皆さんこんにちは。
相変わらずカメラファンの間ではチルト(もしくは3軸・4軸チルト)モニター vs バリアングルといったモニター形式の論争が定期的に起こります。
チルトモニターとバリアングルモニター でどちらを選択するかというのは個人の使い方の問題なので、どちらでも構わないと思いますが、近年の動画需要の高まりとともにバリアングルモニター が採用されるケースが増えてきています。
キヤノンはもともとバリアングルモニター派ですし、パナソニックも基本はバリアングルモニター派、またチルト派であったソニーも最近はバリングルモニター機を増やしてきています。
今更ここで既に皆さんが聞き飽きているであろう、三軸(四軸)チルトとバリアングル論争にありがちな、
- 光軸とズレるからチルトの方がいい
- ワンアクションで動かせるからチルトの方がいい
- 裏返してカバーしておけるからバリアングルの方がいい
- 自撮り撮影が出来るからバリアングルの方がいい
といった初心者向きの話をこのブログでしても意味がないので、今回は「ワンオペレーションでの本格的な動画撮影におけるバリアングルモニターの意味」について解説したいと思います。
ただしCMや映画のような大規模な動画撮影では外部モニターを使いますし、そもそもシネマカメラや業務用動画機を使いますから背面モニターがどちらの方式でも関係ありません。
なので今回の話は、自撮りではないがワンオペレーションでのある程度本格的な動画撮影という範囲の話です。
目次
- 上位機のバリアングルモニターが増えてきた理由
- 上位機でのバリアングルモニター 採用は自撮りや縦位置撮影が理由ではない
- バリアングルモニター が求められるのはモニターを横に出したいから
- なぜ動画撮影にはバリアングルモニターが向いているのか?
- ブラシレスジンバルでは背面チルトは見えない場合がある
- スムーズなズームやピント操作はレンズを横から操作できてこそ
- 静止画と異なるムービーでの三脚の立ち位置
- 本格的に撮影するなからバリアングルモニターとケーブルは干渉しない
- 外部モニターに映像を出力する場合
- マイク端子やヘッドホン端子を使う場合
- プロのビデオカメラマンとメーカーの意見は一致している
- これから更に増えていくバリアングルモニター
- やがてはフルサイズのフラッグシップ機もバリアングルモニターになる可能性が高い
自撮りを目的としていないであろうクラスの機種でもバリアングルモニター採用機種が増えている理由についての理解が深まればと思います。
■上位機のバリアングルモニターが増えてきた理由
上位機でのバリアングルモニター 採用は自撮りや縦位置撮影が理由ではない
ニコンのZ fcのような自撮り撮影が想定されるライトユーザー向けの機種であれば自撮り撮影の需要も多いため、バリアングルモニターを採用することは当然ですが、α7S IIIやEOS R5やEOS R3といったい、いわゆる高級機まで、なぜバリアングルモニターを採用してきたのでしょうか?
単にハイアングル・ローアングル撮影のためであれば三軸チルトや四軸チルトモニターでも良いわけですし、キヤノンはともかく、ソニーはこれまでチルトモニター派であったはずです。
またα7S IIIのような機種ならまだしも、EOS R3のようなクラスで自撮り撮影を重視する人はそう多くはないでしょう。
ではなぜ、キヤノン・ソニー・パナソニックのような動画機を昔から作っているメーカーは、動画需要にはチルトモニターよりもバリアングルモニター の方が適していると判断したのでしょうか?
縦位置撮影時のハイアングル・ローアングル撮影であれば3軸チルトや4軸チルトモニターで良いですし、EOS R3で自撮りなど普通の人はしないでしょう。
つまり、バリアングルもター採用機が増えているのは自撮りが目的ではないということが分かります。
バリアングルモニター が求められるのはモニターを横に出したいから
では、なぜ動画需要が高まるとバリアングルモニター が採用されていくのかということですが、これは要するに動画機ではモニターは背面ではなくボディ側面に出た方が操作し易いというのが理由なのです。
- 民生用の安価なビデオカメラ
- ワンオペレーション用業務機
- シネマカメラ
これらの様々な動画機のほぼ全てにおいてモニターはボディの側面に配置しています。正確には使用時には斜め横に取り付けるようになっています。
例えば、パナソニック・キヤノン・ソニーといった動画機を民生用から業務用まで作っているメーカーの、民生機から業務機までみていきましょう。
パナソニック:HC-X1500
一般的なビデオカメラはエントリーモデルから上級機まだもちろんお馴染みのこのようなモニターの開き方となります。
キヤノン:CINEMA EOS C70
こちらはキヤノンの小型シネマカメラで、ミラーレスカメラに似た形状ですが、やはりモニターはバリアングルモニター となります。
ソニー:Cinema Line FX6
これは有名なシネマカメラであるソニーのFXシリーズですが、モニターは斜め横に搭載します。業務用動画機ではよくある形です。取り付け位置はハンドルの前方や後方に前後できるものもありますが、いずれにせよ背面ではなくボディの横に出ます。
このように動画機のモニターは横開きのバリアングルモニター、あるいはそれに近い形状となっています。背面チルトのムービーカメラやシネマカメラってほとんど見かけませんよね。
また、動画を重視している機種に関しては、各社のミラーレス機もバリアングルモニター派が多くなっています。
- キヤノン:バリアングルモニター
- パナソニック:チルトモニターもあるが基本はバリアングルモニターで特に動画重視モデルはバリアングルモニター(フリーアングルモニター)
- ソニー:元々はチルトモニターだったが動画需要が高まるにつれバリアングルモニターを採用傾向
というようになっています。
ソニーはαで元々はチルトモニターを採用していたのですが、α7S IIIやα7 IVといった機種でバリアングルモニター へ移行し始めています。
もちろん自撮り需要というのもありますが、これらのフルサイズ機はそもそも高級でライトユーザーが買うものではないので、自撮り撮影が主な目的とは言えないでしょう。
またキヤノンに至っては、バッテリーグリップ一体型のEOS R3ですらバリアングルモニターを採用してきています。EOS R3を自撮りのために購入する人はかなり少数派でしょう。
しかし本気で動画機能を重視しはじめると、背面チルトモニターよりもバリアングルモニター の方が使いやすいのです。
だから業務用動画機は外付けかバリアングルモニター を搭載し、背面チルトモニターを採用しないのです。
これは、モニターを本体側面に出すことに出すことが目的なのですが、それについてご説明したいと思います。
■なぜ動画撮影にはバリアングルモニターが向いているのか?
ブラシレスジンバルでは背面チルトは見えない場合がある
まず分かり易ところでは、最近とても流行っているブラシレスジンバルを使用した場合ですが、背面チルトモニターでは撮影ポジションによってモニターが見えなくなってしまうのです。
これは、ジンバルのタイプというか形状によるのですが、アイレベル構えた時にジンバルと干渉して見辛くジンバルもあれば、ローポージションで構えた時に見辛くなるジンバルもあります。
例えばアイレベルでは大丈夫な形状のジンバルでは、このようにジンバルをまっすぐ立てた状態では背面モニターと干渉していませんから背面のモニターは見えます。
しかし、ローポジションで撮影しようとジンバルを傾けてカメラポジションを少し下げてみましょう。
ジンバルを45°程度傾けただけで、もうモニターとジンバルが干渉し始めて背面モニターが見づらくなります。
このように地面すれすれになるような超ローアングルの撮影では、チルトモニターだと全く背面モニターは見えなくなってしまうば場合もあります。
対して次のようなジンバルではアイレベルで背面モニターとの干渉が起こります。
なのでジンバルの可動軸の位置が違っても、干渉するカメラポジションが異なるだけで、背面チルトである限りモニターと干渉することに変わりはありません。
これを、
- アイレベルでモニターと干渉してしまうジンバルはローポジションで撮影
- ローポジションでモニターと干渉してしまうジンバルはアイレベルで撮影
するといった方法でモニターを見える角度で撮影することはチルトモニターでも可能なのですが、カメラポジションというのは撮影のフレーミングがまずありきです。
撮りたいフレーミングと違うのに、モニターが見づらいからという理由でカメラポジションを上げたり下げたりしている時点でおかしいでしょう?
しかしこれがチルトモニターではなくバリアングルモニターであればどうでしょう?
どのアングルであろうが、バリアングルモニターは側面に出せるわけですからジンバルと干渉することなく撮りたい角度で見やすい角度で撮影することが可能です。
ソニーのα7S IIIの公式プレスリリースでも同様のことが説明されています。
“撮影の自由度を高めるバリアングル液晶モニター
シーンに合わせて角度の調整が可能なバリアングル機構を、ソニーのミラーレス一眼カメラで初めて搭載します。横方向に開く機構のため、ジンバルやリグ使用時にもモニターの操作性を損ないません。”
そういうことです。
そしてこれはプロのムービーカメラマンからの要望でもありましたので、当然α7S IIIのシネマラインである、FX3でもバリアングルモニター が採用されました。
スムーズなズームやピント操作はレンズを横から操作できてこそ
また、動画機でモニターを横付けするのには他にも理由があります。
それはカメラの背面に立つと、ズームリングやピントリングの操作性が悪いため、ムービーのカメラマンというのはカメラの側面に立って操作するからです。
業務用動画機がスチルカメラと異なり、ボディの背面ではなく側面に操作部分を搭載しているのも同様の理由で、ビデオカメラマンはカメラの横や斜め後ろに立って操作しますす。
デレビ朝日映像撮影部のYouTubeチャンネルで、キャリア20年のベテランのムービーカメラマンのお二人がズームリングやピントリングの操作について解説している動画がありますのでご覧ください。
このようにムービーカメラマンというのは、ワンオペレーションする場合、カメラの真後ろではなく横もしくは斜め後ろに立って、ズームリングとピントリングを操作し続けるわけです。
フォトグラファーは構図を決めてシャッターを切るので、ムービーのように記録中にズームリングやピントリングを操作するということは基本的にはしません(露光間ズームや露光間デフォーカスもありますが、ムービーとは頻度が全く異なります)。
なのでムービーのカメラマンというのは、カメラの横に立っていないとズームリングやピントリングを細かく操作しにくいために、スチルのフォトグラファーとは立ち位置が変わってくるわけです。
こちらの動画もそうですが。このようにレンズを横から見ながら細かい操作をしようとすると、背面にモニターなんかあっても見られないので、ワンオペレーションで撮影する動画機のモニターは側面に出るように作られるわけです。
静止画と異なるムービーでの三脚の立ち位置
また、スチルとムービーでは三脚の立ち位置からして違います。動画機の雑誌で有名なVIDEO SALONさんの動画を一つおいておきます。
静止画と動画では、三脚撮影時のカメラマンの立ち位置も異なるということに注目していただければ、なぜ業務用動画機のモニターが背面ではなく側面に出るようになっているのか分かるのではないでしょうか。
ムービー撮影は録画中に、パン操作やパン+ティルトを複合させたカメラワークがあるため、それらをスムーズ行うためには、三脚の脚をまたぐ必要があるのでカメラの横に立ちます。
フォトグラファーは構図を決めてからシャッターボタンを押すため、三脚仕様時も基本的にカメラの真後ろに立つことが多いのですが、ムービーの場合は撮影中に三脚の脚を跨ぎながらカメラを振ることがざらにあるために、最初から後ろの三脚の脚をまたいでおくわけです。
これは一眼動画でも当然同じです。
そのため、背面でモニターがチルトするより側面にモニターが出るバリアングルモニターの方が視認性が良いというわけです。
またモニターが横に出てくれる分には、一眼の形状でもなんとかレンズのピントリングやズームリングを見ながらモニターを確認することができますが、ボディの真後ろにモニターがあったのでは、ピントリングやズームリングをカメラの真後ろから操作しなければならなくなり操作し辛いというです。
それゆえに動画機の経験が豊富な、
- キヤノン
- ソニー
- パナソニック
などは、動画需要の高まりに連れてカメラの横や斜め後ろに立っても見やすさが損なわれにくいバリアングルモニターを採用する傾向にあるわけです。
本格的に撮影するなからバリアングルモニターとケーブルは干渉しない
時に「バリアングルモニターはカメラ側面のケーブル類と干渉しやすいので、動画撮影に不便ではないか」と思われている方がおられますが、これは勘違いです。
動画を本格的に撮影するほど、バリアングルモニターとカメラ側面のケーブルが干渉することは逆に減っていくからです。
というのも、
1.外部モニターに映像を出力する場合
まず外部モニターに映像を出力するのに側面のHDMI端子などを使用する場合、そもそもが外部モニターなのですからカメラ付属のモニターは背面で畳んだ状態であるはずです。外部モニターを使用しているのに本体付属のモニターを横に開いておく必要がないでしょう?
当然ケーブルとは干渉しません。
つまり外部モニターを使うのであれば、チルトモニターでもバリアングルモニターでも全く関係がないというわけです。
2.マイク端子やヘッドホン端子を使う場合
次にマイク端子やヘッドホン端子から出るケーブルについてですが、これらの端子はカメラ側面の上部やモニターから離れているフロント側に配置されていることがほとんどです。つまりバリアングルモニター を横に開いてもあまりぶつかることはあまりありません。
そもそも本格的な動画撮影をするのにカメラ付属の3.5mmステレオミニプラグなど使いません。
また、ガンマイクはそもそもキヤノンやソニーのように動画に強いメーカーはマルチアクセサリーシューのような、電子接点付きのシューへの移行を進めており、音質や安定性の問題から今後は3.5mmステレオミニプラグから電子接点搭載シューやそちらを経由してのXLR端子への接続が主流になっていくでしょう。
そのため、例えばEOS R3であれば例えば以下のようなTASCAMのXLRマイクアダプターCA-XLR2dを使いますし、
ソニーであれば、XLR-K3Mなどを使います。
つまり、このような感じで電子接点シューを使うマイク取り付け方法であれば、側面のバリアングルモニターと干渉することは当然ありません。
本格的に動画撮影をするほど、音声はこのようにXLR端子を経由したり別撮りになりますから、カメラの側面にケーブルが来ないので、バリアングルモニター と干渉することはないということです。
つまり、本当にミラーレスなどで動画撮影に凝り始めるとケージを使って外部モニターやXLR端子のマイクを取り付けるため、
極論こんな感じなっていきます。
つまりもう本体のモニターがチルト式でもバリアングル式でも、そもそも開かないのでモニターとケーブルが干渉したりしないというわけです。
プロのビデオカメラマンとメーカーの意見は一致している
外部モニターを使わないのであれば、先に説明したように、
- ジンバル使用時のカメラポジションの制限の少なさ
- ズームリングやピントリングの操作のしやすさ
- パン操作時のカメラの振りやすさ
などから、バリアングルモニター の方が本格的な動画撮影に適していると言うわけです。
そしてプロのビデオカメラマンとそれに応えるための動画機を長年作っているメーカー双方が、「動画はバリアングルモニターの方が向いている」と意見が一致しているから、ムービーカメラは民生用機から業務機までそのほとんどがバリアングルモニターであるわけです。
それに対してビデオカメラマンでもない我々が反論するのは幾らなんでも身の程知らずでしょうから、素直にそういうものなんだなと受け止めるべきだと思っています。相手は毎日毎日プロレベルで動画撮影をしている人たちなのですから。
■これから更に増えていくバリアングルモニター
やがてはフルサイズのフラッグシップ機もバリアングルモニターになる可能性が高い
そのようなわけなので、人々が動画性能を重視していく以上バリアングルモニター機は今後も増えていくでしょうし、おそらくフラッグシップ機でもバリアングルモニター が増えていくでしょう(フルサイズでなければ既にバリアングルモニターのフラッグシップ機はあるわけですし)。
キヤノンは元々バリアングルモニター派で、ソニーも最近は、α7 IV、α7C、α7S IIIなどバリアングルモニターを採用する機種が多くなってきています。
そして今現在はチルト派のニコンも、Z 9を見るに「動画需要にも応えていく」という意思をもっているようですから、徐々にバリアングルモニターを採用する機種を増やしていく可能性が高いと思います。
カメラファンが「動画動画」と言っている以上、スチルカメラがムービーカメラに近くなるのは必然です。
つまり動画性能を重視するということ自体、チルトモニター派の人々も実は間接的にバリアングルモニターの推進に寄与しているというわけです。
スチルのみの撮影であれば三軸チルトや四軸チルトの方が便利な面も多いのですが、動画需要がこれだけ高まっている中ではバリアングルモニター が今後主流になっていくのは確実でしょう。
Reported by 正隆