DPREVIEWにデジタルイメージング本部 第2ビジネスユニット シニアゼネラルマネジャー、長田康行氏へのロングインタビューが掲載されていましたのでご紹介します。
このインタビューは先日のCP+の際に行われたもので、αシリーズの今後の展望などに関しての非常に興味深い内容となっており、インタビューの内容は以下のようになっています。
- Nikon DLシリーズの発売中止はRXシリーズにどんな影響を与えたか
- 今後のFEレンズの戦略は?
- ソニーはオリンピックなどのプロスポーツカメラマンの市場を狙うのか?
- 静止画と動画ユーザーの棲みわけ
- RX100シリーズを併売する理由
- 熊本震災の影響はあったのか
- αに変えたプロカメラマンたち反応
- ソニープロフェッショナルサポートについて
- α7シリーズのバッテリー問題
- 360°カメラについて
- ソニーが思う市場動向
- これからのソニーのために必要なこと
- Aマウントの今後について
- ソニーが描く未来予想図
果たしてソニーが描くカメラ業界未来図とは!?
1.ニコンのDLシリーズの発売中止はRXシリーズにどんな影響を与えたか
Q.ニコンは最近RX100シリーズと競合するDLシリーズの発売中止を発表しました。ソニーにとってこれは良い知らせですか?それとも悪い知らせですか?
それはどちらの面もあります。ニコンが1インチのイメージセンサーを搭載した高画質な広角レンズ採用したカメラを発売した場合、これは非常に競争力のあるライバル製品となっていたでしょう。
しかし同時にDLシリーズが発売されていれば、1インチセンサーカメラ市場を刺激し拡大ただろうと考えており、これは他のメーカーにも言えることです。
2.今後のFEレンズの戦略は?
Q.将来のFEレンズシリーズの戦略は?
私たちは顧客からのフィードバック、特にプロカメラマンの意見に基づいて製品を企画しています。
私たちがα7シリーズ立ち上げた当初、3本のFEレンズ(フルサイズ対応レンズ)しか持っていませんでしたが、α7R IIを発売した後、多くのプロフェッショナルにα7R IIを使っていただけれるようになり、よりプロフェッショナルフォトグラファーの声に対応する必要が生まれてきました。
例えば彼らは24-70mm/F2.8のレンズを望んでいたため、FE 24-70mm F2.8 GMを優先して開発してきました。我々の基本戦略はユーザーの声に耳を傾けることだと考えています。
3.ソニーはオリンピックなどのプロスポーツカメラマンの市場を狙うのか?
Q.ソニーはスポーツ撮影用の望遠レンズ開発の計画はありますか?
プロフェッショナルフォトグラファーの多くがそうしたレンズを望む場合、それらを開発する必要があるでしょう。しかし現時点では、ソニー機を使用するプロフェッショナルの多くがポートレートと風景写真のフォトグラファーです。
Q.将来プロフェッショナルスポーツフォトグラファーに使われることを目指していますか?
勿論です。しかし(プロスポーツに対応した)レンズだけではダメで、(プロスポーツフォトグラファーに)相応しいボディも必要になるでしょう。
Q.東京オリンピックは3年後です。キヤノンやニコンと共にソニーのレンズが(会場に)並ぶ姿を見たいですか?
勿論それは私たちの夢です。そして私たちはその夢を諦める気はありません。しかし将来の製品に関して具体的なコメントをすることは現時点ではできません。
Q.大規模なスポーツイベントでミラーレス機が多数派になるにはどのくらいの期間が必要でしょうか?
分かりません。私はプロスポーツイベントでキヤノンは7〜10年の期間をかけて主流になったと思っており、簡単に達成できることではありません。
しかしプロフェッショナルフォトグラファーの多くは既に一眼レフからミラーレスに切り替えており、また私たちは既に一部のスポーツフォトグラファーのニーズを満足させているとも考えています。
4.静止画と動画ユーザーの棲みわけ
Q.α7シリーズユーザーのスチールカメラとビデオカメラの用途はどのように分布していますか?
我々はスチールとビデオでユーザーを分けて考えていません。私たちの顧客のほとんどは、静止画と動画の両方を撮影しています。
数年前までスチールとビデオの撮影は全く異なるものでしたが、最近ではポートレートやブライダルのフォトグラファーもビデオ撮影を開始しています。私たちは常に双方のユーザーを想定して開発を行っています。
5.RX100シリーズを併売する理由
Q.RX100シリーズは今や沢山の製品をラインアップしています。旧モデルを併売する理由なんでしょう?
それは地域によって異なります。RX100は1〜5までを発売することで1インチセンサー市場を拡大し、多くの地域でシェア1位を獲得しました。
1インチセンサー市場はソニーよって開拓され、その後競合他社が参入しました。私たちは当初市場シェア100%でスタートしましたが、他社が参入した後も多くの地域で(1インチセンサー市場の)60〜70%のシェアを確保しています。
RX100 Vは1台で初代のRX100を3台購入することが可能です。コストも重要な要素で、エントリーとハイエンドのRXモデル両方で1インチセンサー市場を拡大し、シェア1位であり続けたいと考えています。
私たちは販売店の話を参考にしており、この(併売という)販売戦略のおかげで、販売店は自分たちにとって必要なモデルを選択することができるようになっています。
アメリカのような地域では5つのモデル全てを販売するのは理にかなっていませんが、新興国ではRX100やRX100 IIが重要になってきます。
6.熊本震災の影響はあったのか
Q.昨年5月の地震はカメラ部門にどのような影響を与えましたか?
供給の観点からは1ヶ月ほどは在庫がありました。したがってサプライチェーン(原材料確保、生産、物流、販売までの一連の流れのこと)への影響は6〜7月まであまり影響はありませんでした。
1インチセンサーはフルサイズセンサーよりも製造が容易ですが、フルサイズセンサーの方はより深刻でした。しかし2016年末までに全て復旧することができました。
7.αに変えたプロカメラマンたち反応
Q.一眼レフからミラーレスに変えたプロフェッショナルフォトグラファーの反応はどうですか?
プロフェッショナルフォトグラファーたちは、Gマスターレンズの登場がEマウントに変えた切っ掛けとなったと言っており、新しいFE 100mm F2.8 STF GM OSSの発売もその理由の一つです。
Eマウントはその短いフランジバックのおかげで、多くのレンズを(マウントアダプター経由で)α7シリーズで使用することが可能です。そして彼らはその後完全にαにシステムに切り替えて、ソニーのレンズを購入する傾向があります。
またα7シリーズの小さいボディは大きな魅力であり、サイレント撮影が可能であることもポイントです。
8.ソニープロフェッショナルサポートについて
Q.プロフェッショナルサポートネットワークを作るプランはありますか?
我々はプロフェッショナルサポートを開始しましたが、まだ勉強中です。プロフェッショナルフォトグラファーは世界中を移動して撮影している場合があるので、母国だけでなくどの国でも一貫したサポート体制を提供することが非常に重要であると考えています。
9.α7シリーズのバッテリー問題
Q.α7シリーズの低容量のバッテリーは小型化のための選択?
(α7シリーズのバッテリーライフが短いという)そうした意見を私たちは十分に理解しています。
α6000シリーズとα7シリーズのカメラのサイズに関して「大きすぎる」という意見は聞かれません。それは言い換えればカメラをこれ以上小型化する必要はないということで、ボディとレンズのバランスも考えれば尚更ボディだけを小さくする意味はないと思います。
ただバッテリー問題に関しての解決案は、将来の製品にも関わることなのでコメントは差し控えさせて頂きます。
10.360°カメラについて
Q.ソニーは360°カメラの市場に参入することを考えていますか?
私たちは既にアクションカムのラインアップを持っており、360°カメラはそれと似たようなカテゴリーだと言えます。
市場そのものは縮小しているので、後追いで360°カメラを1台保有するよりも、α7シリーズとリグを利用して360°映像の撮影を行うことを検討しています。
11.ソニーが思う市場動向
Q.ソニーは上級機の市場が伸びると見ていますか?
そう思います。だから私たちはプロフェッショナルサポートがますます重要だと考えています。しかし、だからと言ってそれはエントリーモデルのセグメントを疎かにするということではありません。
12.これからのソニーのために必要なこと
Q.今後ソニーが現在の地位を維持するために重要となることは何だと考えますか?
私たちは新しい映像体験を提供する必要があります。
私たちはNEXシリーズで初めてAPS-Cセンサーのミラーレス機を発売しました。それは新しい映像体験を提供するもので、RX100やフルサイズのα7シリーズ、GマスターレンズやFE 100mm F2.8 STF GM OSSも同様です。
ソニーはNo.1のイメージセンサーメーカーです。これは最高のイメージセンサーを使用して開発することが出来るという利点があります。また今後2〜3年先のイメージセンサーの開発スケジュールを把握しているので、それに合わせてどのようなボディが必要か、どのようなレンズが必要になるかを事前に計画することが出来るというメリットがあります。
Q.ソニーの今後の展望は?
コア技術に関しては、レンズセンサー、イメージセンサー、LSI、ソフトウェアの製造を行っています。
お客様の中には、オートフォーカスのSTFレンズを作れないだろうというご意見もありましたが、我々は光学を熟知しており、同時にイメージセンサーに関する知識もありました。それゆえFE 100mm F2.8 STF GM OSSを作ることを可能にしましたと言えるでしょう。
13.Aマウントの今後について
Q.SLT機の開発はα7シリーズよりも遅れているようですが、今後Aマウントはどのようになっていきますか?
選択肢を持つことはハイアマチュアやプロフェッショナルのフォトグラファーにとって重要なことです。競合他社と同じカメラとレンズのラインアップであれば存在意義がありません。
Aマウントを望む人もいればEマウントを望む人もおり、状況によってはその両方を必要とする人もいます。ですから様々なボディとレンズのラインアップを揃えることが重要だと考えます。
一部の方はソニーがα99 IIを発表するまでEマウントだけを開発していると考えていました。しかし皆さんはこの本気のカメラ(α99 II)を目にすることができました。ソニーとミノルタが作り上げたAマウント用の膨大なレンズがあり、Eマウントシステムと比較して妥協のない素晴らしいAマウントボディを提供することで、これらのユーザーと良好な関係を続けていきたいと考えています。
同時にEマウントによって新規顧客を獲得していくことも重要で、我々にはAマウントもEマウントも必要と言えます。
Q.長期的な視野に立った場合、AマウントユーザーがEマウントに移行していくことを望んでいますか?
それはケースバイケースで、ユーザーが選べば良いことだと考えています。
Q.我々はこれからα99 IIのオートフォーカスを活かせるレンズをもっと見ることができますか?
私たちは開発に優先順位をつけなければならず、また新しいレンズの開発は容易ではありません。そのためG Masterシリーズを発売した後、お客様の期待は高まっていますが、おそらく年間に発売できるレンズは少数であろうと思います。
14.ソニーが描く未来予想図
Q.DPREVIEW編集後記
長田氏とのインタビューはとても楽しいものでした。彼は今年ソニーでの勤続31周年を迎えますが、ロボット工学からハンディカムまで様々な部門で働いてきたとのこと。
ソニーはさらに新しい「映像体験」を提供したいと考えているようで、質問に対する長田氏の反応から、幾つかわかることがあります。
- AマウントはEマウントよりも緩やかに開発されている
- 行間を読むと、次世代のEマウント機により大きなバッテリがー採用されそうだということ
- α7R IIとα7S IIの耐久力(熱問題)などに関して、ビデオカメラマンが不満を持っていることはソニーは認識している
- ソニーはより多くのプロフェッショナルのニーズに応えるべく、スペックだけではなく質にこだわったプロ機を用意する必要があることも自覚している
- プロフェッショナルサポートは、キヤノンとニコンが何十年にもわたって完成させたもので、大手新聞社や写真事務所が(キヤノンとニコンに)固執する理由の1つとなっている
- ソニーのプロフェッショナルサポートはまだ立ち上げて間もないが、2020年の東京オリンピックに向けてプロフェッショナルサポートを改善し拡大するために注力していきたいと考えている
- ソニーは全ての人が注目するオリンピックという世界最大の舞台で、ソニーのカメラをプロフェッショナルの表現に使ってもらいたいと思っている
Reported by 正隆