皆さんこんにちは。
皆さんの記憶にも新しいと思いますが、東京2020オリンピックで、キヤノン・ニコンの高い壁の前にソニーはプロフォトグラファーのシェアで惨敗しました。
それは私が書いた検証記事だけでなく、キヤノン Globalの公式でも競技会場とシェアを明示した上で、「我々(キヤノン)がトップシェアだった」と明言しています。
しかしなぜかその後から、幾つかのメディアから根拠を一切示さずに、
- 五輪のカメラに異変 ミラーレスに脚光、「新興勢力」が存在感(朝日新聞)
- ソニーの報道カメラ、五輪・パラで躍進 2強に風穴(日経新聞)
- 東京五輪の裏で、秘かにカメラメーカーの争いも白熱…ソニーの躍進で勢力図一変の可能性(Business Journal)
といった、まるでソニーのカメラがオリンピックで大活躍したかのような事実に基づかない内容のフェイクニュースがタイミングを合わせたように報道されています。
この不可思議な現象は一体どういうことでしょう?こうした記事は誰の意向で書かれているのでしょうか?
目次
- 東京2020オリンピックの実際のシェアはキヤノンとニコンが圧倒していた
- ソニーが大躍進したとか、状況が一変したという事実はない
- 根拠を示さないソニー礼賛記事の幾つか
- 朝日新聞の内容はほとんど中身がない
- 日経新聞の内容は数字の辻褄が合わない
- Business Journalの記事は内容が滅茶苦茶で話にならない
- オリンピックがソニー1強であったという明確な嘘
- EOS R3に対する謎の勝利宣言
- フリーカメラマンは手ぶらで来るという全くのデマ
- 現場で撮り比べしているという作り話
- サービスデポをレンタルショップと勘違いしている
- 1強だというソニーも撤退するかもという謎理論
- ミラーレスと一眼レフの違いも分からない自称プロ
- キヤノン機とソニー機の区別もつかない記者
- これらのニュースは誰の意向で書かれているのか?
- こうした作り話を流布しようとしているのは誰なのか?
今回はプロフォトグラファー市場に関する、ソニーを持ち上げる胡散臭いニュースの中身を検証していこうと思います。
■東京2020オリンピックの実際のシェアはキヤノンとニコンが圧倒していた
ソニーが大躍進したとか、状況が一変したという事実はない
オリンピックでのプロフォトグラファーのメーカーシェアに関しては、当サイトでオリンピック開催当初から詳細な検証記事を書かせていただきました。
東京2020オリンピックプロカメラマンはキヤノン59.7%、ニコン31.2%、ソニー9.1%(352人を対象調査)
また、キヤノン Globalの公式もそれを裏付ける内容の発表をしています。
キヤノン公式の発表は、陸上競技(男女100m決勝/男女4×100mリレー決勝)、競泳(男女4×100mメドレーリレー決勝/混合4×100mメドレーリレー決勝)、バスケットボール(男女決勝)、体操競技(男女団体決勝/男女個人総合決勝)、野球(決勝)、サッカー(男女決勝)、テニス(男女決勝)、ゴルフ(男女決勝第4ラウンド)など多くの競技を対象に調査したもので、キヤノンがトップシェアであったという発表は、かなり信憑性の高い発表と言えます。
つまり実際の東京2020オリンピックで使用されたプロフォトグラファーのカメラシェアは、多い順から、キヤノン>ニコン>ソニーでした。
しかし、一斉に流れ始めたソニーを礼賛する報道はまるで「東京オリンピックのカメラをソニーが席巻した」、あるいは「大多数がαであった」といったニュアンスとなっており、現実とはかなりの乖離が見られます。
■具体的な根拠を示さないお粗末な報道内容の数々
根拠を示さないソニー礼賛記事の幾つか
そのソニーを不自然に持ち上げている記事の例を挙げてみましょう。
- 朝日新聞DIGITAL:五輪のカメラに異変 ミラーレスに脚光、「新興勢力」が存在感
- 日経新聞:ソニーの報道カメラ、五輪・パラで躍進 2強に風穴
- Business Journal:東京五輪の裏で、秘かにカメラメーカーの争いも白熱…ソニーの躍進で勢力図一変の可能性
といったタイトルとなっています。
1.朝日新聞の内容はほとんど中身がない
1.の朝日新聞の記事は、例によって「AP通信がソニーを採用」といったワンパターンな内容で中身自体がほとんどがありません。
2.日経新聞の内容は数字の辻褄が合わない
2.の日経新聞の記事も、「AP通信がソニーを」というテンプレ部分は同じなのですが、一部記事を抜粋すると(青字の””の中が引用部分です)、
“「アルファ貸してもらえますか」。ソニーがプレスセンター内に五輪・パラでは初めて設けたブースには、多くの報道陣が訪れた。”
プロフォトグラファーがサービスデポに来て「アルファ貸してもらえますか」なんて頼み方する訳がないでしょう。お醤油を切らした昭和の奥さんじゃあるまいし。
“高性能なプロ向けカメラは、一眼レフを得意とするニコンとキヤノンがシェアをほぼ二分してきたが、世界中のプロが集まる東京大会でソニーの存在感が一気に高まった。関係者からは「現場では2~3割のカメラがソニーだった」という声が多く聞かれた”
結局こうした「声が多く聞かれた」といった曖昧な表現しか出来ません。当然自分の目で確認していないということです。それにしてもその「関係者」って誰のことなんでしょう?
調査した会場を全て上げた上でシェアを具体的な数字で発表したキヤノンと異なり、あくまでの印象の話で済ませられるように書かれているため、事実でなくても構わないように逃げ道を作っているわけです。
「2-3割のカメラがソニーだった」と書いてしまうと虚偽報道になってしまいますが、2-3割のカメラがソニーだったという「声が聞かれた」であれば、その人が間違っただけと言い逃れができるので何とでも言えるという訳です(その声自体幻聴だと思いますが)。
そもそもキヤノンは公式に「55%がキヤノン機であった」と発表しいるわけですから、日経新聞の2-3割がソニーだったという報道が事実だと仮定し、間をとってαが25%がであったとすると、
- キヤノン:55%
- ソニー:25%
- ニコン:20%
ということになり、ソニーがニコンよりもシェアが高かったということでなければ、辻褄が合いません。勿論そんなことはありえません。
本当にαを使っていたフォトグラファーが3割もいて、ニコンよりもソニーのシェアが上であったいたというのなら、その証拠として十分な信頼性を担保できる数の画像を日経新聞には出してもらいたいと思います。
上の画像はカメラマンの顔を色分けしています(カメラが見えず不明な人は無着色)。
- キヤノンユーザー→赤色
- ニコンユーザー→黄色
- ソニーユーザー→水色
上記のようになっており、カメラメーカーが判別できるカメラマンが計43人、はそれぞれ、キヤノン(30人)、ニコン(11人)、ソニー(2人)でした。
また、東京2020オリンピックフォトグラファー352人を画像をカウントした記事でもご紹介しましたが、のべ352人のフォトグラファーの画像をカウントしたところ、
- キヤノン:210人(59.7%)
- ニコン:110人(31.2%)
- ソニー:32人(9.1%)
という結果で、ニコンを使っていたフォトグラファーはソニーを使っていた人数の3倍を超えています。
私のカウントしたキヤノンの使用率とキヤノン公式の発表が4.7%しかズレていなかったのですから、ソニーのシェアにズレがあったとしても同程度内に収まっていると考えるのが妥当で、東京大会に来たオリンピックフォトグラファーは数百人しかいませんから、352人もカウントして20%もズレるようなことはありえません。
つまり同程度の誤差があったとしても、ソニーを使っていたフォトグラファーは4.4%〜13.8%程度と考えられ、いずれにせよキヤノンやニコンには全く及びませんし、当然3割などと言う日経新聞の人づてに聞いた噂話とはかけ離れています。
そもそも新聞社は自ら取材し裏取りまでして記事にするもので、伝聞をソースに記事を書くべきではないと思いますし、そんなことは新聞社として基本中の基本ですから、日経新聞のような有名新聞社が「噂話を根拠に記事を書く」という行為自体かなり不自然です。
なにか裏取り出来ない事情でもあったのでしょうか?
Business Journalの記事は内容が滅茶苦茶で話にならない
そして3つめのBusiness Journalの記事はあまりにも内容が酷かったので、部分的に引用しながら、具体的におかしな点を指摘していきたいと思います。
記事の大部分はBusiness Journalの記者が「ある新聞社のカメラマン」と称している人物に取材する形となっています。
以下、青字で””で囲っている部分がBusiness Journalからの引用部分です。
1.オリンピックがソニー1強であったという明確な嘘
“この大会は、ソニーのことを触れずにはいられないでしょう。個人的には“1強”に近い感じです。”
ソニー1強?本当にオリンピック見ましたか?
1強と言うからには少なくとも50%以上がαであったということでしょうから、Business Journalにはソニーが1強だったという証拠を示してほしいと思います。どう考えてもありえない話です。
これも日経新聞の話と同じで、「ソニー1強だった」とは言わず、「個人的には」とか「近い感じです」といった表現をしているわけですが、1強に「個人的には」とか「近い感じ」なんて表現おかしいでしょう?
本当に1強であったなら、「一目で誰の目にも明らかな状態」であるはずですから、そんな表現にはならないはずで、結局これも後から言い逃れができるように言い回しを工夫しているにすぎません。
2.EOS R3に対する謎の勝利宣言
“キヤノンは発売前の『EOS R3』という製品をデモ機として貸し出していたみたいですが、ソニーの『α1』には追いつけていないという話でした”
日経新聞同様に伝聞形式をとることで責任を回避しています。
自分で使ったわけでもなければ誰が言った話かもわからないような内容で根拠がない上に、当然「何が追いついていないか」についても当然言及されていません。
そもそもこの謎のプロカメラマンなる人物が、唐突に「EOS R3よりα1の方が上」とアピールすること自体不自然で、誰かに忖度しているようにしか見えません。
3.フリーカメラマンは手ぶらで来るという全くのデマ
“今回はソニーもブースを出していて、多くの人が集まっていました。海外のフリーカメラマンは手ぶらで来て、借りる人たちが多いです。”
もはや「バカじゃないの?」と思いますが、手ぶらで日本に来て機材を全部デポで借りて撮影するオリンピックフォトグラファーなんているわけがないでしょう。
しかもそれがフリーカメラマンの多数派だと言っています。
メーカーのサービスデポが、全く機材を持って来ていない人にオリンピック撮影用の機材一式を全て貸し出すなんてありえませんし、手ぶらで来るということは、メモリーカードとかPCさえ貸してくれるということですか?一体何を言っているんでしょう?
とてもプロサービスを利用したことがある人間の発言とは思えません。
4.現場で撮り比べしているという作り話
“キヤノンとニコン、両方のカメラを借りて使い比べているフォトグラファーもいました。”
オリンピック会場でキヤノンとニコンのサービスデポに行って「比較してみたいからカメラ貸して」って頼むんですか?それでキヤノンやニコンが機材貸してくれると思っているのでしょうか。
第一オリンピックの撮影中にそんな暇はありません。プロフォトグラファーの撮影現場というのは「本番」であり「検討」や「練習」の場ではありません。
オリンピック会場で「うーん、キヤノンがいいかなぁ?ニコンはどうかなぁ?」なんてやっていたら完全にアホだと思われますし、二度と仕事の依頼はこないでしょう。あまりに馬鹿げた話です。
5.サービスデポをレンタルショップと勘違いしている
“サッカーワールドカップやオリンピックといった大きな大会では、メーカーがデポを出して、フォトグラファーはそこで最新カメラを借りて使うのが流れになっています”
もはや私はこの人は実在していない架空の人物だと思っていますが、この人の話によると、ワールドカップやオリンピックを撮影するプロフォトグラファーは手ぶらで会場に来て、メーカーのデポで最新のカメラを貸りて撮影するのがスタンダードだそうです。
サービスデポはメンテナンスや代替機の貸し出しはしてくれますが、機材レンタルショップではありませんから、手ぶらできた人に撮影機材一式を全部貸すなんてことはしません。
そもそも機材レンタルショップでも、オリンピックで使う膨大な機材やアクセサリーを全部貸すなんてしないでしょう。
6.1強だというソニーも撤退するかもという謎理論
“カメラメーカーの争いはどの大会も続きますが、ニコンはもう難しいでしょう。とはいえ、ソニーもある程度まで勝負したら、撤退するかもしれませんが。”
まずもってニコンに対する根拠のない中傷です。
それと「ソニーもある程度まで勝負したら撤退するかも」というのも全く意味がわかりません。この方はソニー1強だと言っていたのに、そのソニーが撤退するというのはどういうことなんでしょう?
私の感覚では、オリンピックで過半数を超えるシェアを獲得していたキヤノンですら1強とまでは思いません。キヤノン自身そんな舐めた考えではやっていないでしょう。
しかしこの取材を受けているプロカメラマンのかたは「ソニーが1強だった」と言っておきながら「ソニーもある程度まで勝負したら撤退するかも」といっており、もはや意味不明です。トップシェアになったから撤退するって一体どんな企業ですか?
7.ミラーレスと一眼レフの違いも分からない自称プロ
“来年の北京オリンピックが開催される頃には、キヤノンがソニーに追いついているかが気になるところです。今年9月頃に『R3』というミラーレス一眼レフを出しますが、まだまだでしょう”
EOS R3に関しての発言は全く無根拠な馬鹿げた評価だと思いますが、それ以前に「EOS R3というミラーレス一眼レフを出しますが」という部分。
ミラーレス一眼レフって一体なんですか?ミラーレスと一眼レフの区別もつかない自称プロカメラマンの話を誰が信じるのでしょうか?
一連の話からも、この人物が本当に実在しているのか大変疑わしいと思います。
8.キヤノン機とソニー機の区別もつかない記者
“オリンピックに続き、パラリンピックでも連日、熱戦が繰り広げられているが、その裏で秘かに熱い戦いが展開されている“カメラ戦争”。この大会を機に勢力図が大きく書き換えられるかもしれない。”
勢力図はなにも変わりませんでした。もう結果は出ました。
それに先ほどは「東京2020大会はソニー1強だった」と言っていたのに、「この大会を機に勢力図が大きく書き換えられるかも」というのは、記者とフォトグラファーの別の人物の話とはいえ、記事全体で話の整合性が取れていません。
それと、このBusiness Journalの記事のトップ画像の女性フォトグラファーが構えているカメラは、メーカー名や機種名はマスキングされているものの、EOS Kiss Digital Xでしょう?
ペンタ部からボディにつながる部分の特徴的な造形と、レンズロック解除ボタンの形からEOS Kiss Digital Xであることがわかります。
クリップオンストロボも同じくキヤノンのスピードライト 420EZですね。
つまり「ソニー躍進」という記事のタイトルとも合っていないですし、この画像、東京2020大会のものですらないですよね?
この記事を書いている人は、このカメラがキヤノン機かソニー機かも分からず、しかも東京2020大会かどうかも分からない人というわけです。
カメラに詳しかろうが詳しくなかろうが構わないのですが、このかたにプロ機の市場を語るだけの見識があるとはとても思えません。
■これらのニュースは誰の意向で書かれているのか?
こうした作り話を流布しようとしているのは誰なのか?
当然こうした胡散臭いニュースには、いつも通り根拠となる具体的な数字やデータは一切なく、「AP通信がソニーを採用」といったネット上でソニーを擁護の際にみられるテンプレートばかりです。
それにしても、ミラーレスと一眼レフの区別もつかない人たちが突然「AP通信がうんたら」なんて話を出してくるのは明らかに変だと思うのですが、一体誰が吹き込んでいるのでしょう?
まるで誰かに「こういう内容の記事を書いてください、AP通信に採用されたという点がアピールポイントです」と頼まれて、全くカメラに詳しくない人が仕方なく書いたような文章ばかりです。
それに世間的には大した話題性もないプロフォトグラファーのメーカーシェア動向に関して、大手新聞社やビジネス誌が伝聞を元に、自社の信用を落としてまで事実に反する内容を書いている点にも不自然さを感じます。
オリンピックで実際のプロフォトグラファーのメーカーシェアが周知されたわけですが、ほどなくして、こうしたフェイクニュースが続けざまに登場したのには誰かの思惑が影響しているのでしょう。
大手メディアにこうした記事を書かせる「動機」と「影響力」を持っているのは一体誰なのか?
賢明な皆さんはとうにお気づきでしょう。
Reported by 正隆