皆さんこんにちは。
先日カメラグランプリ2021が発表されましたが、この選考に関して、一部の選考委員の発言に対してネット上でも批判が出ていました。
そして先日デジカメWatchにおいて、当のカメラグランプリの選考委員たちが座談会という形式で、カメラグランプリの選考時にどういったことを考えて投票したのかという趣旨の記事を掲載しました。
1.は、ソニーの提供で行われています(記事の末尾に「提供:ソニーマーケティング株式会社」と記載されています。
2.は動画となっており、カメラグランプリを主催する「カメラ記者クラブ」のYouTubeチャンネルで投稿されています。
そこで今回はこの座談会の会話の内容から、この選考委員たちは選考にふさわしい知識があったのか?について会話の内容から検証してみようと思います。
目次
- 座談会第一回の会話の内容を見て
- 座談会一回目のメンバーについて
- 実際の撮影に対する知識の浅さ
- 質問者の意図を理解できていない
- 客観性を欠いた採点理由
- 何も学ぶことがなかった1回目の座談会
- 座談会第二回の会話の内容を見て
- 二回目の座談会の動画
- 座談会二回目のメンバーについて
- α1のサイズに対する選考委員の考えの浅さ
- 辟易するほど内容のない会話
- 選考委員とカメラ記者クラブに向けて
これは大賞に選ばれたα1がどうこうというよりは、選考委員と選考基準についての話です。
■座談会第一回の会話の内容を見て
座談会一回目のメンバーについて
第一回目のタイトルは、”ソニー「α1」がカメラグランプリ2021大賞を受賞!3人の選考委員が「投票のホンネ」を語る”となっており、座談会のメンバーは、
- 阿部秀之さん
- 大村祐里子さん
- 熊切大輔さん
以上の3名です。
カメラ系の雑誌やwebメディア、カメラメーカーのセミナーなどでもおなじみの面々ですが、正直名前を見ただけで座談会のレベルがなんとなく分かってしまうのですが…。
では、ところどころデジカメWatchの記事を引用しながら見ていきましょう。
実際の撮影に対する知識の浅さ
まず最初に気になったのはここ。
“阿部: ずっと見られるというのは理想だよね。一眼レフではできないフルサイズミラーレスαのフラッグシップならではの利点。ハイスピードシンクロにしなくても1/400秒でフラッシュが切れるのも、今まで撮れない状況のものが撮れるのはすごいことだよ。”
これの、
“ハイスピードシンクロにしなくても1/400秒でフラッシュが切れるのも、今まで撮れない状況のものが撮れるのはすごいことだよ。“
この部分。話は長くなりますが、ここはよく話題になるのでしっかり説明していきましょう。
例えばグローバルシャッターのように全速同調するというレベルまでいけば利便性の面でメリットはあるのですが、ストロボ同調速度の上限が1/250秒だろうが1/400秒だろうが実用上違いはありませんし、まして「今まで撮れなかったものが撮れる」なんてことはありません。
そんな事ないと思うのであれば、その「ストロボ同調1/400秒でなければ撮れなかった今までにない写真」とやらを是非見せて欲しいと思います。
このα1のストロボ同調速度は発表当初はネットなどでも話題になったのですが、いかにもカメラに詳しいと勘違いしている人を釣るのにぴったりだと思いました。
今回の座談会のメンバーなどは、まさに入れ食い状態であったわけです。
例えばよくある日中シンクロで背景をボカしたいというような場合、屋外で撮影するのに「1/250秒同調では露出オーバーで撮れなかったけど、1/400秒同調だったから適正露出で撮れた」なんて都合のいい気象条件はないですし、同じ環境下でも被写体や撮影者の位置が少し変わるだけでその程度のシャッタースピードの変化は頻繁に起こります。
そのため結局はハイスピードシンクロを使うかNDフィルターを使わないと、同調速度が1/250秒だろうが1/400秒だろうが露出オーバーになる時はなります。
他に良くあるパターンとして、例えば動き回る子供をブレさせずに撮りたいというような場合も、別にストロボ同調速度が1/400秒でなくても、ハイスピードシンクロを使えば問題なく撮影することができます。
ブレさせずに撮影する目的であれば、ハイスピードシンクロの方がよりシャッタースピードを上げられるのでその方が有効です。
ではプロ寄りのシチュエーションではどうかということで、今度は「広告写真を外光のないホリゾントスタジオでライティングを組んで撮影し、かつ速いシャッタースピードでダイナミックな人物の動きの一瞬を止めて写したい」というような撮影をすると仮定しましょう。
このような場合、普通はクリップオンストロボでライティングはしませんし、α1が1/400秒同調を保証しているのは純正クリップオンストロボ使用時(※仕様表に記載あり)なので、実際はα1でも他のカメラも同条件になります。
まあ仮にα1が全ての大型ストロボで1/400秒同調するとしても、そもそもそんなことは関係がないのです。
なぜならそうした場合でも動いている被写体を止めて写す方法は幾つもあり、これまでもそうした方法で撮影されてきたからです。
1つ目の方法は定常光を使う方法で、従来こうした撮影の定番として使われていた大光量のHMIランプ(ARRIなど)を使う方法もありますし、最近はモノブロックタイプのLEDライトも大光量のもの(AputureのLS 600シリーズなど)が出ており、定常光でライティングを組む方法も広まってきました。
ちなみに今時のHMIランプや業務用LEDライトは大光量であるだけでなく、フリッカーフリーの仕様が多いのでフリッカーの心配もありません。もちろんテレビドラマや映画の撮影にも使われるものなので物凄く明るいです。
HMIランプやLEDモノブロックライトは定常光なので当然同調速度を気にすることなく速いシャッタースピードを設定することが出来るわけです。
強い定常光は当て続けると眩しかったり暑かったりするので、事前にある程度ライティングを考えておき、その場でモデルさんに光をあてる時間は出来るだけ減らす配慮は必要ですが、瞬間光であってもライティングはある程度事前に考えておくべきですし、動画撮影ではモデルさんはもっと長時間照らされてしまうので、めちゃくちゃに神経質になる必要はありません。
2つ目の方法として、瞬間光を使って速いシャッタースピードで撮影する方法として、中判デジタルカメラのレンズシャッターを使う方法があり、例えばライカのSシリーズは1/1000秒、PHASEONEは1/1600秒でのストロボ同調が可能です。
つまり、α1のストロボ1/400秒同調よりもレンズシャッターの方が同調速度が速いのです。
中判デジタルなんて高すぎて現実的じゃないという人にはこう聞いてあげてください。「α1は安いですか?」と。
α1が安いカメラだと感じる人なら、中判デジタルカメラも非現実的な選択ではないですし、実際には買わなくてもそういった撮影の時にレンタルすればいいだけですし、中判デジタルは必要な時だけレンタルするというフォトグラファーは多いです。
そして3つ目の方法はさらにシンプルで、そもそも今時のモノブロックストロボやジェネレーターはハイスピードシンクロに対応しているため(例えばProfotoだとB10、B1X、B1、B2、D2、Pro-10、Pro-11などがハイスピードシンクロに対応しています)、クリップオンストロボだけでなく、モノブロックストロボやジェネレーターを使ったライティングでもハイスピードシンクロが可能です。
ハイスピードシンクロの場合は連続で発光させているので有効閃光時間も関係ありません。要するに連続で発光しているハイスピードシンクロというのは、人間の目には瞬間光ですが、カメラ側から見たときの理屈としては定常光と同じというわけです。
このように、ホリゾントスタジオのような外光のない環境でライティングを組んだとしても、
- HMIランプや業務用のモノブロックLEDライトを使う
- 中判デジタルカメラのレンズシャッターを使う
- モノブロックストロボやジェネレーターでハイスピードシンクロを使う
これらの方法で1/400秒どころではない、より高速なシャッタースピードも使えます。勿論皆さんご存知のように、クリップオンストロボはハイスピードシンクロに対応している機種が山ほどあります。
なので、そもそも阿部さんの言う「ハイスピードシンクロにしなくても」という前提が意味不明で、ハイスピードシンクロを含めたこれらの方法を使って撮影するだけです。
これは阿部さんだけではなく、このストロボ同調1/400秒を褒め称えるカメラ系ライターのほとんどがハイスピードシンクロを使わないことを前提に話をしているのですが、存在している機能をわざわざ使わないなんておかしいでしょう?
それにしてもα1を買うような人が、1/400秒同調を保証しているからといって、今時単三電池タイプのソニーのクリップオンストロボなんて使うのでしょうか?
普通は発光回数が多くリサイクルタイムも短い、バッテリータイプのProfoto AシリーズやGODOX V860シリーズを選ぶ人の方が多いように思うのですが。
まあ他社製のクリップオンストロボでも1/400秒同調が可能なものもあるかもしれませんし、1/400秒同調しようがしまいが意味がないという話をしているわけですから、話を戻しましょう。
このストロボ同調速度の話は、第二回の座談会の動画でも出てきます。
一例を挙げると司会者の「実際の現場で、1/250秒と1/400秒だと違いって…」という質問に対し、風景写真家の今浦友喜さんは「日中シンクロで花とか虫とか撮るんですが、単焦点好きなんで明るいレンズよく使うんですけど、これでNDフィルターを使わなくてもボカせます」と喜んでいます。
ちょうど花も虫もいる季節ですから、日中に外に行って、その明るい単焦点とやらで絞り開放時のシャッタースピードが幾つになるか見てきたらよいと思います。
ただ私は優しいので、参考までにISO100でF1.4の単焦点レンズを開放で使ったときの露出表を書いておきます。日中シンクロに1/400秒で足りるかどうかが分かるでしょう。
露出表(ISO100/F1.4のとき) | |||
環境例 | EV値 | F値 | シャッタースピード |
真夏のビーチ・晴天下の雪景色 | 16 | F1.4 | 1/32000秒 |
快晴 | 15 | F1.4 | 1/16000秒 |
晴天 | 14 | F1.4 | 1/8000秒 |
薄曇り | 13 | F1.4 | 1/4000秒 |
曇天 | 12 | F1.4 | 1/2000秒 |
雨天 | 11 | F1.4 | 1/1000秒 |
早朝・薄暮 | 10 | F1.4 | 1/500秒 |
どうも明るい単焦点の開放で1/400秒で適正露出に収めるのは難しそうです。この程度のことは風景写真家であれば普通は頭に入っているものです。
マニュアル露出しかないような機械式フィルムカメラを使った経験のある方であれば、当時のことを思い出していただければ、日中屋外で明るい単焦点レンズの開放で撮ろうとしたら、1/400秒なんてシャッタースピードにはならないと感覚的にお分りいただけるのではないかと思います。
晴天時のEV値は14なので、ISO100:F1.4:1/8000秒というのは、1/400秒同調に収まるように絞りを設定すると、ISO100:F6.3:1/400秒になります。つまり、F6.3まで絞らなければなりません。つまり大きくはボカせません。
仮に露出オーバーにならない暗い環境であったとしても、同調速度が1/250秒と1/400秒で同じ露出になるように撮影した場合、絞りで1段分の差もない(約2/3段差)のですから、ボカせる量なんてそもそも大して変わりません。
レンズで例えれば、F1.4とF1.8のボケ量の違いしかありません。
対して、1/400秒にした場合と、ハイスピードシンクロを使って1/8000秒で同じ露出になるように撮影した場合、絞りにして4段分以上の差が出るので、ボカせる量は大きく変わるというわけです。
こちらもレンズで例えれば、F1.4とF6.3のボケ量の違いになります。
- ストロボ同調1/250秒と1/400秒の違い→F1.4とF1.8の違い
- ストロボ同調1/400秒とハイスピードシンクロ1/8000秒の違い→F1.4とF6.3の違い
というわけです。
なので、日中シンクロで大きくボカそうと思ったら、結局はハイスピードシンクロやNDフィルターなどを使わないと劇的な効果は見込めないというわけです。
この記事を読んでいるかたの中には「でもハイスピードシンクロにすると通常発光より光量が落ちるのでは?」と思われた方もおられるかもしれません。
しかし現実の撮影を考えてみましょう。
日中シンクロをする状況とはどういう時ですか?皆既日食のど真ん中で昼間なのに暗いとか?火山が噴火して火山灰で空が覆われていて暗いとか?
違いますよね。
日中シンクロには擬似的に夜景のような雰囲気を作り出すというような特殊な使い方などもありますが、最も一般的な使い方は、環境は明るいけれど、
- 逆光で被写体が暗くなってしまう
- 日差しが強くて被写体の一部に濃い影が出てしまう
こうした時に、暗部を起こすために使っているはずです。
つまり日中シンクロはストロボ光だけで全体を写しているのではなく、被写体の暗部に光を補っているだけなので十分光量は足りるというわけです。
そもそも光量が足りるからハイスピードシンクロは広く使われているのであり、日中シンクロで光量が足りないのならハイスピードシンクロという機能自体存在する意味がありません。
ですから結局、
- 日中シンクロしつつ絞りを開いて背景をボカして撮りたい
- 逆光の補正や被写体の影を消したい
- 動き回る子供などを速いシャッタースピードで撮りたい
- スタジオ撮影で動く人物を止めて写したい
このようないずれの場合であっても、ストロボ同調速度が1/250秒でも1/400秒でも撮れる写真は変わらないというわけです。
実際に撮影してみれば、α1でも結局ハイスピードシンクロを使うことになるというのがすぐ分かるでしょう。
余談ですが、ついでに少し懐かしい2つのカメラのストロボ同調速度を比較してみましょう。
- EOS 5D Mark II(2008年11月29日発売):ストロボ同調1/200秒
- D700(2008年07月25日):ストロボ同調1/320秒
同時期に発売されライバル機としてよく比較された2機種ですが、ストロボ同調速度には1.6倍の差があります。
そして現代のカメラに多いストロボ同調速度1/250秒とα1のストロボ同調速度1/400秒も1.6倍の差です。
しかしこのEOS 5D Mark IIとD700が登場した時「ストロボ同調速度が1/200秒しかないEOS 5D Mark IIなんて使えない」とか「D700はストロボ同調1/320秒だからこれまで撮れなかった写真が撮れた」なんて人いたでしょうか?
大多数の人はそんなことは言わなかったですし、EOS 5D Mark IIは当時のフルサイズ機の中で最も売れたカメラとなり、プロの撮影現場でも広く使われ、またフルサイズ機をハイアマチュア層に広げるきっかけともなりました。
もちろんD700も人気を博しましたが、D700はその高感度耐性や秒間撮影コマ数などが評価されたのであって、ストロボ同調速度が速かったから売れたわけではありません。
つまり、ストロボ同調速度が同時代の競合機より速いカメラなんて過去に幾つもあったのです。
ちなみにEOS 5D Mark IVでさえストロボ同調速度は1/200秒でしたが、多くのプロフォトグラファーが普通に使っていましたし、最近ではLUMIX S1なども1/320秒同調でしたが、なにも騒がなかったでしょう?
第二回目の座談会も含めて、この選考委員の多くがやたらとストロボ同調速度の話をしているわけですが、本当は1/400秒同調が写真や撮影に影響を及ぼすかどうかなどちゃんと考えて発言しているわけではなく、本質は「こういうマニアックな部分に着目する我々すごくない?」と言いたいだけなのだと思います。
実際はかえって知識と経験の浅さを露呈してしまっているだけなのですが。
もしこの座談会のメンバーが本当にα1のストロボ同調1/400秒が写真を変える革新的なものだと思っているのなら、その「ストロボ同調1/400秒でなければ撮影できなかった、これまでにない写真」というのを撮ってきて見せて欲しいと思います。
期待するだけ無駄でしょうけれど。
もちろん逆にストロボ同調1/250秒の方が1/400秒より優れているなどという考えも全くありませんが、要するに撮影に影響しないカタログスペックなんてどうでもいいということです。
ましてそれを、
- これで撮れなかったものが撮れます
- これで撮影が変わります
- これで現場が助かります
みたいに言うのは、「これを買ったとたん、就職は決まるわ、宝くじは当たるわ、女の子にはモテまくるわ、人生バラ色です!」みたいな昔あった胡散臭いブレスレットの広告と何も変わりません。
常識で考えて胡散臭い。
質問者の意図を理解できていない
次に気になったのはここ。
“デジカメWatch:——「α7S III」に続いてCFxpress Type Aを採用しました。これについてはいかがですか?
阿部: CFexpressメモリーカードはエラーが出たことがないので、SDメモリーカードより信頼しています。
大村: 私も仕事で使う時、SDメモリーカードだけだと心配になる時があります。“
微妙に質問と答えが噛み合っていないように思います。
デジカメWatchのインタビュアーの意図はおそらく「α1は他社で広く採用されているCFexpress Type BではなくType Aを採用していますが、それについてどう思われますか?」という趣旨だと思います。
仮にCFexpressを採用したことについて聞きたかったのであれば「CFexpressを採用したことについてどう思いますか?」でいいですし、上位機のカメラにCFexpressを採用すること自体はもう珍しいことではありませんから、そういう意図であれば聞く意味がありません。
なので、Type Aという選択について質問しているわけです。
高画素高速連写で8K動画まで対応したフラッグシップ機に、転送速度や堅牢性、また実売されている容量などで有利なType BではなくType Aを選択したことはカメラファンの間でも賛否が分かれましたから、それに対するポジティブな意見を期待して聞いたのだと思います(※この記事自体、提供がソニーなので)。
しかし阿部さんと大村さんにはインタビュアーの意図が通じていなかったようで、このような答えになってしまったのでしょう。
それにしてもこれを読んだところ、お二人はそんなにSDカードに不安を抱えながら撮影していたのでしょうか?
私もCFexpressが登場するまでは、SanDiskののCFカードやSDカードを沢山使ってきましたが、少なくともダブルスロットであればSDカードで特に不安を感じたことはありません。
まあそれはともかく、ソニーとしては単に小型軽量に拘った結果Type Aを選択したのだろうと思いますが、もしも私が代わりにこの質問にポジティブに答えるとしたら、
“α1は高速なCFexpress Type Aと広く普及しているSDカードを使い分けられるメリットがあります。
仕事では「セレクトやレタッチはこちらでやるので、撮影後すぐにデータを欲しい」というような迅速な納品を求められるケースもあります。
そうした際、汎用性に優れるSDカードであれば相手のPC環境を選ばないため、現場での撮影データの受渡しが容易です。
アマチュアのかたにとっても、高速連写を必要しない撮影ではコストパフォーマンスに優れるSDカードを選択できるというのはメリットだと思います。
またSDカードは既にお持ちのかたも多いと思いますので、カメラにはCFexpress Type Aを入れておき、予備のメモリーカードとしてSDカードを活用出来るのも嬉しいポイントではないでしょうか。”
みたいなことを答えておくと思います。
この回答自体には容易に反論できてしまいますし、そもそも私はType Bにすべきだったと思っているので自分ならこう言われても納得はしませんが。
客観性を欠いた採点理由
次は技術的知識ではなく審査基準の話なのですが、
“デジカメWatch:——α1はフルサイズミラーレスα初のフラッグシップという位置付けになります。その辺りへの期待はどうでしょう。
大村: 私は手が小さいので、一眼レフカメラの大きなフラッグシップモデルは持てないんです。いくら性能が良くなってもαが一眼レフフラッグシップのような大きさになったら興味は一気に薄れます。”
大村さんが手が小さくて一眼レフフラッグシップ機を持てないというのはまあいいでしょう(大村さんがαのアンバサダーになる前は結構大きな一眼レフのEOS 5D Mark IVを使っていたとしても)。
何が良くないかというと、自分の手の大きさを基準に審査しているという点で、それは客観的な採点とは言えません。
自分でも「人よりも手が小さい」と言いつつ、その個人的な理由で採点してしまっては、カメラグランプリ自体が他の人には参考にならない賞となってしまいます。
こうした審査では個人的な理由は極力排除して、客観的に審査しなければなりません。
実はこれも先ほどのCFexpressの話と同様に、質問と回答が噛み合っていないのですが、質問自体がやや漠然としている部分もあるので、どう答えるかはちょっと迷う部分はあったと思います。
とは言っても、α1のフラッグシップ機としての存在意義や期待感について聞かれているのに「私は手が小さいので、α1が大きくなくて良かった」という趣旨の回答には違和感を感じます。
これも一応私なりに考えてみましょう。もしこのデジカメWatchの質問に私が答えるとしたら、
“従来のフラッグシップ機は、高速連写機と高画素機の2バージョンを作ったり、一体型のフラッグシップ機と別に分離型の高画素機を設けるという形で分けられてきました。
対してα1では高速連写と高解像を一つの機種で実現しているわけですが、私はα1をいわゆる「全部のせ」と言われるような単純なオールラウンダーとは思っていません。
ソニーはカメラに対する需要の変化に対応すべく、従来のカメラメーカーの伝統にとらわれないフラッグシップ機のあり方を我々に提案してきたのではないでしょうか。
α1の登場によって、クリエイターはこれまでと異なるカメラの運用方法や適応能力が問われると共に、新しい撮影スタイルが生まれてくる可能性にも期待しています。”
こんな風に答えたと思います。
具体性の欠片もない回答になっていますが、頑張ってポジティブに回答しているだけで、私自身はこんなことは微塵も思っておらず、ソニーが考えなしに作ったから、あんな用途不明な闇鍋のようなカメラになっただけだと思っています。
何も学ぶことがなかった第一回目の座談会
全体的にあまりにも内容がくだらないため読むのが苦痛なので、座談会全体の半分くらいまでですが、1回目の座談会に関してはこれでやめておきます。
■座談会第二回の会話の内容を見て
二回目の座談会の動画
座談会二回目に関しては、記事ではなくカメラ記者クラブのYouTubeチャンネルによる動画となっています。地獄のようにつまらないの動画でしたが頑張って最後まで見ました。
動画のコメント欄はおろか、サムアップサムダウンの件数表示すら隠しているところにカメラ記者クラブの自信のなさが何となく見えてしまうのですが、こんな中身のない動画をよく35分も作ったなと、違う意味で感心します。
ちなみにこの座談会はパナソニックから提供されたLUMIX S1Hを7台使って撮影しているそうで、映像だけはとても綺麗です。なのでこの座談会で一番評価を上げたのは間違いなくパナソニックでしょう。
ただこれを見て、カメラグランプリはちゃんとした有識者が審査しているんだなと思う人はいないと思いますよ。
座談会二回目のメンバーについて
今回の動画では、
- 赤城耕一さん
- 大村祐里子さん
- 河田一規さん
- 今浦友喜さん
以上の4名で話しています。
第一回目と同じように部分的に会話を抜き出しながら、それに対してどうこうと書いていこうと思っていたのですが、基本的に公式サイトの商品紹介のようなことしか話しておらず、あまりに中身が薄すぎたので気になった点のごく一部だけ書いておきます。
α1のサイズに対する選考委員の考えの浅さ
座談会動画の中で、α1のサイズに関する話題が所々出てきます。
その理由はやはり開発発表されているEOS R3やZ 9と比較して、α1がバッテリーグリップ分離型を採用していることに由来しているように思います。
先ほどストロボ同調速度の話で出てきた今浦さんのみ「従来のフラッグシップ機の方が使いやすかった。α1の大きさは使いやすいと思わない、もっと大きく作って欲しかった」という趣旨の発言をしているのですが、他の3名はα1のバッテリーグリップ分離型を支持しています。
分離型を支持する人がいてもいいのですが、その3名のいずれの根拠もあまりにも稚拙であると感じましたが、一例として、河田さんの発言を引用して説明したいと思います。
他の2名も同レベルの理由なのですが、大村さんの発言は第一回の座談会のところでも二回取り上げたのでもういいかと思います。また赤城さんの理由は「還暦で腰が痛いから」というもので、全体的に見ても赤城さんの発言に関しては、もはや真面目に相手をする価値もないと思います。
ちなみに赤城さんは今回EOS R5に全点配点している(近年は毎回1機種に10点全て配点)わけですが、常識的に考えてこの機種の中で、EOS R5だけが評価に値するというのはおかしいと思いますし、そもそもデジタルカメラの技術についてこれていないことは話の内容からも明らかですから、そろそろ審査員を辞退されてはどうかと思います。
そこで河田さんの発言ですが、
ー 動画20分21秒の箇所 ー
“河田:多分ソニーの考えとしては、まあ前にも大きさについてはちょっとあの、開発者の人と話したことあんだけど、あのー小さい分には、(α1を手にとって)これもそうですけど、「縦位置グリップつければ大きく出来る。大きいやつはもうそれ以上小さくすることは出来ない」っていうようなことを仰ってて、まあそりゃあその通りですよね“
とのことです。正直「そんなところから説明しなきゃダメなのか…」と思わなくはないですが、まあいいでしょう。
カメラは大は小を兼ねないですが、小も大を兼ねません。
分離型のカメラにバッテリーグリップを付けたとしても、
- 操作性
- 堅牢性
- 重量バランス
- 防塵防滴性能
- 内部スペース
などなど様々な要素で一体型と同じにはなりません。
EOS R5 背面
EOS R3 背面
- 分離型はボディとバッテリーグリップの連結部分にボタンやダイヤルを配置できないため、背面のレイアウトは一体型と同じに出来ないため、特に縦位置撮影時の操作性で一体型に及びません。
- また連結部分があるため剛性が落ちます。
- 重量物が下に偏り縦位置横位置の持ち替えに不要な力が必要となります。
- 特に縦位置撮影時は連結部が上になるため、雨や雪が染み込みやすくなり防滴性も一体型と比較して劣ります。
- そして一体型よりも内部スペースが狭く有効活用することが難しくなります。
だからキヤノンやニコンはEOS R3やZ 9を一体型で作ったわけです。
そしてバッテリーグリップを装着したとしても、カメラの横幅まで広がるわけではありません。
河田さん自身が先ほどの発言の直後に「グリップを握った時のレンズとの隙間が狭くて窮屈だ」という話をしているわけですが、バッテリーグリップを装着すればグリップとレンズの間隔が狭いことは解消することでしょうか?しませんよね。
ですからソニーの開発者の「小さいカメラは大きく出来る、大きいカメラは小さく出来ない、だから小さい方が良い」なんて話は子供騙しもいいところで完全に舐められているのですが、河田さんはこの説明で一応納得してしまったようです。
それがカメラグランプリの選考委員とカメラ開発者の会話ですか?
しかし幾らなんでも「バッテリーグリップを付ければ一体型と同じになる」などという戯言を本心から信じるほど河田さんは初心者ではないはずです。
また河田さんの話しているニュアンスからも、心からソニーの開発者の説明に納得しているという感じではありません。
しかし、それならその時にもっと踏み込んで開発者に聞くべきだったと思います。それがレビュアーとしての使命でしょう?
辟易するほど内容のない会話
座談会メンバーのおかしいと思う発言を取り上げているときりがないのでもうやめますが、この位の人たちが大好きなワードが、
- ブラックアウトフリー
- アンチディストーションシャッター
などですから、どうせそんな話ばかりしているんだろうと思っていたら本当にそうでした。そしてもちろん二回目の座談会もやっぱりストロボ同調1/400秒で盛り上がっています。
選考委員はネットばかり見ていないで、血となり肉となった知識で語って欲しいと思います。
この第一回、第二回の座談会からは、にわかのカメラ談義を聞かされているような薄っぺらさしか感じられません。
勿論この人たちをリアルなプロフォトグラファーと思っているわけではありませんが、それを差し引いても、普段からレビュアーとしてちゃんとカメラを使っていれば、もう少し実のある話ができるのではないかと思います。
座談会の動画を見ていて思ったのですが、来年からカメラグランプリは、(チャンネル登録者数ではなく知識を基準に選んだ)カメラ系YouTuberなどに選考委員になってもらった方が良いのではないかと思います。
本人のYouTubeチャンネルで選考理由を詳しく説明できますから、浅はかな考えで審査していればすぐ分かりますし、動画のネタにもなるので説明することをそんなに嫌がらないように思います。
またYouTuberの方が話題性や宣伝効果も高いでしょう。
選考委員とカメラ記者クラブに向けて
最後に今回この座談会の参加者と選考委員、カメラ記者クラブについてですが、座談会のメンバーに関してはかなり辛辣な書き方になってしまいましたが、この6名の選考委員の知識が他の選考委員と比較して劣っているわけではありません。他の選考委員も大半こんなものです。
またこの座談会があったからこそ、カメラグランプリの選考の問題点を具体的に指摘することができたわけですから、その点で座談会のメンバーには感謝しています。本心で。
主催であるカメラ記者クラブに対しては、来年からは配点だけでなくその理由を全員分公開して欲しいと思います。真剣に考えて審査したのなら説明もできるはずです。
それと大前提として特定のメーカーと強い利害関係で結びついている人は選考委員から外すべきでしょう。普通に考えればそういった立場の人を審査員にしないというのは常識だと思います。
そしてカメラ記者クラブの座談会の動画では「世界で一番権威のあるカメラ賞」ということを毎回言っていますが、そういうのは自分で言うことではないのでやめたほうがいいでしょう。
いつの日か、カメラグランプリが真に価値ある賞となる日がくることを願っています。
Reported by 正隆