カメラ業界動向を見守る皆さんこんにちは。
遂にキヤノンからフルサイズミラーレス、EOS Rシリーズの正式発表が近付いてまいりました。
ニコンZマウントが発表された矢先ではありますが、キヤノンの発表により、カメラ業界のトップ2メーカーが一気にフルサイズミラーレス市場に参入となりました。
【目次】
- EFの幕引き役はニコンでもソニーでもなくキヤノンだった
- RFマウントは実質的なEFとEF-Mの終焉の知らせなのか?
- RFマウントの内径とフランジバック
- スタートから魅力的なRFマウントのレンズラインナップ
- ニコンにもソニーにも最悪のタイミングで発表されたEOS R
- ニコンを意識した発表時期
- ソニーの反撃を巧みに回避したキヤノン
- ミラーレス時代の主役も結局キヤノンなのか?
- あらゆるメーカーを絶望の谷に突き落としたキヤノンの参入
- キヤノン以外のメーカーはミラーレス市場で生き残れるか?
そこで今回は、今後のカメラ業界の勢力図の予想をしてみたいと思います。
■EFの幕引き役はニコンでもソニーでもなくキヤノンだった
RFマウントは実質的なEFとEF-Mの終焉の知らせなのか?
今回キヤノンは、EOS Rに合わせて、RFレンズ4本と、さらにEF-Mレンズ一本、EFレンズ2本を同時に発表するようです。
これによって、一応は「EFもEF-MもEFも切り捨てません」というアピールになっているわけですが、如何にキヤノンと言えども、RF、EF、EF-Mの3つのマウントを公平に維持していくことは出来ないでしょうし、特にEF-Mマウントは、RFマウントの登場で存在価値がほぼ無くなったわけですから、比較的早い時期に自然消滅させていくことになるでしょう。
また、30年以上に渡ってキヤノンを支えてきたEFマウントも、今後展開されるであろうZマウントやEマウント(あるいは更なるフルサイズミラーレスマウントたち)との熾烈な競争を考えれば、いずれは主力の座をRFに譲ってていく事になるのではないかと思います。
RFマウントの内径とフランジバック
個人的にはEF-Mにフルサイズを無理矢理にでも入れてくるのではないかと思っていたので、このEF-Mさえも切り捨てるというキヤノンの割り切りの良さには驚かされました。
勿論長い目で見ればEF-MよりもRFマウントの方が有望でしょうが、現在の低くはないEF-Mマウントのシェアを(実質的に)捨てるという決断は、キヤノンにそれだけの余裕と自信があるということなのでしょう。
そして内径47mmのEF-Mマウントを見限って新マウントに変更するというのは、恐らく英断だったと思います。
ただ、噂されているRFマウントが、内径が54mmなのは良いとしても、フランジバックが20mmというのは最近のミラーレスカメラとしては比較的長めで、更にEF-Mマウントのフランジバックが18mmだったことを考えると、キヤノンとしてはフランジバックを少し伸ばした方が良いという考えに至ったようです。
逆にニコンはZマウントで16mmとミラーレスとしてもかなりのショートフランジバックを採用してきており、リーク画像を見る限り、見た目だけ言うなら、ニコンのZマウントの方が上から見た際のマウント周りがスッキリとしていて美しいと思うのですが、2社がどのような考えでそのようなフランジバックを採用したのか、いずれ行われるであろう開発者インタビューが今から楽しみな部分です。
スタートから魅力的なRFマウントのレンズラインナップ
RFマウントのスタートアップのレンズラインナップは以下の4本です。
RF 28-70mm F2L USMという、非常に大胆なコンセプトのレンズをいきなりラインナップしてきたことが一番のトピックでしょう。
EFマウントにさえ無い、大三元を超えるF2通しのズームレンズをラインナップしてきたことは、ある意味でキヤノンのRFマウントに対する本気度を示すもので、同時にキヤノンがミラーレスに対して、小型軽量でなければという妙な拘りを持っていないという宣言ともとれます。
同時に利便性が高く人気の高い、手ぶれ補正機構内蔵のRF 24-105mm F4L IS USMをそつなくラインナップしてくるあたりに、キヤノンのマーケティングの巧さを垣間見ることができます。
加えて汎用性の高いマクロ機能付きの35mm単焦点のRF 35mm F1.8 Macro IS STMと、キヤノン単焦点レンズの顔とも言えるRF 50mm F1.2L USMをいきなり標準レンズにもってくるなど、スタートからRFマウントはそれなりに魅力的なラインナップとなっています。
この点に関しては、Zマウントの、
よりも面白みのあるレンズラインナップであると思います。
全体的に見ると、Zマウントの方がマウント周りが美しく見えますが、レンズ自体の高級感はRFレンズの方があるように思います。
ただ、ZマウントもRFマウントも当然レンズラインナップはまだまだ被写体を選ぶ状況であり、その点ではソニーEマウントに先行の利があります。
また、既にレンズロードマップを発表しているZマウントに対して、RFマウントが同様にロードマップを発表するかどうかも注目される点です。
■ニコンにもソニーにも最悪のタイミングで発表されたEOS R
ニコンを意識した発表時期
ニコンにとってもフルサイズミラーレスは将来を賭けた大勝負な訳ですが、Zマウントのスタートダッシュを期待していたところにこのEOS Rの発表は、ニコンにとって出鼻を挫かれる最悪のタイミングだったと言えます。
ニコンからすれば「こんな嫌らしいタイミングでぶつけてこなくても」という気はしますが、それは逆に言えばキヤノンがニコンこそ最大のライバルであると認めている証なのかも知れません。
あくまで印象で言えば、キヤノンは常にニコンを牽制することを意識して発表時期を決めているように思いますし、それはソニーの勢いがあったここ数年でさえそれは変わらなかったように思います。
ソニーの反撃を巧みに回避したキヤノン
キヤノンがニコンを意識しているように、ソニーもニコンを意識しているようで、本来であればソニーはカメラ業界で最大シェアを誇るキヤノンに噛み付いていくべきだと思いますが、この数年のソニーの販売戦略は対キヤノンと言うよりは、むしろ対ニコンであったように思います。
「まずはニコンに勝ってシェア2位に、いずれはキヤノンも…」ということであったのかも知れませんが、今回のソニーのZマウントに対する警戒も相当なもののように見えます。
αは2018年8月31日-2018年11月11日の期間で、α9、α7R III、α7 R II、α7 IIを対象にキャッシュバックキャンペーンを始めましたが、これも恐らくZ7に対するカウンターであったと思います。
キャンペーンを展開するには、宣伝や告知、またメーカー販売員の増員といった様々な費用がかかるわけですが、特にキャッシュバックキャンペーンは中でも予算のかかるものでしょう。
しかし今回キヤノンは、Z6・Z7を利用してソニーにキャッシュバックキャンペーンを打たせ、自らはソニーの反撃を華麗に躱した形となっています。
尤もソニーがEOS Rに対しても何かしらのキャンペーンや広告を打ってくる可能性もありますが、ソニーといえどもカメラ事業の広告費には限度があるでしょう。
そう考えると、今のところキヤノンは「ニコンを囮にして上手くソニーを釣った」と言えなくもありません。
実際はそこまで計算していたというより、キヤノンとしては単にZマウントの発売前に発表し、ニコンに対して上手く立ち回りたかっただけだろうとは思いますが、結果的にキヤノンは漁夫の利を得たように見えます。
■ミラーレス時代の主役も結局キヤノンなのか?
あらゆるメーカーを絶望の谷に突き落としたキヤノンの参入
既にフルサイズミラーレスに参入しているソニーと、参入が決まっているニコンにとって、EOS Rの発表(正確にはリーク)はまさに最悪のタイミングだったことでしょう。
しかも、これはニコンとソニーだけでなく、フルサイズミラーレスへの参入が噂されているマイクロフォーサーズ陣営にとっても殆ど同様であるように思います。
リークされている情報を見る限り、EOS Rはスペック的にはそこまで凄いものではないものの、キヤノンの最も恐ろしい点は、「性能に関係なく売れる」ということであり、他社からすると仮に性能で完勝していても販売では完敗してしまうのですから、理不尽極まりない存在でしょう。
キヤノン以外のメーカーはミラーレス市場で生き残れるか?
ニコン
強固なファンを多数抱えるニコンは当面粘れることが確定している分、カメラ業界全体から見れば、EOS Rシリーズに対抗していく上でかなりましな環境にあると言えるでしょう。
また、Zマウント自体は優れた規格のように見えるので、ボディ・レンズを素早くラインナップし、Fマウントへの割り切りさえ出来れば、EOS Rシリーズへの対抗は十分可能であると思います。
ただZ6とZ7はスペック的な不満点も指摘されているため、最初の3年間位は、(多少の批判を受けたとしても)ネガティブ要素を潰すために後継機を早いスパンで投入していくのが一つの手であると思います。
しかしやはりZシリーズがEOS Rシリーズに対抗出来るかどうかを最も左右するのは、ニコン自身に「Fマウントに終止符を打ってでも勝つ」という気合があるかどうかなのかも知れません。
Fマウントをやめるならニコンユーザーをやめるという人も中にはいるでしょうが、ニコンが思っている以上にニコンユーザーはFマウントよりもニコンそのもののファンであると思いますから、ニコンの主軸がZマウントに変わろうともユーザーはついてくる気がします。
ソニー
今の次々と各メーカーがフルサイズミラーレス市場に参入してくる(あるいは参入が噂されている)という流れを作ったのは、間違いなくここ数年のαの商業的な成功が大きな要因であったと思います。
これまでソニーは、フルサイズミラーレスの競合がライカだけであったため、実質的にフルサイズミラーレス市場を独占してきました。
しかし今後そこに多くのメーカーが参入してくれば、(相手はシェア0%からスタートなのですから)当然ソニーはシェアを奪われていくことになります。
ですから、キヤノンとニコン(及びその他メーカー)の参入で最も影響を受けるメーカーは、フルサイズミラーレスという流れを作ったソニー自身でしょう。
ソニーの高い技術力をキヤノンが上回ることは容易ではありませんし、レンズラインナップまで含めて考えると、現時点のソニーはフルサイズミラーレスをリードする存在です。
それでも、EOS Mシリーズにさえあらゆるメーカーがミラーレスのシェアで抜かれていったこと考えれば、「性能さえ優れていればEOS Rシリーズに勝てる」とソニーが考えているならば、確実にソニーはキヤノンに負けるでしょう。
とは言えソニーもそんな甘い考えはしていないはずですから、ソニーの今後の対EOS Rの販売戦略に注目したいと思います。
パナソニック・オリンパス
現在はマイクロフォーサーズマウントを展開しているパナソニックにもフルサイズミラーレスの噂が出ており、同様にオリンパスにもスーパーハイエンド機の噂があるため、(完全に噂の段階であるにも変わらず)それらすらも今回のキヤノンの参入は大きな影響を及ぼしそうです。
今からパナソニックがフルサイズミラーレス市場に参入したとしても、キヤノン・ニコン・ソニーの三社を相手にして対抗していくことは一般的なコンセプトでは非常に難しいと思いますし、かと言ってあまりにニッチなコンセプトを打ち出しても、大多数の一般ユーザーを弾いてしまうでしょう。
パナソニックとオリンパスは、フォーサーズからマイクロフォーサーズへの転換期に、本当はフルサイズミラーレスの方向性を打ち出していくべきでしたし、そうしていれば現在のパナソニックとオリンパスの状況はかなり変わっていたように思いますし、これは結果論ではなく当時からそのような意見は出ていました。
とは言え過去を悔いてばかりもいられませんから、もしもパナソニックが本当にフルサイズミラーレス市場に参入するつもりであるならば、RFマウント、Zマウント、Eマウントに無い価値と方向性を打ち出していけるかが重要になるでしょう。
そしてそれは、「動画を売りに」といった安易なものではなく、本当に新しいレンズ交換式カメラの価値を生み出すような発想でなければダメなのだろうと思います。
富士フイルム
富士フイルムも3社(キヤノン・ニコン・ソニー)のフルサイズミラーレス市場での競争が確定的、下手をすれば4社(キヤノン・ニコン・ソニー・パナソニック)が凌ぎを削ることになれば、Xマウントの優位性の一つであるミラーレスとしては比較的大きなセンサーサイズという部分を失うことになります。
しかし中判ミラーレスという、ニッチではあるものの一応の逃げ道を持っていることは、富士フイルムの強みであることは確かでしょう。
そう考えると富士フイルムの戦略としては、Xシリーズをアピールしつつ、裏ではGFXシリーズのボディとレンズラインナップを拡張していくということだろうと思います。
その際重要なのは、(たとえ儲かっていたとしても)決して「中判ミラーレス売れてます!」などとアピールせず、注目を集めないようにしながら大きくない中判市場で圧倒的なシェアを持つことで、「気付けば他社は中判ミラーレスへの進出を諦めざるを得ない」というところまでリードしておくというのが良いと思います。
リコー
リコーはもうとにかく一眼レフを頑張って頂いて、根強い一眼レフファンを対象に生き残りに賭けるのも一興ではないでしょうか。
もしキヤノンとニコンが急速にミラーレスに主軸を移していくことになれば、チャンスもあるかも知れません。
ペンタックスはある意味で既に唯一無二のブランドであるように思いますし、レンジファインダーで今尚生き残っているライカのような存在を目指して欲しい気がします。
厳しい状況が続くカメラ業界ですが、なるべく多くのカメラメーカーに、カメラ業界の発展を目指しつつ頑張って生き残って欲しいと思います。
画像:Canon USA
Reported by 正隆