御手洗会長「キヤノンは今後法人事業にシフトする」

斜陽産業ファンの皆さんこんにちは。

2018年もカメラ業界は出荷台数・出荷金額ともに前年を下回ってしまいました。

そんなお先真っ暗な業界に絶望してしまったのか、キヤノンの御手洗会長は日経新聞のインタビューでカメラ業界の将来に対する悲観的な予想と共に、今後キヤノンは法人事業へと軸足を移していくという趣旨の発言をしています。

目次
  • 御手洗会長の2013年と2019年の考え方の違い
    • 2019年1月25日日経新聞インタビュー内容
    • 2013年8月24日東洋経済インタビュー内容
  • カメラ業界の現実
    • 御手洗会長の予想をはるかに上回ったカメラ業界の凋落
  • カメラ業界の未来
    • 下げ止まりを見せつつあるカメラ業界とフルサイズミラーレスという救命ボート
    • 業界最大手キヤノンの行く先は?

そこで今回は、この日経新聞の御手洗会長のインタビューと2012年から2018年までのカメラ業界の推移をご紹介します。

■御手洗会長の2013年と2019年の考え方の違い


2019年1月25日日経新聞インタビュー内容

2019年1月25日の日経新聞による御手洗会長へのインタビュー内容は以下のようなものとなっています。

  • キヤノンのイメージング事業は連結売上高の約1/4
  • キヤノンのカメラ事業は年10%前後のペースで下落している
  • レンズ交換式カメラの世界市場の規模は(全メーカーで)1,000万台程度だが減少傾向にある
  • ミラーレスは一眼レフの置き換えにしかなっておらず市場全体の上乗せにはなっていない
  • デジカメ市場は2年くらい落ち続けるがプロやハイアマチュアが使うものが500-600万台ほどあり究極的には底を打つだろう
  • 今後は産業印刷事業や医療事業で個人向け製品の減少を補う
  • IoTの入力装置にはカメラやレンズが必要でキヤノンはその技術を持っている
  • 設備投資が必要だが将来的には外部に提供する事業にも出ていける

2013年8月24日東洋経済インタビュー内容

比較のためにこちらも当時話題になった2013年8月24日の東洋経済の御手洗会長のインタビュー内容と比較してみましょう。

  • 一眼レフカメラは今後も持続的な成長が期待できる
  • フィルムカメラが成熟期に入った時も年3-5%の成長があり、今後もデジタル一眼レフは年率数%の伸びが見込める
  • 2013年の1-6月期では一眼レフは欧州と中国で落ち込んだが、これは経済情勢が回復すれば戻ってくるのでカメラビジネスについて全く悲観していない
  • コンパクトも一眼レフが落ちている理由は、アナログカメラからデジタルカメラへの買い替え需要が減ってきているため
  • 買い替え需要は過去10年にわたって続いて、それによって2ケタ成長もあったが最近はそれがだいぶ消化されてきた
  • しかしそもそも買い替え需要は「ゲタ(底上げ)」に過ぎず、これが減っても一眼レフを持っている人はお金持ちなのでまだ売れる
  • 今が正常な姿でありこれからも一眼レフは数%ずつずっと伸びていく
  • キヤノンは一眼レフが本命であり一眼レフを入門機からプロ機まで充実させていく
  • ただミラーレスもやめない
  • コンパクトがスマホに押されキヤノンのコンパクトの販売台数は最盛期の半分(1400万台)になってしまったが、まだまだ1-2割落ちると予想する
  • ただ年間1000万台を割ることはなく、その前に下げ止まるだろう
  • スマホとは共生でき、スマホが完全にカメラを駆逐することはない
  • イメージング事業の規模はもっと伸ばしていく

■カメラ業界の現実


御手洗会長の予想をはるかに上回ったカメラ業界の凋落

このように御手洗会長は2013年のインタビューでは、デジカメ市場は「レンズ交換式は今後も年数%の割合で伸びていく、コンデジもキヤノンは販売台数で1,000万台(2013年当時は約1,400万台)を割ることはない」と予想していました。

しかし実際にはカメラ業界は2013年以降も縮小しており、

  • コンパクトデジタルカメラ
    • 2013年:45,708,286台/490,229,713,000円
    • 2017年:13,302,797台/214,488,603,000円
  • レンズ交換式カメラ
    • 2013年:17,131,367台/678,261,832,000円
    • 2017年:11,675,689台/578,328,888,000円

以上のように、コンパクトデジタルカメラもレンズ交換式カメラも出荷台数・出荷金額共に減少し続け、2018年遂にコンパクトデジタルカメラはキヤノン単体どころか、全メーカー合計でも1,000万台の大台を割る見込みとなりました。

キヤノンのコンパクトデジタルカメラ市場でのシェアは約30%であるため、キヤノンのコンパクトデジタルカメラの出荷台数は御手洗会長の1,000万台を割り込むことはないという予想をはるかに下回り、300万台程度まで落ちていることになります。

デジタルカメラ前年比推移(2018年分は1-11月までの前年同期比)
コンデジ レンズ交換式
全体 一眼レフ ミラーレス
台数 金額 台数 金額 台数 金額 台数 金額
2012 78.1% 77.9% 128.4% 140.9%
2013 58.6% 68.6% 85.0% 90.1 % 85.3% 88.6% 83.6% 97.2%
2014 64.7% 73.3% 80.8% 89.2% 76.3% 84.1% 99.5% 112.6%
2015 75.5% 85.5% 94.3% 95.5% 92.0% 91.6% 101.7% 108.9%
2016 56.3% 62.1% 88.9% 89.8% 87.0% 86.3% 94.4% 100.1%
2017 105.7% 112.5% 100.6% 111.3% 89.9% 96.4% 129.2% 148.2%
2018 64.3% 73.8% 92.8% 98.3% 88.8% 85.1% 100.3% 119.5%

■カメラ業界の未来


下げ止まりを見せつつあるカメラ業界とフルサイズミラーレスという救命ボート

現在カメラ業界はフルサイズミラーレスという小さな救命ボートに多くのメーカーが必死に乗り込もうとしている状況で、昨年キヤノンもEOS Rを発売しました。

フルサイズミラーレスという市場は、多くのメーカーを乗せて浮いていられるほど大きな船ではないと思いますが、レンズ交換式カメラに関しては減少速度も落ちてきており、遂に下げ止まりが見えてきたようにも思います。

業界最大手キヤノンの行く先は?

このインタビューの御手洗会長の「キヤノンは法人メインに軸足を移していく」というのは、注意深く読むと、カメラ事業でコンシューマー市場からゆるやかに撤退するという趣旨ではなく、「産業印刷や医療といった法人事業に注力しながら、IoTなどの分野でカメラやレンズの外販を狙っていく」という意味なのだろうと思います。

ただ、あの強気の御手洗会長をして「カメラ業界の縮小は今後2年は続く」という発言が出てくるというのは、カメラ業界の厳しい現実を表しているように思います。

また「(レンズ交換式カメラが)500-600万台で下げ止まる」という御手洗会長の予想通りであれば、現在(約1,200万台)の半分、ピークであった2012年(20,157,053台)と比較すると、25-30%程度までレンズ交換式カメラ市場が縮小することを意味します。

参考:日本経済新聞,東洋経済のインタビュー
画像:Amazon

Reported by 正隆