皆さんこんにちは。
最近オリンピックでの惨敗を受けて、どこぞのメーカーも必死なのか、先日も「明らかに事実と異なるソニー礼賛の報道が連続して流されている」というお話をこちらでしました。
今回はソニーショップ(ソニー製品を専門に扱う系列店)が、公式ショップブログで8月に流していたブログ記事について検証してみたいと思います。
ソニーショップがどういった位置付けの存在なのかについては、ソニーの公式サイトをご覧ください。
上のトップ画像はそのソニーショップの公式ブログ「五輪のカメラに異変 ソニー“α”大躍進」という記事からの引用ですが、要するに画像の、
- C→キヤノン(15名)
- N→ニコン(7名)
- S→ソニー(6名)
で、「ソニーがこんなに東京オリンピックで使われています!」という趣旨の記事の画像なのですが、皆さんこの画像のおかしな点、お気付きでしょうか?
目次
- ソニーショップが流しているフェイクニュース
- ソニー製品を専門に扱うソニーショップ
- 不自然な数え間違い
- ネット上に出回ったデタラメな検証画像
- 実は同時期に同じような怪しい画像が出回っていた
- どちらの画像もなぜかキヤノンとニコンだけカウントされていない人がいる
- 不可思議な力で流されるフェイクニュースの数々
- 嘘を吐き続けても真実にはならない
■ソニーショップが流しているフェイクニュース
ソニー製品を専門に扱うソニーショップ
このブログを書いているソニーショップというのは、ソニー製品をアピール・販売するために作られたソニーの店舗で、店舗ブログも当然ソニー製品を讃える内容を投稿しています。
ソニーショップがソニー製品を礼賛するのことは全く構わないのですが、この「五輪のカメラに異変 ソニー“α”大躍進」というエントリーにはおかしな点があります。
不自然な数え間違い
ではどこが問題かということですが、
この記事では上のオリンピックでの水泳競技での画像1枚を元に、C(キヤノン)、N(ニコン)、S(ソニー)という風にアルファベットを付けて、それぞれのカメラマンを、
- C→キヤノン(15名:53.6%)
- N→ニコン(7名:25.0%)
- S→ソニー(6名:21.4%)
と結論付けています。
しかし、よく見て見ましょう。なぜかカウントされていない人物が複数人います。
わかりやすくするために、カウントされていない人物だけを残して他を黒塗りにしてみましょう。
なぜかキヤノン2名とニコン1名のカメラマンがカウントされていません。
右上の人物は首のあたりにある隣の人の白レンズはカウントされているのですが、画面上ギリギリのところに見えている白レンズはボディが明らかにキヤノン機であるにも関わらずカウントされていません。
左下のフォトグラファーも、その上の下を向いてカメラを操作している初老のフォトグラファーも、ボディからキヤノン機とニコン機であることが分かりますが、なぜかカウントされていません。
なぜソニーショップのかたはソニーユーザーだけは見落とさず、キヤノンとニコンのユーザーだけは3名も見落としたのでしょう?
■ネット上に出回ったデタラメな検証画像
実は同時期に同じような怪しい画像が出回っていた
覚えているかたもおられるのではないかと思いますが、オリンピックが始まった同時期にネットでは下の画像が流されていました。
赤色で囲われているのがソニー機を使っているフォトグラファーで、オリンピックでソニーが躍進したという趣旨の言葉と共に様々な場所に貼られていました。
この画像だけを見ると、
- C(黄色)→キヤノン(16名:47.0%)
- N(緑色)→ニコン(10名:29.4%)
- S(赤色)→ソニー(8名:23.5%)
となり、確かに「ソニー急に増えたな」という印象を受けると思います。
しかし、これもよく見て見るとなぜかキヤノンとニコンだけかなり数え漏れがあります。
右端にいる二人は少し分かりづらいですが、一人はニコン機を構えており、もう一人は足元にニコン機を立てて置いています。つまりキヤノンとニコンのユーザーだけが6名もカウントされていません。
どちらの画像もなぜかキヤノンとニコンだけカウントされていない人がいる
そしてこの2つの画像をよく見て頂くとわかるのですが、いずれも同じ水泳競技でのカメラマンブースの画像です(※見やすくするため、明るさと彩度を少し上げています)。
こうして見ると一目瞭然ですが、同じ会場、同じカメラマンブース、人も同じで、ほとんど同じタイミングで放送されたテレビ中継の画面キャプチャーであることが分かります。
- 同じ会場のほとんど同じタイミングで
- ソニーが多めに映ったワンシーンだけを
- キヤノンとニコンのユーザーだけを見落としてカウントし
- ソニーが躍進したように見えるようになっている
偶然にしては出来過ぎではないでしょうか?
判別可能なフォトグラファーのうち、2つの画像でソニーは1人も見落とさず、キヤノンとニコンだけ9人も見落とすというのも、偶然というには確率的に相当不自然な気がします。
そもそも上でご紹介した2枚は「たまたまソニーが多めに映った画像」であり、同じ会場でも、違うタイミングでより多くのフォトグラファーが入っている写真が下の画像です。
分かりやすくするために、上の画像はカメラマンの顔を色分けしています(カメラが見えず不明な人は無着色)。
- キヤノンユーザー→赤色:30名(69.8%)
- ニコンユーザー→黄色:11名(25.6%)
- ソニーユーザー→水色:2名(4.6%)
このように同じ会場で、ソニーショップが掲載している画像(28名)よりも多い、43名の画像ではキヤノン・ニコンで95%以上のシェアとなっています。
つまり、一枚だけの画像では特定のメーカーだけが多く写り込んでいる場合は当然あるので、何枚もの画像で検証しなければ正確な数字にはなりません。
様々な会場からのべ352人のフォトグラファーを対象に検証したのが下の記事です。
東京2020オリンピックプロカメラマンはキヤノン59.7%、ニコン31.2%、ソニー9.1%(352人を対象調査)
オリンピック全体でのソニーの実際のシェアは10%以下だったのだろうと思います。
不可思議な力で流されるフェイクニュースの数々
とは言っても先ほどの2つの画像のおかしなカウントは、行きすぎたソニー愛がさせたことだろうと思いますから、(少なくとも片方は確実にソニーショップの店員によるものであっても)個人的にはそれほど問題にしていません。ブログを書いたからといって特別に手当てが出るわけでもないだろうに、事実と反する内容を書いてまでソニーを持ち上げようとする愛社精神を褒めてあげたいくらいです。
問題は先日ご紹介した以下のような記事です。
- 朝日新聞:五輪のカメラに異変 ミラーレスに脚光、「新興勢力」が存在感
- 日経新聞:ソニーの報道カメラ、五輪・パラで躍進 2強に風穴
- Business Journal:東京五輪の裏で、秘かにカメラメーカーの争いも白熱…ソニーの躍進で勢力図一変の可能性
- ニッポン放送:オリンピックの取材現場に訪れた変化 栄光の一瞬を捉えるソニーのカメラ機能に注目
今回の東京2020大会に関連して、このような大手メディアを利用したフェイクニュースが幾つも出ているという点です。
いずれも判で押したように似たようなタイトルばかりで、「ソニー大躍進」というような趣旨です。
もちろんこれらの記事は検証やデータに基づかない無根拠なもので、内容的にもデタラメなものがほとんどであることは、こちらの記事で説明しました。
ニッポン放送の記事は「ミューコミVR」という番組で、記事を書いているのはソニーのスマートフォンXperiaの魅力をアピールする「サポーターズVR by Xperia」というコーナーの担当者が書いています。
ちなみにこの「ミューコミVR」のスポンサーは「XPERIA・小学館・ANIMAX」となっています。スポンサーがXPERIA。もうこれ以上説明する必要もないでしょう。
Business Journalの記事に至っては、なぜか公式スペックすら発表されていない競合機であるキヤノンのEOS R3を唐突に取り上げて、「EOS R3はα1には追いついていない」とか「EOS R3というミラーレス一眼レフ」なんて書いています(それどんな構造カメラだって話ですが)。
他にも「フリーカメラマンは手ぶらでオリンピック会場に行って、ソニーのブース(サービスデポのことを言いたいのでしょう)で最新機材を一式借りて撮影するのが最近のスタイル」なんていう全く馬鹿げたことを書いています。
そのような馬鹿なフォトグラファーはいませんが、万が一本当に海外のオリンピックフォトグラファーが手ぶらでソニーのサービスデポに行って、「機材は国に置いてきたので、カメラもレンズもメモリーカードもPCも全部一式貸して下さい。Business Journalというサイトでソニーは貸してくれると見ました」って言われたらどうするのでしょうか?
しかしこれらの報道(と呼べるかどうかさえ疑問ですが)の多くは、ちゃんと言い逃れができるように書かれており、いずれも「ソニーが躍進した」とか「ソニーが2-3割いたという話が聞かれた」といった、いい加減な書き方しかしていません。「躍進」などという表現は、1台が2台に増えても「倍増」とも「躍進」とも言えるわけですから、そんな曖昧な表現に何の意味もありません。
まして「ソニーが2-3割いたという話が聞かれた」なんてのはもはや話にもなりません。では皆さんに対して代わりに私はこう言いますね、
「東京2020オリンピックでは、プロカメラマンの全員がシグマのカメラを使っていましたよ」
これで皆さんは「東京2020オリンピックのフォトグラファーは全員シグマのカメラを使っていた」という話を聞いた状態になったわけですが、これでオリンピックのシェアは100%シグマだったという十分な根拠になるでしょうか?ならないですよね。
他にも「関係者によると…」というような表現で、自社で調査もしていなければ誰に聞いたのかもわからないような伝聞形式の噂話をソースにしています。
内部告発のような種類の報道は、告発者を守るために情報源を明かせない場合もありますが、カメラのシェアで誰の発言がソースになっているかを明かしたところでなんの危険性もないですし、別に自社で調査して「○○調べ」というように書くことも難しいことではありません。というより普通は書きます。
政党支持率なら各党○○%でどういう調査方法をとったのかとか、○○自動車出荷台数△△万台とか、営業黒字○○億円とか、前年比○○%増とか、新聞報道は具体的な数字や根拠を書くでしょう。
実際に調査もせず伝聞を鵜呑みにして記事を書くなんて普段ならしません。
BCNでも「○月○日〜△月△日までのPOSデータを集計し…」という風に根拠を示すのに、大手新聞社ともあろうものが、
- 取材も裏取りもしていません
- そんな噂話を聞いただけです
- 間違っていても知りません
という予防線を張りまくっているわけです。普段ならそんなことしないでしょう?大手新聞社なら自分で取材するか、外部からもたらされた情報なら必ず裏取りをするのが常識です。
結局、
- 事実でないから書けない
- ジャーナリストとして事実に反することを書きたくないというささやかな抵抗
このいずれかなのだろうと思います。新聞2社に関しては多分2番の理由だと思いますが。
大手メディアにこのような記事を書かせるのは、とても個人のソニー信者やソニーショップに出来ることではないですから、そうした記事を書かせる「動機」と「影響力」があるのは誰なのか、皆さんも既に察しがついていると思います。
嘘を吐き続けても真実にはならない
かつてナチス・ドイツの宣伝大臣であったパウル・ヨーゼフ・ゲッベルスは、プロパガンダの手法として「嘘も100回言えば真実になる」という有名な言葉を残しました。
しかしそんなことを続けていれば信用を無くすだけですし、ゲッベルス自身も最期には自殺しています。
では今回の話の終わりにリンクを二つ貼っておきましょう。
- ソニーゲートキーパー問題(Wikipedia)
- ソニーによるステルスマーケティングのその他の例(Wikipedia)
もし今回の私の記事を削除せざるを得ないようなことがあったなら…どこの力が働いたのか皆さんには説明するまでもないことですよね。
Reported by 正隆