日本には世界的なカメラメーカーが幾つもありますが、これらの社名はさまざまな変遷を経て現在の社名になっています。また各社のオリジナリティ溢れるロゴにも深い思いが込められています。
というわけで今回はカメラメーカーの社名の由来とロゴの意味をご紹介します。
■キヤノンの社名の由来・ロゴの意味
キヤノンの社名の由来
まずはカメラ業界で最大シェアを誇るキヤノンについてご紹介します。キヤノンの前身となる「精機光学研究所」は1933年に設立され、そこで製作されたカメラの最初の試作機は「KWANON(カンノン)」と名づけられました。
なぜ「カンノン」と名付けられたかというと、「観音様の御慈悲にあやかり世界で最高のカメラを創る夢を実現したい」との願いを込めたもので、実際に当時のマークには千手観音が描かれ、火焔(かえん)をイメージしたKWANONの文字がデザインされていました。
やがてカメラの本格的な発売に向け、世界で通用するブランド名が必要になりました。そこで1935年に同社は「キヤノン(Canon)」という言葉を商標として登録します。
英語の「Canon(カノン)」には、「聖典」「規範」「標準」という意味があり、これは正確・精緻を旨とする精密機器としての商標にふさわしく、そして世界の標準、業界の規範を目指す同社の志を表すものでした。
また「キヤノン」の発音が「観音=カンノン」と似ているため、名称の交替を違和感なく行なえるというのも採用の後押しとなりました。
「キヤノン」の名称はブランド名として周知されていき、1947年には社名を「キヤノンカメラ株式会社」に変更して、社名とブランド名を統一の行い、現在の「キヤノン株式会社」となっています。
「Canon」ロゴの意味
最初の「Canon」のロゴは、1935年に当時の社内の広告宣伝担当者によりデザインされました。「C」の文字の先端が内側に折れ、シャープに尖っている独特な形は当時からのデザインであり、またこのデザインは欧米の書体には無いスタイルでした。
しかし当時はまだキヤノンロゴのデザインは一つではありませんでした。そこで1953年に第一次統一キヤノンロゴを制定、次いで1956年、当初からの特徴を引き継ぎ現在のキヤノンロゴが生まれました。
「カンノン」では近代的なカメラのイメージとしては違和感があるという事から、「キヤノン」へと移り変わりましたが、ロゴは1935年の頃から「C」の上端が内側に少し跳ねている部分など、そのディテールにおいて現在のロゴに共通する部分が多く見受けられます。
1956年からロゴが変わっていないというのは、キヤノンの先進的なイメージからするとやや意外な部分で、それだけこのロゴの完成度が高いと言えるのかも知れません。
キヤノンの「ヤ」は何故大きい?
ご存知のようにキヤノンの表記は「キャノン」ではなく「ヤ」の字が大きく表記された「キヤノン」となっています。この名称が生まれたのは、1947年に、社名を「精機光学工業株式会社」から「キヤノンカメラ株式会社」と変更した時でした。
では、なぜ「キャノン」ではなく「キヤノン」にしたかというと、全体の見た目の文字のバランスを考え、綺麗に見えるようにしたからとのこと。 「キャノン」では、「ャ」の上に空白が出来てしまい、穴が空いたように感じてしまうのでそれを避けたとのこと。
■ニコンの社名の由来・ロゴの意味
ニコンの社名の由来
ニコンの元々の社名は「日本光学工業株式会社」でしたが、現在の社名である「株式会社ニコン」は、1946年9月に小型カメラの名称を「ニコン(Nikon)」にしたことに由来します。
この「ニコン」という名称は、当時の社名である「日本光学工業株式会社」の略称(愛称)であるニッコー(NIKKO)をベースとして生かし、その語尾に「N」をつけて男性的で口調を良くしたものです。
その後「ニコン」ブランドは各製品分野でも国際的に浸透し、通用するようになりました。そこで、1988年4月に社名(商号)も正式に「日本光学工業株式会社」から「株式会社ニコン」に変更しました。
多くのメーカーがヒットした自社ブランドの名称を正式に社名に採用しており、ニコンも同じく同社のブランドから社名へと昇格させたという形になります。
「Nikon」ロゴの意味
ニコンの現在のロゴは2003に制定されたもので、ニコンのアイデンティティカラーであるイエローは「広がり」や「情熱」、「Nikon」のロゴのブラックは「信頼」と「高品質」を表しています。
白い波のような模様は「連続した光」を表しており、このエレメントはニコンの「使命と意志」、「未知への可能性」を表現しています。
天へと昇っていく光の階段のようなロゴにはそんな意味があったのです。
■ソニーの社名の由来・ロゴの意味
ソニーの社名の由来
ソニーの前身は「東京通信工業株式会社」で、現在の「SONY」の社名は、1955年に販売を開始したトランジスタラジオのブランドが元になっています。
この「SONY」というブランドネームは、「音」を意味する英語の「Sonic」とラテン語の「Son(us)」、男子の子供を意味する「Sonny」から名付けられました。
1958年01月01日には社名を「ソニー株式会社」に改めました。ソニーも世界企業として展開していく中で、ブランド名を社名に採用していったというわけです。
「SONY」ロゴの意味
ソニーのロゴは、1955年に作成された物が始まりで、その後形を変えながら現在のロゴに至っています。
「SONY」のロゴの完成には、デザイナー(のちに取締役)である黒木靖夫氏が大きく関わっています。
1961年に香港の一等地に日本の企業で初めてネオンサインを掲げることになったソニーは、それまでのロゴでは弱いということで、盛田昭夫の指示で黒木が作り直し、このロゴは洗練を続け、1973年に現在も使われる6代目のロゴとなりました。
大きく変わったのは二代目だけで、その後は繊細な改良を重ねる形で現在の「SONY」のロゴになったというわけです。
■オリンパスの社名の由来・ロゴの意味
オリンパスの社名の由来
オリンパスの創業当時の名称は「高千穂製作所」でした。その後「オリンパス」へと変わっていきます。
「オリンパス」とは、ギリシャ神話の神々が住む山とされる「オリンポス山」に由来しています。ではなぜオリンポス山から社名をとったのか?という疑問が湧きます。
宮崎県と隣接する鹿児島県の県境に位置する高千穂峰は、日本神話において八百万の神が集う高天原があるとされています。
そのため高千穂峰と同じく「神々が住む山」とされるギリシャ神話のオリンポス山からとった、「OLYMPUS」というブランドネームを顕微鏡などのブランドネームに使用していました。その後このブランドネームを社名として採用したというわけです。
- 高千穂製作所
- 高千穂光学工業株式会社
- オリンパス光学工業株式会社
- オリンパス株式会社
オリンパスは以上のような変遷を経て現在の「オリンパス株式会社」になりました。
「OLYMPUS」ロゴの意味
オリンパスの最初期のブランドロゴは「TOKIWA TOKYO」でした。この「TOKIWA」とは、オリンパスの創業者である山下長が勤めていた会社である「常盤商会」からとったもので、当時常盤商会は高千穂製作所に出資し製品の販売も担当していました。
その後1921年には「OLYMPUS TOKYO」となり、一時期は「OLYMPUS OIC」というロゴが使われていました。この「OIC」とは「OPTICAL INDUSTRIAL COMPANY(光学工業株式会社)」の頭文字となっています。
1970年からは現在のロゴに非常に近い現代的なデザインに変わりましたが、これは「高品質」と「洗練」をイメージしてデザインされたものです。
2001年からは現在のロゴが使用されており、「OLYMPUS」の文字の下に、黄色い線が引かれています。この黄色線は「オプトデジタルパターン」と呼ばれるもので、光のイメージとデジタルが持つ無限の可能性をイメージしてデザインされたもので、オリンパスの持つ光学技術とダイナミックな革新性を象徴しています。
■パナソニックの社名の由来・ロゴの意味
パナソニックの社名の由来
パナソニックは「松下電器産業株式会社」から2008年10月1日から変わったもので、松下電器時代に使っていたブランド名である「ナショナル」は、「国家」という意味であるため、グローバルな企業として世界へ進出していく際に理解されにくいのではないか?という意見に対し、創業者である松下幸之助はそういう時期が来たならば社名変更も構わないとハッキリと言っていました。
その後社名変更には松下正治(松下幸之助の娘婿)が反対したことなどがあり、紆余曲折ありましたが、2008年10月01日をもってついに「パナソニック株式会社」に社名変更が行われました。
「パナソニック(Panasonic)」という名称は、同社がブランド名として使用し、既に世界的に浸透していたため社名として採用されました。
この「Panasonic」とは、アメリカにパナソニックが昭和30年代にスピーカー製品を輸出しようとした際、当時使っていた「ナショナル(National)」のブランドネームは、アメリカのラジオメーカーである「ナショナル・ラジオ」が既に商標登録していて使えませんでした。
そこでラジオ事業部部品課に勤務していた齋藤醇爾(さいとうじゅんじ)氏が、「Panasonic」というブランドネームを考えついたことに始まります。
この「Panasonic」とは、「Pan(あまねく)」と「Sonic(音)」を組み合わせて、「松下電器の音をあまねく世界へ」という意味を込めて「PanaSonic」と決定しました。
「Panasonic」ロゴの意味
パナソニックの現在のロゴである「Panasonic」は、ヘルベチカ文字(1957年にスイス人デザイナーのマックス・ミーディンガー とエドゥアルト・ホフマンが発表したローマ字書体で、簡素かつ力強さを特長とし、世界中で幅広く使われています)を少し変えたものです。
「Panasonic」の印象的なブルーのカラーは、1974年から継続して使われており、このブルーは「未来感」や「期待感」を象徴する夜明け、地平線から太陽が上がる直前の空のビジュアルと共に、新しいブランドカラーとして登場しました。
パナソニック・ブルーは、漆黒の夜空が希望に満ち溢れた朝の明るい空の色へと変化していく、夜明けの短い一時に見られる独特な空の青さを表現しています。非常に美しい青で、皆さんもこのブルーカラーは印象に残っていることでしょう。
■富士フイルムの社名の由来・ロゴの意味
富士フイルムの社名の由来
富士フイルムは「富士写真フイルム株式会社」として設立されており、他のカメラメーカーが創業時と現在でかなり名称が変わっているのと比べて、富士フイルムは現在とほとんど変わらない社名からスタートしています。
キヤノンの「ヤ」と同じく、富士フイルムの正式名称は「富士フイルム」であり、「フイルム」の「イ」は小書き文字ではありません。
富士フイルムの歴史は、1934年に大日本セルロイド社が、写真フィルムの国産化を目指すため写真事業を分社化したのが富士フイルムの始まりでした。
2006年10月01日からは持ち株会社制に以降、現在では医療・医薬や化粧品などにも力を入れています。
「FUJIFILM」ロゴの意味
現在の富士フイルムのロゴは2006年から採用されています。
この現在使われているロゴは、1980年から使われていた赤い六角形のマークを取り去り、「FUJIFILM」の文字をシンプルに打ち出したデザインとなっています。
またロゴ中央付近となる「I」の一部に赤色を配しているのは、先進技術にチャレンジする強い意志を表現しているとのこと。
■リコーの社名の由来・ロゴの意味
リコーの社名の由来
リコーの歴史は、「理化学研究所」で開発された「理研陽画感光紙」の製造及び販売の目的で理化学興業から独立した「理研感光紙株式会社」から始まりました。
翌年3月に社名を「理研光学工業株式会社」に改め、その後1963年に現在の「株式会社リコー」に社名を変更、現在に至ります。
「RICOH」ロゴの意味
リコーのロゴは、2005年10月01日より現在の新フォントを採用しています。
このロゴは、リコーが顧客へ提供するべき価値として定めている、
- 知識創造を簡単に
- 人に優しい
- 地球に優しい
以上の3つのコアバリューを表現したもので、シンプルでエレガントな優しさを感じさせるようにデザインしたとのこと。
また全体的に丸みをもったラインにより、知的でありながら親しみやすさと人間性を表現し、グローバルでの可能性の向上も図っています。
日本を代表するカメラメーカーの社名の由来と、ブランドロゴに込められた想いをご紹介させて頂きました。どのメーカーにも長い歴史があり、日本を代表する企業と言えるでしょう。
現在厳しい環境に置かれているカメラ業界ですが、「日本のものづくり最後の砦」とも言われる業界です。各カメラメーカーの逆転劇に期待したいと思います。
画像:Canon,Nikon,SONY,OLYMPUS,Panasonic,FUJIFILM,RICOH
Reported by 正隆