今日は開発者インタビューを元に、Nikonが誇る世界最高画質標準ズームレンズ、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRの魅力に迫りたいと思います。
安いレンズではありません。便利でもありません。軽くもありません。でも、最高の標準ズームレンズです。すでに市場での評判は良く、品薄状態となっているようです。
今日はデジカメWatchの開発者インタビューや公式サイトのインタビュー、ニッコールレンズテクノロジーの情報を元に、このAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRに込められた技術を読み取りつつ、実写して感じた個人的なレビューも書き加えてみました。
■まずはMTFから想像するAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRの姿
このスーパーレンズの魅力はMTFだけで測り知れるものではありませんが、まずはMTFで旧型のAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDとAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRを比較してみましょう。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED(ワイド側)vs AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(ワイド側)
広角側MTF曲線を見てみると、全体的に解像力が向上していること、そして周辺部での画質劣化が旧タイプよりも向上しているのがわかります。
画面全域でフラットな特性をもたせて風景撮影など広角側を使用することが多い状況では中心部から周辺部まで解像力を重視した設計になっているようです。D810のような高画素機、また今後出てくるであろう更なる高画素時代を見越した設計となっています。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED(テレ側)vs AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(テレ側)
望遠側MTF曲線を見てみましょう。MTFだけを単純に見た場合、望遠側の解像力は周辺部こそ向上していますが、全体を見た場合には一見すると大きな向上は見られません。
しかしS(サジタル)方向とM(メリジオナル)方向いずれの曲線も画面周辺部までほとんど低下がなく、しかも乖離が少なくなっているのがわかります。
望遠側においても画面周辺部での画質劣化が少なく、サジタル方向、メリジオナル方向のMTF曲線に乖離が劇的に減少しています。
つまり、望遠側での進化は解像力というよりも、周辺部まで均一なボケ味を重視しているということが見てとれます。ボケ味に関してはMTF曲線だけで全てを読みとることは難しいのですが、この時点でボケ味も期待できるレンズであるということがわかります。
■NikonはAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRでなにを目指したのか?
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRの開発者インタビューによると、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR開発では、
・VR機能(手振れ補正)の搭載
・光学性能の向上
・堅牢性の向上
・電磁絞りの採用
など様々な改良が施されています。
■大口径標準ズームにVR機構(手振れ補正)搭載、新たなる挑戦
ご存知のように前モデルであるAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDにはVR機構(手振れ補正)がありません。
現在でも大口径標準ズームで手振れ補正機構を搭載したレンズはほとんどなく、フルサイズ用F2.8通しの標準ズームレンズでは、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR以外では唯一TAMRONのSP 24-70mm F/2.8 Di VC USDのみとなっています。
実はNikonは前モデル開発時にも手振れ補正機構の搭載を検討していました。
現在では広角単焦点レンズですら手振れ補正が搭載される時代ですが、当時は標準大口径レンズは手振れ補正非搭載が当たり前の時代ですから、かなり早い段階で標準大口径ズームレンズにも手振れ補正が求められる時代が来ることを見越していたことになります。
実際に前モデルでも手振れ補正搭載の試作機が作られたそうですが、大口径レンズにVR機構を組み込むと余りに太くなりすぎるため断念したそうです。しかし設計技術やVR機構の小型化が進み、今回採用するに至ったそうです。
今回搭載しているVR機構に関しては、CIPA規格準拠で望遠側4.0段分とのことで、かなり強力なものになっています。
現在では高画素化にともない昔のように単純に手持ち撮影時のシャッタースピードの限界値を1/焦点距離(秒)という考えが成り立つわけではありませんが、その基準で言うならばブレずに撮影しようとした場合、望遠側1/80秒程度のシャッタースピードが必要なシーンで、1/80秒→1/40秒→1/20秒→1/10秒→1/5秒、つまり理論上は1/5秒で止まることになります。
言い換えれば今までであればISO6400で撮影していた夜景を、ISO6400→ISO3200→ISO1600→ISO800→ISO400で撮影出来ることになります。これは手持ち撮影において相当なアドバンテージとなります。
新たにVR機構の起動が速度が向上しており、撮影開始直後からすぐに安定したファインダー像とブレを抑えた映像を得られるというメリットや、三脚ブレに対応したことで、三脚特有の高周波揺れを軽減できるため、風や地面から伝わる細かな振動を抑止する効果もあるそうです。
そのため三脚使用時にも手振れ補正はONにしておいた方が良く、もしも撮影結果を見て良好でない場合はOFFにして下さいとのことです。
ちなみに新型であるAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは前モデルと比較して鏡筒が太さで5mm、全長で21.5mm長くなっていますが、これは後に解説する画質向上のための光学設計の進化によるところが大きく、手振れ補正機構を搭載したことが原因ではないそうです。
大口径レンズ+VR機能の搭載により、撮影領域の幅は飛躍的に伸びましたが、三脚を良く使う私としては三脚ブレ対応も非常に嬉しいポイントだと思います。
■なにより期待する光学性能の向上やいかに!?
おそらく皆さんが最も気になる点であろう画質に関して見ていきましょう。前モデルのAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDは、その登場が2007年11月30日であり、同時発売されたのがNikon初のフルサイズ一眼レフ、名機D3でした。D3やその後発売され当時開発中であったはずのD700ともにNikon機は1,200万画素機でした。
レンズは製品サイクルが長いものですらから、当然先を見越して開発はされますが、それでも最近の急激な高画素化のスピードはNikonレンズ開発陣の予想を上回るものだったそうです。
そのため今回の光学性能の向上には解像力の向上という課題もありましたが、単に解像性能だけを追い求めるのではなく、ボケ味や各収差のバランスを重視しながら全体的な画質の向上を行ったとのことです。
■Made in JAPANなのか!?Thailandなのか?
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは国内生産で、定評のある栃木ニコンで行っているとのことですが、Nikkorレンズは最も安いレンズから全てのレンズのMTFや各種仕様を全数検査し出荷しているとのことでこれは驚きです。
通常低価格のレンズは何本かに一本を抜き出して定期的に検査する抜き打ち検査ですが、Nikonでは全てのレンズを一本一本検査しているといるとのことで随分コストをかけているなという印象です。
■大きくなったレンズ、しかし向上した操作性
新型AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは旧モデルAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDと比較して170g重くなり、5mm太く、21.5mm長くなっています。もともとAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDは他社同クラスレンズと比較して細くズームリングなどの回しやすさには定評がありましたが、新型でもそれほど太くはなっていません。逆に長さに関しては他社同クラスレンズと比較してはっきりと長いものになっています。
Nikonとしてはこのクラスのレンズでは無理な小型化よりも光学設計と操作性を犠牲にしないことを重視しているとのことで、サイズ感としては操作時に手に収まる形を思考錯誤したそうです。
ズームリングの位置が前モデルより前寄りに設計されており、ズーム操作がより行いやすくなっています。またズーム目盛もレンズ根元からズームリングの向こう側に移動されて、カメラ側からレンズを見た際に現在の焦点距離の確認がし易くなっています。
ズーム目盛は単にレンズ前方に移動しただけでなく、緩やかに立ち上がっているカーブになっているため、レンズを真上から見なくてもカメラ側からチラッと覗き込めば確認し易くなっています。
■唯一無二の優れた光学設計
さて画質に関してですが、まず目を引くのがレンズ構成です。通常この手の大口径標準ズームレンズでは凸レンズ先行タイプが採用されるのですが、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRでは凹レンズが先行しています。ここにNikonの設計思想とこのレンズの凄さが隠れています。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRレンズ構成図
(橙=ED非球面レンズ、青=非球面レンズ、黄=EDレンズ)
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDレンズ構成図
(青=非球面レンズ、黄=EDレンズ)
前モデルAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDでは11群15枚(EDレンズ3枚、非球面レンズ3枚、ナノクリスタルコート1面)で構成されていましたが、新型AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは16群20枚(EDレンズ2枚、ED非球面レンズ1枚、非球面レンズ3枚、高屈折率レンズ1枚、ナノクリスタルコートあり、フッ素コートあり)と、手振れ補正機構が入ったこともありますが、大幅にレンズ枚数が増えています。
また新開発のED非球面レンズや、最近搭載し始めたレンズの汚れを防ぐフッ素コーティングも追加され、今あるニッコールレンズの技術の全てを盛り込んだ贅沢な構成になっています。
他メーカーの同クラスレンズと比較した場合、VR機構やED非球面レンズもさることながら、凹レンズが先行していることが特徴となっています。
一般的に、超広角ズームでは凹レンズ先行の光学系を採用していますが、前方に凹レンズを置くと望遠端の焦点距離を伸ばすのが難しく、F値を明るくするのも難しくなります。多くの超広角ズームでズーム比が2倍程度になっているのはそのためです。
逆に凸レンズ先行の場合、望遠側の焦点距離を長くしてズーム比を上げやすく、10倍以上のズームレンズはほぼ凸レンズ先行のレンズ構成になっています。
しかし、凸レンズ先行の場合は逆に広角側に焦点距離を伸ばすのが難しいのです。そのためフルサイズ用高倍率ズームレンズでは望遠側には300mm程度までありますが、広角側には28mm程度までしかありません。
標準ズームでは凸レンズ先行、凹レンズ先行のどちらのタイプでも採用可能で、F2.8の24-70mmに関して言えば、凹先行ズームタイプでも望遠端70mmは高画質を維持しながら設計できるギリギリの範囲とのことです。
凸レンズ先行でも広角端24mmはギリギリ頑張れる範囲で、言って見ればどちらでも高画質なレンズを作ることができるわけです。
しかしながら手振れ補正機構を入れた場合、光学系が長くなってしまうため、特に望遠側で明るさを確保するのが難しいことが問題になります。
各社の明るい標準ズームレンズを調べると、手ブレ補正機能が入ったものはすべて凸先行ズームタイプであり、Nikonも当初は凸レンズ先行タイプで開発が始まったそうです。
しかしながら設計を進めたところ、凸レンズ先行では望遠端の画質維持が難しく、各メーカーの代表的な24-70mm/F2.8のレンズを見ると、解放での望遠端では顕著な画質劣化が見られ、Nikonでも凸レンズ先行で設計した場合同じような状況になったものと思われます。加えてボケ味もいまひとつだったため、Nikonは凸レンズ先行タイプでの設計に見切りをつけました。
また凸レンズ先行で設計した場合、製造誤差による偏心や、長年での使用で偏心した際の性能劣化が凹レンズ先行で設計するよりも若干大きく、NikonとしてはNikkorレンズで最高峰の標準ズームレンズとしてプロユースでの耐久性や画質を考え凹レンズ先行タイプでの再設計に入りました。
凸レンズ先行と凹レンズ先行で具体的な設計をした場合、凸レンズ先行タイプでは全長を短く出来ますが太くなってしまいます。逆に凹レンズ先行で設計すると細く長くなる傾向にあります。Nikonとしては構えた時の持ちやすさ、ズームリングの操作性なども考慮し凹レンズ先行タイプでの新大口径標準ズームレンズの開発が始まりました。
■新開発のED非球面レンズとは?
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは新開発のED非球面レンズが採用されていますが、ED非球面レンズとはなんなのでしょうか?
ED非球面レンズは色にじみを効果的に低減するED(特殊低分散)ガラスを使用し、かつ片面または両面に、球面ではない曲面を持つ非球面レンズです。
従来は色収差を補正するためのEDレンズと球面収差などを補正する非球面レンズは別々のものとして採用されていましたが、新たにEDガラスを使った非球面レンズを開発したことでこれらの役割を一枚のレンズでこなすことが可能になります。
低分散ガラスは割れやすく傷がつきやすく、加熱工程で出る揮発成分が金型にダメージを与えてしまうため、従来はEDレンズを非球面化することは困難であると考えられていました。
今回これを可能にしたことで1枚のレンズで歪曲収差や球面収差と色収差の両方の役割を担わせることが出来るようになりました。
EDレンズ:光の波長の違いによる結像位置の違いや倍率の違いによって起こるのが色収差です。EDレンズは可視光線を構成する各波長によって異なる特殊分散性を持ち、色収差を低減することが可能です。
非球面レンズ:ディストーション(歪曲収差)や球面収差などさまざまな収差を効果的に補正可能です。
レンズ中心周辺から屈折率を連続的に変化させ焦点を1点に絞り、通常のレンズではずれてしまう焦点位置を制御することで収差を抑えるためです。
■AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRの実写性能はいかほど?
実際のところ凹レンズ先行での標準ズームは像面湾曲や球面収差を効果的に補正できるため画質は良くしやすいのですが、大口径レンズでは凹レンズ先行タイプは設計が難しく、また前側の大口径レンズを非球面レンズにする必要があるためコストが上がってしまうという問題があります。そのため他社大口径標準ズームは凸レンズ先行でのタイプが多いのが現状です。
では他社製凸レンズ先行タイプの大口径標準ズームと比較した場合、あるいは旧型のAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDと比較した場合、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRはどれほど進化しているのでしょうか?
公式サイトに他社のここ3年ほどで発売された24-70mm/F2.8の凸レンズ先行大口径標準ズームレンズとの実写比較が掲載されています(他社レンズは複数本購入し、その中でも最も性能が良かった個体で撮影しています)。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(広角側画質比較)
4コマの左上が新AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR、右上が旧AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED、左下と右下は他社の24-70mm/F2.8レンズです(クリックで拡大出来ます)。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR(望遠側画質比較)
4コマの左上が新AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR、右上が旧AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED、左下と右下は他社の24-70mm/F2.8レンズです(クリックで拡大出来ます)。
広角側、望遠側ともにAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは他社同クラスレンズはもちろん、旧AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDと比較しても周辺画質が非常に優れているのが見てとれます。
■こだわり抜いたボケ味
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRがこだわったもう一つの画質基準はボケ味でした。
イメージセンサーと画像処理エンジンの進歩でカメラの高感度性能が年々進歩している現在、撮影ジャンルにも寄りますが、標準ズームレンズで考えた場合、F値の小さいレンズを使う意味は、シャッタースピードを稼ぎ暗所撮影に強いということよりもボケ量に対するアドバンテージの方にシフトしています。
一般的に球面収差を意図的に残すことでボケ味が良くなると言われていますが、球面収差の影響が大きいのは光軸付近であり、写真としてのアウトフォーカス(ボケ)部分は構図として周辺部になるため、周辺部に発生するサジタルコマフレアなどもボケ味に対する影響が大きいとのことです。
この周辺部に発生しやすいコマ収差や倍率色収差を低減させることでボケ味が改善します。また収差の残りやすい周辺部の収差が残っていると綺麗なボケ味を実現するためにより強く球面収差を出さねばならず、それは結果的に解像力を落とすことになってしまいます。
各収差が適切に抑えられていれば、球面収差を極端に上げることなくボケ味を良くできるため、今までは難しいとされていた解像力とボケの滑らかさの両立が可能になりました。
また被写界深度を外れた瞬間急激にボケてしまう不自然なボケ方にならないように調整されているのも大きな特徴です。ピント位置から外れた瞬間に急激にボケてしまうと、本来であればなだらかにアウトフォーカスになって欲しい人物や曲面のある被写体では描き割りの板のようになってしまいます。
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRはそういった被写体でピント位置から自然なアウトフォーカスへと変化するボケ味となっています。
■歪曲に対するNikonの考え方
24mmからの広角レンズを考えた場合、広角端での歪曲収差が問題になりますが、Nikonは数値上の歪曲収差値を減らすことよりも、補正しやすい歪曲収差であることを重視したそうです。
現在では純正のCapture NX-Dでも、Photoshop Camera RAW、Lightroomなどで歪曲収差は補正できますが、樽型収差や糸巻き収差は補正が容易であるのに対して、陣笠収差のような波打つような収差は補正が非常にやりにくくなっています。
歪曲補正はやりすぎると球面収差を増大させてしまうことにも繋がるため、各収差のバランスを取りながら設計する必要があります。
単にデータ上の歪曲収差を減らすのであれば波打つような陣笠収差の方が、一方的に曲がっていく樽型収差や糸巻き収差よりも絶対値では少なく抑えることができますが、陣笠収差は現像ソフトによる歪曲補正が難しいため、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRでは補正のしやすい樽型収差に抑えているそうです。
■標準ズームでの電磁絞りの採用
Nikonは今まで電磁絞りはバネ絞りを採用してきました。これは電磁絞りはバネ絞りほど高速にすることが難しく、絞り込んだ状態で秒間10コマを超えるような高速連写では絞り込みに時間が取られてしまい本来の秒間コマ数がだせずに一時的に連写速度が落ちてしまうということがあったからです。
しかしながら超望遠レンズのようなカメラ本体とレンズの絞り機構の位置が離れていると、バネ絞りの場合カメラ本体側から絞りバネを動かす精度を高めることが難しいという問題があったため超望遠レンズでは電磁絞りを採用してきました。
また高速連写で使用することが無いであろうアオリレンズ(PC-E Nikkor)系でも精度を重視して電磁絞りを搭載してきました。
今回よりシビアな露出制御を実現するため電磁絞りの採用となりました。
■より高速化されたオートフォーカス
前モデルであるAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G EDも、AF(オートフォーカス)はかなり高速なレンズでしたが、今回さらに劇的にAF速度が向上し、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRでは前モデルよりも約1.5倍速度アップしています。また同時に精度も上がっているあたりにNikonの技術力の高さがうかがい知れます。
■プロユースのレンズとして、堅牢性を高めるための工夫
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは堅牢性を高めるためにさまざまな工夫がされています。
塑性変形(物体に外力が加わった際、そのあと外力を取り去っても残る変形)をさけるためにAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRでは衝撃の加わりやすい外装にはエンジニアリングプラスチックが採用されています。
エンジニアリングプラスチックは金属外装と比べてコストダウンのように思われがちですが、ぶつけたり落下させる可能性が高いレンズでは金属で作ってしまうと衝撃が加わった際に塑性変形してしまい、動作に影響が出る可能性が高まってしまいます。そのため変形しにくいエンジニアリングプラスチックを採用しました。
そこでNikonは外装にはガラス繊維によって強化したプラスチックを採用し、ガラス繊維の含有量を各部で変えることでより最適な素材にしています。
内部構造は金属を、外装は弾性のあるプラスチックを使うことで、精度感と衝撃に対する耐久性を両立しました。相当な耐久実験を行っているとのことで、落下・衝撃・使用環境・長期間の使用などさまざまな角度からテストを行っているとのことです。
■レンズフードの進化
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは新型のレンズフードを採用しており、レンズ鏡筒からフードが立ち上がっていく部分に隙間を無くし、ズーミング動作の際に雨などが直接レンズ繰り出し部分ににかからないように工夫されるなど更なる防滴性能の強化に一役買っています。
また衝撃から保護するための役割を持つようにフードそのものの構造やレンズへの取り付け方法も変更されました。フードはより堅牢に、機能的になりましたが、その分簡単には外れなくなっており、取り外しの際はしっかりとボタンを押し込まなければなりません。
■レンズフードとフィルターの干渉
新型フードに関して一つ注意点があり、ピッタリとフィットしているために純正以外の一部のレンズフィルター類が取り付けにくいという問題があります。
フィルターを付けたのちフードのロック解除ボタンをしっかり押しながらフードを装着すればほとんどのフィルターは装着そのものは問題ないようですが、それが面倒という方はNikon純正フィルターがもっとも確実です。
ここにネットでの装着の可不可の報告を掲載しておきます。ご参考にしていただければと思いますが、購入の際には店頭で必ず試されてからご購入ください。
- 純正フィルター:最も問題なく装着できます。
- Kenko PRO1D:問題なく装着できます。
- Kenko Zeta:付けにくいとのこと。
- Kenko Zeta Quint:問題なく装着できます。
- MARUMI EXUS:問題なく装着できます。
- Cokin PURE EXCELLENCE:問題なく装着できます。
今のところ全く取り付けられないというフィルターはないようです。Zeta系はロック解除ボタンを押しながらフードを取り付ける必要があり、取り付けもややシビアとのことで素早い着脱を行いたいかたは他の物を選ばれると良いでしょう。
またフード逆付けも同じくほとんどのフィルターで可能とのことです。古いフィルターや低価格のフィルターは問題なく付くようですが、レンズ性能を考えればやはり高品質なフィルターを使用するのが望ましいと思います。
■フッ素コーティング
Nikonのフッ素コートは、優れた防汚性能でレンズ表面に汚れ(埃、水滴、油、泥)が付着しにくく、付着した場合も簡単に拭き取り可能です。
しかも独自のコーティングテクノロジーで、耐久性が極めて高くコーティングが剥がれにくいため、他の同様のコーティングよりもはるかに多くの拭き取り回数に耐え、その優れた効果が長期にわたって持続します。反射防止効果もありクリアーな画像の撮影にも貢献します。
こちらにフッ素コーティングの参考動画になります。
■世界最高の標準ズームレンズを目指して
最後にD810+AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRで実際撮影してみた感じた感想を添えてこの記事を締めたいと思います。
まずAFが速い。迷いなく合焦するのでテンポよく撮影でき、スナップや人物撮影などでストレスがありません。
AF速度だけなら他メーカーも速いレンズは沢山あるので驚かないのですが、非常に精度が良く、D810との組み合わせでは、まるで三脚+レリーズでピントを拡大しながらMFで追い込んで入念に撮影したような写りが手持ちで適当にシャッターを切るだけで得られるのは驚きました。
ボケ味に関しては正直自分が撮影した範囲では、旧型もボケ味は良いレンズだったこともあり、それほどの進化を感じ取ることは出来ませんでした。背景によっては顕著に差が出るのかも知れませんが、やはりこの辺は単焦点の方が同じ焦点距離とF値に設定してもボケ味はスッキリと見えます。
鏡筒の作りに関しては質感が上がっており、外装のエンジニアリングプラスチックの安っぽさは全く感じません。非常に高品質です。Nikonがこだわったという耐久性と耐衝撃性に関してはさすがに自分で試す気はないですが今後使い続けていくうちに感じられるかも知れません。
手振れ補正はバッチリ効きます。さすがに1/焦点距離(秒)から4段分シャッタースピードを落として雑な構え方をするとブレるショットが出てきますが、3段分までなら自分さえしっかりカメラを構えていれば何度撮ってもまずブレません。手振れ補正の効き方も非常に自然で違和感を感じることはありませんでした。
肝心の写りに関しては非常に解像感が高くこれは旧型からの進化を感じます。D810のセンサーや電子先幕シャッターによる機構ブレの少なさもあるとは思いますが、シャープネスの後処理は全く要らないと思うほどスッキリと解像します。
遠景に関してはまだ十分な撮影をしていないこともありなんとも言えませんが、人物や静物などの近距離・中距離に関しては高画質な単焦点と同等と言えます。
前モデルはいわゆる大三元レンズの中でAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G EDやAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIと比較して画質面でやや見劣りする部分がありましたが、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRの登場で標準レンズも申し分のない写りとなりました。
手振れ補正機構の導入や電磁絞り、フッ素コートなどNikkorレンズの看板にふさわしいレンズだと思います。これから長い付き合いになるでしょう。
ニコンレンズ開発部門の総力を結集して作り上げた世界最高峰の大口径標準ズームレンズです。ぜひ皆さんもお試しあれ!
参考サイト:デジカメWatch,メカ設計という隠れた主役(Nikon)
画像:Nikon
Reported by 正隆