家電業界大手としてパナソニックがカメラ業界に参入して早24年。LUMIXブランドも立ち上げから今年2021年に11月には丁度20年目の節目を迎えます。
カメラの出来は悪くないのに、LUMIXがセールス面で苦戦していることは否めません。なぜLUMIXは売れないのでしょう?
というわけで今回はLUMIX20周年ということで、LUMIXの20年の歩みを簡単に振り返りつつ、パナソニックがカメラ業界でなかなか成功しない原因とこれからやるべきことについて考えてみたいと思います。
ネガティブキャンペーンと勘違いする人が稀にいるので先に言っておきますが、私は動画撮影ではLUMIX GH5を使っていますし、とても良いカメラだと思っています。
目次
- LUMIXの始まりとレンズ交換式カメラへの進出
- カメラ事業本格参入のブランド名となった「LUMIX」の意味
- 不十分だったパナソニックのフォーサーズシステム
- ミラーレスへの船出とオリンパスとの関係
- レンズ交換式カメラの歴史を変えたLUMIX G1
- もしもオリンパスではなく他のメーカーと協業していたなら?
- LUMIXの苦戦の始まり
- パナソニックの最大の敵はオリンパスだった
- 追い討ちをかけるように登場したソニー
- なぜLUMIXはオリンパスやソニーと戦えなかったのか?
- 明暗を分けたデザイン性
- カメラファンや売り場の声を無視し続けたパナソニックの企画・設計
- LUMIXの足を引っ張り続けた小型センサー
- パナソニックが抱える体質的問題点
- パナソニックの頑固さ
- 開発者が独善に陥るとカメラは軌道修正が効かなくなる
- 新マウントでの二度目の船出は成功するのか?
- 決して悪くない現状のLUMIXの性能
- カメラマニアの営業部門に対する誤解
- 開発者が売ることの大変さを肌で感じることの大切さ
- 富士フイルムが売れてパナソニックが売れない理由
- Sシリーズの成否はLUMIX20年の歴史を捨てる覚悟をあるかどうか
■LUMIXの始まりとレンズ交換式カメラへの進出
カメラ事業本格参入のブランド名となった「LUMIX」の意味
パナソニック(2008年09月30日以前は、松下電器産業株式会社)は2000年以前にも「COOLSHOT」というブランド名でカメラを発売していたのですが、販売状況は芳しいものではありませんでした。
その後パナソニックは、カメラ市場がフィルムからデジタルへの移行期に入り市場が勢いを増したことで、デジタルカメラ事業への本格参入を決断します。
この時決まった「COOLSHOT」に次ぐ新ブランド名が、いまに続くLUMIXなのですが、この「LUMIX」とは、
- Luminance=光
- Mix=(デジタルとの)融合
この2つの言葉を掛け合わせた造語でした。
パナソニック(※当時松下電器)とライカの協業が始まったのもLUMIXブランド立ち上げと同じ2001年からで、これはカメラメーカーとしてのブランド力が欠けていたパナソニックと、デジタルカメラのノウハウの弱かったライカにとってお互いの弱点を補うという意味もありました。
また「LUMIX」という響きはライカレンズのシリーズにある、「Noctilux」「Summilux」というネーミングにも似ています。
ライカのそれぞれのレンズの名称の意味は、「Lux」が「光」という意味なので、
- Noctilux(ノクティルックス)→Nocti(夜)+lux(光)
- Summilux(ズミルックス)→Summa(最高の)+lux(光)
となります。
ちなみにノクティルックスは暗い環境でも撮影が出来る50mm/F0.95のような超大口径レンズ、ズミルックスは50mm/F1.4のような画質性能を追求した大口径レンズとなっています。
そう考えると、LUMIXのLumi(光)+Mix(デジタルとの融合)というのも、意味としてはちゃんと考えられているわけで、「ライカと協業するから適当にライカっぽい名前を付けた」というようないい加減な理由でもありませんでした。
そしてパナソニックは2001年09月の新ブランド名発表と同時に、
- フラグシップ機:DMC-LC5
- コンパクトサイズ普及機:DMC-F7
この2機種を発表します(この時点ではまだパナソニックはレンズ交換式カメラを発売していなかったため、この2機種もコンパクトデジタルカメラでした)。
不十分だったパナソニックのフォーサーズシステム
その後パナソニックは遂にレンズ交換式カメラに参入するのですが、その時採用したマウントはオリンパスが2003年から展開していたフォーサーズマウントで、パナソニックの初代機は2006年発売のLUMIX L1でした。
LUMIX L1のデザインは1994年発売のCONTAX G1のブラックモデルを参考にしたものだと思いますが、今見ても洗練された素晴らしいデザインだと思います。
LUMIX L1
CONTAX G1
ただこの時、フォーサーズマウントでオリンパスとの協業体制を組んだ事は、皆さんもご存知のように後のマイクロフォーサーズへとつながっていく布石となり、このオリンパスとの協業はパナソニックにとって結果的には大きな選択ミスとなります。
当時ミラーレスのライカLマウントはまだ存在していなかったため(※スクリューマウントのL39マウントではなく、現在のフルサイズミラーレスLマウントに至る元ライカTマウントの方)、当然パナソニックはLマウントを採用することはできませんでしたし、レンズ交換式カメラ業界におけるブランドとしても弱かったため、どこか他のカメラメーカーと協業すること自体は必然であったのかもしれません。
しかしこの頃、フォーサーズシステム自体それほど売れておらず、当時のオリンパスのEシステムも小型軽量なシステムに一部に熱心な愛好家がいたものの、レンズ交換式カメラ市場全体においては主流とは言えませんでした。
そのためパナソニックはコンパクトデジカメではそれなりの地位を獲得していたのですが、レンズ交換式カメラではオリンパス以上に苦戦を強いられました。
しかしパナソニックもただ状況に甘んじていたわけではなく、パナソニックは後のレンズ交換式カメラ業界に大きな変革をもたらす、新しいシステムの開発を進めていました。
■ミラーレスへの船出とオリンパスとの関係
レンズ交換式カメラの歴史を変えたLUMIX G1
そうして2008年10月31日、パナソニックは遂に世界初のミラーレスカメラ、LUMIX G1を世に送り出すことになります。
このLUMIX G1は一眼レフからクイックリターンミラーや光学ファインダーを廃し、代わりにEVFを搭載した、言ってみればネオ一眼(ファインダー付きの大型コンパクトデジタルカメラの通称)をレンズ交換式にしたような構造のもので、今日のレンズ交換式カメラの主流となったミラーレスカメラの始祖となりました。
このミラーレスカメラの構造はカメラの機能向上にも大きなメリットをもたらすのですが、同時にパナソニックやソニーといったメーカーにとって、クイックリターンミラーなど一眼レフ特有の機構を必要としないという点において、生粋のカメラメーカーに対する弱点を解消するというメリットもありました。
また当然ミラーボックスや位相差AFのユニットなどを搭載するスペースが必要ないため、劇的なカメラの小型化や軽量化が可能になりました。
そうしてこのLUMIX G1の登場は、レンズ交換式カメラの大きな転換点となったわけです。
もしもオリンパスではなく他のメーカーと協業していたなら?
しかし、もしもパナソニックがオリンパスではなくフルサイズに対応したマウントのメーカーと協業していれば、その後のGシリーズもマイクロフォーサーズではなく、フルサイズ対応マウントとして始まった可能性があったのではないか?と考えてしまいます。
その間わずか2年です。
現実に可能だったかはさておき、ファンタジーとして、もしオリンパスではなく例えばニコンと協業していたら歴史はどうなっていたのでしょう?
フォーサーズ→マイクロフォーサーズと同様の流れをニコンとの協業で照らし合わせ、2006年にパナソニックがFマウントでレフ機を発売し、2008年にFマウントレンズをマウントアダブターを介してAFレンズとして使うことができるフルサイズ対応のマウント、いわばパナソニック版Zマウントのような規格でLUMIX G1がAPS-C機を発売していたなら?
こうなっていたなら、その後のパナソニックの運命、そしてNikon 1マウント(2011年)で商業的に失敗しミラーレス市場で大きく出遅れてしまったニコンの運命も大きく変わったのではないでしょうか。
現実にはオリンパスと協業したのも色々な事情があったのだと思いますが、結局パナソニックもニコンも最初にフルサイズ対応のマウントを選択しなかったことで厳しい立場となり、
- ニコン:2018年11月からZマウント
- パナソニック:2019年02月からLマウント
と、フルサイズの新マウント機を発売したのもわずか3ヶ月違いであることを考えれば、2006年の時点でオリンパスではなくニコンと組んでいれば、Fマウントレンズをマウントアダプターで利用することを考慮して、2008年からのミラーレスもフルサイズ対応のマウントになっていた可能性があったのではないかと思います。
勿論こんな話は当時の内情を無視した「たられば」の空想に過ぎないわけですが、もしニコンと協業していれば、カメラ市場でのパナソニックとニコンの現在の立場はかなり違っていたのではないかと考えてしまいます。
■LUMIXの苦戦の始まり
パナソニックの最大の敵はオリンパスだった
このLUMIX Gシリーズがパナソニックがレンズ交換式カメラ市場において一定のシェアを獲得する原動力となったのは確かですが、しかしLUMIX Gシリーズが爆発的に売れたのは最初の2年程度だけでした。
パナソニックの足を引っ張ったのは、他でもない同じマイクロフォーサーズ陣営のオリンパスの存在でした。
ミラーレスの登場と時を同じくして始まったカメラ女子ブームに、オリンパスは宮崎あおいさんをイメージキャラクターにすることで見事に乗っていきます。
それに対しパナソニックが打ち出したイメージキャラクターである女流一眼隊(樋口可南子・鳥居かほり・鈴木慶江・高橋まりの・森木美和)はすこぶる評判が悪く、むしろLUMIXブランドにマイナスのイメージを付けてしまいました。
本来はターゲット層となりえた若い女性層を根こそぎオリンパスに奪われてしまい、マイクロフォーサーズの協業体制は事実上オリンパス側に極端に有利に働くものとなります。
このカメラ女子ブームというのは言わば単なるファッションであり、この時カメラを購入していた若い女性層の多くは、従来の写真趣味層ほど真剣に写真を撮っている様子はありませんでした(※一部はカメラ女子ブームをきっかけに写真にはまった人もいると思います)。
そのためカメラ女子ブームが去った直後は、中古カメラ屋のショーケースには、使われなくなったオリンパスPENシリーズが驚くほど大量に並んでいた時期がありました。
しかしセールスという点においては、この「単なるファッションである」ということがとにかく強力でした。
なにせファッションなのですから、彼女たち(一部男の子もいました)にとって、オリンパスPENであることに意味があったわけで、欲しいのは撮影機材ではなくファッションとしてのオリンパスPENであったわけです。
そのため、仮にもっと性能が良くてよりリーズナブルなカメラがあっても関係なく、彼女たちはLUMIXには決して靡かなかったのです。
売り場には当時、森ガール(その後登場する山ガールとは全くテイストが違います)と呼ばれていたような当時の宮崎あおいさんのファッションに似せた服を着た女性たちが溢れ、カメラの性能を比較するどころか、何を撮るつもりかさえ自覚がないままに、ただただオリンパスPENを購入していく姿が頻繁に見られました。
これはカメラ女子ブーム当時の女性を馬鹿にしているのではなくて、パナソニックが市場の需要を正しく読めていなかったという話です。
そのため当時のLUMIX Gシリーズはクラシックテイストのカメラを求める彼女たちに全く響かないデザインでした。
オリンパスがPEN E-P1などを発売している時に、パナソニックはLUMIX G2などを発売してたわけです。
PEN E-P1
LUMIX G2
これによってオリンパスとパナソニックは同じマイクロフォーサーズマウントでありながら、シェアに大きな開きが生まれていきます。
追い討ちをかけるように登場したソニー
パナソニックもレンズの評判が良かったことや、焦点距離やF値においてオリンパスとは微妙に異なるレンズ展開をしたことで、マイクロフォーサーズを使うカメラマニア・写真愛好家の中には、「オリンパスのカメラにパナソニックのレンズを使う」という人もおり、レンズ販売という意味ではオリンパスとの協業にもメリットはありました。
しかしその恩恵はわずかで、2011年以降はボディの販売シェアにおいて、オリンパスとの間に歴然とした差がついていきます。
幾らシステムとしてパナソニックのレンズもオリンパス機に付けられるといっても、デザイン面でオリンパスのボディが選ばれていたのですから、当然ボディがオリンパスならレンズもオリンパスでという人の方が現実には多数派であったため、結局マイクロフォーサーズ陣営におけるLUMIXの役割は、オリンパスのレンズラインナップで不足している部分を補強するためのメーカーとなってしまったわけです。
それに加えて、動画機市場でパナソニックとライバル関係にあったソニーもミラーレス市場に参入してきたことで、
- スチールのオリンパス
- ムービーのパナソニック
という住み分けもソニーによって破壊されていくことになります。
動画に対する技術力自体はパナソニックがソニーに劣っているとは思いませんが、多少技術力でカバーしたとしても、かたやフォーサーズセンサー、かたやAPS-C(のちにフルサイズ)では勝負にならないことは明らかでした。
■なぜLUMIXはオリンパスやソニーと戦えなかったのか?
明暗を分けたデザイン性
しかしオリンパスの販売戦略も売るための当然の努力であって、第一義的に「パナソニックの足を引っ張ってやろう」という意図で行われたものではありません。
同様にソニーが動画機能を打ち出してきたのも、自社の得意分野を活かした当然の戦略だったでしょう。
パナソニックは、オリンパスにもソニーにもないパナソニックだけの価値を打ち出していく必要があったのですが、Gシリーズでは最後までそれを見つけることが出来ませんでした。
またブランド戦略という点で見た時、LUMIX Gシリーズのデザインは、単にカメラ女子ブームに乗れなかったというだけでなく、LUMIX自体に垢抜けないイメージを定着させてしまいました。
対してオリンパスですが、そもそもフィルム時代のPENは高級ブランドでもなく、マイクロフォーサーズで復活させるまでオリンパスはPENという名称自体途切れさせていたわけです。
なので私に言わせればオリンパスのやっていたことは、「自分で廃止したシリーズ名を、まるで脈々と受け継がれてきた歴史ある高級ブランドかのように利用するあさましい行為」だとさえ思っていたのですが、実際当時の世の中の反応はというと、
- そもそもフィルム時代のPENやOMを知らない若者
- 使ったこともないのに「あの伝説のPENが復活だ!」と喜ぶにわかオタク
この2種類の層が大半であったため、「オリンパスPEN」というネーミングは一般人、カメラマニアの両方の層に基本的には好意的に捉えられていたと思います。
余談ですが、ニコンは最近フィルム時代のFMシリーズをモチーフにZ fcを発売しましたが、Z fcに「FM4」などという辻褄の合わないネーミングはしないわけで、これが言ってみればニコンの矜持であり、FM時代の開発者に対する敬意だと思うのですが、良くも悪くもオリンパスにはそういうプライドが無いのだと思います。
とはいえオリンパスは実際にクラシックカメラ風のデザインとPENやOMというブランド名を復活させて人気を博したのに対し、LUMIXはどことなく野暮ったい雰囲気があり、その象徴のようなものが、金色の「L」のバッジでした。
このLバッジは当時から評判が悪く、そもそもペンタ部に「LUMIX」の表記があるのに、二重に書くのはくどいという意見も多数ありました。
他のメーカーを見ても、ペンタ部分には基本的には社名が書かれており(PENTAXは現在は社名ではありませんが)、EOSやZやαといったブランドバッジとは別となっています。
またブランド名である「LUMIX」自体、レンズ交換式カメラに採用される以前からパナソニックのコンパクトデジタルカメラに採用されていたもので、それを流用したことも失敗だったと思います。
カメラマニアにとってはLUMIX G1から13年間も見ているので感覚が麻痺していると思いますが、仮に現在の各社のレンズ交換式カメラのペンタ部分の表記を、
- Canon→PowerShot
- Nikon→COOLPIX
- SONYー→Cyber-shot
- FUJIFILM→FinePix
- OLYMPUS→STYLUS
- PENTAX→Optio
こんな風に変更すると言われたらどうでしょう?
富士フイルムは実際デジタル一眼レフに「FinePix」と書いていた時代もありましたが、その富士フイルムのユーザーでさえ今からペンタ部の表記を「FinePix」に戻すと言われたら嫌がられるのではないでしょうか?まして他のメーカーであれば言わずもがなでしょう。
つまり「LUMIX」という表記は、一般の人にとっては先ほどの例に近い状態で見えているわけです。我々が麻痺しているだけで。
もちろんパナソニックとしては特に当時は家電メーカーのイメージが強かったために、ペンタ部分に「Panasonic」というのは受けが悪いだろうというカメラファン層への配慮というか、計算でLUMIXブランドを立ち上げたのだとは思いますが、それならコンパクトデジタルカメラのブランド名を流用せず、他社のようにレンズ交換式カメラ専用のブランド名を新規に立ち上げるべきでした。
ちなみに私はペンタ部の表記は「Panasonic」でいいと思っています。SONYも最初は色々言われましたが、もう誰もペンタ部にSONYの表記があることに文句を言っていないでしょう?
カメラファンや売り場の声を無視し続けたパナソニックの企画・設計
そうしたLUMIXという名称やLバッジ、当時のイメージキャラクター女流一眼隊をやめてくれという声はメーカー販売員やパナソニックユーザーからも山ほど上がっていましたが、パナソニックの企画・設計はそうした声を無視し続けます。
LバッジもLUMIX G9 PROからようやく無くなりましたが、Gシリーズ時代の途中からは目立たないようにゴールドからシルバーに色が変えられるということもありました。
つまりこのLバッジは、ゴールド→シルバー→廃止と変遷し、レンズ交換式カメラ時代だけで10年以上、コンデジ時代も含めるとなんと20年も続いてしまったのです。
どうせ無くすのであればさっさと廃止した方が良かったわけで、そこにパナソニックのデザインに対する認識の甘さを垣間見ることが出来ます。
最近のデジカメWatchの企画・設計担当者インタビューの記事でもこのことに触れられており、インタビュアーの「Lバッジが無くなったことに驚いた」という趣旨の質問対し、企画・設計の担当者たちはこう応えています。
ー 以下引用 ー
“栃尾 :あの時は議論が紛糾し、本当に大変でした。
角 :Lバッジを取るというアイデアを出した張本人なので、とても良く覚えています。
厳格なルールがありますので、やはりデザイン性を高めながら築き上げたレガシーをどう担保していくのか? という部分を論理的に示さなければなりません。
LUMIXがデジタルカメラ市場に参入したのが2001年のことでした。既に数多く存在しているライバル機の中で、店頭で我々の特徴を表現するということが、そもそもLバッジの担っていた役割でした。
しかし当時と現在とでは状況が変わりましたので、Lバッジの役割を終えただろうと考え、廃止させてくれという要望を出しました。
カメラの機能にも当てはまることですが、その時代に応じたものをユーザーに提供したいという気持ちをもって製品の開発をしています。
カメラというのは趣味性の高い商品ですので、デザイン・見た目についても時代に応じたものを最適なタイミングでユーザーにお届けする、という想いのもとでなんとか許可をもぎ取りましたが、本当に大変でした。 “
ー 引用終了 ー
とインタビューに応えています。
当時私はパナソニックと付き合いがあったため、Lバッジを早くやめるべきなどという意見は10年以上も前にパナソニックの当時の営業や開発にも言っていました。
第一、ある程度のキャリアのあるカメラファンの方であれば、「Lバッジが要らない」という意見はカメラファンの間で過去に何度も何度も話題になったことをご存知のはずです。
なので、先ほどのインタビューの、
“角 :Lバッジを取るというアイデアを出した張本人なので、とても良く覚えています。”
という話には、若干の怒りさえ覚えます。
まるで自分が発案者かのように語っていますが、沢山のLUMIXユーザーが10年以上前から要望してきたことです。
それとこの部分、
“カメラというのは趣味性の高い商品ですので、デザイン・見た目についても時代に応じたものを最適なタイミングでユーザーにお届けする、という想いのもとでなんとか許可をもぎ取りましたが、本当に大変でした。”
時代に応じたものを届けたければ、Gシリーズ初代機を出した2008年からやめるべきでした。2008年にはすでに「Lバッジがダサい」という意見はあったのですから、13年も感覚が遅れているのです。
Lバッジになんらのブランド価値も無いですし、カメラマニア以外の一般人の人があのLバッジを見て、「あ、パナソニックのカメラのマークだ」などと想起する人はいません。稀にいたとしても特にポジティブなイメージは無いでしょう。
もちろん実際は開発陣もそうした意見を把握はしていたと思いますし、分かっていたからLバッジを廃止したいという意見も出たのでしょう。しかしシリアスさが全く足りていませんでした。
デザインはカメラの売上を大きく左右する要素です。
そしてユーザーの要望や期待に応えられなければカメラは売れないので、メーカーにどんな歴史や信条があろうと、ユーザーの多くが「やめてくれ」と言ったならやめるしかないのです。
LUMIXの足を引っ張り続けた小型センサー
そしてそうしたメーカーの拘りが悪い方に出た究極が、マウント口径(結果的にはセンサーサイズ)の制約だったと思います。
フォーサーズからマイクロフォーサーズに移行する際、将来性を無視して小口径のマウントを採用したことはパナソニック(及びオリンパスの)最大の過ちでした。
私はよく言われるようなセンサーサイズそのもの是非を言っているわけではありません。将来性を考えた時に、フルサイズに対応できるマウントにするべきだったという話です。
パナソニック・オリンパス陣営と、フルサイズセンサーが入るマウントを採用したソニー、どちらが賢明であったかは現在のカメラ業界の現状を見れば誰の目にも明らかです。
また、キヤノン・ニコンも結局はフルサイズに対応するためにミラーレスのマウントを作り直す羽目になったわけです。
これは決して今だから言える後出しジャンケンではありません。
マイクロフォーサーズマウントが発表された時(2008年08月05日)、既に数年前から他社はフルサイズ一眼レフカメラを発売していました(一例としては、EOS 5Dの発売が2005年08月22日)。
そのため先見性のあるカメラファンの中には、マイクロフォーサーズ規格が発表された際、この機会にフルサイズセンサーが入るマウントに変えるべきだったと指摘していた人はいましたし、私もその一人だったので良く記憶しています。
それほど多くのカメラファンが指摘していたわけではないですし、開発期間を考えればマイクロフォーサーズマウントを企画したのはさらに前に遡るわけですから、現状を予想するのはそんなに簡単ではなかったかもしれません。
しかし、後から「より大きなフォーマットに対応したマウントで他社がミラーレス市場に参入し、フルサイズが主流となる流れがきたら対抗手段がない」ということは考えれば分かることなので、少なくともこのマイクロフォーサーズマウントというパナソニックの選択に先見の明が無かったことも事実でしょう。
マウント径はカメラ全体の設計を考えれば必ずしも大は小を兼ねるわけではありませんが、フルサイズセンサーまでは対応できる規格にすべきでした。
■パナソニックが抱える体質的問題点
パナソニックの頑固さ
また2008-2009年頃丁度私はパナソニックの担当者にも、
- 早くデザインを変えるべき
- フルサイズ対応の新マウントを開発するべき
- ソニーがミラーレスに進出してきたらパナソニックは真っ先に潰される(ソニー自身は「まだまだAマウントで出来ることがある」とミラーレスへの進出を明言してはいませんでしたが、裏でミラーレスシステムを開発していることは多くの人が容易に予想できる状態でした)
ということを散々言いました。
何度も何度も言いましたが、意見を聞いてくるわりに実際に製品に反映されられることはありませんでした。
オリンパスがマイクロフォーサーズの初代機PEN E-PL1を発売した頃に私が言っていた「オリンパスとの差別化のためにLUMIXは動画に注力すべき」という意見だけは反映されたようですが、当然それは私が言ったからそうなったわけではなく、単に元々パナソニックの開発陣に動画のノウハウがあったことと、スチールカメラのイメージで圧倒的にオリンパスのブランド力に負けていたために消去法で動画志向に流れただけでしょう。
開発者が独善に陥るとカメラは軌道修正が効かなくなる
カメラの開発者が独善的になってしまうと製品はどんどんユーザーの要望から離れていきます(※パナソニックの開発者の性格が悪いという意味ではありませんし、実際温厚で良い人が多かったと記憶しています)。
これはパナソニックに限ったことではなく、どこのメーカーの開発者もある程度そうした傾向があります。
開発者というのはカメラが好きで知識もあるがゆえに拘りもあり、そして普通の人間の感覚として、自分よりもカメラ開発に詳しくない人に指示されてカメラを作るのは嫌でしょう?
ユーザーの大多数は一般の人ですから、その人たちが開発の現実を知らないのは当然ですし、場合によってはまるで頓珍漢な意見も平気で言ってくるので、ユーザーの要望のままにカメラを作れるわけでもなければ、作ったからといって良いカメラになるとも限りません。
そのためカメラの企画・開発者は、どうしても自分と同じ目線にある開発者同士の意見を重視してしまう傾向にあります。
営業やユーザーの意見が届いていないのではなく、物理的には耳目に入っているのですが、最後の最後でどうしても自分たち開発者同士の思想を優先してしまうわけです。
しかし開発者というのは技術のプロであって、撮影のプロでもなければマーケティングやセールスのプロでもないので、開発者主導でカメラのコンセプトが決まっていくと往々にして売れないカメラになってしまうわけです。
その典型がパナソニックで、パナソニックは少なくともカメラに関しては、マーケティングと企画力が絶望的に弱いのは誰の目にも明らかだと思います。
もちろん企画・開発者も「売れるカメラを作りたい」という気持ちは同じですし、営業的な視点もある程度はもっているわけですが、その程度が営業側からすると「全然お話にならないほど甘い」ということです。
- 開発者→沢山の人に評価され使って貰える売れるカメラを作りたい。
- 営業→売れないカメラを作るクソ馬鹿は今すぐ地獄に堕ちろ。
感覚的にはこのくらい違います。
こう書くとまるで「開発者=善人」「営業=悪人」のように見えますが、結局カメラが売れなければ、
- カメラ事業は傾き
- リストラが起こり
- 従業員の人生が大きく狂い
- ユーザーにも多大な迷惑をかける
わけですから、どちらが愛社精神やカメラ事業に関わる全ての人のことを考えているかという視点で見れば、売れることを最も重視する営業の方が本当は善人なのかもしれません。
パナソニックがフォーサーズマウントでレンズ交換式カメラ事業に参入した2006年、家電業界においてライバルであったソニーもデジタルカメラ市場に参入してきます。
なんとこの2社は初のレンズ交換式カメラをたった1日違いで発売していたわけです。
しかしこの2社のカメラ業界における現在の立場には大きく差がついています。
ソニーが我が世の春を謳歌しているのに対し(※5年後くらいにはソニーも現在のパナソニックやオリンパスと大差ない状況になっていると思いますが)、現在のパナソニックはすぐに撤退するようなことはないにせよ、カメラ事業を今後も継続出来るかどうかという危機的な状況にあります。
この2社を比較すると、ソニーの開発陣の方が常に先手を打ち、オタク受けするカメラや機能を徹底的にアピールすることで、ここ数年のカメラ業界の潮流を作ってきたことは確かでしょう。
ソニーの場合はユーザーの要望に応えるというよりは、新しい提案をし、それが「あたかも革新的なことであるかのように宣伝する」のが上手だったと思います。
私はαよりLUMIXの方がカメラとしての誠実さは感じますが、そのパナソニックの開発陣の誠実さが必ずしもLUMIXを取り巻く人々を幸せにしたとは言えないでしょう。
■新マウントでの二度目の船出は成功するのか?
決して悪くない現状のLUMIXの性能
今のLUMIXに対する私の評価は、各項目を10点満点、他社平均を5点とすると、
- デザイン:2点(一般受けはしないはず)
- 静止画:5点(悪いわけではないが良いとも言えない)
- 動画:8点(とても扱いやすい)
- 機能性:4点(独自性は弱まってきている)
- 操作性:8点(分かり易さという点で優れている)
といった印象です。合計で27点ですから、他社平均となる25点を少し上回っています。それぞれの項目を見ていくと、
デザインに関しては他社よりも明確に劣っていると思います。悪く無い機種もあるのですが、全体的に見て他社より購買欲を刺激するデザインとは言えないでしょう。
静止画の写りに関しては私の好みではないですが、昔より自然で良くなっていると思いますし他社の平均的画質に劣っているとは思いません。
動画は画質と扱いやすさは共にトップクラスだと思います。動画品質そのものは他社も相当高画質になっており、今はパナソニックの動画品質が抜きんでているとは思いませんが、いろいろな面で扱いが容易でなので私も動画撮影用にはLUMIXを使っています。
ガチガチのムービーカメラマンにとってどうなのかは私では分かりませんが、大した設定や後処理もなく、かつ綺麗に撮ってくれるとても使いやすいカメラだと思います。
LUMIXがYouTuberに根強い人気があるのも、単に自撮りが出来るといった理由では無く(今時そんな機種は他社でも幾らでもあるため)、簡単な操作で高画質を得られる点にあるのではないかと思います(そのYouTuber需要もソニーのZV-1やZV-E10に奪われつつあるのですが)。
全体の操作性に関しては、LUMIXオリジナルの機能の操作に関してはクセがある部分もありますが、カメラの基本的な操作に関しては非常に分かりやすいものとなっています。
メニューも「この機能はここら辺かな?」と思ったところちゃんとその設定があり、普段他メーカーを使っている人がLUMIXを使っても、設定や操作で戸惑うことは少ないのではないかと思います。
そう考えると、LUMIXはカメラとしての実用性は十分高いと言えるのではないかと思います。
しかしデザインに関しては、おそらく多くの人がLUMIXのデザインが他社より優れているとは思っていないでしょうし、もっと頑張れると思います。
今のLUMIXユーザーはデザインでLUMIXを選んでいるわけではないと思いますが、このままでは新しい客層を取り込んでいくことは出来ないでしょうから、パナソニックはデザイン面は特に頑張らなければなりません。
カメラマニアの営業に対する誤解
センサーサイズの問題はLマウントになり解決しましたから、今のLUMIX Sシリーズが売れない原因は、先ほども言ったデザインとブランドとしての弱さだと思います。
「Panasonic」自体にはブランド力が十分ありますが、「LUMIX」というブランド名には20年経った今も価値がないと思います。
ところで、カメラマニアの間で時折こういった会話がされていることを目にします。
「開発者はいいカメラを作ろうとしているのに、営業が余計な口出しをして良いカメラにならない」
このような話です。しかし、それは完全に間違いです。
なぜ「開発性善説、営業性悪説」のようなイメージを持っている人が多いのか不思議ですが、私は色々なカメラメーカーの開発担当とも営業担当とも会いましたが、カメラマニアのいうところの「余計な口出し」をする営業担当など私が知る限りでは一人もいませんでした。
営業やメーカーの販売員というのは、お客さんの要望をそのまま企画・開発に伝えます。
- 営業にとって良いカメラ=売れるカメラ
- 売れるカメラ=お客さんが欲しいカメラ
なので、営業やメーカー販売員がお客さんが望まない製品の企画・開発を要望することなど絶対にありません。そんなことをしても何の得もないでしょう?
パナソニックの場合取り扱い製品が多いため、ほとんどの営業さんはカメラだけを担当するわけではないので、カメラメーカーと比較して営業担当者の多くはそれほどカメラに詳しいわけではありません(※カメラ販売員の話ではありません。販売員の方々はカメラに詳しい人も沢山います)。
しかしパナソニックの営業であれ、どのメーカーの営業であれ、共通して言えるのは売れるカメラ(お客さんが望むカメラ)を作って欲しいと切実に願っているということです。
開発者が売ることの大変さを肌で感じることの大切さ
なぜこのような話をしたかというと、LUMIXの企画・開発に欠けているのは、そうした売り場の人たちの目線だからです。
営業担当者やメーカーのカメラ販売員は、純粋にお客さんの要望を企画・開発に伝えるわけですが、企画・開発がその要望に応えてくれないのです。
お客さんの望むカメラが技術的・コスト的・時間的に実現が難しく希望に添えないとか、ある特定の層の要望通りに作ると極端なものになりすぎてしまうというケースはままあるので、情報の取捨選択が必要なのはどのメーカーにも共通して言えることですが、売れるメーカーほど、お客さんが望むカメラと実際に作るカメラが一致しています。当たり前のことですが。
逆に売れないメーカーほどユーザーの代弁者である営業や販売員の意見を素直に受け入れることが出来ず、開発者の視点でカメラを作ってしまいます。
その結果、売れないカメラを勝手に作って勝手に自滅するのです。
そういう悪習を正すために、パナソニックは企画・設計部門の人間を実際の売り場に「徹底的に」立たせて、実際に自分で売らせてみるべきです。
それはどのメーカーでもやっているような、たった数ヶ月の研修もどきのものではなく、パナソニックに関してはカメラのマーケティングが他社よりも弱いのですから、「開発者は必ず週1回は売り場に立たなければいけない」という位の極端なルールを設けて、かつ販売台数と販売金額を本気で追わせるくらいの事をやれせなければ、営業的な視点は養われません。
- 一度だけ
- 数ヶ月だけ
- お客さんの声を聞くだけ
- 経験するだけ
そんな販売経験はなんの意味もありませんし、逆に害悪なくらいです。
実際は開発の現場に染まりきっているのに、ちょっと売り場に立ったことがあるくらいで、売り場を知っているつもりになるからです。
売り場を見て回るとか観察するとかも勘違いの元です。そういった開発者は沢山いて、売り場を見て回ろうという情熱は素晴らしいことですが、「見るとやるとは大違い」と言うように、直にお客さんに触れなければ本当のお客さんの声は理解できません。
売り場を見て回るよりも、自分で売ってみた方がお客さんの動向をはるかに深く理解できます。
ましてや販売データやユーザーデータから購入者層を分析してMR(市場調査)をしたつもりになるなど以ての外です。
そういう人は営業担当者にも凄く多いのですが、そんなデータはほとんど役に立ちません。参考にする程度であれば良いですが、それをMRの核にしてはいけません。
そうした情報はただの「結果」であって、そのような結果につながった理由までは教えてくれないからです。そして理由が見えなければ解決のしようがありません。
また既存ユーザーの意見というのは「そのメーカーを支持している人」の意見ですから、買わなかった人の理由まではわかりません。
加えて消費者の要望や世の中の需要は常に更新されていくので、コンスタントに売り場に立ち続けなければ、お客さんの望むカメラがどういうものであるかはすぐに分からなくなるのです。
だから「売り場に立ったことがある開発者」ではダメで、「売り場に立っている開発者」を育てなければなりません。
松下電器産業株式会社は日本で初めて週休二日制を採用した企業であり、昨今では週休三日制や異業種の経験がプラスになるという考えから副業を推奨している企業も増えてきています。
そうしたことを考慮すれば、週5日の勤務のうち1日を店頭での販売にあてることは十分に可能ですし、それは開発者にとって大きな糧となります。
カメラ販売店の店員さんやパナソニックのカメラ販売員さんはリアルタイムの需要と常に接しながら、日々「目標台数に届いてない」「予算を達成できていない」と成果を問われ続けています。
だから彼らは、お客さんがどんなカメラを欲しがっているのかを世界一知っている人たちです。自社製品だけでなく他社製品に至るまであらゆる需要知り、お客さんの心理を深く理解するには売り場に立つことが最善最短の道です。
1時間もかけて一生懸命LUMIXの性能をアピールしても「パナソニックのカメラはダサいから」とか「友達にソニーを勧められたから」という一言で買って貰えない。そういう生々しい売り場の現実を開発者も肌で感じなければいけません。
アンケートで意見を聞いたとか、営業からの報告書を読んだというのとは次元の違うリアリティがそこにあります。
例えるなら、格闘ゲームで負かされるのと、実際に格闘技の試合に出て気絶するまで殴る蹴るされるくらいの違いがあり、シリアスさが全く違うのです。
企画・開発に関わる全員がその痛みや屈辱を何度も体験していれば、たかがLバッジを無くすのに10年以上もかかったり、議論が紛糾するなんて馬鹿なことは起きません。
(勿論そんなことはあり得ませんが)仮にカメラ販売店の店員さんやメーカーのカメラ販売員さんが、企画・開発の全権を掌握していたとしましょう。
Lバッジに関してだけ言えば、
- 店員A「このLバッジ不評なのでやめませんか?」
- 店員B「そうだね、じゃあ次の機種から無しで」
あっという間に会議終了、30秒でLバッジ廃止です。会議どころか仕事中の立ち話で十分です。パナソニックの企画・設計陣が長年迷走してきたことは、30秒の立ち話で解決しています。
「了承を得る」も「偉い人を説得する」も無いのです。実際に売り場に立って同じ売れない経験をしている者同士なら、一瞬で合意形成でき誰も反対しないのですから。
それは開発者同士が基本的な技術話ならツーカーで話が通じるのと同じことです。なので開発者にも販売の経験を「コンスタントに」続けさせなければいけないのです。
富士フイルムが売れてパナソニックが売れない理由
ではこれからのパナソニックがどんなカメラを作っていくべきかということになるわけですが、現在では10年前のようにカメラに大きな宣伝費をかけられる時代ではなくなりましたから、派手な宣伝戦略など立てられません。
なので性能面のブラッシュアップはもちろんですが、特に力を入れるべきはデザインと地道なブランドイメージの構築なのだろうと思います。もっと革新的なアイデアがあれば良いのですが、恐らくはないでしょう(※もしもより良いアイデアが内部から出るのであれば、それがどのような立場の人の案であってもどんどん採用するべきです)。
パナソニックと同じような(カメラメーカーとして)弱小からスタートしながら、ある程度の成果を収めているのが富士フイルムです。
富士フイルムはフィルム時代からカメラを作っていましたが、レンズ交換式デジタルカメラはXシリーズが出るまでは、かなりニッチなレベルでしか売れていませんでした。
Xシリーズのレンズ交換式カメラの初代機はX-Pro1(2012年02月18日発売)であるため、実はまだ10年も経っていません(レンズ一体型の初代機であるX100から数えても10年)。
つまりXシリーズはLUMIXの半分程度の歴史しかないわけです(Gシリーズと比較しても4年LUMIXの方が歴史が長い)。
しかし一貫したクラシックデザインやフィルムシミュレーションに代表される画作りによって、XシリーズはLUMIXよりもブランディングに成功しています。
例えばX-Pro3の背面のHidden LCDなどは、撮影機材としての合理性を考えれば完全に馬鹿げていると思いますが、あれこそまさにX-Proシリーズに人々が求めているイメージでしょう。
同時に実用性を重視する人向けにX-T4のようなバリアングルモニター搭載の機種もありますし、それでいながらX-T4は高品質な外装など嗜好品としての面もちゃんと備えています。
富士フイルムのXシリーズは、
- デザイン
- 機能
- ブランドイメージ
それらの要素がユーザーの期待と一致しており、フィルムシミュレーションに代表される富士フイルムらしい画作りの思想と共に、嗜好品としても所有欲を満たせるよう拘っています。
それらが開発者の独善に陥らず、お客さんの要望と合致しているから売れるようになったのです。
そうしたブランディングや嗜好品としての極致にあるカメラメーカーがライカですが、パナソニックはライカからそうした嗜好品としてのカメラ作りを学べていません。そうした面こそパナソニックがライカから盗むべきノウハウです。
また、パナソニックは自社のカメラ販売員を軽んじている印象もぬぐえません。
売る側である販売員からすれば、何も知らされないうちに開発され、いきなり「ハイできました売ってください」と売れるわけもないカメラを渡されても困るだけなので、先にどういうカメラを作るつもりか事前に聞いてくれなければ、出来上がったカメラを渡されてからではどうにもなりません。
なので、どういうカメラを作ろうとしているのか、またそのカメラが売れると思うかということを企画段階から販売員に確認してみるべきです。
そこで販売員から多少の情報漏洩が発生しても全然構わないのです。もちろん一応秘密保持契約は交わしおくべきですが、どうせ今時新機種の情報はある程度漏れますし、今のパナソニックがどんなカメラを開発していようが他のメーカーは大して気にしてもいないでしょう。
ちなみに富士フイルムはプロフォトグラファーに「こういうカメラを作ろうと思っていますがどうでしょう?」と企画の初期から意見を聞くことがあります。
全く新しいシリーズではやらないのかも知れませんが、どうせ後継機を出すことが分かっている機種であれば、情報漏洩のリスクも少ないということです。
例えば、X-Pro3の後継機であるX-Pro4などはいずれ発売されるのは皆分かっていますし、仮にそれがどんな機種なのか情報が漏れたところで、他のメーカーが「じゃあその情報を元に、うちもX-Pro4みたいな機種を作ろう」なんてならないでしょう?
強い個性や真似できない技術力があれば、カメラのコンセプトなんて漏れたって大した問題ではないのです。
富士フイルムのように開発そのものが(プロフォトグラファーという偏りはあるものの)ユーザー参加型であれば、とんでもなく的外れな製品は出てきにくくなりますし、それは企画・開発の姿勢としてとても良いことだと思います。
私はそのメーカーで長年働いている信頼できる販売員の何人かは商品企画の段階から参加させるべきだと思っています。販売員はカメラ購入者の意見の最大の集積所なのですから。
ただこの「信頼できる販売員」とは、開発者にとって気分の良いことを言ってくれる人ではなく、知識があり一番厳しい意見を忌憚なく言ってくれる人であり、ユーザーの高い要求を代弁してくれる人のことです。
それが本当のメーカー愛なのですから。
また開発者は、カメラが完成し発表した後もユーザーに向かってその機種の魅力を伝えていくことも必要です。
作りっぱなしで「あとは任せます、頑張って売ってください」と丸投げして終わりではダメです。
対して富士フイルムは特にフィルムシミュレーションとデザインに関して、企画・開発者自らがユーザーに積極的に情報発信している様子が見られます。
フィルムシミュレーションなどは、富士フイルム機を使っているプロフォトグラファーでも全てを詳細に把握することはとても困難なので、開発→営業→販売員→ユーザーと伝言ゲームのように伝えるより、画質設計の開発担当が公式サイトやYouTubeを使ってユーザーに直接説明する方が、ずっと詳しいし早いでしょう?
そういう姿勢がパナソニックは弱いように思います。
「新機種を出した時だけちょろっと開発者インタビューで話しました」なんてのは全く足りておらず、コンスタントに情報発信していかなければいけません。
またよくある「開発秘話」なんて全くどうでも良いのです。開発者が裏でどれだけ苦労していようとお客さんには1ミリも関係がないのですから。
カメラ店の店員さんやメーカーの販売員さんが、カメラを買いに来たお客さんに対して、セールストークの技術や販売の苦労話を滔々と語ったりしないでしょう?
そんな店員がいたら間違いなく馬鹿だと思われるだけですし、そんな店員は普通いません。しかし開発者はそれを開発者インタビューで平気でやってしまうわけです。
それがまさに「開発者は営業的な視点が足りていない」ということなのです。彼らは「お前の苦労話なんか興味ないから、その機種の面白い話を聞かせろ」と思われているということさえ分かっていません。
だから開発者も開発の苦労話なんかではなく、開発者ならではの深い知識からくるその機種の魅力や使いこなし方をユーザーに役立つ情報として積極的に伝えていくこと必要があります。開発者もプロモーション活動の一翼を担わなければならないのです。
「これは内容的に難しすぎるかな?」くらいのもので構いません。そうしたところに自発的に情報を得ようとアクセスするユーザーはメーカーが想定しているより知識がある人たちです。
またそうした行動を介して、開発者はユーザーに何が響いて何が響かないのかということも含めて、より多くのフィードバックを得られ、それを現行機種にファームウェアアップデートや後継機の開発に活かすことで、カメラとブランドコンセプトを育てていけるのです。
Sシリーズの成否はLUMIX20年の歴史を捨てる覚悟をあるかどうか
今後のパナソニックのデジタルカメラ事業の命運は、これまでの慣習にとらわれず、(ユーザーの要望に沿った形での)決断をパナソニックの企画・設計陣が出来る体質に変われるかにかかっているでしょう。
LUMIXブランド20年目の節目となる今年の秋に、敢えて「LUMIXの役目は終わった、ブランド名を変えます」と言い出すくらいの気持ちが必要です。
果たしてそこまでの思い切ったことが彼らに出来るでしょうか?私はパナソニックにそんな度胸はないと思っています。
しかしどうせ20年続けてもLUMIXという名称にブランド価値は生まれなかったのですから、スッパリ捨てて構いません(マウントはLマウントのままでいいと思います)。
LUMIXという名称を変えることで話題性もあり、生まれ変わった印象を与えられます。本来はSシリーズの立ち上げに合わせて行うべきだったとは思いますが。
そしてパナソニックの変革においてまず最初にやって欲しいのは、まずはとにかく企画・開発者が実際に売り場に立ち、自社のカメラを自分で売ってみて(売れないのですが)、お客さんの要望と意見を徹底的にその身で受けることです。
お客さんはLUMIXを買ってくれないどころか、自発的にはパナソニックのコーナーに近づいてもくれないという厳しい現実を知ることになるでしょう。
だから見てもらえるようにデザインも「劇的に」変えましょう。
デザインは「そのメーカーの意識の変化」を最も分かりやすくユーザーに伝えられる要素だからです。
いずれにせよ変えても失うものなどパナソニックには無いのですし、変われなければ遠からずオリンパスの後を追うことになるだけです。
パナソニックのカメラ事業が30周年を迎えられるか、はたまたカメラ事業から撤退することになるかは、これからのパナソニック次第ですが、その猶予は本当にわずかしかないはずなので、遅くとも2年以内に劇的に体質を変えられなければ、パナソニックが10年後カメラ業界で生き残っていることは難しいと思います。
せっかく技術力はあるのですから、是非売れるカメラメーカーに生まれ変わって欲しいと願います。
Reported by 正隆