クアッドピクセルイメージセンサーにすると受光ロスは起こる?

画像:OMデジタルソリューションズ(https://www.olympus-imaging.jp/product/dslr/om1/feature3.html)

フォトマスター検定の予想問題です。フォトマスター検定勉強法も掲載していますので、参考にして頂ければと思います。

過去の各級の予想問題のまとめ

合格目指してさっそく問題です!

難易度:1級レベル

問:近年では、2つのフォトダイオードで1画素を構成する「デュアルピクセル」と呼ばれるイメージセンサーや、4つのフォトダイオードで1画素を構成する「クアッドピクセル」と呼ばれるイメージセンサーが登場している。そのような1画素を複数のフォトダイオードで構成するイメージセンサーと、従来の1つのフォトダイオードで1画素を構成するイメージセンサーを比較した場合、1画素のあたりの受光効率ついて、最も適切に説明していると思われるものを次の中から選べ。

① 1画素に複数のフォトダイオードを使用する場合、隣接するフォトダイオードの間にスリットや隔壁を設ける必要があり、この部分は受光できないため、1画素を1つのフォトダイオードで構成する従来のイメージセンサーと比較して、デュアルピクセルタイプのイメージセンサーで1-2%程度、クアッドピクセルタイプのイメージセンサーでは縦横にスリットや隔壁を設けるため2-4%程度受光量が落ちる。

② 1画素に複数のフォトダイオードを使用する場合、隣接するフォトダイオードの間にスリットや隔壁を設ける必要があり、この部分は受光できないため、1画素を1つのフォトダイオードで構成する従来のイメージセンサーと比較して、わずかではあるが、デュアルピクセルタイプのイメージセンサーで0.1-0.2%程度、クアッドピクセルタイプのイメージセンサーでは縦横にスリットや隔壁を設けるため0.2-0.4%程度受光量が落ちる。

③ デュアルピクセルタイプのイメージセンサーやクアッドピクセルタイプのイメージセンサーの場合であってもスリットや隔壁は必要なく、1画素に1つのフォトダイオードを使用する従来のイメージセンサーと比較してフォトダイオードが複数あることによる受光ロスは生じない。

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■正解は③(デュアルピクセルタイプのイメージセンサーやクアッドピクセルタイプのイメージセンサーの場合であってもスリットや隔壁は必要なく、1画素に1つのフォトダイオードを使用する従来のイメージセンサーと比較してフォトダイオードが複数あることによる受光ロスは生じない。)


1画素を複数のフォトダイオードで構成するイメージセンサーでもスリットや隔壁は必要ない

デュアルピクセルCMOSイメージセンサーやクアッドピクセルCMOSイメージセンサーは、1画素の中に複数のフォトダイオードを含んで構成されていますが、隣接するフォトダイオード間にスリットや隔壁はありません。

そのため、スリットや隔壁による受光ロスは起こりません。

以下は、2013年にキヤノンが初めてデュアルピクセル CMOS AFを搭載したEOS 70Dを発売した際、デジカメWatchで行われた開発者インタビューから、主幹研究員の宮成洋氏(デュアルピクセル CMOS AFの要素技術開発のリーダー)の発言の抜粋です。

1画素の間にスリットを設けるなどすれば簡単に2つのフォトダイオードに分けることができますが、これだとAFはできても撮像という面では不感帯になるなどして支障を来してしまいますので、物理的な仕切りは入れていません。

AFもしっかりできて、画像も問題なく出力できるのがデュアルピクセル CMOS AFの大きな利点です。デュアルピクセル CMOS AFでは、撮像に関する画質的影響は全くありません。”

このように、キヤノンのデュアルピクセルCMOSイメージセンサーの開発リーダーによると、1画素内の隣接する複数のフォトダイオード間にはスリット(隙間)や隔壁は設けられておらず、画質的影響(受光ロス)は「全くない」と断言しています。

これは最近製品が登場し始めたクアッドピクセルタイプのイメージセンサーでも同様の構造であり、不感帯による受光ロスは生じません。

なぜフォトダイオードが隣接していても電荷を分離できるのか?そしてフォトダイオードの接合面に当たった光も受光できるのか?

しかしここで2つの疑問が生まれてきます。

キヤノンによるデュアルピクセル CMOSの概念図である以下の図を見ていただきましょう。

画像:Canon(https://cweb.canon.jp/eos/lineup/90d/feature-af.html)

 

このように1つの画素の中で2つフォトダイオードをスリットや隔壁なしで接合させてしまうと、

  1. フォトダイオードAからフォトダイオードBへ、あるいは逆にフォトダイオードBからフォトダイオードAへ電荷が移動して分離できないのではないか?
  2. フォトダイオードAとフォトダイオードBの接合部は不感帯となり、僅かなりとも受光ロスが生じるのではないか?

といった疑問が出てきます。しかし、実際はいずれの現象も起こりません。

それにはフォトダイオードAとフォトダイオードBを接合するために「pn接合」と呼ばれる半導体技術が用いられていることに理由があります。

pn接合とは?

実はこの「pn接合」自体は、特にデュアルピクセルイメージセンサーやクアッドピクセルイメージセンサーに限ったものではありません。

pn接合とは「P型半導体」と「N型半導体」の接触面のことで、デュアルピクセルやクアッドピクセルでない通常のフォトダイオード自体にもこの方式は利用されており、またCMOSイメージセンサーだけでなくCCDイメージセンサーの時代から既にありました。

フォトダイオードにおける「P型半導体」と「N型半導体」がどういったものであるかを説明していると長くなるため、既にわかりやすく説明している企業が幾つもありますから、ご興味のある方は以下のwebページなどを参考にしていただければと思います。

ではこの問題の本旨である「pn接合ではなぜ電荷が混ざったり接合面が不感帯とならないのか?」について説明していきましょう。

デュアルピクセルCMOSイメージセンサーの特許に見るpn接合の役割

隣接するフォトダイオードをpn接合することでどのような効果を得られるかについて、デュアルピクセル CMOS AFの「原型」となったキヤノンの有名な特許(特開2001-250931)からみていきましょう(※デュアルピクセル CMOS AFそのものの特許ではありません)。

フォトダイオードをpn接合するメリットに関して、「詳細な説明」の項目で説明されていますので一部抜粋します。重要なところを青字にしているので、図を見ながら青字の部分だけ読んでいただければ大丈夫です。


画像:J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/p0200)

“【0025】ここでは、対とならない受光部同士、つまり、互いに異なる集合同士の間は、LOCOSなどの製造方法を用いて形成された、厚い酸化膜501で、素子分離され、その素子分離領域の下には、反転防止のための不純物層502が設けられている。受光部402、403の間の素子間領域503には、そのような分離を設けず、単に、反対の導電型の不純物が、ホトダイオードのPN接合によって、分離されるのみとなっている。このような構造において、その素子間領域503に入った光504は、その領域503において、電荷505を励起するが、その電荷505のほとんどは、基板内の拡散によって、受光部402、もしくは403に捉えられる。このようにして、二つの受光部の間の素子間領域503においても光電変換を行うことができるようになった。

【0026】一旦、どちらかの受光部に入った電荷は、素子間領域503で形成されるポテンシャル障壁に阻まれ、他方の受光部に入ることができない。このようにして、電気的な分離が実現されている。


上の【0025】で説明されているのが、

  1. 隣接するフォトダイオードはスリットや隔壁ではなく「pn接合」されていること。
  2. 素子間領域(503)に入った光(504)は、隣接する2つのフォトダイオード(402または403)に捉えられるために受光ロスが起きないこと。

を説明しており、【0026】では、

  • フォトダイオード(402または403)に一旦捉えられた電荷は、となりのフォトダイオード(402から見れば403、403から見れば402)に入ることができず、分離することができる。

ということを説明しています。

ちなみに、【0026】で書かれている「ポテンシャル障壁」というのは、「空乏層」と呼ばれる電界の障壁のことで、物理的な隔壁があるわけではありません。

フォトダイオード内の電荷はポテンシャル障壁によって隣接するフォトダイオードに移動できなくなり、これによって2つ(クアッドピクセルであれば4つ)のフォトダイオードの電荷は混ざることなく分離できるのですが、この「空乏層」は不感帯ではないため、pn接合部分に当たった光は【0025】で説明されているように、いずれかのフォトダイオードで受光されることになります。

フォトダイオード同士で電荷を分離するように働く「ポテンシャル障壁」に関しては、山形大学大学院理工学研究科の論文でわかりやすく説明されているので、そちらをリンクしておきます。

デュアルピクセルCMOSやクアッドピクセルCMOSでは、1画素を複数のフォトダイオードで形成しても受光ロスは発生しない

ということで結論になるわけですが、上で特許内容から説明したように、デュアルピクセルタイプのイメージセンサーやクアッドピクセルタイプのイメージセンサーでは、1画素を形成する複数のフォトダイオードはスリットや隔壁ではなくpn接合されているということ。

そしてこのpn接合部に当たった光は拡散し、いずれかのフォトダイオードに取り込まれるため受光ロスは発生せず、また取り込まれた電荷はスリットや隔壁なしでも分離することもできるため、不感帯がなく受光ロスは起こりません。

結果、最初の方でご紹介した、キヤノンイメージコミュニケーション事業本部主幹研究員である宮成洋氏の発言の「デュアルピクセルCMOS AFでは、撮像に関する画質的影響は全くありません。」に繋がるわけです。

またこれはクアッドピクセルタイプのイメージセンサーでも同様の原理となっています。

そのため、この問題は選択肢③(デュアルピクセルタイプのイメージセンサーやクアッドピクセルタイプのイメージセンサーの場合であってもスリットや隔壁は必要なく、1画素に1つのフォトダイオードを使用する従来のイメージセンサーと比較してフォトダイオードが複数あることによる受光ロスは生じない。)が正解となります。

デュアルピクセルやクアッドピクセルの原理の一端を知って頂けたなら幸いです。

 

Reported by 平原正隆