ISO不変性とISO不変性が実際には再現されない理由

Photo by 正隆

フォトマスター検定の予想問題です。フォトマスター検定勉強法も掲載していますので、参考にして頂ければと思います。

過去の各級の予想問題のまとめ

合格目指してさっそく問題です!

難易度:1級レベル

問:「ISO不変性(ISO Invariance)」と呼ばれるものがあるが、この「ISO不変性」とはどのようなものか?最も関連性が高いと思われるものを、次の中から選べ。

① 通常、露光時間と露光量は比例関係にあるが、極端に短い露光時間や逆に極端に長い露光時間では、この法則から大きく露出がズレる現象
② RAWで撮影した際、その他の設定が同じであれば撮影時に低感度でも高感度でも含まれるノイズ量は同じであり、現像時に露出を揃えれば両者の画質は同じになるという理論
③ メーカーごとの実効感度の違いのバラつきを抑え、同一のISO感度設定であれば同一の実効感度を得られるよう、CIPAが制定した感度測定法

正解はこのあとすぐ!

■正解は②(RAWで撮影した際、その他の設定が同じであれば撮影時に低感度でも高感度でも含まれるノイズ量は同じであり、現像時に露出を揃えれば両者の画質は同じになるという理論)


①は「相反則不軌(reciprocity law failure)」

選択肢①は「相反則不軌(そうはんそくふき:reciprocity law failure)」と呼ばれる現象です。

相反則不軌はフィルム時代からある用語で、絞り値や感度が一定であれば、露光時間と露光量が概ね正比例の関係にあります。

これは言い換えれば、

  • 明るさが1/2になった時、露光時間を2倍にすれば同じ露光量が得られる
  • 明るさが2倍になった時、露光時間を1/2にすれば同じ露光量が得られる

ということでもあり、照度と露光時間は相反関係にあるわけです。

この相反法則は、19世紀のドイツの化学者である、ロベルト・ヴィルヘルム・ブンゼンと、イギリスの化学者ヘンリー・エンフィールド・ロスコーによって発見された法則で、「光化学の変化の量は、吸収された光エネルギーの量に比例する」というものであり、二人の化学者の名前からとって、今日では「ブンゼン-ロスコーの法則」と呼んでいます。

通常フィルムはこの相反法則(相反則)が成り立っているのですが、露光時間が極端に長くなったり短くなったりすると、この相反法則から成り立たなくなる場合があります。

この現象を「相反法則(相反則)」に従わない状態、つまり「相反則不軌(Reciprocity Law Failure)」と言うわけです。

これらはフィルムであれば、

  • 極端に露光時間が短い場合→潜像を形成するための銀原子が熱エネルギーを得て消失する
  • 極端に露光時間が長い場合→光分解によって生じた電子が感光核にトラップされ,結果として負電荷同士の反発が起きて潜像形成が妨げられる

といった事が原因だと言われています。

つまり、「相反則不軌」とは、極端に短いシャッタースピードや、極端に長いシャッタースピードで、露光時間と露光量が比例せず、実効感度が落ちてしまう現象のことです。

また、この相反則不軌が起きるとカラーフィルムではカラーバランスが崩れる場合もあります。

また相反則不軌はフィルムの種類によって、「どの程度の露光時間から発生するか」、また「実効感度にどの程度影響するか」は異なるものの、一般的なフィルムでは、

  • 約1/10,000秒よりも短い露光時間
  • 約1.0秒以上の長秒露光

などで相反則不軌が発生し易いと言われています。

フィルムカメラで1/10,000秒以上の高速シャッターを持つ機種は非常に少ないため、実際に問題になるのは長秒露光時となります。

また、露光時間が長いほど相反則不軌の影響が強くなるため、例えば適正露出を得るためには、

  • 計算上10秒の露光が必要な場合→実際には30秒の露光時間が必要
  • 計算上1分の露光が必要な場合→実際には7分の露光時間が必要

という風に、露光時間が伸びるほどに相反則不軌は大きくなり、その分補正が必要になります。

②は「ISO不変性(ISO Invariance)」

選択肢②が正解となる「ISO不変性(ISO Invariance)」と呼ばれる理論で、「撮影時のISO感度の設定が低くても高くても、現像時に露出を揃えればノイズ量は変わらない」という考え方です。

例えば、

  • 1/100秒:F2.8:ISO100
  • 1/100秒:F2.8:ISO3200

以上の二つの設定で同じ環境で同じ被写体を撮影したとします。

この二枚の画像には露出には5段分(露光量32倍分)の差があり、もしも「1/100秒:F2.8:ISO3200」で適正露出となる環境下であれば、「1/100秒:F2.8:ISO100」の方は露光不足によって極端に露出アンダーの画像となります。

そこで、両者を同じ同程度の露出にするために、現像時に、1/100秒:F2.8:ISO100で撮影した画像を「+5.0EV(5段分)」持ち上げると、1/100秒:F2.8:ISO3200とほぼ同等の露出(明るさ)の画像に仕上げることが可能です。

その時、解像感やノイズなどの画質が、「ISO100の方を5段分持ち上げても、最初からISO3200にして撮影したものと変わらない」というのが、「ISO不変性(ISO Invariance)」と呼ばれる考え方です。

なぜISO不変性という考え方が出来るのか?というのを簡単に説明すると、

「高感度設定で撮影するというのは、シャッタースピードを遅くしたりF値を小さくするような、露光量そのものが増やす行為ではなく、後から信号を増幅させているに過ぎないため、RAWデータであればカメラで高感度に設定して増幅させても、低感度で撮影してから現像ソフトで増幅させても結果は同じになる」

というような理屈なのです。

なぜ「ISO不変性」は実際には再現されないのか?

確かにカメラや撮影条件によっては、RAWデータを現像段階で大幅に調整した場合と、元々適正露出となるように感度を上げて撮影した場合とで、画質に大きな差異が発生しないケースもあります。

しかし多くの場合、この「ISO不変性」はあくまでも理論上の話であり、必ずしも現実に即しているわけではないという点が重要です。

実際にはRAWデータ記録であっても、

  • カメラの感度設定を上げて撮影し、適正露出で撮影した画像
  • 低感度のまま撮影し、現像ソフトで適正露出に持ち上げた画像

この2つは、シャッタースピードや絞り値が同じであっても、両者の画質は同じにはなりません。

具体的に言うと、「1/100秒:F4.0:ISO3200」で適正露出が得られるという撮影条件であった場合、

  • 1/100秒:F4.0:ISO100で撮影→現像ソフトで+5.0EV補正して現像
  • 1/100秒:F4.0:ISO3200で撮影→そのままの露出で現像

このように二つの方法で撮影・現像したとすると、いずれも画像の明るさはほぼ同じになるのですが、撮影時に高感度撮影を行なった方が、(厳密に比較すれば)殆どのシチュエーションにおいて良好な画質が得られます。

逆に言うと、低感度で撮影した露出アンダーの画像を後から現像ソフトで補正すると、カメラ側で高感度設定で撮影した場合よりも、

  • ノイズ量の増加
  • カラーバランスの崩れ
  • バンディングノイズ(縞模様のノイズ)の発生

などが起こり易い傾向にあります。

なぜ実際にはISO不変性が発揮されない事が多いのか?という点ですが、これは同じ信号を増幅させる行為であっても、カメラ側で高感度設定で撮影するのと、RAW現像ソフトで露出を持ち上げるのとでは、信号の増幅や画像処理のプロセスが異なるため現実には画質差が発生するのです。

そのため、もしもシャッタースピードやF値は撮影意図などから変えられないという状況で、ISO感度で露光量を適正にしようとする場合は、出来る限り撮影時から適切な露出となるように感度設定を行い撮影するよう心掛けましょう。

とは言え、ISO不変性は全く無意味な空論というわけでもなく、撮影時に適正露出から大きく外れて撮影してしまった場合であっても、RAW現像時に露出補正を加えることで、(一般的な基準で見れば)高感度撮影を行なった場合とそれほど変わらない画質が得られるケースも多く、撮影時のミスにポジティブに向き合うことが出来るかと思います。

また、感度設定を変更する時間がない場合でも、取り敢えずシャッターチャンスさえ逃さないように撮影しておけば、RAWデータであれば、後から現像ソフトで露出を変更することで、画質的には劣化が起きても、作品として実用上問題のない画質を得る事が出来る場合も多いというわけです。

ということで、正解は選択肢②の「RAWで撮影した際、その他の設定が同じであれば撮影時に低感度でも高感度でも含まれるノイズ量は同じであり、現像時に露出を揃えれば両者の画質は同じになるという理論」でした。

③は「標準出力感度(Standard Output Sensitivity)」

選択肢③は「標準出力感度(Standard Output Sensitivity)」と呼ばれるものです。

元々は常用ISO感度や拡張ISO感度の表記には、「推奨露光指数」という基準を用いていました。

推奨露光指数は別名「REI」とも呼ばれており、これは「Recommended Exposure Index」の頭文字をとったものです。

この推奨露光指数は、各カメラメーカーや露出計メーカーが適切と考える露光量の指標で、メーカーが推奨する像面平均露光量を基準にしており、メーカーごとの適正露出に対する考えが影響した指標となっています。

推奨露光指数は、

  • REI(推奨露光指数)= 10/Em(像面平均露光量:単位lx・s)

の式によって求められます。

しかし推奨露光指数という指標は、メーカーごとのバラツキがあるため、CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)がそうしたメーカーごとの基準のバラツキをなくすために制定したのが、「標準出力感度」であり、この標準出力感度は、「Standard Output Sensitivity」の頭文字をとって、「SOS」とも呼ばれます。

標準出力感度は、「所定の撮影条件下で静止画撮影を行った場合に、所定のデジタル出力値を得るために必要な入力露光量を求め、これを換算して数値化したもの」で、18%の反射率を持つ被写体を撮影した際に8bitで0から255段階中の118となる明るさが基準となっています。

標準出力感度は、

  • SOS(標準出力感度)= 10/Hm(当該露光量:単位lx・s)

の式よって求められます。

実際にはCIPAに強制力があるわけではないので、スペックの表記などで「推奨露光指数(REI)」を使用するか、「標準出力感度(SOS)」を使用するかは、各メーカーの自主性に委ねられています。

Reported by 正隆