MTF曲線を読めるようになろう!

SEL55F18Z MTF

皆さんこんにちは。

レンズの性能を表す指標の一つとして有名なのがMTF曲線図です。

しかしこのMTF曲線図、なんとなく線が上の方にある方が性能が良いのだろうということはわかると思いますが、具体的に何を表しているのか、何が読み取れて何が読み取れないのかはなかなか具体的には知らない人も多いと思います。

目次
  • MTFってなんの略?そもそもなに?
  • MTF曲線を読む前に注意するべきポイント
    • 異なるメーカーのMTF曲線図を比較してはダメ
  • MTF特性図が表しているもの
  • ◯◯本/mmはなぜ複数記載されている?
  • MTF曲線からボケ味は分かるの?

そこで今回は、MTF曲線とはなにか?どう見たら良いのか?何に注意する必要があるのか?などを解説いたします。



■MTFってなんの略?そもそもなに?


さてMTF曲線とはなんの略なのでしょう?MTFは、

Modulation Transfer Function

の略で、被写体の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを空間周波数特性として表したもので、レンズのコントラストや解像力を(◯◯本/mm)という数値で表しています。

レンズの性能は、ボケ味や色収差など 、MTFでは判断できない部分もあるため、MTF特性図だけを見て画質の全てを判断することは出来ませんが、そのレンズの大まかな性能を判断するのに役立ちます。

MTF特性図を読めるようになればレンズの仕様表をみるだけで、そのレンズについてある程度のことが分かるようになります。

■MTF曲線を読む前に注意するべきポイント


MTF特性図は共通の規格で描かれているわけではありません。各メーカーで測定方法もグラフの描き方も違うため、よく見ないと錯覚してしまう場合があります。例えば3つのメーカーの標準単焦点レンズのMTF曲線図を見てみましょう。

Nikon AF-S NIKKOR 50mm f/1.4GのMTF性能曲線図

空間周波数 S:放射方向 M:同心円方向
10本/mm
30本/mm

ef50mm f1.4 mtf 1

ef50mm f1.4 mtf

SONY Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZAのMTF性能曲線図

SEL55F18Z MTF

この3つのMTF曲線図はNikon、Canon、SONYの50mm付近の標準レンズ3本のMTF曲線図なのですが、これらは表記の仕方が全てまちまちです。

Nikon→開放絞りでのMTFを表記
Canon→開放絞りとF8に絞った状態を表記
SONY→開放とF8のMTFを別図に分けて表記

レンズは開放よりも多少絞った方が画質が良くなりいため、単に高い位置の曲線だけを見ても設定が異なるために比較になりません。

次に◯◯本/mmという表記に注目してみましょう。

Nikon→10本/mm、30本/mm線を表記
Canon→10本/mm、30本/mm線を表記
SONY→10本/mm、20本/mm、40本/mm線を表記

となっています。10本線は共通ですが、その他の線はNikonとCanonは共通ですがSONYは別になっているわけです。

そのため例えばNikonやCanonの30本線とSONYの40本線を比較しても同条件ではないため比較することが出来ません。焦点距離や開放F値も違ってしまっていては尚更です。

焦点距離によっても性能を上げやすい焦点距離や上げにくい焦点距離などがあるため、例えば85mm/F1.4のレンズと24mm/F1.4のレンズを単純にMTF曲線だけを見てどちらが優れたレンズかを判別することは出来ません。

異なるメーカーのMTF曲線図を比較してはダメ

また、MTF図には「波動光学的MTF」と「幾何光学的MTF」という根本的に異なるものがメーカーによってまちまちに表記されているため、そもそもMTF曲線は同じメーカー内でしか比較できません。

これはとても重要な部分なので、良く覚えておいてください。

言い方を変えれば、異なるメーカーを横断的にMTF図を比較して「このレンズは○○より良い」とか「このレンズは△△より悪い」と評価している人がいたら、その人はレンズに関して正しい知識を持っていません。


2021年11月追記:波動光学的MTFと幾何光学的MTFに関して以下の記事で詳しく解説しました。


■MTF特性図が表しているもの


では比較的シンプルで見やすいNikonのMTF曲線を参考にMTF曲線がなにを表しているかを見ていきましょう。

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIのMTF性能曲線図

Wide側                      Tele側
AF-S NIKKOR 70-200mm f:2.8G ED VR IIのMTF性能曲線図 1AF-S NIKKOR 70-200mm f:2.8G ED VR IIのMTF性能曲線図 2

空間周波数 S:放射方向 M:同心円方向
10本/mm
30本/mm

まず2つの図の意味ですが、左側のWideと書かれているのはズームレンズのワイド側(広角端)MTF特性図です。

右側のTeleと書かれているのがズームレンズのテレ側(望遠端)のMTF特性図です。ズームレンズの場合は広角側と望遠側で大きく画質が異なる場合がありますからこのように2図が書かれています。

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIはズーム比が低く加えて高画質な望遠ズームレンズのため、ワイド端とテレ端であまり差がありませんが、ズーム比が高いレンズなどでは大きく画質が異なる場合があります。

その際には自分がワイド端の画質を重視しているのかテレ端の画質を重視しているのかなど考えてMTF特性図を見てみてください。

ではワイド端の特性図を見てみましょう。
AF-S NIKKOR 70-200mm f:2.8G ED VR IIのMTF性能曲線図 1

空間周波数 S:放射方向 M:同心円方向
10本/mm
30本/mm

グラフの下に、いくつかアルファベットと数字が書かれています。

S10 赤色の実線(10本/mm線:サジタル方向:放射方向)
M10 赤色の破線(10本/mm線:メリジオナル方向:同心円方向)
S30 青色の実線(30本/mm線:サジタル方向:放射方向)
M30 青色の破線(10本/mm線:メリジオナル方向:同心円方向)

10本/mmや30本/mmというのは、10本/mmは10本線と呼ばれ、1mmの中に白黒の正弦波の組が10組、30本/mmは30本線と呼ばれ、1mmの中に白黒の正弦波の組が30組があることを示しています。

その10本の白黒の正弦波の組、あるいは30本の白黒の正弦波をレンズで写し込んだ場合に、どこまでのコントラストを出せるか?というのを示しているのがMTF特性図になるわけです。

正弦波というのは、黒から白へ、白から黒へとなだらかに変化する組になっており、チャートテストのようなクッキリとした白黒パターン模様とは少し違います。

そのなだらかに変化していく波のような白黒の模様を写した場合に、もともとの像に対してどれだけコントラストを保てているかをグラフにしたのがMTF曲線図なのです。

図のY軸(縦軸)方向に書かれた0〜1.0がコントラストを表します。1.0が最大で、1.0に近いほどコントラストの変化が少なく実物に近い高コントラストなレンズということになります。

図のX軸(横軸)方向に書かれた5,10,15,20というのは像高と呼ばれ、画面中心からの距離をmmで表しています。

35mm判(フルサイズ)の場合、撮像面(イメージセンサー)の対角線方向の距離が約43mmですから、中心からは約21.5mmですので、片側22mm程度まで表記してあれば良いということになります。そのためグラフも22程度で終わっているわけです。

仮にフルサイズ用レンズをAPS-Cセンサーの機種で使うような場合は、対角長が約29mmですから、片側約14.5mmと考えて、15mmまでの範囲を参考にすれば良いわけです。APS-C専用レンズならもともと15mm程度まで表記されています。

とても雑な表現ではありますが、レンズは中心部ほど画質が良く、周辺部にいくほど画質が少しずつ落ちていきます。

そして写真において周辺画質も重要な要素になるため、MTF特性図では中心の性能だけでなく、横軸方向で周辺までのコントラストを表示しています。

ざっくりとまとめると、図のY軸(縦軸方向)の上に線があるほど高コントラストでシャープ、X軸(横軸方向)になっても高さを維持していれば画面周辺でも画質を維持できているということになります。

■◯◯本/mmはなぜ複数記載されている?


先ほど◯◯本/mmという線は、黒から白へ、白から黒へとなだらかに変化する白黒の組だとご説明しました。

その白黒の正弦波の波が1mm幅につき10本あるのが10本/mm(線)、1mm幅につき30本あるのが30本/mm(線)なのですが、そもそもなぜ10本線や30本線、メーカーによっては20本線や40本線など2つや3つのパターンを表記しているのでしょうか?

30本線だけでも良いのではないかと思われるかもしれませんが、それぞれの線は意味合いが少し異なっているのです。

10本線は低周波のコントラスト、つまり写真用レンズ的な表現で言うなら、「クリアで抜けの良いレンズかどうか」を表します。対して30本線や40本線などは高周波の分可能を表し、「細部の解像力」に影響します。

よく見ると解像しているが全体としてはなんとなくモヤっとした写りをしてしまうのは、低周波のフレアが発生してコントラストが悪いためで、これではせっかく解像力を上げても実際に画像を見た際の「解像感」は高まりません。

逆に高周波の30本線や40本線が低いとこれは解像そのものをしていないということですからコントラストは高いがよく見ると細部が潰れている、つまりディテールの再現が上手く出来ていないということになります。

この10本線(低周波)と30本線(高周波)どちらもが高いレベルにある方が望ましいと言えます。

しかしながら片側ではなく両方を上げるというのは技術やコストが必要で、高周波の30本線に目が行きがちですが、低周波(10本線)の写りを上げる方が技術的に難しく、より多くのレンズを使用して各収差を細かく取り除く必要があるとNikonのレンズ開発者は語っています。

■MTF曲線からボケ味は分かるの?


ボケ味はさまざまな要素が相まって決まってしまうために、MTF曲線から直接的にボケ味の良し悪しを判別することは出来ません。しかしボケ味に影響する要素として、非点収差やコマ収差などが大きな影響を及ぼすため、これらはS(サジタル:放射方向)とM(メリジオナル:同心円方向)の線の乖離として現れます。

よく球面収差を残すとボケ味が良くなると言われますが、球面収差を残せば確かにある部分ではボケ味は良くなるのですが、球面収差を大きく残してしまうと解像力の悪化を招いてしまいます。

また、球面収差の影響が大きいのはレンズ光軸に近い部分であり、ボケ味として重要なアウトフォーカス部分は周辺部にあることが多いため、レンズ設計では高解像と美しいボケ味を両立するためには、球面収差を大きく残すよりサジタルコマフレアなどを減らしたり非点収差を減らす方向がまず優先されます。

十分にそれら各収差の補正を行った上で解像力を落とさない範囲で球面収差を調整することで、良好なボケ味と高い解像力を両立したレンズを作ることができるという訳です。

単純に球面収差を大きく残してしまうと、ボケ味は良くなっても解像力まで落ちてしまうからです。

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIのMTF特性図(望遠側)
AF-S NIKKOR 70-200mm f:2.8G ED VR IIのMTF性能曲線図 2

空間周波数 S:放射方向 M:同心円方向
10本/mm
30本/mm

AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIの望遠側MTF曲線図を参考に、具体的にMTF曲線図からボケ味を推察しようとした場合、どう見れば良いかというと、

  • 大きくボカそうと思った場合、多くのかたはズームレンズの望遠側を使いますので、ズームレンズの場合は望遠側のMTF特性図を見ます(広角でもボカしたいかたは広角側も見ます)
  • ボケ味は低周波の成分なので10本線の方を中心に見ます
  • 写真上のボケ(アウトフォーカス)部分は中心よりも外側の周辺部分に配置されることが多いため、中心から離れた部分、つまり横軸の右の方、周辺部のMTF曲線を見ます

望遠側周辺部のMTF曲線を見たときに、実線(サジタル)と破線(メリジオナル)の乖離が少なければ、コマフレアや非点収差が少ない可能性が高く、自然で良好なボケ味である可能性が高いと推察できます。

例に挙げたAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VR IIの望遠側は周辺部でもS(サジタル:放射方向)とM(メリジオナル:同心円方向)の10本線の乖離が見られないため、良好なボケ味であることが期待できます。また実際このレンズのボケ味は非常に美しいものとして評価が高いレンズです。

しかしながらボケ味はさまざまな収差などが相まって結果的に決まるためMTF曲線だけでボケ味の良し悪しを判別することは難しいというのも事実です。

画像:Nikon,Canon,SONY

Reported by 正隆