皆さんこんにちは。
カメラマニアも初心者を抜け出すくらいになってくると、
- 縦位置の撮影時にカメラを構え直さなくて良い
- 三脚に横位置で固定したまま縦位置撮影もできる
といった理由から「正方形のイメージセンサーや円形センサーを採用してはどうか?」ということを考え始め、正方形イメージセンサー待望論のような意見が定期的に出てきます。
実は正方形のイメージセンサーを搭載したデジタルカメラは、レンズ一体型カメラ(コンパクトデジタルカメラ)で過去に存在はしていました。また工業用カメラや特殊撮影用カメラでは現在も存在しています。
しかしレンズ交換式カメラ、いわゆる「デジタル一眼レフ」や「ミラーレスカメラ」で、正方形イメージセンサーを採用している民生機は現時点ではありません。
これはコスト面だけでなく、
- 正方形イメージセンサーを採用できない理由
- 正方形イメージセンサーを採用するメリットがない
といったことがあるからです。
目次
- なぜ正方形イメージセンサーは採用されないのか?
- フルサイズセンサーを正方形にするとマウント径が足りない
- 電子接点と干渉してしまいオートフォーカスも出来ない
- 花形レンズフードやフレアカッターと干渉してこれまでのレンズがケラレてしまう
- フルサイズマウントに24×24mmのAPS-C正方形イメージセンサーを入れるのも無意味
- その他色々な意味で現実的ではない
- 正方形イメージセンサーの実現性は低い
- 正方形イメージセンサーは現実的ではないし作っても売れない
というわけで、今回は「カメラメーカーはなぜ正方形イメージセンサーを採用しないのか?」について解説したいと思います。
■なぜ正方形イメージセンサーは採用されないのか?
1.フルサイズセンサーを正方形にするとマウント径が足りない
フルフレームセンサーの大きさは約36.0×24.0mmとなるわけですが、これは長方形であるがゆえにマウントに収まるという場合が多く、単純に正方形にしてしまうとマウントによっては長辺の36.0mmを確保することができません。
正方形イメージセンサーで縦横共に36.0mmの長さをもたせると、イメージセンサーの対角長は約50.9mmとなります。
一般的なフルサイズイメージセンサー36.0×24.0mmの対角長は約43.3mmですから、マウント内径の有効径(バヨネット爪を除いた部分)が43.3mm以上あればセンサーを搭載しても一応問題ないのですが、対して正方形センサーで縦横共に36.0mmのフルサイズの画角を撮れるようにすると、マウント内径の対角長は50.9mm以上が必要となるわけです(実際はもっと必要なのですが)。
そこで主要カメラメーカーのフルサイズ対応のレンズマウントの内径を見てみましょう。
マウント名 | マウント径 | |
外径 | 内径 | |
ニコンZ | ー | 55.00mm |
キヤノンEF | 65.00mm | 54.00mm |
キヤノンRF | ー | 54.00mm |
ライカL/パナソニックL | ー | 51.60mm |
ソニーA | ー | 50.00mm |
ペンタックスK | ー | 48.00mm |
ニコンF | 57.00mm | 47.00mm |
ソニーE | 58.00mm | 46.10mm |
ライカM | ー | 43.90mm |
こう見て頂くとお分かりになると思いますが、マウント内径で51.0mmを確保できるのは、
- ニコンのZマウント
- キヤノンEF・RFマウント
- ライカLマウント
だけとなっています。
つまり、そのほかのソニーA・EマウントやペンタックスKマウント、ニコンFマウント、ライカMマウントなどでは、そもそも縦横共にフルフレームの36.0mmを確保するセンサーを搭載してもマウントでケラれてしまうので意味がないわけです。
例えばマウント内径が46.10mmのソニーEマウントを見て頂ければわかるように、長方形であるからフルサイズセンサーの長辺36.0mmが入るわけで、正方形にするために短辺の縦方向も伸ばしてもらえば、イメージセンサーの四隅がマウントでがっつりケラレてしまうのがお分りいただけると思います。
2.電子接点と干渉してしまいオートフォーカスも出来ない
正方形センサーが入らない場合が多いとしても、「四隅は使わないから、縦横ともに長方形のセンサーであれば良い」という考え方もあると思います。
つまり、
- 十字形センサー
- 円形センサー
といった考え方です。
仮にコストを度外視して、そのようなセンサーを作ったとしても、縦方向にセンサーサイズを伸ばしてしまうと、マウントの上下いずれかにはレンズとの通信を行うための電子接点があるため、イメージセンサーと電子接点がすぐに干渉してしまいます。
つまり、オートフォーカスさえ出来ないカメラになってしまうわけです。
レンズマウントの電子接点の位置は結構ギリギリの位置に配置されているため、特にEマウントような口径の小さなマウントでは正方形センサーにしてしまうと、ボディ側のマウント電子接点と瞬く間に干渉してしまうわけです(仮にEマウントでなくても干渉します)。
そのため、36.0×36.0mmの正方形がダメなら30.0×30.0mmならいけるのではないか?という考えをされる人もいますが、30.0×30.0mmでもマウント径の中には入っても電子接点とは干渉するので無理なのです。
縦位置横位置でカメラを動かさなくて良いが、オートフォーカスも出来ないしレンズとボディ間の情報のやりとりもできない。そんなカメラが果たして総合的に利便性が高いと言えるでしょうか?
また、30.0×30.0mmというセンサーサイズは、このあとレンズフードやフレアカッターとも干渉するため、いずれにせよ無理なのです。
3.花形レンズフードやフレアカッターと干渉してこれまでのレンズがケラレてしまう
花形レンズフードや角形レンズフードは画角外からくる有害光を効果的にカットできるように、花形フードや角形フードは、ケラれない範囲で撮影画面比率に合わせて設計されています。
そのため、イメージセンサーだけ正方形センサーにして縦位置モードで撮影したとしても、花形レンズフードや角形レンズフードではケラレが生じてしまいます。
言ってみれば、花形フードや角形フードを90°取り付け位置をズレてしまった状態で撮影しているのと同様のことになってしまうわけです。
また、レンズのマウント側にも有害光をカットするための「フレアカッター」と呼ばれる部分が設けられているレンズが多数あります。
このレンズマウント側にある長方形の黒いマスクが「フレアカッター」です。
これはイメージセンサーの側に射出される有害光をレンズ後端でカットすることでフレアやゴーストを抑制する仕組みで、言って見れば「レンズ後側でのレンズフードのような役割」を担っています。
そのため、イメージセンサーだけ正方形にしても、これまで沢山発売したレンズの多くでレンズフードやフレアカッターが原因のケラレが生じてしまい、レンズの互換性を担保できなくなってしまうというわけです。
極端な解決策として正方形センサーで縦位置モードに切り替えた時に、マウント部分にレンズを90°回転させる機構を搭載し、レンズフードやフレアカッターも縦位置用になるようにぐるっと回転させてしまえばケラレることはありません。
しかし実際にそんなことをしたら、ボディはレンズ回転機構を盛り込みながら強度を確保するために、一気に大きく重くなるでしょうし、ボディ側で縦位置撮影モードに設定した瞬間に、レンズがぐるっと自動で90°も回転するのはあまりにも危険でしょう。
アオリレンズのようなリボルビング機構をレンズに搭載しても、レンズの大型化や高価格化は避けられませんし、そもそも手動でリボルビング機構を動かすくらいならカメラを縦位置に構えなおした方が早いので、アオリレンズのような機構は特殊な撮影用途があってこそ成立しています。
正方形のフォーマットを最初から想定して作られている中判フィルムカメラ用のレンズと、現代のデジタルカメラ用のレンズでは条件が異なるため、中判フィルムカメラで正方形フォーマットが出来ていたからといって、今のデジタルカメラでも正方形フォーマットが出来るというわけではないのです。
4.フルサイズマウントに24×24mmのAPS-C正方形イメージセンサーを入れるのも無意味
フルサイズマウントに36.0×36.0mmの正方形イメージセンサーを搭載することが無理なら、フルサイズ対応のマウントに24.0×24.0mmのいわば「APS-C正方形イメージセンサー」のようなものを入れれば、
- マウント径
- 電子接点
- 花形レンズフードやフレアカッター
と干渉しないのではないか?という方法もありますが、これはそもそもアイデア自体に価値がありません。
説明するまでもありませんが、そんなことをするくらいなら普通に36.0×24.0mmのフルサイズセンサーを搭載して、縦位置クロップ撮影モードを搭載したり撮影後にトリミングすれば良いわけです。
また「24.0×24.0mmのAPS-C正方形イメージセンサーならAPS-C用レンズも使えて便利なのではないか?」というと、使えません。
APS-C用レンズであっても花形レンズフードやフレアカッターを採用したレンズは多く、正方形イメージセンサーのアピールポイントである縦位置の比率にクロップした時に上下がケラれるレンズが多発してしまいます。これは先ほどの項目で説明したことと同じことがAPS-C用レンズでも起こるわけです。
そのため、丸型レンズフードかつフレアカッターなどが搭載されていない比較的古いレンズなどでなければ、24.0×24.0mmの正方形イメージセンサーでもAPS-C用レンズは使用できないため、やはりレンズの互換性を担保できません。
16.0×16.0mmの正方形センサーまで縮小すれば、APS-C用レンズも使えるわけですが、そこまで小さくした正方形イメージセンサーに価値を見出す人などほとんどいないでしょう。
つまり、フルサイズ対応マウントに24.0×24.0mmの正方形イメージセンサーを搭載しても、
- ボディはフルサイズマウント
- レンズもフルサイズ用レンズ
を使わなければならなくなり、ボディもレンズも小型化できず単なる無駄の多い劣化フルサイズ機にしかならないというわけです。
そのため、フルサイズマウントに24.0×24.0mmの正方形イメージセンサーを搭載するというのは無意味というわけです。
余談ですが、24.0×24.0mmという画面サイズは、1930-1950年代の「ロボットシリーズ」や「マミヤスケッチ」といったクラシックカメラで、35mmフィルムを使って24.0×24.0mmの画面サイズにした、いわゆる「ロボット判」というのがありましたが、結局ロボット判も普及しないまま廃れていきました。
花形レンズフードや電子接点との干渉を考えなくても良かったクラシックカメラの時代でさえ、24.0×24.0mmという画面サイズに合理性は見出せなかったわけです。
5.その他色々な意味で現実的ではない
このようにそもそも、
- 正方形センサーでも
- 十字形センサーでも
- 円形センサーでも
やる意味がないというか、これまで発売されたレンズとの互換性や電子接点を利用したオートフォーカスの利便性を考えると、むしろ「正方形センサーはやってはダメ」ということです。
だからどのメーカーも作らないのです。
また、仮にこれまで挙げた問題点を全て解消した、正方形フォーマットを前提とした新マウントとレンズラインナップを、正方形センサーのためだけに立ち上げたとしても、例えばフルサイズセンサーであれば、36.0×24.0mm=864㎟だったのが、36.0×36.0mm=1,296㎟と1.5倍の面積になるわけですから、イメージセンサーのコストアップが生じるだけでなく、手ぶれ補正機構などあらゆる機構をスケールアップしなければなりません。
つまり、カメラボディもレンズもなにもかも大きく重くなるわけです。
そこまでするなら、素直に既に存在している中判デジタルカメラを使用してトリミングする方が良いでしょう。
■正方形イメージセンサーの実現性は低い
正方形イメージセンサーは現実的ではないし、作っても売れない
その他にも細かい理由はあるのですが、主にはこれまでご紹介したように、
- 縦横36.0mmのセンサーの対角長51.0mm以上を確保できるマウントが少ない
- 縦にイメージセンサーを拡大すると電子接点と干渉しオートフォーカスもできない
- 既存レンズはフードやフレアカッターでケラレるためレンズの互換性がなくなる
- フルサイズマウントに24.0×24.0mmのAPS-C正方形イメージセンサーを搭載するのは価値がない
- 仮に正方形センサーに対応した新マウントやレンズラインナップを作ってもボディの高価格化や大型化を避けられない
- そこまでして得られるのが縦位置に構え直さなくて良いというだけではセールスに繋がるかは甚だ疑問
- 素直にカメラを縦に構える方が合理的
これらの理由から、少なくとも民生用レンズ交換式デジタルカメラでは、今後も正方形イメージセンサーカメラが積極的に開発される見込みはほとんどありません。
レンズ交換を考慮しないような工業用カメラや特殊撮影用のカメラの場合、正方形イメージセンサーはまた少し事情が異なってくるのですが、それはまた別の機会としましょう。
余談ですが、こうした「正方形イメージセンサーなら便利なのに、カメラメーカーはアイデアが足らないな」的なことを考え始める頃というのは、一番自己の知識レベルを勘違いしている時期で、自分はカメラ上級者だと思い違いをしている人が結構います。
そんなことを考えているうちは、実際はまだまだ初心者です。
逆に言えばこれまで説明したようなことがすぐにイメージ出来るようになり、正方形イメージセンサーや円形イメージセンサーなんて現実的ではないということがすぐにわかるようになれば、「自分は初心者からはギリギリ脱しつつあるのかもしれない」くらいには考えても良いのかもしれません。
Reported by 正隆