RFマウントのフランジバック長はNDフィルターを内蔵するため?

皆さんこんにちは。

各社のフルサイズミラーレスマウントが出揃った昨今、マウントの将来性に関しては多くの方が気にしている部分でしょう。

各メーカーの開発時の事情や考え方によって、フランジバックやバックフォーカスには違いが見られます。

その中でキヤノンのRFマウントは、フルサイズミラーレスとしては比較的長めの20.0mmというフランジバックになっており、フルサイズミラーレスとして最も短い16.0mmのフランジバックであるニコンZマウントとは、レンズ交換式カメラの将来に対して違う読みをしているのが分かります。

レフレックスミラー同様にいずれはメカシャッター(物理シャッター)が無くなることは予想できていただろうに、なぜキヤノンはフランジバックを長めにしたのでしょうか?

目次
  • フランジバックの比較
    • 各社のフルサイズミラーレスのフランジバック長
    • フランジバックを短くすることのメリットとデメリット
  • なぜキヤノンは敢えてフランジバックを長くしたのか?
    • スチールとムービーの垣根が消える時
    • 敢えて被写体ブレを起こすムービー撮影
    • フランジバック20.0mmにNDフィルターの搭載は可能
    • NDフィルターを搭載することのデメリットは?
  • ベストなマウント規格を未来に渡って予想することの難しさ
    • RFマウントとZマウントそれぞれにメリットがある
    • どこが有利になるかはまだわからない

そこで今回は、キヤノンはイメージセンサーの前にシネマカメラのように、スチール機にもNDフィルターを入れるためにフランジバック長を20.0mmにしたのではないか?という点を考えてみたいと思います。

■フランジバックの比較


各社のフルサイズミラーレスのフランジバック長

まずはフルサイズミラーレス各社のマウント規格を見てみましょう。

マウント名 マウント内径 フランジバック
ニコンZ 55.00mm 16.00mm
キヤノンRF 54.00mm 20.00mm
ライカL/パナソニックL 51.60mm 20.00mm
ソニーE 46.10mm 18.00mm

設計された時期が異なるわけですが、この中で特に興味深いのはほとんど同時期に登場したRFマウントとZマウントです。

キヤノンRFマウントとニコンZマウント、この2つのマウントはマウント内径に関しては、

  • 54.0mm:RFマウント
  • 55.0mm:Zマウント

その違いは1.0mmといずれも大口径マウントで共通しているわけですが、フランジバックは、

  • 20.0mm:RFマウント
  • 16.0mm:Zマウント

4.0mmもの差があります。

ニコンはフルサイズミラーレスの中でかなりのショートフランジバック、対するキヤノンな長めのフランジバックとなっています。

フランジバックを短くすることのメリットとデメリット

ショートフランジバックには他社レンズに対応したマウントアダプターを使えるとか、光学設計の面で有利(バックフォーカスを長く取りたい時は鏡筒で調整できるので)、といったメリットがあるわけですが、イメージセンサーの読み出し速度が向上したことで遂にニコンはZ 9でメカシャッター(物理シャッター)レスを実現しました。

ニコンの技術者からすれば、Zマウント設計時に、レフレックスミラー同様にいずれはメカシャッターも不要になるというのは読めていたでしょうから、ここまでギリギリのフランジバックに設計したのだろうと思います。

ニコンの場合はFマウント時にマウント系の小ささやフランジバックの長さを度々指摘されていたため、

  • マウント径は大は小を兼ねる
  • フランジバックは短いは長いを兼ねる

という意識が過剰に働いて、フルサイズミラーレス機で最大の口径と最短のフランジバックとなったことに影響を与えた可能性があります。

光学設計上は確かにマウント径は大きいほど良いですし、フランジバックも短いほど自由度が増します。

Z NIKKORレンズの描写性能が非常に優れている要因の一つが、光学設計の自由度の高さに起因することは間違いありません。もちろんそれを生かせる技術力があれがこそですが。

しかしながらメカ設計を考えると必ずしも良いことばかりとは言えず、マウント径が大き過ぎればボディの小型化が難しくなりますし、フランジバックが短過ぎれば、マウントの強度を保つのに工夫が必要になるなどの苦労があります。

しかしZマウントの大口径と最短のフランジバックによって、マウントアダプターにはめっぽう強く、16.0mmという非常に短いフランジバックを採用しているソニーEマウントレンズすらZマウントではAFマウントアダプターを使うことも可能となっています。

わずか2mmの違いしかないフランジックの差でAFを実現できたのは、Zマウントの口径が大きいためで、マウント周辺部に電子回路を搭載することができるからです。

そうした意味ではフランジバック20.0mmのRFマウントでは、他社フルサイズミラーレス用レンズは付けられるものが現状ほとんどない(レンジファインダーのライカMマウントレンズはマウントアダプターで取り付け可能です)のですが、フランジバック16.0mmというZマウントはマウントアダプターで他社製レンズを使用したい方には最強の規格と言っても良いでしょう。

同時期に開発されたRFマウントはなぜフランジバックを長め(長めと言ってもライカMマウントでも27.8mmなので、従来のレンズマウントと比較すれば相当短いわけですが)にしたのでしょうか?

キヤノンもいずれメカシャッターが無くなる時代が来ることは予想出来たはずで、メカシャッターを搭載するスペースが不要になる可能性を考えれば、もう少しフランジバックを短く設計することは出来たはずです。しかしキヤノンはなぜそうしなかったのでしょうか?

■なぜキヤノンは敢えてフランジバックを長くしたのか?


スチールとムービーの垣根が消える時

現在のカメラはムービー機能が強化される傾向が続いており、スチールカメラといってもかなり高いレベルでの動画撮影に対応しています。

相当本格的な撮影でもない限り、ムービーのプロレベルの動画撮影であっても対応できるミラーレス機が続々と登場してきました。

アマチュアからプロまでそうした動画需要は高まっており、YouTuberやライバーといった自撮り撮影を行うアマチュア層から、プロのムービーカメラマンまでユーザーの幅はより広く、そしてより高度な動画機能が求められるようになってきました。

敢えて被写体ブレを起こすムービー撮影

そうした動画需要の高まりとともに、スチール撮影ではあまり重視されなかった撮影技術や設定が求められるようになってきました。

その一つがシャッタースピードを敢えて遅めに設定して撮影するモーションブラーです。

スチールカメラの場合は長秒露光や流し撮りのような特殊な表現でない限りは、基本的には被写体ブレを起こさないように撮影します。

しかし動画ではわずかに被写体ブレを起こした状態で撮影するのが基本となります。

動画撮影では被写体ブレが起こらないようにシャッタースピードを上げ過ぎてしまうと、パラパラ漫画のような不自然なカクついた映像になってしまうため、シャッタースピードを落とし敢えてわずかに被写体ブレを起こすことで滑らかな映像になるようにします。

そうした表現を「モーションブラー」と呼んだりしているわけですが、モーションブラーの適切なシャッタースピードの目安としては、

  • 30fps→1/60秒
  • 60fps→1/125秒

といった感じで、要するに秒間のコマ数×2のシャッタスピードに設定するのが目安とされています。

しかしながらシャッタースピードを落としたくても、屋外での撮影などでは、背景をボカしたいといった作意に合わせて絞り値を設定すると、露出オーバーになってしまうことがままあります。

そのため真面目に動画撮影をしようとすると屋外の撮影ではNDフィルターが必須になるわけです

しかしながらNDフィルターを付けたり外したり、あるいは明るさに応じて適切な濃度のNDフィルターに随時変えるというのは実際にはかなり手間ですよね?

そこで今回の本題である、カメラボディ内にNDフィルターを内蔵出来るかどうかといった話になるわけです。

フランジバック20.0mmにNDフィルターの搭載は可能

結論から言うと、20.0mmのフランジバックに内蔵NDフィルターを搭載することは可能です。

なぜなら既にあるからです

それがこのEOS C70です。勿論RFマウントです。

このCINEMA EOSであるEOS C70には、ビルトインNDユニットというNDフィルターが内蔵されています。

このビルトインNDユニットは、厚さがわずか約6mmしかない超薄型電動式NDユニットで、2段分、4段分、6段分、さらに拡張で8段分と10段分の光量調節が可能になっています。

これは段数なので、ND2、ND4、DN6、ND8、ND10という意味ではありません。

NDフィルターで換算すると、

  • 2段分→ND4
  • 4段分→ND16
  • 6段分→ND64
  • 8段分→ND256
  • 10段分→ND1024(事実上ND1000)

ということになります。

またこの薄型電動式NDユニットはボディー左側面に設置されたNDボタンの+ボタンとーボタンで簡単に濃度を変更できるようになっています。

勿論ND無しという選択も出来るため、NDフィルターを使用しない際の画質劣化の心配もありません。

つまり、RFマウントには内蔵NDフィルターの搭載が可能というわけです(既にあるのですから)。

勿論動画撮影でなくともこのNDフィルターは使えますから、従来のようなスチール撮影用のNDフィルターとしても使えるというメリットがあります。例えば滝や海の長秒露光などです。

NDフィルターを搭載することのデメリットは?

でもNDフィルターのユニットを内蔵したらボディが大幅に大型化するでしょう?…と思ったそこのあなた。

それが実はそこまでではないのです。上の比較画像を見て頂ければ分かるように、EOS C70の大きさは、EOS-1D X Mark IIIよりも縦横はかなり小さいのです。また重量も約1,190g(本体のみ)となっていて、一眼レフフラッグシップ機と比較して重いわけでもありません。

厚みはあるように見えますが、これはシネマカメラ独特の理由からくるもので、冷却ファンが搭載されているために厚みがあるわけです。

動画機の場合、ズームリングやピントリングを記録中にスムーズに操作する必要があるため、撮影者はスチールカメラのように真後ろに立つのではなく、斜め後ろや横に立つという関係からもシネマカメラではこの程度の厚さは邪魔になりません。そのためにシネマカメラでは操作部がスチールと異なり本体側面に多いわけです。

ただしEOS C70のイメージセンサーはスーパー35mm(24.0mm×14.0mm)ですから、APS-Cセンサーよりもわずかに小さく、またボディ内手ぶれ補正は電子式となっています。

つまり同様のことをフルサイズセンサー+ボディ内手ぶれ補正のような通常のEOS Rシリーズのようなことをしようとすると、相当小型化を頑張らないと、EOS C70よりも顕著に大きくなります。

つまりRFマウントのフランジバックに内蔵NDフィルターの搭載は可能ですし、内蔵NDフィルターのユニットを搭載することで動画撮影時の利便性は劇的に向上するものの、事実上それが可能なのは、フラッグシップ機もしくはその動画性能を優先したバージョンのみとなるでしょう。

勿論同じように作れば価格面でもスーパー35mmであるEOS C70よりも高価になるわけですから、かなり高価になるはずです。

つまりRFマウントにNDフィルターを内蔵することは可能は可能なのですが、大型化と高級化は避けられないわけです。

しかし、このビルトインNDフィルターはRFマウント全てに搭載しなければならないというものでもないため、フラッグシップ機やプロ機にだけの特別な機能として搭載すれば良いわけです。

■ベストなマウント規格を未来に渡って予想することの難しさ


RFマウントとZマウントそれぞれにメリットがある

RFマウントとZマウントは同時期に登場したマウントで、大口径のマウントを採用していることも同じですが、フランジバックに対する考え方はかなり異なります

マウント名 マウント内径 フランジバック
キヤノンRF 54.00mm 20.00mm
ニコンZ 55.00mm 16.00mm

これはどちらが良いとも言えない部分で、光学設計の容易さで言えば、厳密にはニコンZマウントの方が良いのですが、内径やフランジバックの差でレンズ性能が決まってしまうような大きな差ではありません。

対してマウント強度や小型化といった部分ではキヤノンRFマウントの方が有利なのですが、これも致命的な差が出るようなものではありません。

ではそれぞれのメリットがどういったところに出るかというと、現状確実な部分では、

  • キヤノンRFマウント→フランジバックの長さを生かしてビルトインNDフィルターを搭載できる
  • ニコンZマウント→あらゆるフルサイズ用レンズをマウントアダプターを介して利用できる

このあたりでしょう。

実はビルトインNDフィルターといっても、シネマカメラには電子式可変NDフィルターなどEOS C70とは違う方式も幾つもあるため、フランジバック16.0mmのZマウントでもビルトインNDフィルターの搭載は可能です。

つまりZマウントだからビルトインNDフィルターを搭載できないということではありません。

しかし、フランジバックが長い方がより多彩な方式から選べるため、この点に関しては「技術力が同じであれば」RFマウントの方がより多くのビルトインNDフィルター機構の選択肢があることは間違いありません。

ビルトインNDフィルターやマウントアダプター関連の話を詳細に説明しているともの凄く長くなるのでやりませんが、ざっくりと言えば、

  • イメージセンサーの前に特殊な機構を搭載しやすいRFマウント
  • マウントアダプターの利用に有利なZマウント

と覚えておいて頂ければと思います。

どこが有利になるかはまだわからない

現状でキヤノンRFマウントとニコンZマウントのどちらが将来性が上というよりは、キヤノンとニコンがそれぞれのフランジバックの違いを今後どう生かしていくかというアイデアの勝負になるのかなと思います。

またそれを踏まえてもどちらも優秀なレンズマウントとなり得る可能性は高いでしょう。

カメラの設計において、将来にわたって優れた規格を策定することの難しさを最も感じるのがレンズマウントなのかもしれません。どんな技術革新や需要の変化が起きるかわからず、過去のレンズとの互換性を保つ必要もあるというのは難儀な問題です。

EFとFという一眼レフの歴史に残る偉大なマウントを残した2大メーカーが、ミラーレスにおいても歴史に残るマウントを作り上げることが出来るのか?

今後の展開に注目していこうと思います。

Reported by 山崎正隆