皆さんこんにちは。
以前お話ししたように、α7 IVはポンコツではありますが、α7 IIIから成長していないわけではありません。
■α7 IVに見るソニーのわずかな成長
α7 IIIとα7 IVに見るシャッターボタンの違い
α7 IVとα7 IIIはデザインは大きく変わっていないものの、細かい部分での改善が各部で行われています。
α7 III | α7 IV |
まずシャッターボタン周りですが、α7 IIIは従来の考えなしのシャッターボタンでしたが、α7 IVでは多少改善されています。
これはα7 IVからではなくα9 IIあたりからなのですが、シャッターボタンの出っ張りが下げられ、誤動作が減るように工夫されています。
またグリップとの繋がりもなだらかになっており、フィット感も上がっています。
シャッターボタンは押しにくい形状はダメですが、逆に出っ張り過ぎていると、電源スイッチを入れたままスリープ状態で移動した際などに、カメラが揺れて体にぶつかって勝手にシャッターが切れてしまったり、カメラバッグから出す際にシャッターボタンが押されてしまってシャッターが切れてしまう場合があります。
そのためシャッターボタンは押し易く、かつ意図しない接触で勝手にシャッターが切れないようにする工夫が必要になるわけですが、α7 IVではα9 IIやα1同様にシャッターボタンの出っ張りを少なくし、誤動作を減らす工夫がされました。
キヤノンやニコンがなぜ偉大かが分かるシャッターボタン
ちなみにキヤノンは谷間のようにシャッターボタン周辺を凹ませた形状とすることで、カメラボディが体などにぶつかってもシャッターボタンが押され難くしており、ニコンは電源スイッチのリングによって、やはりカメラがぶつかっても意図せずシャッターボタンが押し込まれないようにガードしています。
しかもキヤノンはT90(1986年発売)、ニコンはF4(1988年発売)から既に現在のような形状のシャッターボタンを採用しています。
T90
T90(1986年発売)ではシャッタボタンを周辺よりも低くすることで、指のフィット感だけでなく、体や物がシャッターボタンにぶつからないように工夫されています。
F4
F4(1988年発売)では現在のようにシャッターボタンの周辺にシャッターガードと併用の電源レバーが配置されて、T90同様に体がぶつかったりしてもシャッターボタンが押し込まれないように工夫されています。
つまり、両社とも1980年代には「このシャッターボタンの形状が良い」となってそれを維持しているわけです。
しかしソニーがそのことに気付いたのはα9 II(2019年発売)からでした。
特にスポーツや報道にも使われるような機種では、電源をOFFにせずに慌ただしく移動して撮影したりしますから、シャッターボタンを出っ張らせてはいけないのですが、前機種となるα9のシャッターボタンは考えの足りない作りになっており、これでは何かにシャッターボタンがぶつかるたびにシャッターが切れてしまい、スポーツや報道用のプロ機としては良い出来とは言えません。
ソニーも流石にそれはユーザーから指摘されたようで、α9 IIからはシャッターの出っ張りがなくなり、形状も工夫され誤動作防止と押しやすさの両立がある程度はされるようになりました。
α9 | α9 II |
これでもまだキヤノンやニコンのプロ機と比較すると、フィット感だけでなく、レリーズの半押し全押しの感触なども駄目なのですが、ソニーがそこまでたどり着くのは一体いつになるのやらという感じです。
長い間カメラ業界のトップランナーであるキヤノンやニコンがやっていることには何かしらの意味があると思っておいた方がいいので(※実際はキヤノンやニコンも安易な考えでミスしまうことは普通にあります)、ソニーは「シャッターボタンは出っ張っている方が押しやすいんだから出っ張らせよう」などという安易な考えをせずに、「なぜキヤノンやニコンはシャッターボタンを出っ張らせないのだろう、きっと意味があるはずだ」と理由を紐解く努力をするべきでした。
そしてα7 IVのシャッターボタンもα7 IIIよりは良くなったのですが、まだまだダメなのでこれからも変わっていくと思いますが、ソニーはシャッターボタン一つとっても30年以上前のキヤノンやニコンの「カメラに対する理解」にやっと追いついたかどうかという状態です。
前面ダイヤルに見られるソニーの未熟さ
またシャッターボタンだけでなく前ダイヤルにも変更が加えれており、前ダイヤルが少し上向きの斜めに立てています。
α7 III | α7 IV |
これによって前ダイヤルを人差し指で回しやすくなっているのですが、これはあまりおすすめ出来ません。
例えばキヤノンのように前ダイヤルがシャッターボタンの上側に来る場合はもちろんダイヤルは真っ直ぐ立てた方が回しやすいのですが、問題はシャッターの下側にダイヤルが来るソニーやニコンの場合です。
ソニー的には「前面ダイヤルは斜め上に向けた方が人差し指で回すく、シャッターボタンからの移動量が少なくて良いだろう」と考えて、α7 IVではα7 IIIよりもダイヤルを斜めにしたのでしょうが、同じくシャッターの下側に前面ダイヤルを長い間搭載しているニコンのダイヤルは横に向いています。そしてこれもどちらかと言えばニコンが正しいのです。
α7 IV(ソニー) | Z 9(ニコン) |
なぜかと言うと、この前側ダイヤルは人差し指ではなく中指で回すことでメリットが生まれるものだからです。
もちろん人差し指で回したければ人差し指で回してもらって構わないのですが、中指で回すことで「人差し指はシャッターボタンに置いたまま」中指で前側ダイヤルを操作できるため、ダイヤル操作(中指)→シャッターレリーズ(人差し指)までシャッターボタンに人差し指を置いたまま撮影できるという大きなメリットがあります。
キヤノン方式とニコン方式にはそれぞれに良さがあり、どちらが良いというわけではありませんが、シャッターボタンの下側に前面ダイヤルを配置するニコン方式を採用するのであれば、ニコンのように中指でダイヤル操作できるようにしなければメリットが大幅に減ってしまいます。
なのでα7 IVのように斜めにしてしまうと、中指で操作し辛いため、ダイヤルを人差し指で操作することになります。人差し指をシャッターボタンから離すのなら、キヤノンのようにシャッターボタンの上側にダイヤルがある方が操作しやすいというわけです。
ニコンはダイヤルを中指で操作できるというメリットをさらに活かすために、上級機ではダイヤルを水平ではなく向かって左下に少し傾けています。前側ダイヤルを中指で回すと指も向かって左下にわずかに傾いて動くからです。
ニコンはそこまで配慮して前側ダイヤルを作っていますが、ソニーはまだそこまでカメラを理解できていないので、α7 IVに見られるように、シャッターボタンは少し改善したのにダイヤルの方は良かれと思って改悪してしまうわけです。
ソニーがやるべきは前側ダイヤルは真横のままで、中指(でも人差し指でも)で操作しやすいように、シャッターボタンと前側ダイヤルの距離やダイヤルの傾きやグリップの形状を調整するべきでした。
これもまたソニーが素直に「大先輩のニコンがダイヤルを斜めに立てていないのには意味があるはず」と考察をしていれば気付けたことです。
しかもこの前面ダイヤルは、α7 IIでは斜めになっており、
- α7 II→斜め
- α7 III→水平
- α7 IV→斜め
となっていて、ソニーが確信を持てず迷走していることがわかります。
α7 II:ダイヤル斜め上向き
α7 III:ダイヤル水平
α7 IV:ダイヤル斜め上向き
このように、ソニー自身何が正しいのか分かっていません。
ただ、II、III、IVと続けて見ると、なんとなく人間の手にフィットする形には少しずつなってきているように見えます。
ソニーが幾らデザインやコンパクトさにこだわろうとも、結局は時間の問題で人間の側に合わさざるを得なくなるので、人が去る前に早く直した方がずっと合理的です。
こうした点もソニーが「ニコンから学ぼう」という気持ちがあれば沢山の気付きを得られるのですが、ソニー自身は慢心しているようで、自分たちが既にニコンを超えているという勘違いをしているのか、そうした思考になりません。
もしソニーにニコンの姿が見えないとすれば、それはニコンを抜き去ったからではなく、ニコンが今でもソニーの遥か先を走っているから見えないだけです。
もしこれに「レリーズの感触」といったさらに適切に作るのが難しい部分の評価が加わってきたりすると、ソニーの評価はもっとズタボロになっています。
現状キヤノンと比肩しうるレベルでカメラ作りを理解しているメーカーはニコンだけ(ライカはまた別の意味でキヤノンやニコン以上ですが)です。
とは言っても、キヤノンもニコンも全部が全部素晴らしい作りというわけではありません。
指先や目といった人間の鋭敏な部分で使うカメラという機械は、ほんの僅かな違いで良し悪しが分かってしまう本当に恐ろしい道具です。
α7 IVは総合的に見れば良い出来とは言えないものの、α7 IIIと比較すればシャッターボタンの形状だけでなく、上面も背面も微妙に改善が見られます。
とはいえまだまだなので、ソニーには「キヤノンやニコンから学ぼう」という謙虚な心を持って欲しいと思います。カメラ作りにおいてその2社はソニーとは比較にならないほど多くの経験の蓄積があり、ソニーにとっては学ぶところだらけです。
Reported by 正隆