カメラの良し悪しファンの皆さんこんにちは。
カメラの良し悪しを語る上で本当に大切なのは、数値に現れない部分です。
【目次】
- シャッターボタンの作り込み
- 撮影者の感覚に寄り添うのがシャッターボタンの理想
- シャッターボタンはぶつかって切れたりしないように作らなければならない
- スイッチ方式による押し込みのし易さの違い
- ボディ底面の作り
- ボディ底面にはカメラ作りの良し悪しが出る
- カメラの底を見れば、作りの良し悪しが分かる
- ファインダーの見え味
- 数値で表しきれないファインダーの評価
- ファインダーを比較する際の注意点
- 操作レスポンス
- シャッタースピードや絞り値の反応の良し悪しは撮影に重要な要素
- 操作の快適性に影響するタッチパネルやメニューの応答性
- グリップの握り心地
- 疲労感にも影響するグリップ
- 中指部分は深く抉れていれば良いとは限らない
- 左手の手のひらへの当たりも気にして確認する
- ピントリング・ズームリングの感触
- レンズの良し悪しは写りの良し悪しだけではない
- 適切なトルク感と安定した動きであることが重要
- 数字で語れない部分にこそカメラ作りの深遠がある
- カメラは人間の感覚と切り離せない
そこで今回は、店舗などでカメラを選ぶ際に、実際にどこに注目して実機を見ていけばいいのか?という点について幾つかのポイントをお話ししたいと思います。
■シャッターボタンの作り込み
撮影者の感覚に寄り添うのがシャッターボタンの理想
カメラで撮影者が動かす操作の中でも、非常に繊細なフィーリングを要するのがシャッターボタンです。
シャッターボタンは軽ければ良いというものでも、重ければ良いというものでもありません。
シャッターを切るつもりもないのに緊張感が高まっただけで切れてしまうほど軽いのでは、無駄なショットになりますし、逆に撮りたい時に強く押し込まないといけないほど重いのでは、ブレの原因となったりレリーズのタイミングが遅れてしまいやはり問題です。
シャッターボタンは、撮影者が「シャッターを切ろうと意識した瞬間に切れる」というような重さと深さが理想的と言えるのかも知れません。
浅過ぎても深過ぎても、軽過ぎても重過ぎてもダメなシャッターボタンは、数値で表し難いカメラの作り込みの良し悪しを知ることの出来る部分の代表とも言えるでしょう。
シャッターボタンはぶつかって切れたりしないように作らなければならない
シャッターボタンには適切な重さがある、というお話をさせて頂きましたが、シャッターボタンは重さだけでなく、シャッターボタンそのものの形状や周辺部の作りも重要になってきます。
と言うのも、シャッターボタンは押しにくい形状は論外ですし、逆に出っ張り過ぎていたり膨らみ過ぎていると、「電源を入れたまま移動する」というようなシチュエーションで、肩や首にストラップで掛けて移動したりしようとすると、カメラが揺れて体にぶつかって勝手にシャッターが切れてしまうということが起こります。
また、カメラバッグに入れる際などにもシャッターが触れて意図しないコマが撮影されてしまうということが稀に起こります。
デジタルカメラであれば、仮にシャッターボタンが不用意に何かにぶつかって無駄なコマが撮影されても、フィルムカメラほどの問題が起こるわけではありませんが、明らかに不要なコマが挟まるのは好ましいこととは言えません。
ですから、シャッターボタンは押し易く、かつ意図しない衝撃で勝手には切れないものにする必要があり、それにはシャッターボタンそのものの形状やシャッターボタン周辺の形状に工夫が必要になります。
EOS-1D X Mark II | D5 |
カメラ業界を代表するキヤノンとニコンのEOS-1D X Mark IIとD5のシャッターボタン周りを見てみましょう。
いずれの機種もシャッターボタンをボディ面から出っ張らせていません。
さらにキヤノンの方は谷間のようにシャッターボタン周辺を凹ませた形状とすることでカメラボディが体などにぶつかっても、シャッターボタンがぶつかり難くしており、ニコンの方は電源スイッチのリングによって、同様に体がぶつかってもシャッターボタンが押し込まれないようにガードしています。
ちなみにこれはフラッグシップ機であるEOS-1D X Mark IIとD5だけの話ではなく、EOS Kiss X9iやD3400といったエントリーモデルでも同様の工夫がなされており、「シャッターボタンは出っ張っている方が押し易くていいだろう」というような安易な考え方をしていない事が分かります。
スイッチ方式による押し込みのし易さの違い
シャッターボタンの押し心地を分けるという点で、スイッチの方式の違いにも触れておきましょう。
シャッターボタンの構造には、
- メンブレンスイッチ
- リーフスイッチ
主にこの二つのスイッチが使われています。
「メンブレンスイッチ」はメタルドームと呼ばれる部品を2枚使った構造となっており、半押しと全押しの違いが明確になっています。
メンブレンスイッチは、
- 半押しまでが軽く
- 半押しから全押し時に「カチッ」という感触があり
- 全押し状態(シャッターが切れるところ)で行き止まる
という構造です。
メンブレンスイッチはコストを抑えられることや、全押しの分かりやすさから、入門機から中級機に使われる傾向があります。
それに対して上級機のレリーズボタンには、3枚の板バネを使った「リーフスイッチ」と呼ばれるスイッチが採用されている場合があります。
リーフスイッチは3枚の板バネを重ねるように押し込んでいく構造であるため、
-
- 1枚目の板バネでレリーズの重みを作り
- 2枚目の板バネで半押し開始
- 3枚目の板バネで全押し
- さらに押し込む余地を残している
という凝った構造になっています。
なぜ上級機でリーフスイッチが採用されるかというと、一つの理由として、全押し時にいきなり行き止まりとなってぶつかるような感触がなく、シャッターを切った時の指当りが良いという感触的な上質感を出す事が出来ます。
そしてもう一つの重要な要素として連写時にリーフシャッターの方が全押し状態を維持し易いという理由があります。
連写撮影ではシャッターボタンを全押しした状態を維持しなければなりません。
しかしメタルドームスイッチのような全押しで完全にボタンが行き止まるようなタイプの場合、わずかに力を抜いただけで全押し状態が解除してしまい易いため、シャッターボタンに力を込め続けることになります。
それに対してリーフスイッチでは、全押しの先にマージンとなるスペースがあるため、行き止まりではなくストロークの途中で全押しになるため、押さえつけるような力を込めなくとも連写状態を維持することが出来るというわけです。
そのため、例えば連写をある程度続けることを繰り返すようなスポーツ撮影時に無駄な力を使う必要もないというわけです。
先にご紹介したようなEOS-1D X Mark IIとD5も当然リーフスイッチを採用しています。
■ボディ底面の作り
ボディ底面にはカメラ作りの良し悪しが出る
昔からカメラ業界では、
「作りの悪いカメラはパッチワークのようにつぎはぎだらけでやたらと外装にネジが多く、逆に作りの良いカメラはつなぎ目が少なく外装にネジが少ない」
と言われてきました。
しかしそこはカメラメーカーも分かったもので、上面・前面・背面・側面などは、
- 張り革の下にネジ止めがくるようにする
- ビスキャップでネジを目立たないようにする
- アイカップなど外装のパーツでネジが隠れるようにする
といったさまざまな工夫を施すことで、接合部やネジが目立たないように工夫しています。
しかしながらカメラの底面はそこまで気を配れていないため、作りの良し悪しが出やすい部分です。
カメラの底面は、そのカメラが「売り上げに直接影響のない細部に至るまで、どれだけの手間とコストをかけ、拘りを持って作っているのか」が現れる部分と言えるでしょう。
各メーカーを代表するマウントのフラッグシップ機の底面を比較してみましょう。
EOS-1D X Mark II(ネジ4本) |
D5(ネジ2本) |
α9(ネジ9本) |
OM-D E-M1 Mark II(ネジ10本) |
X-H1(ネジ10本) |
LUMIX GH5S(ネジ9本) |
K-1 Mark II(ネジ13本) |
各社を代表するマウントのフラッグシップ機を比較してみると、EOS-1D X Mark IIとD5の底面が大きなカメラでありながら、見えているネジの本数が圧倒的に少なく、繋ぎ目も少ないことから洗練されているように見えます。
カメラの底を見れば、作りの良し悪しが分かる
もし今度カメラ店などに行かれた際には、カメラの底面を見比べてみて、
- どのようなネジが何本使われているのか?
- つなぎ目は目立つか?
などに注目して頂ければと思います。
カメラは底面は、カタログスペックには現れない本当のカメラの作りの良し悪しを一目で見分けられる部分と言えるでしょう。
■ファインダーの見え味
数値で表しきれないファインダーの評価
ファインダーには、
- ファインダー視野率
- ファインダー倍率
- アイポイント
といった数値で表すことが出来るスペックもありますが、ファインダーにはそうした部分以外に、「見え方」という重要なファクターがあります。
それは具体的に言えば、
- ピントの山が分かり易いか?
- 明るくスッキリと見えるか?
- 収差が少ないか?
- 測距点のスーパーインポーズは明るい場所でも見やすいか?
- ファインダー内表示は見やすいか?
という事であったり、更にEVFであれば、
- カメラを振った時や連写撮影時のカクツキが少ないか?
- EVFと背面モニターの差が少ないか?
- EVFと実際の撮影画像との差が少ないか?
といった点などもポイントになってきます。
そうした部分は、「フォーカシングスクリーン」「ペンタプリズム」「接眼レンズ」加えてEVFであれば「マイクロディスプレイ」など様々な要素に影響されるため、実際にファインダーを覗き比べて見なければ良し悪しがわかり難い部分です。
ファインダーを比較する際の注意点
そのため例え、同じファインダー視野率と同じファインダー倍率となっていて、OVFであれば同じペンタプリズム、EVFであれば同じマイクロディスプレイを使用していたとしても、フォーカシングスクリーンや接眼レンズなどによっても見え味は変わってきます。
ですからファインダーを比較する際には、カタログスペックではなく、同程度のレンズを使用した状態で、
- ファインダーの明るさ
- ピントの山の分かり易さ
- 周辺部などの収差の出方
- ファインダー内表示や測距点表示の(明るい環境での)見易さ
- 実際にシャッターを切った時のファインダー像の復帰速度
- (EVFであれば)カメラを振った時の映像の追随性
- (EVFであれば)連写時のEVFのカクツキ感の程度
- (EVFであれば)背面モニターとの色やコントラストの差異
- (EVFであれば)EVF表示と背面モニターの切り替えの速さ
EVFの注意点としては、いわゆるブラックアウトフリーと呼ばれるような、連写中ライブビュー映像が途切れないタイプのファインダーであっても、(画像プレビューではない)微妙なカクツキが発生するケースもあるため、こうした点は必ず実際に連写しながら確認するようにしましょう。
■操作レスポンス
シャッタースピードや絞り値の反応の良し悪しは撮影に重要な要素
仕様表では分からない操作の一つに操作に対するレスポンスがあります。
良くAF速度などが速い遅いということは話題になりますが、そうした面だけでなく、例えば、
- メニュー画面の切り替わりのスピード
- タッチパネルの反応の良し悪し
- ダイヤルやセレクターレバーを動かした時の反応の速さ
なども実際の撮影時には重要になってきます。
絞りやシャッタースピードを一気に動かした時に、一拍遅れるように数値が変わりラグを感じるようでは良いとは言えません。
ダイヤルだけでなく、測距点選択のセレクターレバーなども操作に対して素早く反応して欲しい部分です。
操作の快適性に影響するタッチパネルやメニューの応答性
絞りやシャッタースピード、測距点選択などのレスポンスはシャッターチャンスにダイレクトに影響する部分とすれば、メニューやタッチパネルの反応はシャッターチャンスというよりも、操作の心地良さに影響を与える部分と言えるかもしれません。
スマートフォンのタッチパネルの反応の良し悪しに慣れてしまうと、殆どのカメラのタッチパネルの反応はスムーズとは言えないと多くの方が感じられているのではないでしょうか?
現在ではタッチパネルはライブビュー撮影やメニュー選択だけでなく、ファインダーを覗きながらの測距点選択などにも使われますし、撮影画像の拡大縮小、拡大部分の移動などにも使われるため、反応の良し悪しはスムーズな操作感を感じることが出来るかどうかは重要なポイントです。
■グリップの握り心地
疲労感にも影響するグリップ
グリップもカメラの良し悪しを語る上で外せない要素でしょう。
持ち易いグリップは撮影の疲労感を軽減し、また撮影操作に集中させてくれるもの。
逆に言えば持ち難いグリップは、例えカメラ自体の質量が軽かったとしても、結果的に力を込めて握る必要があるため、疲れ易いものとなってしまいます。
手の大きさは個人差があるため、一概に「このようなグリップが最適解である」というようなものではありませんが、良くあるパターンとしては、所謂「小指が余る状態」などは力を込め易い小指を活かせないわけですから、良いグリップとは言えません。
中指部分は深く抉れていれば良いとは限らない
また中指の掛かりが良いグリップは重さを感じにくくフィット感も高いことが多いものの、あまりに中指の部分だけ抉れるような形状にしてしまうと、中指にカメラの重量が集中しやすく、長時間使用していると中指の上側にマメができる場合があります。
つまり中指の掛かりが良過ぎるというのも考えもので、グリップには他の指にも適切に重量が分散されるようなバランスが必要なのです。
カメラ店などで短時間持つだけでは、中指の掛かりが良い方が持ち易いように感じてしまうのですが、実際の撮影で長時間カメラをホールドしたり、重量級のレンズを使用する場合にはそうしたことを考えて、親指側も含めてなるべく多くの指で重量を分散できるグリップになっているか?という点に注目して持ち心地を確認して見ると良いでしょう。
左手の手のひらへの当たりも気にして確認する
また、右手で持ち歩いている状態は右手のグリップ形状が非常に重要になりますが、撮影する体勢では、カメラの重量を支えるのは左手も大きな役割を果たしています。
そのため、左手の手のひらや手のひらの付け根部分がなるべくカメラとフィットする形状になっているかということも、カメラの持ち心地を語る上で重要なポイントとなります。
左手の手のひらにあたる部分が角張り過ぎていたりすると、やはり持ち心地が良いカメラとは言えないわけです。
結局グリップは、持っていることをなるべく意識させないグリップこそ最高のグリップであると言えるのかも知れません。
■ピントリング・ズームリングの感触
レンズの良し悪しは写りの良し悪しだけではない
最後にカメラボディだけでなく、レンズの良し悪しについてですが、勿論レンズの良し悪しはその写りの良し悪しが非常に重要なポイントでしょう。
またその「レンズの描写性能」と一口に言っても、
- 解像力
- 収差
- 周辺減光
- 逆光耐性
といったような様々な要素があります。
加えてAFレンズであればAFの速さや正確さ、手ぶれ補正の効果の高い低いなどさまざまなポイントがあります。
さらに汚れがつき難い防汚コーティングなどを搭載しているか?といった利便性の面まであるのですが、ここで言うレンズの良し悪しとはそうした部分ではなく、「操作感や作りの良し悪し」といった部分です。
特にズームリングやピントリングの動きやトルク感はレンズの作りの良し悪しが分かり易く出る部分です。
適切なトルク感と安定した動きであることが重要
ピントリングやズームリングの動きを見る際に気をつけなければいけないのは、「重ければ良い」とか「軽ければ良い」という単純なものではないということです。
重過ぎれば回すこと自体が大変になりますし、素早い操作が難しくなります。逆に軽過ぎれば動き過ぎてしまって適切な位置で止めることが難しくなり、また感触が安っぽくなる傾向にあります。
現在のオートフォーカスレンズでは、マニュアルファーカスに切り替えるとピントリングはスカスカのものも多いのですが、これはピントの微調整がやり難くなり、また安っぽい感触になります。
逆に重過ぎるのも考えもので、ピントリングを回すこと自体が億劫になります。
一部のマニュアルフォーカスレンズには、オートフォーカスレンズの安っぽいトルク感に対するアンチテーゼ的な感覚で異様にピントリングを重くしているものがありますが、それは適切な設定とは言えません。
また、ピントリングにせよズームリングにせよ、回し始めから終わりまでが一定の感覚であることが好ましく、動き始めは妙に重かったり、途中に引っかかりのようなものを感じるような作りは良いとは言えません。
最近のミラーレスカメラ用レンズで多く見られるバイワイヤ方式のピントリングは、オーバーインフの関係で無限遠での固定などが行い難いものなどもあります。
ズームリングにせよピントリングにせよ、適切なトルク感と、その感覚がどの位置でも一定であることが理想的な動きと言えるでしょう。
この他にも、レンズも仕様表で分からない作りの良し悪しのポイントは沢山あるため、MTF曲線や作例を見るだけではそのレンズの良し悪しを簡単に結論付けることは出来ません。
■数字で語れない部分にこそカメラ作りの深遠がある
カメラは人間の感覚と切り離せない
結局人間の感覚に合わない作りや操作感のカメラは、幾らスペック上の数値が高くても実際の撮影ではストレスや違和感を感じるもの。
操作に対する反応が敏感過ぎても鈍感過ぎてもダメ、重過ぎても軽過ぎてもダメと、人間の感覚は実に繊細です。
そのあたりを人間に寄り添わせることが出来ているかどうかが、使い心地の良さに繋がり、気持ち良く撮影に集中できるかどうかに繋がるのだろうと思います。
カメラを見る時には、是非実機に触れてみて、そうした「カタログスペックに現れない部分の作り込み」にも注意して見ると新しい発見があるのではないでしょうか。
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Reported by 正隆