予約殺到で発売が延期される理由。なぜ予約順で出荷しないのか?

D500

3月予定だったニコンD500の発売が4月下旬に延期されるそうです。

待ちに待った機種、しかも想像をはるかに超えるスーパースペックで発表されたD500だけに、全国で相当な数の予約が入っているそうで発売延期と聞いてショックな方もおられるでしょう。

ニコン側の発表によると、理由は「発売に必要な台数をご用意できないため」とのこと。しかしこれって不思議ですよね?予約した順から渡していけば良いでは?と考えるのが普通です。

では「予約数が多すぎるので一律遅らせる」というのはなぜでしょうか?その理由を考えてみたいと思います。



■ニコン側の公式発表内容


ー 以下引用 ー

「D500」及び関連アクセサリー発売日延期のお知らせ

平素はニコン製品をご愛用いただきまして、誠にありがとうございます。

この度、3月に発売を予定しておりました以下新製品におきまして、ご好評につき、発売に必要な台数をご用意できないため、発売日を延期させていただきます。

大変ご迷惑をお掛けいたしますが、今しばらくお待ちいただきますようお願い申し上げます。

■発売遅延に関するさまざまな憶測


ネット上ではさまざまな憶測が飛び交っているようです。

  • 開発が遅れている
  • 不具合を修正している
  • 転売を防ぐため
  • 品薄商法

などです。

■発売が遅れる本当の理由は…。


発表と同時に予約しても発売日に受け取れない理由

D500はリークを防ぐためカタログも発表直後は用意されておらず、ショールームへの実機展示もかなり遅れての展示となりました。このことから生産開始もギリギリから開始したことが予想されます。

D500の当初月産台数は約20,000台とのことですが、予想以上の話題を呼び、小売の各法人で相当数の予約が入っていることが予測されます。ニコンの予測はいい意味で裏切られた訳です。

月生産20,000台のうち、日本国内での販売量は機種にもよりますが、概ね10〜20%程度です。月産20,000台のうち2,000〜4,000台が国内での出荷分となるわけです。

D500がこれだけ話題になると2,000〜4,000台では予約分に全く足りていないのも頷けます。

だからといって生産に手間のかかる上位機を、予約が沢山入ったからといって一気に増やすことは出来ません。部品の製造やそもそもの工場の生産能力にはキャパがあります。

■出荷数を割り振る事の難しさ


問題の「予約順から渡していけば良いでは?」という事ですが、これは消費者からするともっともな理屈です。

「予約したのが遅かったから発売日にお渡しできません」となっても、それは当たり前のことだというのが常識的な考え方ですし、多くの方はそのことにガッカリする事はあってもメーカーや販売店に対してある程度納得してくれるでしょう。

しかし、国内出荷分が2,000台だとします。小売法人が4社あったとして、それぞれの予約数が以下のようになった場合、どのように出荷していけば良いでしょうか?

  • ○○カメラ/予約2,000件
  • △△カメラ/予約1,500件
  • カメラの○○/予約500件
  • ○○デンキ/予約500件

生産は2,000台ですから割り振らなければなりません。すべて発表日に予約したお客様です。どうでしょう?

公平を期して、均等に4法人に500台ずつ出荷したとします。

  • ○○カメラ/予約2,000件中500台出荷。残り1,500件
  • △△カメラ/予約1,500件中500台出荷。残り1,000件
  • カメラの○○/予約500件中500台出荷。残り0件
  • ○○デンキ/予約500件中500台出荷。残り0件

おかしいですね?

公平に出荷したはずなのに、同日に予約したお客様でありながら、発売日に受け取れた方とそうでない方が発生してしまいました。

同じ日に予約したにもかかわらず(それも発売日に欲しいから予約したのに)、○○デンキで予約した方は全員発売日に受け取れたにも関わらず、○○カメラで予約した方はほとんどの方が発売日に手にできていません。これでは不公平です。

そしてその情報はネットを駆け巡ります。「発表した日に○○デンキで予約したら発売日に引き取れたよ!」「発表した日に○○カメラで予約したのに発売日に引き取れなかった!」といったことになります。

では予約件数の比率に合わせて出荷するべきでしょうか?

  • ○○カメラ/予約2,000件中889台出荷。残り1,111件
  • △△カメラ/予約1,500台中667台出荷。残り833件
  • カメラの○○/予約500台中222台出荷。残り273件
  • ○○デンキ/予約500台中222台出荷。残り273件

やはり同じ日に予約したお客さま同士でありながら、すべての法人で受け取れた方とそうでない方が発生してしまいました。これではお客様からクレームが上がってしまいます。

■予約順を正確に把握するのは実質不可能


「先着順と考えれば同じ日に予約したとしても、発売日に受け取れる人とそうでない人がいても仕方がないでは?」という考えもあると思います。私もそう思います。

しかしカメラを販売している店は数多あります。それらの予約状況がリアルタイムでニコン側に入ってくる訳ではありません。

ヨドバシ・ビック・ヤマダ・キタムラ・ケーズだけでも、国内1000店舗をゆうに超え、ネット販売専門の小売業者も含めれば数え切れないほどの法人が存在します。

それら全てで予約した正確な時間を把握できるでしょうか?到底無理でしょう。ある人は正式発表されてすぐ電話で予約し、ある人は夜仕事帰りに店舗に立ち寄って予約したかも知れません。ところがそんな時間単位の予約順まではメーカーには分からないのです。

また各店舗への割り振り分までメーカー側に正確に把握できる訳ではありませんから、やはり根本的に数が大幅に足りていないと、本来の予約順とは異なる受け渡し順になる可能性が高まってしまいます。

■小売業者からの不満


予約数の比率で出荷を割り振る事に不満がある小売業社もあります。

「なぜ○○カメラさんには大量に納品されているのに、うち(カメラの○○)にはわずかしか入ってこないのか?うちの会社を下に見ているのか?」

といったクレームが小売法人から入る可能性があります。カメラメーカーにとって我々エンドユーザーは直接的な顧客ではありません。

勿論現在はメーカーのネットショップもありますので全てがそうというわけではありませんが、多くの場合メーカーにとっての顧客とは我々消費者ではなく、カメラ販売店なのです。

つまり予約を一律遅らせて数を揃えてから出荷するのは、顧客である販売店からのクレームを防ぐためでもあります。

また極端な品薄が発生すると、転売業社による買占めなど、その他の問題が起こる可能性もあります。

さまざまな状況を鑑みると、結局「一律発売を遅らせ、十分な数が揃うまで全員に我慢してもらう」といった方法が、誰しもが不満でありながら誰しもが自分だけが損をしたという不公平感を感じない数少ない方法なのかも知れません。

画像:Nikon

Reported by 正隆