
メーカー | 世界シェア | 国内シェア |
キヤノン | 約49.1% | 約43.3% |
ニコン | 約24.9% | 約19.0% |
ソニー | 約13.3% | 約9.3% |
このようになっており、ソニーのシェアは、
- 世界シェア
- キヤノンの約1/3.7
- ニコンの約1/1.9
- 国内シェア
- キヤノンの約1/4.7
- ニコンの約1/2.0
となります。
これが先に紹介した、αにはカメラマニアが熱狂しているほどには一般人に広がる力がない、ということの結果でもあります。
性能で勝りながらセールスで負けることの意味
「現時点でのシェア」というのは実はそれほど気にする必要はないのかも知れません。しかし問題は、性能で勝っているのに販売ではEOS Mに抜かれているという点です。
カメラのスペックで負けていない、レンズのラインナップでも負けていない、しかし販売では負けている。
それはつまりαは性能面でのアドバンテージを、(カメラメーカーとしての)キヤノンのブランド力と販売力で引っくり返されているということであり、それゆえに打開が難しく、今後更にニコンのフルサイズミラーレスシリーズが登場し、いずれはキヤノンもそれに追随するとすれば、ソニーはかなり苦しい立場に立たされると考えられます。
ただそのブランド力というのは、結局そのメーカーのカメラ事業に対する信頼からくるものであり、キヤノンやニコンが(カメラが売れない時でさえも)長い間常に写真文化の発展とカメラ事業に注力してきたことによって作り上げらたものです。
独占から競争へ
またフルサイズミラーレス市場は、(これまでもライカがいたとは言え)実質的にソニーが独占してきた市場でした。
ですから現時点のシェアで勝てないのであれば、今後強力な競合メーカー2社が同じ土俵に参入すれば、ソニーがシェアを落とす要素はあっても上げる要素はないと考えるのが普通です。
シェア=カメラとしての良し悪しを表すものではありませんが、もしもソニーがカメラ業界でのトップブランドを目指すのであれば、ミラーレス参入から約8年が経過し、今なおキヤノンとニコンが一眼レフに主軸を置いている現時点では、ソニーはミラーレス市場で「圧倒的なトップシェア」でなければなりません。
しかし先に先にご紹介したように、既にソニーはミラーレスの国内シェアでキヤノンにα逆転されています。
またソニーがフルサイズミラーレスを始めてから約5年が経過していますが、ニコンが今後本気でフルサイズミラーレスに注力していくとすれば、αに性能面で追いつくのにそれほどの年数は必要ないでしょう。
更に言えば、これが強大なブランド力を持つキヤノンのフルサイズミラーレスであれば、そもそも機能的に凌駕する必要さえないのかも知れません。
そもそもキヤノンとニコンのフルサイズミラーレスのシェアは現在0%であり、今後上がる事はあっても下がる事はなく、逆にソニーにとってはその分を奪われ続けることになります。
つまり現在のソニーの状況は、将来を考えると既にかなり苦しい立場にあるのだろうとさえ思います。
今後のソニーの販売動向予測
個人的には今後ソニーのシェアはじわじわと落ちていくと考えていますが、そうした流れはカメラ業界の変化に敏感な国内市場から訪れていくと予想されます。
ですから今後の展開としては下記のように、早ければ2018年の年間シェアでソニーのシェアは頭打ちとなり、2019年以降はシェアを下げていくと考えます。
- 2018年:国内シェアの伸びが止まる
- 2019年:国内シェアが下がり始め、世界シェアの伸びが止まる
- 2020年:世界シェアが下がり始める
これは販売台数のシェアの予測ですが、営業益という面から見ても、カメラ市場全体が縮小傾向であるために台数ベースでのシェアが下がるのであれば、営業益も遠からず下がっていくでしょう。
結局ソニーも市場シェアを大いに気にしている
残念なことに、カメラ業界は結局は「シェアが物をいう世界」です。
これまでにもソニーだけでなく多くのメーカーが優れたカメラを作ってきました。勿論そこには、ミノルタ時代のαシリーズも含まれます。
しかしそれでも一眼レフ市場がキヤノンとニコンに集約されていったのは、カメラ業界全体がシェアがシェアを呼ぶ業界であるということであり、それを知っているからこそソニー自身が「米国のフルサイズ市場でαがシェア○位に!」というようなアピールをするわけです。
もしソニーが本心で市場シェアを重視していないのであれば、そのような宣伝をすること自体が矛盾しています。
またレンズ交換式のデジタルカメラ業界というのは、カメラボディ・レンズ共に開発にはそれなりに大きなコストがかかるため、「小規模で最先端のカメラを作り続ける」ということは通常出来ません。
特にαのようなスペックで売っていくスタイルの場合、その価値を維持するためにどうしても事業自体がマスプロダクションであり続ける必要があります。
そして縮小産業の中でマスプロダクションであり続けるためには、結局は市場シェアを上げていく以外に方法はないのです。
■私がαに限界を感じる理由
Eマウントが無くなるとか撤退するという意味ではない
最後のまとめの前に申し上げておきますと、「今後ソニーは今の勢いを無くしていく」とは思っていますが、勿論それはソニーが数年でカメラ事業から撤退するというような類の話では全くありません。
ソニーはその高い性能から、今後も一定の支持を得られるでしょうし、レンズ交換式カメラ世界シェア3位の座も長い間維持出来ると思っています。
また今回の話の趣旨は、「ソニーがカメラ業界でトップブランドになることはないだろう」というソニーのカメラメーカーとしての限界について話しているものであり、トップブランドでなければ使う価値がないというような意味ではありません。
ソニーの限界は2012年頃から感じていたこと
話を戻しましょう。
今から数年後に振り返ってみたときに、「ソニーのカメラメーカーとしての熱狂のピークは、2015年のα7R IIから2017年のα9発表時までだった」と多くの方が思うことになると考えています。
そしてこの、結局ソニーはカメラ業界のトップに立てないだろうという思いは、最近考えたことではなく実は2012年頃から既に私の中にあったものです。
2010年にNEX-5が発売された際、マウント径からフルサイズのイメージセンサーを搭載可能である事を確認し、ミラーレス市場の成長の可能性と、フルサイズイメージセンサーまで搭載可能なマウントを見て、ソニーはカメラ業界のトップに立つかも知れないと本気で考えていた時期がありました。
その後2011年に購入したNEX-5Nが自身で購入した初のEマウント機ですが、翌年の2012年頃には逆に「ソニーはカメラ業界のトップにはなれないのではないか」という考えに変わり、約7年間に渡って実際にEマウント機を使用していく中で、現在ではその考えは確信へと変わっています。
しかし世間的には2013年のα7シリーズの発表あたりからEマウントに対するカメラマニアの熱狂は加速していき、ソニーの飛ぶ鳥を落とす勢いの中では、こうした意見は理解され難いだろうとも考えていました。
私がαの限界を感じる理由はこれまでに書いてきたように、技術力の問題ではなくソニーには「写真文化の中でカメラとはどうあるべきなのか?」という思想が足りない、ということに尽きます。
その結果、結局ソニー時代においてもαはミノルタの二の舞で終わるだろうという気がしていますが、今なら分かる人には分かると思います。
画像:Wikipedia
Reported by 正隆