カメラファンの皆さんこんにちは。
写真用カメラ産業の斜陽化が叫ばれる昨今、頼みの綱であったミラーレスカメラさえも、2018年以降生産台数・出荷台数共に大幅な前年割れとなってしまいました。
これによって、コンパクトデジタルカメラ、ミラーレスカメラ、一眼レフカメラ全てに未来が見えなくなり、いよいよ「カメラ事業から撤退するのではないか?」と囁かれるメーカーも出てきました。
なぜカメラ業界はこれほどまでに衰退してしまったのか?それは本当にスマートフォンの登場によるものなのでしょうか?
【目次】
- カメラ業界の悲惨な現状
- CIPA統計から見る2018年のカメラ産業
- あらゆる項目で前年を割る出荷傾向
- 頼みの綱のミラーレスさえも前年割れ
- CIPAによる2018年のカメラ出荷台数予想
- カメラが売れなくなったのはスマホのせいではない?
- カメラが売れないのは本当にスマートフォンのせいなのか?
- スマホで代替可能でも伸びている産業もある
- 伸びている時計業界
- SNSの普及もデジタルカメラの衰退の原因とは言い切れない
- スマホが登場しなくてもカメラ業界はダメだった?
- 21世紀のカメラ業界の動向
- デジタルカメラ登場以降カメラ産業を支えたブーム
- デジタルカメラへの移行は幸運なブームだった
- デジタルカメラへの移行は単なる「長いブーム」だった
- デジタルカメラへの移行の完了と進化の鈍化
- メーカーも踊らされたカメラ女子ブーム
- カメラをファッションにしてしまったカメラ女子ブーム
- 売れさえすればいい、というカメラメーカーの姿勢
- カメラ男子も一種のファッションだった
- なぜミラーレスはカメラ業界の救世主となれなかったのか?
- ミラーレスカメラの誕生と革新性
- ミラーレス誕生の背景
- ミラーレスに積極的だったメーカーと消極的だったメーカー
- 燻り続けるマウント径とセンサーサイズの選択の問題
- 新しい市場を開いたミラーレス、しかしミラーレスにも未来はない?
- 各社のミラーレスシステムの問題点
- ミラーレスさえもカメラ業界の衰退は救えなかった
- カメラが売れなくなった本当の責任は誰にあるのか?
- カメラ業界の衰退を招いた真の犯人は誰だ?
- 過剰に斜陽化を煽ったメディア
- 利益率や販売目標しか考えなかったカメラ販売店
- ノイジーマイノリティのプロカメラマンやカメラマニア
- あるべきカメラの姿を示せなかったカメラメーカー
- カメラ業界を衰退させたのは誰だったのか?
というわけで今回はカメラ産業の斜陽化の原因と、現在のカメラ業界が抱える問題点について色々と考えてみたいと思います。
■カメラ業界の悲惨な現状
CIPA統計から見る2018年のカメラ産業
CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)が発表している、デジタルカメラの生産出荷統計の2018年のデータを見てみましょう。
見やすくするために、2018年の1〜3月分の出荷数量を前年同期と比較して表にしてみました。
区分 | 総出荷 | |||||
世界全体 | 日本 | 海外 | ||||
台数 | 同期比 | 台数 | 同期比 | 台数 | 同期比 | |
カメラ全体 | 4,358,637 | 73.0% | 753,644 | 78.6% | 3,604,993 | 72.0% |
コンデジ | 1,913,554 | 58.8% | 480,650 | 75.6% | 1,432,904 | 54.7% |
レンズ交換式 | 2,445,083 | 90.1% | 272,994 | 84.6% | 2,172,089 | 90.8% |
一眼レフ | 1,604,044 | 92.9% | 126,343 | 69.5% | 1,477,701 | 95.6% |
ミラーレス | 841,039 | 85.2% | 146,651 | 104.1% | 694,388 | 82.1% |
あらゆる項目で前年を割る出荷傾向
出荷台数を見て見ると、なんとミラーレスの日本向け出荷分のみ前年を上回るものの(前年比104.1%)、それ以外はほぼ全て前年を下回っています。世界全体で見ると、
- デジタルカメラ全体:前年比73.0%(-27.0%)
- コンパクトデジタルカメラ:前年比58.8%(-41.2%)
- レンズ交換式カメラ全体:前年比90.1%(-9.9%)
- 一眼レフカメラ:前年比92.9%(-7.1%)
- ミラーレスカメラ:前年比85.2%(-14.8%)
とうように、あらゆる項目で出荷台数は大幅にダウンしてしまっています。
頼みの綱のミラーレスさえも前年割れ
コンデジは勿論のこと、何とかカメラ業界を支えていたレンズ交換式カメラ(一眼レフ・ミラーレス)さえも出荷台数の下落に歯止めがかけられず、唯一の希望と言われていたミラーレスも2018年に入ってから、世界全体で前年比85.2%と、14.8%ダウンという悲惨な状態が続いています。
CIPAによる2018年のカメラ出荷台数予想
また、CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)も2018年の「カメラ等品目別出荷見通し(出荷台数予測)」において、
- デジタルカメラ全体:前年比93.6%
- 日本向け:前年比94.3%
- 海外向け:前年比93.5%
- コンパクトデジタルカメラ全体:前年比91.0%
- 日本向け:前年比91.3%
- 海外向け:前年比90.9%
- レンズ交換式カメラ全体:前年比96.6%
- 日本向け:前年比100.0%
- 海外向け:前年比96.2%
という、厳しい市場予測をしています。
■カメラが売れなくなったのはスマホのせいではない?
カメラが売れないのは本当にスマートフォンのせいなのか?
良くデジタルカメラが売れなくなった原因として、「スマホのカメラ性能が上がったのでカメラが要らなくなったから」という話を聞かれたことが良くあると思います。
しかしこれは全く関係がないとは言いませんが、必ずしもスマートフォンの普及がデジタルカメラが売れなくなった理由の全てとは言えないのではないか?と私は考えています。
というのも、スマートフォンのデジタルカメラの出荷数の動向を比較すると、
- スマートフォンの出荷数
- 2006年から増加
- 2009年から激増
- コンパクトデジタルカメラの出荷数
- 1999年から増加
- 2008年がピーク
- 2011年から減少
- レンズ交換式カメラ(一眼レフ・ミラーレス)の出荷数
- 2003年から増加
- 2012年がピーク
- 2013年から減少
このように、確かにスマートフォンの出荷数が大幅に増えた時期とコンパクトデジタルカメラの出荷台数の減少時期はほぼリンクしているのですが、一眼レフやミラーレスが減少し始めた年とは4年ものズレがあります。
スマホで代替可能でも伸びている産業もある
スマートフォンの普及とレンズ交換式カメラの出荷台数の減少に時期の差がある点については、「スマートフォンのカメラ性能の向上に時間がかかったため、レンズ交換式カメラはコンパクトデジタルカメラほどすぐには影響を受けず、影響が出るまでのタイムラグがあったから」、という考え方も出来ます。
しかし、スマートフォンはありとあらゆる黒物家電を代替する機能がありながら、その登場後も「スマートフォンで代替可能でありながら衰退しなかった産業」も沢山あります。
例えば、カメラ事業からの撤退が決まったものの、コンパクトデジタルカメラの老舗メーカーとして皆さんもご存知のカシオ計算機ですが、カシオ計算機の有名な事業として以下のようなものがあります。
- デジタルカメラ
- 時計
- 電卓
- 電子辞書
この全てがスマートフォンで簡単に代替可能なものであり、多数のアプリも出ていますが、実際にはデジタルカメラ事業のみが不調で、日経新聞などでもカシオのデジタルカメラ事業からの撤退が報じられていますが、その他の「時計」「電卓」「電子辞書」いずれの事業もカシオの業績は好調なのです。
ちょっと不思議に感じられるのではないでしょうか?「スマートフォンがあれば(単体の)カメラは要らない」という理論から考えるなら、スマートフォンがあれば腕時計も電卓も電子辞書も不要なはずです。
しかし実際にはこれらは売れており、カシオ計算機の2017年の決算説明会の資料によると、各セグメントの売上高は、
- デジタルカメラ事業:約185億円
- 時計事業:約1,696億円
- 電卓事業:約422億円
- 電子辞書事業:約211億円
となっています。
各セグメントの売上高をデジタルカメラと比較すると、電子辞書は約1.14倍、電卓事業は約2.28倍、時計事業に至っては約9.16倍もあるのです。
G-SHOCKやPRO TREKなどの人気シリーズがある時計事業はまだしも、なんと電卓事業でさえデジタルカメラ事業の2.28倍もの売上高があるのです。
日経新聞のインタビューでも、カシオの樫尾和宏社長は、「電卓はまだ成長できる」と語っています。
2018年(2017年度)の通期決算の資料がまだ出ていないものの、最新の2018年3月期第3四半期決算説明会資料によると、
- 時計事業:売上高+4%増収/利益率20%
- 教育事業(電卓・電子辞書・楽器):売上高+8%増収/利益率6%
- デジタルカメラ事業:売上高-30%減収(赤字10億円)
となっており、時計や電卓や電子辞書は増収しており、対してデジタルカメラは大幅な減収となっています。
つまり、スマートフォンがこれだけ普及し、デジタルカメラ同様にその影響が直撃しそうな分野において、同じメーカー内であってさえ、「時計」「電卓」「電子辞書」などはその影響をほとんど受けていません。
さらに時計に関してはApple Watchを始めとするスマートデバイスが登場し、実際にそれらが売り上げを伸ばしているにも関わらず、カシオの時計事業の売上高はむしろ伸びているのです。
伸びている時計業界
これはカシオだけの特殊な現象ではなく、JCWA(一般社団法人日本時計協会)が発表している財務省貿易統計と日本時計協会の統計に基づくデータによると、2017年の日本の時計市場規模(推定)は、
- ウォッチ(腕時計)の市場規模
- 数量:33,700,000個(前年比1.0%増)
- 国内メーカー品:8,900,000個(前年比4.0%減)
- 輸入メーカー品:24,800,000個(前年比2.0%増)
- 実売金額:8,004億円(前年比1.0%増)
- 国内メーカー品:1,859億円(前年比3.0%減)
- 輸入メーカー品:6,145億円(前年比2.0%増)
- 数量:33,700,000個(前年比1.0%増)
- クロック(置き時計・掛け時計)の市場規模
- 数量:28,800,000個(前年比1.0%減)
- 国内メーカー品:11,300,000個(前年比3.0%減)
- 輸入メーカー品:24,800,000個(前年比1.0%増)
- 実売金額:568億円(前年比4.0%増)
- 国内メーカー品:1,859億円(前年比1.0%減)
- 輸入メーカー品:6,145億円(前年比13.0%増)
- 数量:28,800,000個(前年比1.0%減)
となっており、スマートフォンの影響を受けそうなウィッチ(腕時計)部門で、国内全体で数量・金額ともに微増しています。
品種 | 数量(百万) | 前年比 | 金額(億) | 前年比 | |
ウォッチ | 国内品 | 8.9 | -4.0% | 1,859 | -3.0% |
輸入品 | 24.8 | +2.0% | 6,145 | +2.0% | |
合計 | 33.7 | +1.0% | 8,004 | +1.0% | |
クロック | 国内品 | 11.3 | -3.0% | 404 | +1.0% |
輸入品 | 17.5 | +1.0% | 164 | +13.0% | |
合計 | 28.8 | -1.0% | 568 | +4.0% |
勿論この数値には輸入品も含まれているため、細かくデータを見ると、国内品は微減しており、全体の成長を牽引しているのは輸入品ではあるのですが、国内品であっても輸入品であっても時計市場全体では数量・金額ともに僅かですが成長しているわけです。
しかもこれは、スマートフォンやスマートデバイスで代替されやすいと考えられがちな、ウォッチ(腕時計)のカテゴリーでより顕著に伸びています。
これは現在だけの話ではなく、矢野経済研究所の調査による2017年1月のレポート(PDF)によると、時計市場は今後も伸びていくことが予想されています。
また体感的に皆さんも、「スマホの影響でカメラが売れない」というのは良く聞いても、「スマホの影響で時計が売れない」とか、「スマホの影響で電卓が売れない」という話は意外と聞かないのではないかと思います。
つまり、スマートフォンで代替可能なデジタル機器であっても、必ずしもその産業が斜陽になるというわけではないということなのです。
SNSの普及もデジタルカメラの衰退の原因とは言い切れない
先ほど、「デジタルカメラの売り上げの減少は必ずしもスマートフォンの影響とは言い切れない」、というのをご説明させていただきました。
ただし、カメラというジャンル内で見れば、スマートフォンは、近年急速に普及したSNSとの親和性が単体カメラよりも高いため、そうした用途としてはデジタルカメラよりもスマートフォンの方が有利であることは事実です。
しかしながら、そもそもコンパクトデジタルカメラも、一眼レフも、SNSが爆発的に普及する以前から存在し買われてきたわけです。
特に一眼レフのようなレンズ交換式カメラを購入していた人々は、SNSにアップロードするために一眼レフを購入していたわけではないのですから、「SNSが普及したからSNSと親和性の高いスマートフォンが沢山売れる」、ということはあっても、もともとSNS用途ではなかった一眼レフのようなカメラまで買わなくなる、というのは筋が通らないように思います。
「スマートフォンに対する出費が増えるために、カメラにお金がかけられなくなったのではないか?」、という考えもありますが、それであればやはり時計業界の売り上げが上がるというのは、辻褄が合いません。時計にかけられる金額も減少するはずだからです。
また、スマートフォンのカメラ性能の向上は確かに目覚ましく、一般の方が「コンデジを買わなくてもスマホで十分」となった部分はあるかも知れませんが、そもそもコンデジで十分と思わなかったから一眼レフを買っていた写真愛好家にとって、スマホの画質が幾ら向上したからといっても、スマートフォンとレンズ交換式カメラでは、画角の自由度や操作性が大幅に異なることから、コンデジからスマートフォンのカメラで満足することはあっても、一眼レフやミラーレスからスマートフォンに移行した、とは思えません。
もし本当に「スマホの画質が良くなったから、もう一眼レフやミラーレスからスマホに移行しよう」となったのであれば、それ以前に大型センサーを搭載したような高級コンパクトデジタルカメラが登場した時点で「コンデジで十分、一眼レフやミラーレスは不要」となって、レンズ交換式カメラの売り上げは大幅に落ちていたはずですが、実際はそうはなりませんでした。
スマホが登場しなくてもカメラ業界はダメだった?
結局のところ、良く言われるような「スマホが普及したから、カメラが売れなくなった」とか「スマホのカメラ性能が向上したから、カメラが売れなくなった」という論調は、「マスメディアが考えたカメラが売れなくなった理由」を、「そうニュースで聞いたから」あるいは「新聞にそう書いてあったから」というだけで、多くの人が盲目的に信じ込んでしまっているだけなのではないか?という気がするのです。
つまり、スマートフォンが普及しようがしまいがカメラの業界は凋落していた、と私は考えています。
■21世紀のカメラ業界の動向
デジタルカメラ登場以降カメラ産業を支えたブーム
さて、カメラ産業の斜陽化の原因を考える前に、近年カメラが売れたのはどういう時か?という点を考えてみたいと思います。
それらは主に3つ、
- デジタルカメラの登場
- カメラ女子ブームの登場
- ミラーレスカメラの登場
などでしょう。
まずは、
- これらの流行がどのようなものであったか?
- なぜそれらの流行が終わりを告げたのか?
についてお話ししたいと思います。
■デジタルカメラへの移行は幸運なブームだった
デジタルカメラへの移行は単なる「長いブーム」だった
デジタルカメラが登場し、かつ一般的な価格になったことは、カメラ史における大きな革新であったと同時に、空前のカメラブームの始まりでもありました。
老若男女にまで広がったフィルムカメラからデジタルカメラへの買い替えは、テレビ業界で言えば「ブラウン管から液晶テレビへの買い替え」のようなものであり、移行が終わればブームも落ち着いてしまうということが予め分かっていたものでした。
実際にはデジタルカメラが行き渡ってからも、画素数の向上や動画機能の搭載、高感度画質の向上など、しばらくの間はデジタルカメラの性能向上が目覚しかったために新機種への買い替えが起こり、このブームは比較的長期間続くことになります。
デジタルカメラへの移行の完了と進化の鈍化
フォトコンテストで頻繁に入賞するような方々は、「最新機種+高級レンズ」のような組み合わせで撮っているわけではなく、良く言われるように、意外と型落ち機種と比較的安価なズームレンズの組み合わせなどで撮影しているというケースも多いのです。
また、プロカメラマンも当然デジタルカメラへの移行はとうの昔に済ませており、逆に今でもフィルムカメラを使っている一部のカメラマンや写真家は、もうデジタルに移行する気がそもそも無い、フィルムの表現を好むカメラマンです。
そして、デジタルカメラを使っているプロカメラマンも、「最新機種が出る度に買い換える」という雰囲気ではなく、安価ではないものの最新ではない、つまり「個人的に気に入っている機材」を愛用し続け、時々本当に気に入ったものが出たら機材を更新する程度といった状況に落ち着いています。
つまり、デジタルカメラの性能は一般層には勿論、プロカメラマンにとってさえ十分な成熟期に入ってしまっており、純粋に写真を撮るということを目的とした場合、最新機種を使っているということにある種のステータスを感じるカメラマニア以外にとって、性能的な面で新機種に頻繁に買い換える必然性は無くなりました。
このデジタルカメラの性能が成熟期に入ったことにより、「とにかく新機種に買い替えた方が良い」という売れ方はなくなってしまったわけです。
そしてデジタルカメラへの以降という、近年最大のカメラ業界のブームは終焉を迎えることとなりました。
■メーカーも踊らされたカメラ女子ブーム
カメラをファッションにしてしまったカメラ女子ブーム
次にカメラ女子(またはカメラ男子)ブームですが、これは完全に一過性の流行でした。
いわゆる「カメラ女子」が話題になった際、宮崎あおいさんをCMに採用したオリンパスがその流行を牽引し、オリンパスを中心にそうしたカメラ女子を意識したデザインのカメラやアクセサリーが多数リリースされ、またカメラ女子というイメージを重視したプロモーション活動が頻繁に行われていました。
しかしこれは完全に単なるファッションであり、当時は、
- そのカメラはどういう機種であるのか?
- そのカメラが自分の撮影目的に合っているのか?
といった、本来カメラ選びで重要な点は殆ど無視された状態で、機種が選ばれるという非常に歪な現象が起きていました。
その代表的な例としては、「どんなカメラかは良くわからないけれど、CMで宮崎あおいが使っているのと同じカメラを買う」といったようなケースです。
これはハッキリ言って非常に馬鹿げたカメラの選び方だと思いますが、実際にこうしたケースは多くあり、また「いわゆるカメラ女子」を目指した女性達にとって、カメラは単なるファッション的なアクセサリーであり、極論そのカメラの特徴や性能などはどうでも良かったのです。
これは別にオリンパスのカメラに対する批判ではなく、選ぶ側が性能に関心が薄く、カメラ選びの基準が「ファッションとしてどうか?」という部分しか見ていなかった、という意味です。
元々カメラ女子ブームが起こる以前から、真剣に写真を撮影している女性や、写真撮影を楽しんでいる女性は沢山おられましたし、それは今も変わりません。
しかし、カメラ女子ブームでカメラを購入した若者たちの一体どれだけが、今も一眼レフやミラーレスで写真を撮っているのでしょうか。
売れさえすればいい、というカメラメーカーの姿勢
そして、多くのメーカーがこうしたカメラ女子ブームに乗ってカメラを売ろうとしたわけですが、こうした売り方は、本当にカメラ産業の未来を考えた時、理想的な売り方だったと言えるのかは疑問です。
メーカーというのはどうしても競合他社と売り上げやシェアを比較してしまいますから、他社がそうした売れ方をしているのなら自社も遅れをとってはならないと感じるは致し方ない部分もあるでしょう。
しかし、多くのメーカーがこうした流行に乗ろうとした結果、
- カメラとして機能的とは言えないおしゃれなだけのデザイン
- 意味もなくクラシックカメラを復刻したようなデザイン
といった、訳のわからないカメラが多数リリースされる結果となりました。
しかも、カメラに詳しいはずのカメラマンやカメラマニアたち率先してこうした「(機能的な意味はなくとも)クラカメ的なデザインのカメラ」を熱望し、「写真を撮るための道具」という、カメラの本質を無視した流行を作ってしまいました。
またカメラメーカーも、中身が大して変わらないデザイン違いの機種や、値崩れを戻すための新機種などを連発したために、製品サイクルが異常に早まり、酷い例になると、「エフェクトの種類を少し追加しただけで新機種」などという、全く馬鹿げた新製品さえ登場することになります。
こうした「売れさえすればなんでもいい」というポリシーのないカメラ作りが、後のカメラ業界に大きな影を落とすこととなります。
カメラ男子も一種のファッションだった
ちなみに実は当時はカメラ女子だけでなく、「カメラ男子」も流行っており、カメラ女子が「ナチュラル系のファッションにオリンパスに代表されるミラーレスカメラをぶら下げる」、というのが定番であったのに対して、「カメラ男子」は、もう少し違う方向性で、オシャレというよりは、「マニアックな自分をアピール」するという方向性があったように思います。
一例を挙げると、
- ミラーレスカメラ+マウントアダプター+クラシックレンズ
という、カメラメーカーが適切にマッチングした最新のレンズがあるにも関わらず、わざわざ機能性を犠牲にして見た目のために他社製のクラシックレンズ(あるいはクラシックなデザインのレンズ)を付けるというのが流行していました。
勿論すでに所有するレンズを使いたいとか、優秀なMFレンズだから使いたい、という場合も一部にはあったものの、当時のこうしたミラーレス+マウントアダプター+クラシックレンズという組み合わせは、カメラ男子的なファッション、つまり非常に嫌味な言い方をすれば、「MFレンズとか付けちゃうマニアックな俺どうよ?」という、一種のナルシシズム的な意味合いが強かったように思います。
カメラ女子もカメラ男子も結局単なるファッションだったのですから、当然その流行が長続きすることはありませんでした。
■なぜミラーレスはカメラ業界の救世主となれなかったのか?
ミラーレスカメラの誕生と革新性
最も最近にカメラ業界に起きた大きなブームといえばミラーレスカメラの誕生でしょう。
ミラーレスカメラの登場時、パナソニックがLUMIX G1を世に送り出した時にはミラーレスというシステムに大きな未来を感じさせてくれました。
- 一眼レフの登場
- オートフォーカスの登場
- デジタルカメラの登場
ミラーレスカメラはこれらに匹敵するほどの大きな革新であり、実際にクイックリターンミラーを廃したミラーレスシステムだからこそ可能になった多くの進化も起こりました。
それはコントラストAFや撮像面AFによる撮影画面全体のほとんどをカバーする測距エリアであったり、クイックリターンミラーの動作を不要とすることによる超高速連写などでした。
ミラーレス誕生の背景
ミラーレスカメラが誕生した背景には、純粋に更なるカメラの進化を求めたというよりは、どんなに素晴らしい一眼レフを作っても、結局お客さんがキヤノンとニコンしか買ってくれない、というキヤノンとニコン以外のカメラメーカーの苦悩があったように思います。
そうした一眼レフ時代の、購入する側の強烈なブランド信仰という現実があり、ミラーレスシステムとは、「これ以上一眼レフで勝負しても無駄、新しい土俵で戦わなければ」という生き残り策を切実に考えた結果から生まれたものと言えるでしょう。
勿論それは技術革新によって伝統を討ち破らんとする素晴らしい努力でもあり、そしてパナソニックとオリンパスからマイクロフォーサーズシステムが登場、その他のメーカーも追随していくことになります。
そしてミラーレス市場の拡大を見て、キヤノンとニコンも後追いで参入していくことになります。
ミラーレスに積極的だったメーカーと消極的だったメーカー
当時一眼レフでそれなりのシェアを持っていたキヤノン、ニコン、ペンタックスに関しては、ミラーレスに対してやや消極的であり、「自社の一眼レフシステムを脅かさない範囲」という前提で、ミラーレスにも手を広げるという状態でした。
- ミラーレス主力:オリンパス、ソニー、パナソニック、富士フイルム
- 一眼レフ主力:キヤノン、ニコン、ペンタックス
敢えてどちらに軸足を置いているか?と考えた場合、このような分類でした。
リコーのGXRやペンタックスのKマウントミラーレス機K-01、シグマのsd Quattro/sd Quattro Hのような、ミラーレスカメラとは言っても、一眼レフ用のマウントを流用したものや、ユニット交換式という変わったシステムも誕生しましたが、いずれも少なくとも商業的な面から言うと成功したとは言えませんでした。
燻り続けるマウント径とセンサーサイズの問題
また、新規のミラーレス用マウントを採用したメーカーでも、イメージセンサーの大きさの違いによって、そのメーカーのミラーレスシステムに対する考え方の違いが感じられました。
一般的には、「APS-C以上の大きさのセンサーを搭載しているものを大型センサー採用ミラーレス機」という市場のイメージが形成され、以下のような分類がされました。
- 大型センサー:ソニー、キヤノン、富士フイルム
- 小型センサー:オリンパス、パナソニック、ニコン、ペンタックス(Qマウント)
大型センサーを搭載したメーカーは、セールストークとして、「ボケの大きさ(※正確にはセンサーサイズとボケ量はイコールではありません)や、高感度耐性の高さ」などの画質面をアピールし、逆に小型センサーを採用したメーカーは、「レンズを含めたシステム全体の携帯性」などをセールスポイントとしていました。
このセンサーサイズの選択の違いによって、カメラマニアの間に熾烈な「センサーサイズ論争」のようなものが生まれることとなります。
この論争はカメラマニアの間では今も尚続いており、これはレンズ交換式カメラが、マウント口径や既存のレンズのイメージサークルによる制約を受けるために、後から「流行に乗ってセンサーを大きくする」というようなことが難しく、またそのままでは異なるマウント間ではレンズに互換性がないということに起因します。
それゆえ、各マウントの熱心なファン、あるいは信者と言い換えてもいいでしょうが、そうした人々にとって、支持するブランドのマウントのコンセプトは絶対に譲れない部分であるため、論争の的となってしまったわけです。
現在のミラーレスカメラは、コンパクトデジタルカメラ並みの比較的小さなサイズのイメージセンサーを搭載したモデルから、中判にカテゴライズされる大型のイメージセンサーを搭載したミラーレスカメラまで出ています。
ちなみに非常に特殊なカメラではあるものの、実はすでに大判のイメージセンサーを搭載したデジタル大判カメラも存在し、これはある意味では大判ミラーレスカメラ、という言い方も出来るのかも知れません。
基本的には大型センサーを搭載したメーカー(ソニー、キヤノン、富士フイルム)陣営の方が、世界的に見た場合セールス的には優勢ですが、これはキヤノンとソニーという強大な資本力とブランド力を持つメーカーが、その強い販路や膨大な広告費によって優位に立っているという部分もあるでしょう。
いずれにせよ、2017年時点での国内市場のシェア順位は、オリンパス、キヤノン、ソニーとなっており、これは一眼レフ時代には考えられなかったことです。
新しい市場を開いたミラーレス、しかしミラーレスにも未来はない?
一眼レフ時代にキヤノンとニコンばかりが売れていたのは、そのシステムの充実度はもちろんですが、ブランド力による部分もあったことは事実でしょう。
もちろんブランドを築くというのは一朝一夕に出来ることではなく、そのブランディングの能力もメーカーの実力であることは否めません。
しかし同時に「特定のブランド以外、他のメーカーがどんなに素晴らしいカメラを作っても売れない」というのは、購入する側の根深いブランド信仰の問題でもありました。
つまり、ユーザー側がブランドで選ばず、真に自分の用途にあったカメラ、あるいは自分の用途あったカメラシステムを選んでいれば、一眼レフ時代もっと各社のシェアバランスは取れていたのではないかと思います。
現在は、キヤノン・ニコン以外のカメラメーカーもミラーレスによって一時的に息を吹き返しましたが、後発かつミラーレスに対して消極的に見えるキヤノンが、既にミラーレスの世界・国内シェア共に2位であること、また例えば2017年にはソニーがα9やα7R IIIといった非常に話題性のあるカメラをリリースしたにも関わらず、結局最も国内のミラーレス市場で最もシェアを伸ばしたのはキヤノンでした。
全国の量販店のPOSデータを日次で収集・集計した2017年の販売台数 | |||
順位 | 1位 | 2位 | 3位 |
メーカー | オリンパス | キヤノン | ソニー |
シェア | 27.7%(前年比+0.9%) | 21.3%(前年比+2.8%) | 20.2%(前年比+2.3%) |
最近では、これまで、「レンズ交換式カメラのメインシステムはあくまでも一眼レフであり、ミラーレスはサブシステム」と位置付けていた、キヤノン・ニコンからもフルサイズセンサーを搭載したプロレベルのミラーレス機が登場すると噂されています。
もしも全メーカーがミラーレスに完全に軸足を移したとしても、その未来にあるのは、「結局なにを出してもキヤノンしか売れない」という一眼レフと同じ状況が再び起こるのではないか?という懸念があります。
現在カメラマニアの間では、「一眼レフ派vsミラーレス派」という対立がしばしば見られ、一見するとこれは保守派(一眼レフ派)vs革新派(ミラーレス派)のように見えますが、実際にはこれらの根底には、「一眼レフを主力としているメーカーの信者vsミラーレスを主力としているメーカーの信者」というブランドの対立構造があります。
ところがこの一眼レフvsミラーレスという論争は、そもそもカメラ業界の将来性という点では実は全く無意味な議論なのだろうと思います。
つまりこのままでは、一眼レフとミラーレスのいずれがレンズ交換式カメラの主流であったとしても、カメラ業界の衰退は止まらないだろう、ということです。
各社のミラーレスシステムの問題点
折角なので、各社の「現行の」ミラーレスシステムの問題点について、敢えて辛辣な言い方で語ってみたいと思います。
- キヤノン(EOS M)
- ブランド以外に選ぶ理由がないラインナップとミレーレスに対する真剣さの欠如
- ニコン(Nikon 1)
- Fマウントへの異常な固執とそれに起因するミラーレスの低い位置付け
- ソニー(α)
- 開発者が日頃写真を撮っていないというのが直ぐ分かるカメラとしての作り込みの甘さ
- オリンパス(PEN/OM-D)
- センサーサイズが将来の足枷になると考えなかった先見性の無さと理解しにくいメニュー体系
- パナソニック(LUMIX G)
- 先行の利を全て無駄にした販売戦略とセンサーサイズの選択
- 富士フイルム(X/GFX)
- マニアの顔色を伺いながら作られただけの色褪せた未来のないコンセプト
- リコー(GXR/Q)
- ユニット交換式やQマウントのような無理筋なシステムとそれに反対できない社風
- シグマ(SD)
- 既に役割を終えているFoveonやSAマウントに固執するしかない逃げ場のない状況
このような感じでしょう。
メーカーやメーカーのファンの方が聞いたならさぞかしお怒りになるでしょうが、全メーカーに売れて欲しいと思っているが故の個人的な感想であり、どうかご理解頂ければと思います。
そして、こうした視点もまた、「所詮マニア的な見方」であり、各メーカーがこれらの問題点を改善したとしても、一般的な意味でのカメラ市場の活性化には全く影響を与えないでしょう。
ミラーレスさえもカメラ業界の衰退は救えなかった
また、「落ち目なのはコンデジや一眼レフであって、ミラーレスは伸びている」というイメージがありますが、冒頭に紹介したように、実際には既にミラーレスも減少傾向となっており、2018年のミラーレスカメラの1-3月期の累計出荷台数は、なんと前年比85.2%(-14.8%)という一眼レフ以上の大幅なダウンとなっています。
高付加価値化を勧める事で、金額面ではなんとか検討しているものの、写真用カメラ業界にとって最後の希望と目されていたミラーレスカメラでさえも、既にかなりの苦境に立たされているというわけです。
区分 | 20018年(1-3月期)デジタルカメラ出荷台数と前年同期比 | |||||
世界全体 | 日本 | 海外 | ||||
台数 | 同期比 | 台数 | 同期比 | 台数 | 同期比 | |
レンズ交換式 | 2,445,083 | 90.1% | 272,994 | 84.6% | 2,172,089 | 90.8% |
一眼レフ | 1,604,044 | 92.9% | 126,343 | 69.5% | 1,477,701 | 95.6% |
ミラーレス | 841,039 | 85.2% | 146,651 | 104.1% | 694,388 | 82.1% |
噂されているように、キヤノンとニコンからフルサイズミラーレスが登場すれば、一時的にはカメラマニアは盛り上がるでしょうが、しかしそれらも、一般人や世間を動かすような本当のブームを新たに起こすことは出来ないだろう、という気がしています。
また、レンズ交換式カメラの革命のように思えたミラーレスシステムですが、一眼レフもミラーレスも結局カメラの進化の一過程に過ぎませんから、もちろん各社が協調することなどあり得ず、辛うじてパナソニックとオリンパスがマイクロフォーサーズで共闘したものの、「ミラーレスによる夢の統一マウント」などというものも、当然実現することはありませんでした。
そして一般の人にとっては、ミラーのあるなしは実は対して重要ではないため、それゆえ、「ミラーレス」というワードをメディアが取り上げなくなった途端そのブームも落ち着いてしまいました。
そして今のカメラ業界にとって問題なのは、「結局一眼レフもミラーレスもどちらもカメラ業界を支えられそうにない」、ということなのです。
■カメラが売れなくなった本当の責任は誰にあるのか?
カメラ業界の衰退を招いた真犯人は誰だ?
最初にご説明したようにスマートフォンが普及してからも、スマートフォンで代替可能な製品でありながら、影響を受けなかった、あるいは逆に成長さえした産業さえあります。
とすれば、カメラ業界を斜陽にした真の原因はなんだったのでしょうか?カメラ業界に関わる人々のそれぞれの問題を考えてみたいと思います。
過剰に斜陽化を煽ったメディア
多くのメディアが「カメラが売れていない」「カメラは斜陽産業である」と事あるごとに伝えてきました。
確かにカメラが飛ぶように売れていた時期はありましたが、本来それらはデジタル化やカメラ女子ブームと言った一過性の流行によって一時的に売り上げが増加していたに過ぎず、そもそもフィルム時代は、レンズ交換式カメラなどはどこの家庭にもあるというようなものではありませんでした。
つまり、現在のカメラの販売台数は「ブームが去り、元の状態に戻った」というのが正しいのではないかと思います。
しかしそうしたブームが終わり、スマートフォンに世間の注目が移った瞬間、掌を返すように「カメラ業界は終わり」というような報道が席巻し、「もうデジカメを買うのは時代遅れ、これからはスマホで十分」という報道によって、さらなるカメラ販売の不振を加速させました。
つまり、本当に「スマホがあればカメラは要らない」のではなく、「スマホがあればカメラは要らない、という流行」をメディアが作ってきたわけです。
しかも凄いことに、このメディアによる一種の洗脳はカメラマニアにまで波及し、なんとカメラマニア自身が、実際にカメラやレンズを買ったり、「○○(機種名)が欲しい」と言いながら、一方では「スマホがあればカメラは要らない」と言っていたりするのです。
一見すると非常に矛盾したことをやっているのですが、本当にそうしたことが起きているのです。
テレビや新聞に対して、「もっとカメラ業界に配慮しろ」などと言っても仕方のない事ですが、メディアによる刷り込みの影響は非常に大きかったと思います。
利益率や販売目標しか考えなかったカメラ販売店
カメラを欲しいと純粋に思う人々、例えば子供が出来たばかりのいわゆるパパママカメラマンや、写真趣味を始めたいと思いついた初心者の方が、ヨドバシカメラやビックカメラに代表されるようなカメラ販売店の店員さんを頼りにカメラを選びに行くというのは、ECサイトが発展した現在でも一般的な光景です。
しかし実際にはこうした販売店のほとんど全てが、お客さんの用途に合ったカメラではなく、
- 利益率の高い新機種
- 売り上げに貢献する高級機
- キャンペーン中などで販売目標がある機種
といった機種を勧める傾向にあります。
これは、メーカーや派遣会社から販売店に派遣されているメーカー販売員さんだけの話ではありません。
一見中立に見える販売店の社員さんも、ほとんどの状況下で、会社側から、「重点的に販売するように指示されているカメラ」があったり、「より上位機の(つまり高価な)カメラを勧るように」、という指示がなされています。
こうした販売店の社員さんが、会社から売れと言われているカメラを勧めるという行為は、カメラメーカー(及び派遣会社から)から家電店に派遣されている販売員さんが「自社のカメラを勧める」というのと本質的には同じことなのです。
にも関わらず、多くの一般的な購入者は、「メーカーの販売員は公平ではないが、量販店の社員は公平に勧めてくれている」という思い違いをしています。
しかしそれがその人達の仕事であるのですから、私はカメラメーカーの販売員さんや販売店の社員さんを不誠実と言っているのではありません。
どのような販売業やサービス業(あるいはあらゆる仕事において)ても、似たようなことは行われているでしょう。
それは、結局「お客さんに対して誠実であるか」と「会社に対して誠実であるか」の違いに過ぎませんし、少なくとも推薦する機種のチョイス以外という部分では、お客さんに誠実に接している方の方が多いと思っています。
また、やはりカメラメーカーから派遣された販売員さんであっても、量販店の社員さんであっても、雇用主である企業から「このカメラを売れ」と言われれば、それに従わざるを得ないもので、それは個人の誠実さとは全く別なところにある問題なのです。
さらに言うなら、もしメーカーの販売員さんや販売店の社員さんが、自身の利害を無視してまでお客さんにとってベストなカメラを勧めたとしても、お客さんがそれを選ぶとは限りません。
つまり、例え店員さんがお客さんの用途に対してベストなカメラを勧めたとしても、お客さん側の意思で本来自分の用途にあっていないカメラを選択するというケースは実は非常に多いのです。
いずれにせよ、そうした様々な事情から、必ずしも「購入者にとってベストなカメラが勧められていない、あるいは購入されていない」という状況を生み出しています。
では価格.comに代表されるような、ネット上の口コミサイトの情報は公平かつ真実であるのか?というと、残念ながらそのようなことは全くなく、カメラのような趣味性の高いジャンルでは、そうした口コミサイトが、「メーカー信者同士の代理戦争の場」と化しているというケースがままあります。
というよりもカメラに関しては、ほとんどの口コミサイトがそうなってしまっていると言っても過言ではないでしょう。
結局のところ、本当に自分に合っているカメラを見つけるには、自分自身が写真やカメラに詳しくなる以外に方法はないのですが、こうしたカメラ販売店やネット上の口コミの偏向傾向が、写真を撮りたいと純粋に願う初心者の方にとって非常に不利益な状況を生んでいることも事実です。
ノイジーマイノリティのプロカメラマンやカメラマニア
プロカメラマン、またこの記事を読んで頂いているカメラマニアの方々にもカメラ業界の衰退の大きな原因があると思います。
プロカメラマンは「○○アンバサダー」というような言葉で装飾されてメーカーの広告塔となり、本当は良いとも思っていない機種を雑誌やセミナーやイベントで褒め称えてきました。
それどころか、普段の撮影で使用していないカメラを褒め讃えたり、同じイベント内で、午前はキヤノンブースでトークセミナーを行ってキヤノン機を褒めた後、午後にはソニー ブースでイベントに出てソニー機を礼賛する、といったことを平気でやっていたりするわけです。
勿論これも仕事で受けたものであるわけですから、それ自体が倫理的にどうこうということではありませんし、プロフォトグラファーも「複数のメーカーのカメラを撮影に応じて実際に使い分けている」というケースも当然あります。
しかしそうしたメディアの露出が多いプロカメラマンが使っているカメラが、そのカメラマンが実際に使っているとも、本心で良いと思っているとも限らないというのが現実であり、それは多くのカメラファンにとって、結果的には「不誠実なことをしている」と言われても致し方がないでしょう。
また一方で先ほども申し上げたように、カメラマニアたちは主にネット上で、メーカーの代理戦争を延々と繰り広げてきました。
しかしどんな有名なフォトグラファーであっても、どれほどカメラに詳しいカメラマニアであっても、所詮我々はノイジーマイノリティに過ぎないのです。
こうした「カメラに詳しい人たち」は往往にして、
- マニアックすぎる尖ったコンセプト
- 一般的には不要なほどの過剰スペック
- 過去のカメラを回顧するだけのクラシックデザイン
といったカメラを求める傾向がままありました。
もちろんカメラの基本性能が高いこと自体は悪いことではありませんが、新機種が登場するたびに行われる、「連写が秒○○コマだからダメ」「測距点たった○○かよ」、というような話は、そもそも一般人が必要とするカメラとはかけ離れた議論なのです。
しかしカメラマニア達がそうした無意味なスペックを求めることで、過剰なスペック競争へとカメラメーカーを導いてしまい、結果カメラの開発コストは上がり、カメラはどんどん高価格化していきました。
カメラ業界衰退の原因の一つは、一般人に意味のないカメラ作りの方向性を追い求めたことことであり、その遠因となったのは、まさしく我々のようなノイジーマイノリティなのです。
あるべきカメラの姿を示せなかったカメラメーカー
本来カメラメーカーは、そうしたプロカメラマンやカメラマニアといった、我々のような一種のカメラオタクの声に惑わされることなく、写真を撮る、あるいは写真を残すことの価値をマジョリティである一般人に伝え続けるべきだったと思います。
それはつまり、「多くの一般人の方を向いてカメラを作るべきだった」ということです。
ちなみに現在それが一番出来ているカメラメーカーは、実はキヤノンなのではないかと個人的には思っています。
つまり、キヤノンというメーカーは、カメラマニアには「売るのが上手いだけで、性能は良くない」という類の批判を受けることがあり、確かにスペックや画質で、他社競合機と比較して優位とは言えないケースが多いように思います。
しかしキヤノンのカメラを実際触ってみると、仮に普段それほどキヤノンのカメラを使い込んでいない、あるいはキヤノンのカメラに批判的な人であっても、操作が分かりやすく、また操作感がスムーズで、「あれ?なんか意外と悪くないな」と思ってしまうようです。
ましてやカメラに詳しくない人ほど店頭で触ると、そのブランド力だけでなく、「なんとなくキヤノンのカメラを気に入ってしまう」というケースが多いのです。
つまり、元々のカタログスペックから生まれる期待値と、実機の印象のギャップが、
- 期待値に高い他社のカメラは、実機に触ると期待以下だった
- 期待値が低いキヤノンのカメラは、実機に触ると期待以上だった
ということが良く起こるのです。
冷静に考えればそれでもキヤノンのカメラが総合的には勝っているわけではないとしても、カタログスペックから期待させるものよりも、実機の印象が下回れば人々は落胆するし、その逆に実機が期待値を上回れば人々は高揚するのです。
つまりキヤノンのカメラというのは、スペックでは競合機に負けていても、「実質的な使い勝手や、使い心地の面でよく作り込まれている」ということなのでしょう。
それは要するに、キヤノンというメーカーが、「機材オタクを無視して、写真を撮るプロフォトグラファーと一般人の方を見てのカメラ作りが出来ている」ということなのだろうと思います。
プロフォトグラファーが好んで使えば、ハイアマチュアやカメラマニアは勝手に付いてきますし、それらを取り込んでおけば、「身近なカメラに詳しい人」であるカメラマニアたちは、初心者からカメラ購入の相談を受けた時、やはり勝手にキヤノンを売り込んでくれるのです。
ですから、「売る」ということを戦略的に考えた場合、プロ機に関してはプロフォトグラファーに向けて、それ以外の機種は一般人の方を向いて作れば良いのであって、カメラマニアの意見は取り入れる必要は実はほとんどないのです。
この「カメラマニアの意見を聞き流す」という体質が、キヤノンがカメラマニアに批判されながらも、長い間業界のシェアトップを維持している理由であるように思います。
うがった見方をされると困るので申し上げておきますが、私はデジタルだけでも、
- ニコン(一眼レフ)
- キヤノン(一眼レフ・コンデジ)
- ソニー(ミラーレス)
- パナソニック(ミラーレス)
- 富士フイルム(コンデジ)
- ペンタックス(中判)
など様々なメーカーのユーザーで、特別にキヤノンに思い入れがあるわけではありません。
しかしそれでも、キヤノンの、
- 使い心地が良く売れるためのカメラ作り
- プロと一般人の要望を的確に汲み取るマーケティング
- カメラメーカーとしてのブランディング
少なくともこれらに関しては、全メーカーの中でも突出して優秀であると言わざるを得ません。
話を戻しましょう。
マジョリティである一般人の方を向いてカメラを作るには、先ほど申し上げたように、「適度にマニアの意見を聞き流す」という必要があるのですが、カメラメーカーは実は我々が考えている以上に我々の意見を理解しており、時にそのためにマニアックな意見を誠実に聴き過ぎて失敗してしまう場合があるのです。
カメラマニア達からは往往にして、「メーカーは俺たちの言うことを聞かない」とか、「俺たちの言うようなカメラを作れば売れるのに」というような意見を聞きますが、これは大きな勘違いで、むしろ多くのカメラメーカーはそうしたカメラマニアの意見を意識し過ぎているのです。
本来カメラメーカーは、そうしたプロフォトグラファーやカメラマニアといった、
- 一般人とはかけ離れた高い撮影技術を持つ人たち
- 異常なほどにカメラに詳しい人たち
- 特定メーカーに信仰心のようなものを持つ人たち
といった偏った人たちの意見を無視して、多くの一般人にとってのカメラの本質的な役割、それはつまり、単純に「人生の思い出を記録する道具」という部分を追求するべきだったのかもしれません。
しかしそれは、「一般人を集めて意見を聞くべき」と言っているのではありません。むしろメーカー側は一般人の意見を吸い上げる努力さえ既にしています。
しかし、そうした一般の人たちは、「本当に心の奥底で自分たちが望んでいる未来のカメラ像とはどういうものなのか?」などといったことを、日頃から考えているわけではありません。
なぜかと言うと、それが普通の人たちだからです。
ですから、一般の人を集めてヒアリングしたりアンケートを取っても、本当にその人達が願っている「これからのカメラの在るべき具体的な理想像」といったものは、適切に言語化されてメーカーに伝わったりはしないのです。
一般人にアンケートを取っても、例えば「SNSに綺麗な写真をアップできるカメラが欲しい」といった、いかにもどこかで聞いたような意見をコピーして言うだけなので、結局カメラの目指すべき未来像は、そうしたリサーチからは見えてこないわけです。
しかしそれでも、その「日頃特別な関心をカメラに対して持っていない人たちの、言語化できない潜在的な要望を的確に汲み取ること」こそが、本当のマーケティングの役割なのですが、それは非常に難しいことであるために、ほとんどのメーカーには出来ていません。
カメラメーカーは、「まだ世の中になく、そして人々が明確なイメージ出来ていない、しかし確かにある一般人にとっての理想のカメラ」を考えながら、カメラやアクセサリーを企画・開発するという困難な作業に挑む必要があります。
恐らくそれは、「会議室で皆で話し合って考える」というというような民主主義的な決め方では見つけられず、そうした方法は単に失敗した時の責任を皆で分散して誤魔化すだけの方法で終わってしまう事でしょう。
むしろそうしたカメラ業界を救う革新的なアイデアを持っているのは、カメラ業界の常識や現実に捕らわれにくい、入社したての若手社員かもしれませんし、カメラ業界とは全くかけ離れたところにいる人かもしれません。
カメラ業界を衰退させたのは誰だったのか?
というわけで、結局のところ、現在の写真用カメラ業界の斜陽を招いたのは、
- マスメディア
- カメラ販売店
- プロカメラマン
- カメラマニア
- カメラメーカー
などであり、スマートフォンの影響が全く無いとは言いませんが、自分たちの業界の問題点を顧みず、「スマートフォンのせいでカメラが売れない」というのは、責任転嫁に他ならないと私は思います。
また「スマホのせい」と念仏のように唱え続けていても、スマートフォンが無くなってくれる訳ではないので、そうした思考に囚われること自体無駄でしょう。
というわけで、今回は、なぜカメラ業界は衰退したのか?について考えてみました。
その結論としては、「全員のせいだ」ということになります。
もしもカメラ業界に再生する未来があるとすれば、カメラファンを含めたカメラ業界全体が、「自分たちこそがカメラ業界を衰退させた原因である」という厳しい自覚を持つことから始まるのでしょう。
参考:CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会)、JCWA(一般社団法人日本時計協会)
画像:CIPA(一般社団法人カメラ映像機器工業会),矢野経済研究所(PDF)
Reported by 正隆