カメラがなぜ黒なのかの理由をお探しの皆さんこんにちは。
近年の一眼レフやミラーレス上級機の多くは黒の塗装、もしくは材質そのものが黒い樹脂を使用したボディとなっています。
カメラのボディカラーでブラックが主流にになっていった理由として「被写体への写り込みを防ぐため」と言われているのを時折見かけますが、それは事実ではありません。
- カメラのボディカラーが黒になった本当の理由
- 昔のカメラはシルバーボディが主流だった
- 始まりはプロカメラマンから
- そしてカメラマニアたちの憧れの対象に
- やがて樹脂製ボディが多数派に
- 梨地仕上げと黒塗装の相性
- カメラが黒色になった理由のまとめ
- カメラの黒塗装が主流になるまでのまとめ
そこで今回は、レンズ交換式カメラのボディカラーがブラックが主流になっていった歴史をご紹介します。
■カメラのボディカラーが黒になった本当の理由
昔のカメラはシルバーボディが主流だった
カメラのボディは70年代まではシルバーボディが主流でした。この頃のカメラのボディは、代表的なものでは真鍮にクロームメッキを施したものなどがありました。
シルバーボディとは言っても、滑り止めのために黒の皮革やグッタペルカ(天然樹脂)を貼ったカメラが主流であったため、実際にはブラックとシルバーのツートンカラーでしたが、これはカメラボディ全面に施されたものではなく、シルバーボディとして認識されています。
始まりはプロカメラマンから
ではなぜ全体に黒の塗装を施したボディが主流になって言ったのか?ということですが、これは元々は一部のプロカメラマンが目立つこと(被写体に写り込むことではなく、人に気づかれること)を嫌って、シルバーボディに黒いテープを貼ったり、自ら黒い塗装を施したことがきっかけでした。
最も有名なところでは、アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908年8月22日-2004年8月3日)が、Leica M3のクロームメッキのシルバーボディが目立つことを嫌って、黒テープ(このテープは現在のパーマセルテープのようなマット調のものではなく、どちらかというとポリエチレンテープのような若干光沢があるものであったと言われています)でM3を巻いていたことが知られています。
このブレッソンが黒テープを巻いていることを知ったライツ(現在のライカ)が、黒の塗装を施したM3を特別に製作し、ブレッソンに進呈しました。
そしてこの流れでライツは3,010台のLeica M3 ブラックが製造、一般販売も行われ話題となりました。
ちなみに特別にブラックカラーモデルを作ってもらったブレッソンですが、実際には自分で黒テープを貼ったM3の方を気に入っていて、結局はそちらを使い続けたと言われています。
その後、戦場カメラマンたちが、「シルバーボディが光を反射することで、狙撃されることを防ぐ」という目的のために、携帯するカメラに黒いテープを貼ったり黒く塗装を施すという風習が生まれていきます。
つまり、カメラに黒い塗装を施すきっかけとなったのは、プロカメラマンの「人に気づかれたくない」という理由からだったのです。
そしてこの、プロカメラマン=黒のカメラボディを好む、という傾向をカメラメーカー側が認識し、やがてそうしたプロカメラマンの要望に応えて、カメラメーカーは特別に黒い塗装を施した個体をプロカメラマン向けに用意するケースが増えていったのです。
そしてカメラマニアたちの憧れの対象に
このプロカメラマンたちが黒塗りのボディを好んで使用しているということが、やがてカメラマニアたちにも徐々に知られるようになっていきます。
そのためにカメラファンの一部から、「プロカメラマンと同じブラックのボディが欲しい」という要望が出始め、カメラメーカーは通常販売としてブラックとシルバーのカラーバリエーションを用意したり、ブラックバージョンのみをラインナップしていくケースが増えていきました。
ちなみに当時主流であった真鍮製などの金属ボディでは、平滑な黒塗り塗装は金属のボディに下地処理を施した上でさらに塗装を行う必要があったために、ブラックのバージョンはシルバーボディよりも若干(機種によって異なるものの概ね数千円程度)高い価格で売り出されることがありました。
その後ブラックボディの需要がどんどん高まり、ブラックのボディがスタンダートとなっていったのが70年代終わりから80年代の初めで、この頃を代表するカメラとしてはキヤノンのニューF1やニコンのF3などがあります。
勿論それ以前にもブラックの塗装を施したモデルは幾つもありましたが、ブラックボディが一般的にも主流となったのは大雑把に見て70年代終わりから80年代初頭と言って良いでしょう。
その後あっという間に「カメラ=黒」というイメージは定着し、80年代中頃にはほとんどの機種がブラックとなり、一部のモデルでのみシルバーもラインナップするという形となりました。
やがて樹脂製ボディが多数派に
時期を同じくして、新素材として樹脂製(プラスチック)のボディが採用されることが増えてきたため、そうした樹脂製カメラでは金属製カメラのような黒の塗装のための下地処理といった手間がなくなり、ブラックのボディが高コストということもなくなっていきました。
現在ではライカなどがマグネシウム合金以外にも真鍮製やアルミニウムを採用したモデルをラインナップしているものの、多くのカメラボディは、エントリー機では樹脂製、中級機〜上級機ではとマグネシウム合金が使われるのが一般的となっています。
梨地仕上げと黒塗装の相性
ちなみに樹脂製ボディでは素材自体を黒くすることが出来るため問題ありませんが、マグネシウム合金のボディでは、金属の上に別途黒の塗装を施す必要があります。
この黒の塗装は多くが梨地仕上げ(ザラザラとしたマットな塗装)が採用されていますが、これは単に滑り止めのためだけではなく、低コスト化のためでもあります。
梨地仕上げであれば最終的にザラついた状態になるのですから、マグネシウム合金の表面は平滑でなくても構わないのですが、ブラックであれシルバーであれ、平滑な表面塗装を施す場合にはマグネシウム合金にあらかじめ平滑にするための下地処理が別途必要になりコスト高となります。
つまり昔の真鍮への平滑な塗装では、シルバーと比較して塗装工程が複雑であったため、ブラックの方がコスト高であったのに対し、現在のマグネシウム合金の梨地仕上げの場合には、ブラックの方が工程を簡略化出来るためコストを抑えられるというわけです。
逆にマグネシウム合金のボディではシルバーの方が、平滑性が求められ処理が増えるために高コストになります。つまり、マグレシウム合金のような金属ボディでは、
- 過去:シルバーの方が低コスト、ブラックの方が高コスト
- 現在:シルバーの方が高コスト、ブラックの方が低コスト
このように変化したわけです。また、シルバー塗装でブラック塗装並みの高級感を実現するには、より複雑な塗装工程が必要になります。
現在マグネシウム合金のボディでシルバー塗装を採用しているモデルは多くありませんが、ニコンDfのシルバーカラーや富士フイルムX-T2 Graphite Silver Edition、ペンタックスK-1 Limited Silverなどでシルバーモデルが存在します。
■カメラが黒色になった理由のまとめ
カメラの黒塗装が主流になるまでのまとめ
結局ところカメラが黒が主流になっていった理由は、被写体への写り込みを防ぐために黒塗装が採用されたわけでなく、
- 報道など一部のプロカメラマンが「目立ちたくない」という理由から、シルバーのカメラを黒くカスタマイズしていた
- カメラメーカーもプロカメラマン向けに黒塗装した個体を用意した
- それを見たアマチュアカメラマンから、ブラックのボディを一般販売して欲しいという要望出始めた
- それに応える形で上位機で黒塗装を採用したり、シルバーとブラックの2バージョンを用意したりした
- ブラックの方が売れ筋となったことや、樹脂製ボディの登場でブラックボディが低コストで作れるようになったこともありシルバーボディのカメラは急速に減っていった
- そして現在のカメラはブラックが一般的という状態になる
以上がカメラでブラックが定番化した流れです。
「ブラックの方が被写体への写り込みが少ないから黒になった」という話は、既にカメラがブラックが主流になった後に後付けで考えられたものなのですが、実際ブラックの方が被写体への写り込みは多くの場合目立ちにくいため、ブラックボディにはそうしたメリットがあることも事実です。
近年ミラーレスの登場などで、レンズ交換式カメラのユーザー層が一時的に拡大したためカラーバリエーションが増えていた時期もありましたが、現在では結局黒しか売れないということなのか、再びボディカラーは黒色に集約されつつあるように思います。
というわけで今回は、カメラボディがブラックが主流になっていった歴史についてご紹介しました。
画像:Wikipedia
Reported by 正隆