皆さんこんにちは。
AF関連で最近話題になるのがレンズのアクチュエーター(駆動装置)の、
- 超音波モーター
- ステッピングモーター
- リニアモーター
などです。DCモーターのレンズももちろん現役で存在はしていますが、今後主流になるということはないでしょう。
目次
- それぞれのモーターの違い
- それぞれのモーターの原理や動き方の違い
- それぞれのモーターの特徴
- 超音波モーターの特徴はパワーとスピード
- ステッピングモーターの特徴ステッピングモーターの特徴は制御精度
- 超音波モーターとステッピングモーターは使い分け
そこで今回は、超音波モーターとステッピングモーターとリニアモーターのそれぞれの原理と特徴について簡単にですがご説明したいと思います。
■それぞれのモーターの違い
それぞれのモーターの原理や動き方の違い
カメラにおける超音波モーターとステッピングモーターとリニアモーターのそれぞれの違いを簡単にいうと、
- 超音波モーター:超音波による振動をステーターに伝えローターを回転させレンズを動かす
- ステッピングモーター:磁力でローターを一定の角度で回転させレンズを動かす
- リニアモーター:磁力で光軸方向に直線的にレンズを動かす
このようになります。
最終的にレンズを前後させてピントを合わせるという点においてはどの方式も同様ですが、それぞれ原理や特徴が異なります。
また各々のモーターの中にも更にタイプが分かれたり、複数基のアクチュエーターを用いる場合もあるのですが、ここでは一般的に高級レンズに使われる高性能なタイプと仮定して比較していきましょう。
■ それぞれのモーターの特徴
超音波モーターの特徴はパワーとスピード
超音波モーターは超音波でステーター(固定子)を振動させ、それによってローター(回転子)を動かすアクチュエーターで、高トルクであるためフォーカシングレンズが重くなりやすい大口径レンズなどに向いています。
上の画像はキヤノンのリングタイプの超音波モーターですが、上側の輪がローターで下側のギザギザした輪がステーターと呼ばれる部分です。
ステーター(固定子)はざっくり言うと、
- 電圧を加えると振動する圧電セラミック素子
- 振動を増幅させる金属弾性体(ギザギザとした金属部分)
によって出来ており、ステーターが波打つと上側の輪の部分であるローター(回転子)がステーターの波の方向とは逆方向に送られるように回転していきます。
ステーターの波の方向を逆にすればローターの回転も逆になるので、そうしてレンズを前後させてピントを合わせるわけです。
トルクが強い超音波モーターがもっとも力を発揮するのは、スポーツや野鳥撮影に使われ素早いAFを必要と大口径超望遠レンズとなります。
その他にも単焦点のF1.2といった大口径レンズでの人物のスチル撮影など、AF速度を重視するような場合に適しています。
例えばRF85mm F1.2 L USMなどがそうしたレンズになります。
逆に超音波モーターの弱点としては、制御性や静音性の面でステッピングモーターやリニアモーターに劣るため、スムーズなピント送りや静粛性の方が重視される動画撮影では力を発揮しにくいという面があります。
またステーターとローター摩擦面があるので、長期間使っていると「AF鳴き」と呼ばれる現象が起こる場合もあります。ただこれはかなりの使用頻度で長期間使わないと起きないため、一般的な使用であればそこまで気にする必要はないでしょう。
ステッピングモーターの特徴は制御精度と静粛性
ステッピングモーターはパルス電力に同期して動作するモーターで、電気信号1パルスにつき1ステップ分回転します。そのためパルスモーターとも呼ばれます。
起動・停止するときのレスポンスや制御性の高さが特長で、スムーズかつ静粛性にも優れています。
上のGifアニメーションはステッピングモーターの駆動を表したもので、もちろん実物のステッピングモーターはもっとずっと複雑な構造なのですが、動く原理としては上のアニメーションのようになります。
ステッピングモーターにも超音波モーター同様に、「ローター(回転子)」と「ステーター(固定子)」と呼ばれる部分があり、
- 外側の輪の部分がステーター
- 内側の回転する歯車のような部材がローター
となります。ステーターには「磁極」と呼ばれる突起部分があり、上のアニメーションでは1,2,3,4と表示される4箇所の突起部が磁極です。
磁極が磁力を発生させて内側のローターを回転させます。
磁極をN極にしたりS極にすることで、引きつけたり反発させて回転するのですがそれによって細かく回転を調整するわけです。
ステッピングモーターは無段階で回転するわけではなく、磁極の数と内側のローターのキザギザになっている「小歯」と呼ばれる部分が引きつけあって動くため、クオーツ時計の秒針ように一定の角度でステップを踏むように回転するため「ステッピングモーター」と呼ばれています(実際の写真用レンズのステッピングモーターの駆動はクオーツ時計のような大雑把な動きではなくもっときめ細かく動作します)。
そしてステッピングモーターの特徴は高い制御性と静粛性にあります。
そのため超音波モーターよりもスムーズなピント送りや静粛性が求められる動画でのAFに有利です。
逆に被写体までの距離が一気に変わり大きくフォーカスレンズ群を動かす必要があるような動作では、ステッピングモーターは超音波モーターほどトルクがないためAF速度が遅くなる傾向にあります。
そうした弱点を補うため、ステッピングモーターを複数基搭載しているレンズもあります。
NIKKOR Z 50mm f/1.2 Sなどがそうしたレンズになります。
リニアモーターの特徴は応答性と静粛性
リニアモーターはステッピングモーターよりも更に静粛性に優れるモーターで、近年ではミラーレス用のレンズとしてよく使われるようになり、特にソニーが力を入れているという印象があります。
これは動画需要の高まりに応じて、制御性とともに高い静粛性が求められるようになってきたことが大きな要因です。
リニアモーターはステッピングモーターや超音波モーターと異なり、その名の通りリニアにレンズを光軸方向前後させることができるモーターであることからリニアモーターと呼ばれます。
応答性や静粛性など優れた特徴を持つリニアモーターにも弱点があり、それはステッピングモーター同様にリングタイプの超音波モータと比較してトルクが小さいということです。
その問題を解決するためにリニアモーターを使った高級レンズなどでは、
- 磁気効率を上げる
- モーターを複数基搭載する
といった方法を用いてトルクを強化するといった試みが行われています。
ただしリニアモーターに限らず、アクチュエーターは数を増やせば当然その分レンズ自体が大きくなりやすく、また故障要因が増えることからトルクを補うために数を増やせば増やすほど良いというものではありません。
原理的には優れた方式であるため、今後の真価が期待される方式と言えるでしょう。
超音波モーターとステッピングモーターとリニアモーターは使い分け
最初に申し上げたように、「超音波モーター」「ステッピングモーター」「リニアモーター」と一口にいっても、幾つもの方式があり、さらに1基搭載するのか複数基搭載するのか、またメーカーによる得手不得手の差なども生じます。
そのため、あくまでもざっくりとした現在のレンズアクチュエーターとしてのそれぞれの傾向ではありますが、
- 超音波モーター
- 高速移動する被写体や大きくピント位置が変わる場合に強い
- 大口径レンズなどフォーカスレンズが重くなるレンズで力を発揮
- AF速度を求められる動体の静止画撮影に特に強い
- ステッピングモーター
- 制御性に優れ正確にピントを動かすことが得意
- フォーカス用レンズ群が重くなりにくいレンズに向いている
- コンパクトなレンズや静粛性が求められる動画撮影に強い
- リニアモーター
- 非常に静粛性に優れている
- トルクが小さいため磁気効率を上げたり複数基搭載することでトルクを出す
- 静粛性に優れるため動画撮影に強い
といったようにそれぞれに特徴は異なります。
そのため、どのようなレンズでどのような使われ方をするかという前提が分からない状態で、どのアクチュエーターが優れているかという議論をしても現時点では結論は出ません。
メーカーがそれぞれのレンズで、
- どういったユーザー層を想定しているのか
- どのような撮影に使われることが多いのか
- そのメーカーの技術的な得手不得手
などで採用するアクチュエーターの判断は変わってしまいます。
またレンズだけでなくボディの測距性能もAFには大きく関係しているため、レンズのアクチュエーターが優れていれば全て解決するというものではないので、結局どのメーカーも様々なレンズの駆動方式やボディの測距技術の研究開発を続ける必要があることに変わりはありません。
というわけで今回は簡単にではありますが、近年の代表的なレンズアクチュエーターについてのお話でした。
Reported by 正隆